データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第37回国連総会一般討論における櫻内外務大臣演説

[場所] ニューヨーク
[年月日] 1982年10月1日
[出典] 外交青書27号,418ー427頁.
[備考] 
[全文]

議長

 私は,日本国政府および国民を代表して,閣下が第37回国連総会議長に選出されたことに対し,心から祝意を表します。閣下の豊かな経験と卓越した識見によって,今次総会は必ずや実り多きものとなるでありましょう。日本代表団は,閣下の重要な責務の遂行に対し協力を惜しまない所存であります。

 同時に私は,第36回総会議長イスマット・キタニ閣下がその重責をよく果たされたことに対して深い感謝の意を表明したいと思います。

 私は,また,この機会にペレス・デ・クエヤル事務総長閣下に対して敬意を表するものであります。閣下が,本年1月,事務総長に御就任以来,未だ日も浅いにもかかわらず,厳しい国際情勢の下でその指導力を発揮されつつあることは,誠に心強い限りであります。また閣下は,約1か月前,わが国を訪問されました。その際,国際の平和と安全の維持,各分野における国際協力のために国際連合が果たすべき役割について,閣下と忌憚のない意見の交換を行うことができましたことは,私の最も喜びとするところであります。

議長

 今日,国際社会においては相互依存関係の深まりを背景に,世界の平和と繁栄に向けて,国際協力の必要性が増大しておりますが,それにもかかわらず,依然として国際関係に相互不信と緊張が見られることは,看過するわけにはまいりません。

 このため,私は,本日の演説において,はじめに,かかる国際情勢について触れ,次いで,そうした事態に対応して国際連合はいかにあるべきかの問題につき、私の所信を申し述べたいと思います。

議長

 私は,今日の国際社会における相互不信と緊張の主要な原因の一つは,世界の各地に,国際粉争解決の手段を武力に求め,軍事介入によって自国の意思を他国に強要する動きがあることにあると考えます。

 私はまず,わが国が位置するアジアについて触れたいと思います。カンボディアにおいては依然として外国による軍事介入が続き,カンボディア人民の民族自決権が否定されております。このため,カンボディアの民衆は今なお飢えと疾病に喘ぎ,難民があとを絶っていないのであります。我が国は,ヴィエトナムが,カンボディアに対する軍事介入をやめ,国連監視下でのすべての外国軍隊の撤退と自由選挙の実施を含む包括的政治解決へ向けての国際的努力にこたえ,話合いに応ずるよう改めて強く訴えるものであります。また,国際連合としてもカンボディア問題解決の方途を探究するために忍耐強い努力を続けてゆかなければなりません。我が国は,昨総会において事務総長の代表を関係国に派遣するよう示唆しましたが,本年に入ってこれが実現し,また,カンボディア国際会議暫定委員会も使節団を派遣して解決の道を探っております。我が国は,国際連合によるかかる包括的政治解決のための努力を強く支持するものであります。

議長

 この際我が国と海を隔てて隣接する朝鮮半島についても触れておきたいと思います。同半島においても依然として緊張が続いておりますが,私は,本年1月に韓国政府が行った南北統一に関する提案が,今まで以上に具体的かつ現実的手順を示していることを評価し,歓迎するものであります。私は,南北間の対話の実現への努力が今後とも続けられるよう希望するものであります。

議長

 アフガニスタンに対するソ連の軍事介入は未だに終りを告げず,アフガニスタン民衆の苦悩はその度を増すばかりであります。何よりもソ連は,自国のこのような軍事行動が,東西間の信頼関係を深く傷つけ,国際の平和と安全を脅かしている事実を直視しなければなりません。我が国は,ソ連がその軍隊をアフガニスタンから即時撤退せしめ,アフガニスタン人民の自決権を回復するよう更に強く要請するものであります。

