ASNET -東京大学 日本・アジアに関する教育研究ネットワーク--

自著を語る

超大国・中国のゆくえ3 共産党とガバナンス

菱田 雅晴 (著), 鈴木 隆 (著)

 
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◇ No.74 2016/5/13    
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鈴木隆『中国共産党とガバナンス』を語る

 本書は、菱田雅晴・法政大学教授との共著により、2016年4月に東京大学出版会から上
梓したものです。われわれは、本書の英文タイトルを、DRIFTING GOVERNANCE UNDERTHE
‘NEW NORMAL’と名づけました。その名が示すとおり、いま中国では、経済の「新常態」
(ニュー・ノーマル)とともに、政治面でも《揺れ動く/あやうい》雰囲気が充満して
います。
 本書のうち、わたくしは、習近平指導部の政治運営を扱った第3~6章を担当しました。
本文をご覧いただければ分かるとおり、担当章では、現在までに出版された中国側の公式
資料に依拠して、習近平の政治的言説を全面的に精査するとともに、書中では習の言葉を、
紙幅の許す限りできるだけ多く、日本の読者に紹介するように努めました。
 習政権の発足以来、すでに多くの習近平関連本が出版され、メディアでも連日、中国政
界の権力闘争とそれへの指導者の思惑について、さまざまな推測が報じられています。こ
うした状況に対し、研究者であるわたくしが「できること、すべきこと」は、議論と認識
の出発点に立ち返り、まずは、最高指導者である習氏その人がこれまでに何を語り、何を
語っていないのかを学問的に吟味することと思い、本文を執筆しました。
 こうしたアプローチに対しては、「指導者の真なる意図と政治的演技を十分に識別でき
ていない。中国政治の政争実態を軽視し、テキスト偏重主義に陥っている」との声が、当
然にもあるでしょう。しかし、そうした批判を確信犯的に吞み込み、ある意味では知的に
居直っている筆者(?)としては、既存の研究やメディアが伝える中国政治像とはまた別
の観点から、わが国の中国理解の深まりに、拙文が少しでも貢献できるならば、それだけ
で大いに満足です。

東京大学出版会、2016年4月刊
http://www.utp.or.jp/bd/978-4-13-034293-3.html