データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第34回国際連合総会一般討論における園田外務大臣演説

[場所] ニューヨーク
[年月日] 1979年9月25日
[出典] 外交青書24号,369−377頁.
[備考] 
[全文]

議長

 私は,サリム議長閣下が第34回国連総会議長に選出されたことに対し,日本政府及び国民を代表して,心からの祝意を表明いたします。

 私は,閣下の卓越した識見と豊富な経験に基づく公正な指導の下に,今次総会が実り多き成果をあげることと確信いたしております。

 私は,また,第33回総会の成功に大きく貢献された前議長リエバノ閣下に対し,感謝と敬意を表します。

 さらに私は,この機会に,クルト・ワルトハイム事務総長が,国際の平和と安全の維持及び国際協力の推進という国際連合の目的の実現のために払つて来られた献身的な努力に対し,深甚なる感謝の意を表明いたします。

議長

 私は,この機会に,セント・ルシアの国際連合加盟を心から歓迎するものであります。

 わが国としては,今後国際連合の内外においてセント・ルシアとの協力を深めて行くことを期待しております。

議長

 本年は,1970年代を終え80年代に向う重要な転機の年であります。このような重要な時に開かれる今次総会は,70年代の回顧と反省の上に立つて,世界の平和と繁栄を目指す我々の努力に対し,80年代に向う新たな力と展望を与えるものとならねばなりません。

 顧りみますと,1970年代は,世界の平和と繁栄という見地からみて,希望と失望とが交錯した時期でありました。

 即ち

○米ソ間のSALT交渉の進展や米中国交正常化に示されるような,体制を異にする国と国との間の緊張緩和の動きが進展した反面,インドシナ半島,中東,アフリカ等を中心に,地域的な対立と抗争が継続しており,地域によつては緊張激化の傾向すらみられました。

○5回にわたる主要国首脳会議や東京ラウンド交渉に代表されるような,世界経済の安定的拡大を目指す国際的な努力が具体的に進められた反面,エネルギー問題は世界経済の前途に大きな暗い影をなげかけており,また,インフレ,不況等の諸問題にも解決の目途はついておりません。

○開発途上国の国造りが進展しつつある反面,石油価格の高騰は非産油開発途上国に極めて深刻な経済困難をひきおこしており,また,先進工業国の経済の停滞もあつて,南北問題の前途には幾多の困難が生じております。

○国際政治,経済の全般にわたり,国家間の相互依存関係,相互補完関係が深まりつつある反面,例えば,産油国と消費国との間の協調関係は未だ具体化するに至つておらず,また先進工業国と開発途上国との間には,相互に裨益する秩序を求めて模索が続けられております。

 これらは,単なる例示にすぎませんが,こうした事実をふまえて80年代を展望すると,国際社会の前途に楽観は許されないと判断せざるを得ません。

 しかし,同時に,悲観的になる必要もありません。

 昨年の総会においても指摘しましたように,世界の各国,各地域の間の相互依存関係は,社会体制の違いや,国の大小,資源の有無,あるいは国の発展段階の差といつた諸々の相違点を超えて,加速度的に深まりつつあります。その意味で,今や,世界の如何なる国と言えども,世界の平和がなければ自らの平和を確保することは出来ず,また,世界経済全体の発展と切り離して自らの繁栄を図ることは不可能となつて来ていると申しても過言ではありません。

 私は,世界の国々が,この現実を冷静に見究め,国と国,地域と地域の間の相互依存関係を基礎にして,互譲の精神に立つて,世界の平和と繁栄という共通の目標のために,助け合い,補い合つて努力することを各々の外交の基調とするに至れば,我々が当面している問題にも必ずや解決の途{ミチとルビ}をひらくことが出来ると信じております。

 私は,この方向に向つて各国が努力を新たにすることが,1980年代に向うにあたつての,我々すべての課題であると考えます。

議長

 わが国は,平和に徹し,他国に脅威を与えるような軍事大国にならないことを国の基本政策とし,その経済力と政治的影響力を振り絞つて,世界の平和と繁栄に貢献することを外交の基本方針としております。世界の平和と繁栄がなければわが国の平和と繁栄もあり得ないとの認識が,その根底にあることは言うまでもありません。

 そして,1980年代に向つて,わが国は,世界の平和と繁栄に貢献することを目指す積極的な外交努力を,国際政治,経済,社会の全般にわたり,より一層強力に展開して行く決意であります。そしてまた,こうした外交努力を進めるにあたつては,アジア・太平洋地域を中心としつつも,中東,アフリカ,中南米等の諸地域を重視し,世界的な視野に立つて,これらの地域の国々の安定と発展のためにわが国がなしうることを積極的に探求して参る方針であります。

議長

 以上申し述べました認識と展望の下に,私は,国際社会が当面している主要な問題についての日本政府の考えにつき,ここで簡単に申し述べたいと思います。

議長

 まず,アジア情勢について申し上げます。

 現在,アジアで最も緊急な課題は,東南アジアの平和と安定を確保することであります。

 この地域においては,ASEAN諸国の国造りが,域内協力の進展を背景に着実に進んでいる反面,インドシナ半島における対立と緊張の存在とインドシナ難民の流出はASEAN諸国の安全に重大な不安を与えております。

 特に,インドシナ難民問題は,今や人道問題としての域を越えて,アジア・太平洋地域の不安定要因となつております。

 去る7月のインドシナ難民問題に関するジュネーヴ会議は,国連事務総長等の国連関係者や関係各国の努力により多大の成果をあげました。しかし,これにより問題の根本的な解決がはかられた訳ではありません。むしろ,各国が各々の立場において今後一層の努力を払うことが必要であります。

