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自著を語る

初詣の社会史: 鉄道が生んだ娯楽とナショナリズム

平山 昇 (著)

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◇ No.67 2016/2/5
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平山昇『初詣の社会史 鉄道が生んだ娯楽とナショナリズム』を語る

 本書は、「初詣」という生活行事の近代史をたどることで、近代日本における
「娯楽とナショナリズム」の関わりについて考えます。
 初詣は、明治期に鉄道の発達によって庶民の娯楽行事として成立しましたが、
大正期以降(とくに明治神宮創建後)になると、それまで社寺参詣を迷信視していた
知識人層にも初詣が徐々に波及していきます(下から上へ)。やがて彼らは初詣を
皇室や「国体」と結びつけて語るようになり、その言説が、娯楽とナショナリズムを
織り交ぜた鉄道業界の集客にも活用されながら社会へ流通していきました(上から下へ)。
かくして初詣は娯楽とナショナリズムの両側面をあわせもった「国民」的正月行事として
確立します。
 上からの「強制」ではなく資本の「勧誘」によって、大勢の人々が自発的に楽しみながら
毎年同じ行事を反復していく――。そこから育まれる安定感、心地よさといった「気分」
の根強さが、感覚的なナショナル・アイデンティティの強固な持続性につながっていく
のではないかと著者は考えています
 もともとはもっぱら「娯楽」の側面に注目して出発した研究が、深追いしていくうちに
思わぬところにたどり着いてしまいました。あれこれと未熟な点もあるかと思いますので、
皆様のご意見・ご批評をいただければとても嬉しいです。

東京大学出版会 2015年12月刊
http://www.utp.or.jp/bd/978-4-13-026241-5.html