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自著を語る

近世日本の「礼楽」と「修辞」: 荻生徂徠以後の「接人」の制度構想

高山 大毅 (著)

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◇ No.70 2016/3/18
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高山大毅『近世日本の「礼楽」と「修辞」―荻生徂徠以後の「接人」の制度構想』を語る

 壺に矢を投げ入れ、ダーツのように得点を競う「投壺」という遊戯があります。
儒学の経典にも登場する由緒正しい遊びで、古代の統治者は、交際上の「礼」の
一環として投壺に興じたとされています。江戸中期、この投壺を復興し、遊芸として
普及させようとした田中江南という儒者がいました(本書の表紙には、彼が出版した
投壺の解説書の絵を用いています)。彼は、当時、芸妓にも投壺を流行させるべく、
特別なルールを作成することもしました。

 この一見、奇妙な、そして今日顧みられることの稀な彼の試みは、実は江戸時代の
思想史・文化史の興味深い流れに連なっています。

 江戸時代、「接人」―人づきあい―の領域に注目して、道徳、統治、そして文学
について議論する潮流が生まれました。荻生徂徠と彼の影響を受けた学者たちは、
「礼楽」や言語活動の型(「修辞」)を定めることで、安定した秩序と美しい交際を
実現することを考えました。田中江南のような文人肌の人物だけでなく、いわゆる
後期水戸学の代表的な学者である會澤正志齋もこの系譜に属しています。

 彼らの「接人」の領域をめぐる深い思索は、現代の多くの読者にとっても知的刺戟
に富んでいるはずです。東アジアの思想史・文化史に関心のある方々だけでなく、
人と人との交わりについて政治や文学との関連から再考したい方々にも、本書を
手に取って頂けると嬉しく思います。

東京大学出版会、2016年2月刊
http://www.utp.or.jp/bd/978-4-13-036258-0.html