 中東においては過去1年,大きな緊張の高まりが見られました。イスラエルは,ゴラン高原を併合し,西岸・ガザの被占領地域においてパレスチナ人の民族自決権否定の政策を強化し,更に,レバノンに対し武力侵攻を行ってまいりました。我が国は,イスラエルがキャンプ・デーヴィッド合意に基づきシナイ半島を返還したことは十分評価しておりますが,イスラエルのこのような行動についてはこれを強く非難し,特にイスラエル軍のレバノンよりの可及的速やかな撤退を強く求めるものであります。

 また,最近西ベイルートにおいて無辜の難民が多数虐殺されたことは稀にみる暴挙であり,我が国はかかる残虐行為に対し激しい憤りを表明するものであります。我が国は,安全保障理事会決議等に基づいて同地域におけるパレスチナ住民をはじめとする一般市民の生命の安全が確保されるよう関係当事者に対し強く要請するものであります。かかる観点から我が国としては米国,フランス,イタリア3国より構成される多国籍監視軍のベイルートへの再派遣を歓迎するものであります。

 他方,我が国はレバノンにおいて種々の困難にもかかわらず,アミーン・ジュマイエル氏が大統領に就任されたことを同国の安定化に資するものとして高く評価すると共に,同国が新大統領の下に結束し,国民的和解を基礎として早期に国内の秩序を回復し,国家の再建に乗り出すよう切望いたします。このため我が国としても可能な限りの協力を惜しまない所存であります。

 我が国は,レバノンにおける最近の動きを通じて,パレスチナ問題を中心とする中東和平問題の1日も早い解決が不可欠であるとの確信を更に深めるものであります。中東において,公正で永続的かつ包括的な和平を実現するためには,安全保障理事会決議242及び338にしtがって,1967年戦争による占領地からイスラエル軍が撤退し,すべての関係国の生存権が尊重され,関係当事者による話合いが行われなければなりません。また,国連憲章に基づきパレスチナ人の国家樹立の権利を含む民族自決権をはじめ正当な権利が承認され,尊重されなければなりません。

 私は,最近レーガン米大統領が,中東和平に関する提案において中東問題の核心であるパレスチナ問題に正面から取り組む姿勢を示されたことを高く評価したいと思います。また,これに引続きモロッコのアラブ首脳会議では和平問題に関するアラブ提案が採択されましたが,我が国はアラブ諸国が一致して和平への意欲を示した点を積極的に評価するものであります。我が国としては,関係当事者がこれらの提案を念頭におきつつ中東問題の平和的解決のための努力を再開するよう希望を表明するものであります。

 また,私は,イラン・イラク間の戦闘が依然として続いていることにも深い憂慮の念を抱いております。我が国は,両国が1日も早く戦闘を停止し,紛争を平和的手段によって解決するよう改めて要請いたします。

議長

 ポーランドにおいても,依然として異常な事態が続いておりますが,かかる事態は,これまで東西間で進められてきた協力・交流関係を脅かし,ひいては世界の平和と安定に深刻な影響を及ぼすものであります。我が国としては,かかる事態がポーランド人自身の手によって解決され,真の国民的和解が早急に達成されることを希望するものであります。

議長

 このような国際情勢の下にあって,我が国は,平和に徹し,軍事大国とならず,世界の平和と繁栄に貢献するとの基本方針を堅持してゆく決意であります。我が国は,かかる方針に則り広く世界各国との友好・協力関係を増進するよう努力しております。このような見地から,我が国の最も重要な隣国の一つであるソ連との間においても真の相互理解に基づいた安定的な関係の発展を図りたいと念願しております。しかしながら,我が国とソ連との間には,我が国がソ連に返還を求めている北方領土に関する問題が現在なお未解決のままであり,このため両国間の平和条約は締結をみるに至っておりません。また,こうした中で,近年この我が北方領土においてソ連が軍事力の配備,強化を行うという極めて遺憾な事態が生じております。このような措置は国家間の信頼関係を構築する所以ではありません。我が国としてはソ連がこのような事態を速やかに是正し,北方領土問題を解決して我が国との平和条約を締結するための話合いの席につくよう強く求めるものであります。

