ASNET -東京大学 日本・アジアに関する教育研究ネットワーク--

自著を語る

明治日本の国粋主義思想とアジア

中川 未来 (著)

◆◇———————————————————–
◇ No.72 2016/4/15    
—————————————————————
中川未来『明治日本の国粋主義思想とアジア』を語る

 本書では、稲垣満次郎・志賀重昂・高橋健三・陸羯南・内藤湖南を主
たる登場人物として、彼らのアジア認識がいかなるアジア経験を媒介に
形成されたのかに着目し、1890年代を中心に近代日本の国粋主義思想と
アジア認識の関わりについて考察しました。
 ここでの「アジア経験」は、アジア・太平洋地域への渡航体験のみな
らず、メディアによりもたらされるアジア情報をも含む、広い意味での
「経験」です。1890年代はアジア・太平洋地域への渡航者数そして渡航
範囲が拡大した時期であり、さらに国粋主義運動に参加した青年たちは
ニカラグア運河やシベリア鉄道といった世界大のコミュニケーション回
路形成に強い関心を示していました。このような「経験」を踏まえた思
想形成を扱うことで、アジア・太平洋地域との関わりがナショナルな意
識を涵養する過程の一端(例えばアジア主義におけるオーストラリア要
因など)に触れ得たのではと考えています。
 如上の問題設定の背景には、いわゆる「グローバル化」の進展に伴う
ナショナリズムの興隆という現代的関心があります。「国粋」による世
界貢献という国粋主義のテーゼは、アジアへは適用されず植民地主義を
正当化する論理となってしまいました。筆者は愛媛という地域を拠点の
ひとつとしていますが、今後は本書でも注目した国粋主義の地域社会や
実業界への浸透過程(と捉え返し)に焦点を合わせ、グローバルとネー
ション、リージョン、そしてローカルの歴史的関係を、足元から捉えて
いきたいと念願しています。

吉川弘文館 2016年2月刊
http://www.yoshikawa-k.co.jp/book/b213024.html