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◇ No.30 (2014/7/10)
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伊藤未帆『少数民族教育と学校選択
―ベトナム-「民族」資源化のポリティクス』を語る
私たちは、さまざまな見えない境界によって区切られた世界を生きています。
日常生活のなかで、これらの境界の存在が意識されることはあまり多くはありません。ところが、
何らかの契機によって、この境界が資源分配の経路として用いられるようになったとき、人々の
つながりと差異をかたち作るものとしての境界はにわかに重要な意味を持ち、資源を獲得するための
手段として戦略的に利用されることになります。
本書は、多様な民族的属性からなる人々を抱えた多民族国家ベトナムの現代史を、さまざまな
主体による、「民族」をめぐるアイデンティティ・ポリティクスという観点から読み解きます。
「民族寄宿学校」という少数民族優遇政策のための学校制度の整備と運用のされ方を分析することで、
「ベトナム国民」への参加資格として作り上げられた「民族」という公的なカテゴリーが、その後の
社会変化のなかで、地方政府や地域社会に暮らすさまざまな人々によって主体的に再解釈され、
資源として利用されるようになっていくプロセスを明らかにしていきます。
京都大学学術出版会、2014年2月
http://www.kyoto-up.or.jp/book.php?id=1942