議長

 現下の国際社会にみられる相互不信と緊張の高まりは,人類をとりかえしのつかない破局におとし入れる危険性をもつものであります。

 しかも,これを救うべき国際連合は,今日必ずしも十分にその機能を発揮しているとはいえません。事務総長は,その年次報告において,「近年国際連合は,憲章の定めるところから遊離してしまったと思われる。各国の武力行使に対して安全保障理事会は有効な行動をとれず,その決定は実施されていない。紛争の平和的解決の過程は無視され,国際社会は無政府状態に近い。」と痛嘆されました。

 このような時にこそ,我々はいかにして国家間の直互信頼関係を構築し,世界の平和と繁栄を図るかを改めて真剣に検討しなければなりません。そして,このような時にこそ,我々は,国際連合が,言語に絶する悲しみを人類に与えた戦争の惨害から将来の世代を救うという決意の下に創設されたことを想起しなければなりません。

 私は,相互不信が我々の将来を再び脅かすことのないよう,国際連合は,その果たし得る機能を強化することが必要であると考えます。このような観点から,国際連合を通じて国家間の相互信頼関係を構築するために,ここで次の3点を強調したいと思います。

 第1は,国際連合の平和維持機能の強化であります。

 第2は,軍縮分野における国際連合の機能の充実であります。

 第3は,経済開発,社会発展の分野における国際連合の役割の増強であります。議長

 私は,まず第1に,国際連合の平和維持の機能の強化について述べたいと思います。

 国際の平和と安全の維持は国際連合の主要な目的であるにもかかわらず,国際連合は,事務総長も指摘しているごとく,この目的を達成するための機能を必ずしも十分に発揮しているとはいえません。このような状況を,もし我々が,やむを得ざる現実として看過するようなことがあれば,国際連合に対する信頼は損なわれ,その基礎は揺がざるを得ないことになるでありましょう。

 よって,私は,国際連合の平和維持機能に関して,ここに幾つかの問題点を提起し,これに対する改善・強化策を申し述べてみたいと思います。

 その一つは,国連事務総長の役割の強化の問題であります。

 私は,国際粉争を防止するために国際連合が果たしうる機能の一つで,事務総長が,平和に対する脅威がありうると判断する場合には,自らの発意で,直ちに関係国と接触し,事態の悪化を防ぐため努力するよう要請したいと思います。私としては,事務総長のこのような機能が最大限に活かされるようにすべての加盟国が協力すべきであると考えます。

 また,我が国は,国際粉争に際し,事務総長がその代表を紛争地域に派遣し,事実関係を調査するよう従来より提案しております。事務総長のこのような機能も十分活用されるべきでありましょう。

 さらに,私は,国際粉争の平和的解決に当たって事務総長による仲介,調停の機能が強化されなければならないと考えます。そのためには,紛争当事国が事務総長またはその代表による仲介,調停のための努力を英断をもって受入れ,これに協力することが必須であります。

 カンボジア問題,アフガニスタン情勢,イラン・イラク紛争等に対しては,事務総長がその代表を派遣し,問題の解決に努力してまいりました。また,フォークランド(マルビーナス)諸島紛争に際しての事務総長自らの仲介努力には刮目すべきものがあったのであります。

 事務総長による仲介,調停の努力は,たとえ直ちに成果をあげることはできなくても忍耐強く続けられるべきであり,私は,それが紛争の平和的解決の基礎となる当事者間の信頼関係の回復,醸成に寄与することになると信じるものであります。

