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自著を語る

ブワイフ朝の政権構造:イスラーム王朝の支配の正当性と権力基盤

橋爪 烈 (著)

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◇ No.82 2016/11/11
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橋爪烈『ブワイフ朝の政権構造――イスラーム王朝の支配の正当性と権力基盤』を語る

「ブワイフ朝」などという言葉がタイトルを飾る書籍が今後、出版されるとは思われない。
その意味で空前絶後の本ではないか。これはある研究者仲間の評である。ま、そんなものかも
知れない。
この王朝に注目したのは、前嶋信次『イスラムの蔭に』(河出書房新社)に紹介されていた、
ブワイフ朝のアミール(君主)ムイッズ・アッダウラの家臣がカリフ=ムスタクフィーをその
玉座から引き摺り下ろし、その両目を潰すという逸話に接したことが契機である。なぜ主君と
仰ぐべきアッバース朝カリフに対してこのような暴挙を行ったのか、またそれにも拘らず、
アッバース朝そのものを滅ぼすことをしなかったのはなぜか。アッバース朝カリフとブワイフ朝
アミールの間の微妙な関係はどのような原理で保たれたのか。こうしたことを明らかにしたいと思い、
当該時期の事情を詳細に伝えるミスカワイフ著の歴史書『諸民族の経験』を読み進めていった。
するとどうか。確かにカリフとブワイフ朝のアミール達の関係についてもそれなりに多くの
情報が示されているが、それ以上に、ブワイフ朝内部の権力闘争や権威関係を示す情報に溢れて
いることが分かってきた。しかも従来の研究がそうした情報をそれほど重視しているとも思えない。
そんなわけで始めたブワイフ朝研究の、足掛け18年にわたる成果が本書である。今文字にして
みて初めて、41年の人生の約半分、このテーマと関わってきたのかと改めて認識し、感慨も一入
である。ただ、上記の疑問についての答えが見つかったわけではない。まだ途半ばである。次に
「ブワイフ朝」を冠する書籍が刊行されるとすれば、その著者はやはり私のような気がする。

慶應義塾大学出版会、2016年10月
http://www.keio-up.co.jp/np/isbn/9784766423693/