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自著を語る

満蒙開拓青少年義勇軍の旅路: 光と闇の満洲

旅の文化研究所 (編集)

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◇ No.73 2016/4/28    
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旅の文化研究所編『満蒙開拓青少年義勇軍の旅路―光と闇の満洲』を語る

 旅の文化研究所では、平成23年度より特定研究プロジェクトとして、戦前期の日本人
にとっての貴重な外国体験ともいえる満洲への旅に焦点をあて、なかでも満蒙開拓青少
年義勇軍の体験者を中心に、聞き取り調査や資料収集を行ってきました。本書はその研
究成果として刊行されました。
 満蒙開拓青少年義勇軍は、戦前期の国策によって立案・実施された一種の青年移民で、
昭和13(1938)年から昭和20(1945)年の終戦時まで、数え年16~19歳の少年を対象に
募集され、約8万6500人が満洲に渡りました。正規の軍隊でもなく、また開拓団でもない
彼らの立場は曖昧であり、今もってその全容は明確ではありません。
 義勇軍に関しては、これまでさまざまな資料が公開されていますが、多くは制度史に
関連する政策文書や個人的な体験談などであり、時代背景とともにこれを俯瞰する試み
はなされてきませんでした。
 このプロジェクトでは、体験者の語りなどから義勇軍の「旅」を復元することにより、
旅の誘因となった満洲のイメージや、義勇軍の訓練の実態、渡満から引揚げに至る経路
など、思想的に偏ることなく、史実に基づいた全体像を把握することに努めました。成
果をまとめるにあたり、構成についてメンバーで何度も討議を重ね、各章を分担し、少
年たちが故郷を離れ、訓練を経て満洲に渡り、そして終戦後の悲惨な逃避行を経て帰国
するまでの一連の「旅」を、当事者の語りを交えた読物としてまとめました。従来の義
勇軍史でほとんど触れられることのなかった女性からの視点や、義勇軍をとりまく当時
の社会の動きを含めた総合的な年表を巻末資料として掲載しているところにも特徴があ
ります。また各章の間にコラムを置き、本論を補うとともに、より多面的に義勇軍をと
らえる工夫もこらしました。
 義勇軍の旅は、戦争に伴ういわば「負の旅」です。本書をとおして、命からがら生還
された方々の言葉に込められた平和への強い願いとともに、歴史に学ぶことの大切さを
再認識していただければ幸いです。

執筆者:神崎宣武、高媛、松田睦彦、村山絵美、山本志乃
森話社、2016年4月刊
http://www.shinwasha.com/094-4.html
http://www.tabinobunka.com/syuppan/body.htm#3