データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第49回国連総会における河野副総理兼外務大臣一般討論演説

[場所] ニューヨーク
[年月日] 1994年9月27日
[出典] 外交青書38号,187−191頁.
[備考] 
[全文]

議長,

事務総長,

御列席の皆様,

 貴議長の就任をお祝い申し上げます。あわせて,歴史的な変革の時代に総会議長として卓越した手腕を発揮されたインサナリ前議長の御努力に敬意を表します。

 また,前会期中に,アパルトヘイトと訣別した南アフリカ共和国が国連に完全復帰したことに衷心より祝意を表します。

(我が国の国際貢献に関する基本的な考え方)

議長,

 現在,国連が果たすべき役割は,かつてないほど増大しています。私は,我が国が国連加盟当時に国際社会の恩恵に預かったことを想起し,人類全体のより良き未来の実現のために,その政治的・経済的地位に相応しい国際貢献を主体的に進めるべく外交政策を展開していく考えです。

 国際貢献について我が国の基本的な考え方を述べれば次のとおりです。

 我が国は,貧困の撲滅と経済開発のため,並びに紛争防止や不安定要因除去のため,経済協力の積極的な供与をはじめとする種々の努力を行っております。

 我が国は,先の大戦の反省の上に立ち,世界の平和と繁栄に貢献するとの決意を保持しております。我が国は,憲法が禁ずる武力の行使はいたしません。また,軍縮・不拡散に積極的に取組みつつ,自らは核兵器を保持せず,武器輸出を行わないなど,引き続き平和国家としての行動に徹してまいります。以上に則り,我が国は,これまでも国連の要請を受け,カンボディア,モザンビーク等に自衛隊や文民を派遣してきました。我が国としては,今後ともこのような国連平和維持活動に積極的に協力してまいります。また,最近とみに,その重要性が指摘される,開発,環境,人権,難民,人口,エイズ,麻薬等の地球規模の経済・社会問題について,これまで以上の貢献を行う決意です。

 今日,国連が真剣に取り組むべきことは,第1に,国際の平和と安全の維持であり,第2に,経済・社会問題の解決であります。そして,第3に,これらの課題に効果的に取り組むための国連改革の推進です。これらの面で,我が国がいからる{前4文字ママ}貢献を行っていくかについて私の所見を申し述べます。

(軍縮・不拡散)

議長,

 第1の課題である国際の平和と安全の維持のために,我が国が,紛争解決のための外交努力及び平和維持活動とともに重視している分野は,軍縮・不拡散であります。

 唯一の被爆国であり,非核3原則を堅持する我が国は,核兵器の廃絶を究極的目標とし,今後とも全ての核兵器国に対し,一層の核軍縮努力を行うよう促すとともに,核不拡散条約の無期限延長を支持し,未加入国に速やかな参加を呼びかけます。さらに,現在行われている全面核実験禁止条約に関する交渉の早期妥結へ向け,特に,すべての核保有国が一層積極的に参画することを求めます。私は,全面核実験禁止条約の交渉が妥結した暁には,日本,例えば広島市において,条約署名式を首脳レベルで行い,核兵器廃絶に向けた新たな出発点とすることを提唱いたします。

 この関連で,我が国は,北朝鮮が米朝協議等の国際社会の対話による核兵器開発問題の解決に積極的に努力するよう強く求めます。

 通常兵器の安易な移転とそれに伴う過剰な蓄積は,世界の様々な地域の平和に対する不安定要因の一つであり,例えば,アフリカ等の一部地域の内戦における戦闘の激化及び夥しい死傷者発生の背景となっています。国際社会は,この問題の具体的解決策について真剣に取り組む必要があります。通常兵器移転の透明性を高めるため発足した国連軍備登録制度は,グローバルな信頼醸成措置として重要性を高め,現在80か国以上の参加を見ておりますが,更に多くの加盟国の参加を強く期待します。我が国としては,軍備保有を登録対象に加える等,他の加盟国と協力して制度の拡充や発展に努める所存です。

(地域紛争の予防と解決)

 地域紛争の予防と解決のためには,和平のための外交努力や,国連平和維持活動,人道援助,社会制度構築,及び復旧・復興援助といった平和の構築のための援助を総合的に組み合わせて取り組むことが重要であります。

 特に,紛争が抜き差しならぬ状態になる前に手を打つことが重要であり,予防外交の推進を強く提唱いたします。この観点からも,不安定要因を抱える地域や国に対し,当該国と強調しつつ社会及び政情の安定化のための支援を積極的に検討すべきものと考えます。

 国連平和維持活動は,カンボディアをはじめ多くの地域において成果を生んでおり,今後とも重要な役割が期待されています。国連平和維持活動をより効果的なものとするため,その任務,期間,規模,経費等を注意深く審査するとともに,要員の安全確保に十分配慮することが必要です。さらに,国連平和維持活動の財政基盤の強化は急務であり,とりわけ,加盟国により分担金の滞納の解消が必要であります。あわせて,そのような活動の財政健全化のための改善策を検討することが緊急の課題であります。

 また,紛争後の平和の定着のため,我が国は,民主化支援をより一層行ってまいります。特に,自由かつ公正な選挙の実施に対する支援を重視します。

 ルワンダ難民という想像を絶する悲劇を前にし,我が国は,これまで国連難民高等弁務官事務所,国連ルワンダ支援団に対し,資金面及び物資面での協力を行ってまいりました。今般,我が国は,医療,給水,空輸等のため400人を超える自衛隊員を現地に派遣することを決定し,すでにその活動の一部を開始いたしました。我が国は,今後ともルワンダ問題解決のために,アフリカ諸国をはじめとする国際社会とともに尽力する決意です。

