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自著を語る

現代中国のリベラリズム思潮 〔1920年代から2015年まで〕

石井 知章 (著)

 
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◇ No.75 2016/5/27    
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石井知章『現代中国のリベラリズム思潮』を語る

 これまで日本では、近現代中国の自由主義についての紹介は一部でおこなわれている
ものの、現代政治・社会思想については、新左派、その中でも汪暉の思想を中心にして
のみ紹介されるという顕著な傾向があった。
 このことの理由の一つとしては、現代中国におけるリベラリズムが、実際にはリベラル・
マルクス主義(党内改革派)からコミュニタリアニズム(共同体主義)、社会民主主義
(中道左派)、民主社会主義(中道右派)、さらにはリバタリアニズム(自由至上主義)
まで視野に入れているにもかかわらず、現政権に対して根源的(ラディカル)に「批判的」
であるというだけの理由で、多くのリベラル派知識人たちが党=国家側の一方的評価である
「反体制派」として一括して分類されがちであったことが挙げられる。
 だが、こうした没理性的分類は、共産党一党独裁体制という権力側の意思に自ら応じる
かのように恣意的に行われたものであり、このこと自体が、唯一の政治的価値を絶対化し、
それ以外を排除しようとする意思を反映したものであることを示唆している。実際、新左派
はリベラル派を批判する際、現代中国リベラリズムのもっている既述のような現実的多様性
をしばしば視野に入れず、リベラル派内部ですら批判の対象になっている「新自由主義」
批判へと矮小化してしまっている。つまり、自らの政治性を隠蔽し、あたかもその思想が
現代中国社会の支配的正当性を反映しているかのごとく描き出す新左派(あるいは日本の
一部の「進歩的」知識人)の思想戦略そのものが、中国共産党によるイデオロギー戦略の
意図と期せずして重なり合っているということである。
 本書は、中国国内外で活躍している主な現代中国のリベラリストを対象として、その主要な
論文を紹介し、かつ日本国内の現代中国社会・思想研究者による関連テーマについての論考を
交えつつ、中国における現代思想としてのリベラリズムの全体像を描くことを主な目的とする。

藤原書店、2015年10月刊
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