 国際連合の平和維持機能の強化について,次に安全保障理事会の問題があります。

 安全保障理事会が平和と安全の維持に主要な責任を有することは言うまでもありませんが,その機能は遺憾ながら有効に発揮されておりません。私は,安全保障理事会理事国が,その信託に応え,理事会の本来の機能を回復するよう努力すること,特に常任理事国が,その責務に対する自覚に基づいて協力することが最も緊要であると考えるものであります。事務総長もその年次報告において,安全保障理事会が有効に機能するためには,常任理事国の協力が不可欠な条件である点を指摘しつつ,特に常任理事国に対し,その義務と責任について認識を新たにするよう訴えているのであります。私は,事務総長のこのような訴えを支持すると共に,常任理事国が,安全保障理事会の機能の強化について真剣に検討するよう要請するものであります。

 最後に,地域的紛争の鎮静化や停戦の維持に貢献している国際連合の平和維持活動をより効果的に機能せしめる方策を検討しなければなりません。

 国際連合の平和維持活動が,これまでに果たしてきた役割は,高く評価されますが,同時に,その活動については憲章上の明確な規定がなく,紛争のつど組織づくりをしなければならない点に問題があることも否定し得ません。したがって国際粉争が頻発する今日,国際連合の平和維持活動が,これに対応して迅速かつ有効に発動できるよう改めて検討することが必要であります。加盟国が平和維持活動に対して提供する要員,資機材等を予め登録,整備すること,国際連合として平和維持活動に関する研修,訓練を行うこと,効率的な財政上の裏付けを確保すること等,取りあげるべき点が多々あるでありましょう。事務総長もその年次報告において安全保障理事会が平和維持活動の強化について早急に研究するよう示唆しております。私は,このような示唆も踏まえ,国際連合の平和維持機能強化に関する研究が促進されるよう強く希望するものであります。

 我が国としても国際連合の平和維持活動を強化するために更に積極的な協力を行ってまいりたいと考えております。

議長

 国際連合の平和維持機能に関連して私はここでナミビアの独立に対する国際連合の役割について触れておきたいと思います。

 ナミビアの独立については,関係者の真剣な努力にもかかわらず,未だに国際連合の監視の下における選挙が実施の運びに至っておりません。私は,ナミビアの独立に向けて関係者が一層の努力を傾け,国際連合による非植民地化への努力が成果をあげるよう強く希望いたします。

 我が国としては,国連ナミビア独立支援グループが発足する際には,これに対し要員の参加をはじめとする協力を行う用意のあることをここに再確認いたします。

議長

 国際連合の役割強化について,第2に指摘したいのは,軍縮の分野における国際連合の機能の充実であります。

 今日国家間の相互不信と国際緊張の高まりは,軍備競争に拍車をかけ,拡大された軍備競争は相互不信と緊張を更に増幅し,全人類の生存そのものを脅かすに至っております。このような国際情勢の下で我が国はもとより世界各国の国民の間に,軍縮,とりわけ核軍縮を求める声が,かつてないほどの高まりを見せているのは当然でありましょう。第2回国連軍縮特別総会は,このような軍縮に対する世界的な関心の高まりを背景として我が国の鈴木総理をはじめ多くの国々の首脳の参加を得て開催されました。この特別総会では,残念ながら,かねてから強い期待の寄せられていた包括的軍縮計画を採択することはできませんでした。しかし,この特別総会においては,第1回国連軍縮特別総会の最終文書が今なお有効であることが確認され,また,この特別総会における審議が軍縮促進への努力に強力な弾みを与えるものとなるとの確信が表明されたのであります。

 この特別総会を通じ,我々は,現下の厳しい国際環境の下で軍縮を促進することがいかに困難であるかという事実を改めて痛切に感じさせられました。同時に,特別総会は,そのような環境において軍縮のための努力を積み重ねていくことこそ,まさしく国際社会の平和と安全の基礎を一層固めるものであるとの共通の信念をさらに深める機会となったのであります。我々は,特別総会において得られたこの弾みを失うことなく核軍縮を中心とする軍縮をめざす国際的努力を一歩一歩前進させていかなければなりません。

