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東京大学 東洋文化研究所 米野みちよ研究室

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2018. 03. 01
ウェブサイト開設にあたって

 米野研究室のウェブサイトを開設いたしました。
 米野研究室を紹介しながら、殊に、フィリピン北部のカリンガ州とアブラ州にまたがる地域に点在して住むヴィヤナウ(ヴァナウ、バナオ;Vyanaw, Vanaw, Banao)と自称する人々の民話のコレクションをデータベースとして公開することを、主な目的としています。
 2000年から断続的にフィールドワークを行っているフィリピン・カリンガ州西端の村で出会っ叙事詩歌い手・民話の語り手のバルセロン・パナバンさん(故人)は、それまでも研究者たちの聞き取りなどに応じ、情報を提供してきましたが、論文や本には、どうも自分の言ったことが捻じ曲げられて書かれていることに不満を漏らされました。それはなんとかしなければいけない、と思った私は、2004年に、パナバンさんと一緒に、トヨタ財団東南アジア国別助成プログラム(当時)の助成を得て、2年間、調査することができました。
 ヴィヤナウの歴史とそれをつづった叙事詩と民話を誇り高く歌い語るパナバンさんは、自分や妻の村だけでなく、山を越え川を渡った遠隔地にも移住したヴィヤナウの村々を訪ね、部族の移動の歴史を確認し、30編の叙事詩・民話を録音しました。それらの録音は、長男のワレン・パナバンさんの助けを得て、書き起こし、また大まかな英訳を付けました。また、父ヴァルセロンさんは、英文で、彼の理解する「バナオ(ヴィヤナウ)の歴史」も執筆しました。私は、2006年には、これらに添付資料を加えた“The Banaos: Migration history and Cultural Integrity as Seen from Folklore”をまとめ、2015年には、大幅な改訂を加えた版も作成しましたが、正書法の確立していないヴィヤナウ語を素人が書き起こしたテキストは、出版できる代物ではありませんでした。原稿は、いつか言語学者の協力を得ることを夢見て、私の自宅で、眠り続けておりました。
 その後、ヴィヤナウ人ジャーナリストの父親を持ち、亡父の遺志を継いで、ヴィヤナウ文化の継承に力を注ぐスコット・サボイ氏との出会いがありました。彼は、フィリピン大学バギオ校のヴィヤナウ語の辞書編纂プロジェクトを率いておりました。彼は言語学も独学で学び、ある程度の知識を身につけておられました。ヴィヤナウ語の語彙リストなど、ファイルの共有を始めました。
 奇しくも、2018年度には、異動先、東京大学東洋文化研究所にて、東洋学研究情報センターの助成金を得ることができ、長年眠ったままになっていた未出版原稿を、ようやく整える機会が与えられました。ボントク語を始めとするフィリピン北部諸言語の世界的権威、ハワイ大学名誉教授のローレンス・リード教授の協力が得られたことで、本プロジェクトは一気に、質の向上が見られました。
 各叙事詩・民話の音声ファイル、ヴィヤナウ語テキストを順次アップロードしていきます。余力があれば、それぞれの英訳も載せていきます。
 世界中のヴィヤナウ人に、また「母語基盤多言語教育」プログラムで奮闘中の先生たちに、少数話者言語の研究者たちに、先住民の文化と権利を見守る地球市民たちに、訪ねていただければ幸いです。

米野みちよ