 旧ユーゴー紛争については,我が国は,国際社会がこれまで行ってきた和平努力を支持しており,すべての紛争当事者がコンタクト・グループによりボスニア・ヘルツェゴヴィナに関する和平案を受諾するとともに,国連の活動に協力するよう求めます。

議長,

 第2の課題は,開発や環境問題,人権等の経済・社会分野の問題解決であります。

(開発)

 変革する国際環境の下で,開発の問題が改めて世界的な課題となっており,新たな開発戦略の策定が求められています。

 このような観点から,我が国は,かねてより,援助,貿易,投資,技術移転等を組み合わせた「包括的アプローチ」と各国の発展段階に応じた「個別的アプローチ」を軸とする新たな開発戦略を提唱してきております。

 昨年東京で開催された「アフリカ開発会議」は,このような開発戦略の具体化を検討する場として有意義な会合でありました。この会合の成果を更に発展させるため,本年12月,インドネシアにおいて,「アジア・アフリカ・セミナー」が開催されます。

 今日,開発のより進んだ途上国が,その経験や技術を他の途上国と分かち合う「南南協力」の推進が重要となっており,我が国としては,世界規模で「南南協力」を展開するために,具体的な提案を行う予定であります。

 また,我が国は,世界最大の援助供与国として引き続き政府開発援助の拡充に努めてまいりますが,その実施にあたっては,開発途上国の軍事支出,大量破壊兵器の開発・製造等の動向,民主化の促進,市場経済導入への努力等に十分注意を払っていきます。

 今次総会における「開発のための課題」の審議にあたっては,私が今申し述べたような諸点をも踏まえ,意義ある議論が展開されることを期待します。

(人類共通の問題)

 今や世界は,相互依存が進む中で,環境や人口など先進国,途上国が共同して取り組むべき人類共通の新たな課題に直面しています。

 我が国は,環境面では,国際的枠組みの強化,環境関連技術の途上国への移転,環境分野の政府開発援助の拡充・強化等に積極的に取り組んでおります。人口及びエイズの問題については,本年2月に「地球規模問題イニシアティヴ」を打ち出し,途上国援助を大幅に拡充することを決定するとともに,私自身,先般カイロで開催された人口会議に出席し,人口問題の解決の重要性を訴えました。

 我が国としては,社会の安定のため,国際協力を通じた人材育成並びに女性の地位の更なる向上の重要性を深く認識しており,このような観点から明年の社会開発サミット及び世界女性会議の成功を重視し,国連諸機関が行う「開発と女性」を含めた社会開発分野に関する活動に積極的に協力いたします。

 経済開発と人権は,民主的な社会の発展のいわば車の車輪であり,相互に補強し合う関係にあります。人類の普遍的価値である人権の尊重を全ての国において促し,効果的に人権状況の改善をもたらすためには,政治,経済及び社会的安定の促進に加え,法制度の整備や人権意識の高揚のための継続的な活動の積み重ねが重要であります。こうした観点から,我が国としては,人権高等弁務官の活動に協力を惜しみません。

(時代に適合した国連改革)

議長,

 以上の二つの課題に効果的に取り組むため,国連は,新しい時代に適合した機構改革や行財政改革を積極的に取り進めていくことが必要であります。

 国連がその活動強化に向け改革を進める上で,特に重要なのは安全保障理事会の改組です。安保理の活動は,今や世界の平和と安定のための幅広い分野にわたっています。国連加盟国の数は,創設時の51か国から184か国にまで増加しましたが,安保理の構成は,国連創設時の世界を前提に構想されたものから殆ど変化しておりません。他方で,国際的により大きな責任を担い得る国が出てきています。こうした状況を踏まえ,安保理をその機能の効率性を確保しつつ,世界の現状を反映した形で改組し,強化することが必要であります。

 我が国は,先に述べた国際貢献についての基本的な考え方の下で,多くの国々の賛同を得て,安保理常任理事国として責任を果たす用意があることを表明いたします。今会期中に加盟国の間で議論が加速され,明年の記念すべき第50回総会における改革案の合意につながることを期待しております。

 改革が行われるべきは,安保理だけではありません。

 184を数える加盟国が参加する総会は,他の国連機関との連携を深めつつ活性化されるべきであります。

 近年,開発,環境,人権等の経済・社会分野において一層の活動の調整及び明確な優先課題の設定に向けた努力が始まっております。人類の未来にとって死活的に重要なこれらの課題に取り組むためにも,経済社会理事会の機能と機構を更に強化する必要があります。信託統治理事会は,その歴史的使命を終えており,国連機構全体の改革の中で,廃止へ向けた検討が進められることが適当と考えます。また,先の総会で合意された内部監査局の設置をも踏まえ,行財政改革を一層強力に推進すべきであります。

 いわゆる「旧敵国条項」は,憲章の署名から約半世紀を経て意味を失った規定であり,我が国はその削除を引き続き訴えます。

(結語)

議長,

 以上,私は,国連が取り組むべき三つの課題として,国際の平和と安全の維持,経済・社会問題の解決及び国連改革の必要性について申し述べました。

 時代に適合した国連改革が進展し,加盟各国間の協調を維持・拡大することができれば,私は,国連が普遍的な国際機関としての正統性を高め,現代の課題に一層効果的に対処できる組織へと進化していくものと確信しています。この会期が,国連の新時代を開いた総会として,歴史に残るような意味あるものとなるよう,各国が協力することを呼びかけます。