 この特別総会において,鈴木総理は,平和を国是とし軍事大国とならず,非核三原則を堅持している我が国の立場から,軍縮,特に核軍縮を追求すること,軍縮により生じた余力で社会不安や貧困を除去すること,軍縮の促進を可能とするよう国際連合の平和維持機能を強化・拡充することの3つを内容とする軍縮を通じる平和の三原則を提唱いたしました。我が国は,この三原則が1日も早く現実のものとなるよう国際連合等の場において引続き積極的な役割を果たしていく決意であります。我が国は,このような国際的努力を結集すべき軍縮の課題として,核実験の全面禁止及び化学兵器の禁止の実現を強く訴えてきており,軍縮委員会におけるこれらの交渉の進展のため引続き貢献してまいる所存であります。

 また,我が国は,特別総会の際に提言した原爆資料の国際連合への備え付け,軍縮フェローシップ計画参加者の広島,長崎訪問への協力等を実施に移すよう努めており,その際提唱した原子力施設の安全保障を確保するための国際的努力についても,本年夏の軍縮委員会において原子力施設攻撃禁止のための取極案の骨子を提案いたしました。我が国としては,今後ともこのような着実な努力を積み重ねていくことにより粘り強く軍縮の促進を図っていく決意であります。

 もとより核軍縮は,これに特別の責任を有する核兵器国,特に米ソ両核大国の努力にかかるものであり,多数国間の努力と並んで,これら両国による努力の必要性が改めて強調されなければなりません。とりわけ米ソ間で開始された中距離核戦力交渉及び戦略兵器削減交渉には,核戦争の危険におののき核軍縮を真摯に求める世界各国民の一致した願望が託されております。我が国は,米ソ両国が,このような期待に応えて精力的に交渉を進め,実りある結果に1日も早く到達するよう強く呼びかけるものであります。

 この関連において私は,第2回国連軍縮特別総会後,日浅くしてペレス・デ・クエヤル事務総長が我が国を訪問された際,広島において,2度と核の惨禍が繰り返されてはならないとの日本国民の悲願について認識を新たにされ,核軍縮への決意を改めて披瀝されたことに敬意と共感を覚えるものであります。

議長

 平和維持,軍縮の分野と並んで,第3に強化しなければならない国際連合の役割は,経済開発,社会発展の分野であります。

 現在,先進工業国,開発途上国を問わず,世界経済は深刻な危機に直面しており,将来についても必ずしも展望は開けておりません。特に開発途上国については,成長の低下,国際収支の悪化,債務の累積が著しく,国連世界経済概観によれば,1981年において一人当たりの国内総生産が1950年代以来初めてマイナス成長を記録しているということであります。

 この状態を放置しておいてはなりません。我が国はこれまで,開発途上国の開発を進めつつ,世界経済の再活性化を図ることが世界の平和と繁栄に不可欠であるとの認識の下に,国際連合や国連貿易開発会議等の場における南北対話に積極的に参加し,より良い南北関係の構築のため貢献してまいりました。我が国は、今後とも引き続き開発途上国との建設的な対話を維持,推進し,これら諸国の経済・社会開発への協力を一層拡充してまいる方針であります。我が国が,昨年設定した新中期目標の下に政府開発援助の拡充に努めていることは,この方針の具体的表れであります。我が国としては厳しい財政事情にもかかわらず,かかる努力を行っている次第であり,政府開発援助をより効果的に実施するためにも開発途上国の一層の開発努力を期待したいと思います。

 1980年代の南北間の対話として最も大きな役割を期待されているのは開発のための国際協力に関する国連包括交渉であります。我が国としては,その政治的重要性を認識し,早期に開始の準備が整うことを心から期待いたします。我が国は,この問題につき,今総会において協調の精神に則り具体的な成果があがることを強く希望し,このため各国との協議に積極的に参加していく所存であります。

