ASNET -東京大学 日本・アジアに関する教育研究ネットワーク--

自著を語る

熱狂と動員: 一九二〇年代中国の労働運動

衛藤 安奈 (著)

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◇ No.68 2016/2/19
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衛藤安奈『熱狂と動員:一九二〇年代中国の労働運動』を語る

本書は、かつて「中国労働運動史」研究の対象であった1920年代の中国労働運動を、
動員と熱狂という角度から捉え直した政治史研究です。教科書的説明では、この時代の
中国においては、中国人労働者の死を象徴的事件とし、反帝国主義運動が盛んになった
とされます。しかし本書では、中国共産党と中国国民党がいかにして社会を動員し、
どのような社会構造によってそれが拡大したのかをみていきます。

本書が手がかりとしたのは、W・コーンハウザーの大衆社会論が示す「孤立した集団」
をめぐる議論です。コーンハウザーは、「孤立した集団」から成る社会を「原子化した社会」
の一類型とみなし、このような社会は熱狂と無関心を往復する傾向をもち、ファシズム的、
全体主義的社会に接近するリスクを内在させると考えました。「孤立した集団」は、
①上位社会や他の社会集団から孤立し、②内部に多様性を欠く、という点において
「中間団体」とは異なるといいます。

肉体労働者が生存のために所属していた諸集団は、一種の「孤立した集団」ではなかったか。
このような集団が解雇や失業などの危機に直面したとき、国共両党の動員が大きく成功し、
後世の文化大革命を彷彿とさせる熱狂を生み出したのではないだろうか。

過度の一般化は避けるべきであるとはいえ、本書で検討した諸問題は中国だけのものではない
と考えます。現在と過去との対話の一例としてお読み頂ければ幸いです。

慶應義塾大学出版会、2015年12月刊
https://www.keio-up.co.jp/np/detail_contents.do?goods_id=3109