 国連包括交渉発足への努力と並び,我々は,明年6月に開催される国連貿易開発会議の第6回総会を実りあるものとするよう努力する責務を負っていると考えます。この会議は,1964年の第1回総会以来,貿易と開発の分野における世界的な国際協力の推進に意欲的に取組み,具体的な成果をあげてまいりました。我が国は,同会議がこのような歴史と経験を背景に,次回総会においても,人類が今日抱える最大の課題の一つである貿易と開発の諸問題について,現実的かつ実効的な解決策の探究を行うことを強く希求し,我が国としても,かかる努力に積極的に参画する決意であることを確認したいと思います。

 私は,また,この機会に,1970年代の南北対話の最大の成果である1次産品共通基金を,目標日である明年9月末までに発足させるため,各国が速やかに同協定を批准するよう強く訴えるものであります。

議長

 国際連合が今日,人権及び基本的事由の擁護・促進並びに難民,婦人,児童,障害者,高齢化,人口,環境等の社会的分野における諸問題の解決のために果たしている役割は,極めて大なるものがあります。我が国は,特に近年,かかる分野における国際協力が着実な成果をあげ,人類の福祉の向上と発展に寄与していることを高く評価し,今後ともかかる協力に積極的に貢献していく所存であります。

 この関連で私は,特に,難民救済のために国連諸機関が行っている活動を高く評価したいと思います。現在,国際社会は,インドシナ,アフガニスタン,中東,ポーランド,アフリカ,中米等において未だ解決をみない難民問題をいくつも抱えております。私は,先般,パキスタンにあるアフガニスタン難民キャンプを訪ねる機会を得ましたが,祖国を離れ厳しい生活を余儀なくされている難民の方々の実情は誠に同情に堪えません。私は,国際連合が今後とも難民の救済のために一層の努力を払うことを強く要請するものであります。同時に私は,難民問題の真の解決のためには,その根源となっている問題の解決が必要であることを痛感いたしております。我が国は,これまで難民救済のために国際連合が行ってきた活動に対しては少なからざる財政支援を行ってきており,今後ともできる限りの協力を行っていく所存であります。また,難民の大量流入に苦しむタイなどの国に対する経済協力やインドシナ難民の受入れについても引き続き取り組んでいく考えであることを改めて申し述べたいと思います。

議長

 国際連合が以上述べてまいりましたような機能を十分に果たしていくためには,その財政的基盤の強化が不可欠であることは明らかであり,私は,加盟各国が分担金の支払いを励行し,拠出金の増額を行うよう強く訴えたいと思います。

 同時に,私は,国際連合がその活動の効率化を図ることがぜひとも必要であると考えます。国際連合が限られた財源の下で加盟国の信認を受けつつ有効な機能を果たしていくためには,事務局が,その機構,活動を見直し,優先度の高い活動へ財源を再分配する等,一層の効率化を図るよう努力しなければなりません。また,そのためにわれわれ加盟国が協力していかなければならないことは申すまでもありません。

議長

 今日の国際社会においては,人種,文化,信条等の相違がとかく相互不信を生み,国際の平和と安定の障害となり得ることは否定し得ないところであります。しかしながら,今日,諸国民間の相互依存関係は益々深まり,一国の平和と繁栄は国際社会全体の平和と安定なくしては成り立ち得なくなっております。一国の利害は世界共通の利害と深く関り合っております。その意味で今日の国際社会は一つの運命共同体であると申せましょう。

 我々はこの共同体の一員としての自覚に立って自国の利益のみを追求することなく共同体全体の発展のために協力してゆかなければならないのであります。

 国際連合は,人類がこのような国際協力を推進するために幾多の制約と困難に直面しつつその英知と努力を傾けて築いてきた唯一の世界的機構であります。我々加盟国は国際協力の中心としての国際連合を育て,これを最大限に活用していかなければなりません。

議長

 私は国際連合のすべての加盟国が,国際連合を中核として相互信頼関係を構築し,もって人類の恒久の平和と繁栄を実現するために努力を傾けるよう訴えるものであります。国際連合に対する支持と協力を外交政策の主要な柱としている我が国としては,そのために最善の努力を尽くす決意であることをここに表明して、

私の演説を終わります。

 ありがとうございました。