 第1に,ヴィエトナムがジュネーヴ会議で表明した非合法出国を停止するための努力が確実に実行されねばなりません。

 第2に,流出した難民の救済と一時受け入れ国の負担の軽減を目的とする定住面及びUNHCRに対する資金協力の面での国際的な努力は,さらに強化されねばなりません。

 わが国が先般,UNHCRのインドシナ難民救済計画の本年の所要資金の半額を日本一国で負担することを決定したのは,正にこのような国際的な努力に積極的に協力するためであります。また,わが国は難民の本邦への定住についても,その促進に努めており,その進捗状況に応じ,定住枠の漸次拡大を図つていく方針であります。

 ここで強調したいことは,インドシナ難民問題の根本的な解決は,この地域の平和と安定なしには達成出来ないということであります。

 そして,インドシナの平和と安全を確保するためには,カンボディアに永続的な平和を回復することが必要であります。

 私は,カンボディアからすべての外国勢力が撤退し,カンボディア国民が外部からのいかなる干渉も受けずに,自らの政治的将来を選択することが,カンボディアに永続的な平和を回復する唯一の途であると考えております。

 これは決して容易なことではありません。しかし,これを可能にするために,あらゆる努力をつくすことが必要であります。

 そして私は,このための努力の第一歩として,カンボディアのすべての紛争当事者を含む関係国の間にカンボディアに永続的な平和を回復することの重要性についての共通の認識を広めることに努力することが重要であると考えます。私が,先般来,カンボディアのすべての紛争当事者を含む関係国の会議を開催することを繰り返し主張して参りましたのも,このような考え方に立つたものであります。

議長

 私は,ここで,こうした長期的な見地に立つた努力とともに,我々が,カンボディアに関して,今直ちに行動を起こす必要のある緊急の課題について申し上げたいと思います。

 現在,カンボディアにおいては,数百万の民衆が荒廃した国土で病に倒れ,飢餓に苦しんでおります。

 カンボディアの国の在り方について政治的には,色々な立場,色々な意見もありましょう。しかし,如何なる政治的な立場に立とうとも,このことによつて,多数の民衆が飢えと病に倒れて行くのを座視することを許されるものではありません。

 私は,カンボディア内外のすべての関係者が,政治的な立場の相違を超えて人道的な立場に帰一し,カンボディアの民衆を飢えと病の生地獄から救うために力を合わせることが,現在何よりも必要なことであると信じます。

 今,カンボディアの民衆が必要としているものは,政治的な議論ではなく,食糧と薬であります。そして,カンボディアの民衆にその必要とする救援物資を送り届けることが,我々の人間としての責任であります。

 このような見地から,私は,第1に,カンボディアのすべての紛争当事者に対して,このような人道的な見地に立つた救援物資が,それを必要とするカンボディアの民衆の手に確実に渡ることを確保するために,協力するよう求めたいと思います。より具体的には,このような国際的な救援措置を安全かつ迅速に実施することを可能にするための具体的な体制について,カンボディアのすべての紛争当事者が関係国際機関との間に早急に合意に達することを求めたいと思います。

 そして,第2に,私は,このような体制が整うよう関係国が最大限の努力を払うことを強く訴えるとともに,出来るだけ多くの国がこの国際的な救援措置に参加・協力することを求めたいと思います。

 日本政府としては,このような国際的な救援措置に対し可能な限りの協力を行う用意があります。また,日本政府は,現在,日本国民の間に広まりつつあるカンボディア民衆の悲惨な現状に対する強い同情の念に訴えて,官民をあげて,カンボディア民衆に救済の手をさしのべるよう努力する決意であります。

議長

 以上私は,アジアにおいて,現在最も重大な問題であるカンボディア問題についての所信を申し述べましたが,緊急援助の実施が遅々として進まないばかりか逆に,カンボディアにおいて,再び戦闘の激化に連なるおそれのある動きがみられ始めたことは,誠に憂慮すべきことと言わざるを得ません。

 理由の如何を問わず,カンボディアの情況をこれ以上悪化させる如何なる動きも許されるべきではありません。

 このような見地から,私は,ヴィエトナムを含むカンボディアのすべての紛争当事者に対し,強く自重,自戒を求めるとともに,すべての関係国,関係者に対し,カンボディアにおける平和達成に向つて,最大の努力を払うよう重ねて訴えたいと思います。

議長

 朝鮮半島における緊張を緩和させることもアジアにおける重要な課題であります。

 現在,南北間の対話は,中断状態にあり,また,韓国の朴大統領と米国のカーター大統領が共同で北朝鮮側に呼びかけた米国・韓国・北朝鮮の三当局者の会議も未だ実つておりません。わが国としては,朝鮮半島に真の平和と安定がもたらされることに重大な関心を持つており,この見地から,朝鮮半島の南北両当事者間に1日も早く実質的な対話が再開されることを期待するものであります。また,わが国としても,同地域における緊張緩和のための国際環境づくりのために関係国と協力して参る方針であります。

議長

 中東問題は,現在世界が当面している最も重大な問題の1つであります。

 わが国は中東における和平は公正,永続的かつ包括的であることが不可欠であると考えており,エジプト・イスラエル間の平和条約についても,これが中東における包括的和平に向つての第一歩にならなければならないと考えております。

 そして,このような公正かつ永続的な和平の実現のためには,国連安保理決議242及び338が完全に実施され,また,国連憲章に基づくパレスチナ人の民族自決権を含む正当な権利が承認され尊重されなければならないというのが,わが国の考え方であります。

 現在,エジプトとイスラエルの間で行われている西岸及びガザをめぐる自治交渉の成行きは,現在の和平への過程が中東における包括的和平につながるか否かの鍵となるものと考えます。その意味で私は,中東和平への過程をこれ以上遅らせないために,イスラエルとPLOが相互に相手の立場を認めることにより,PLOの和平への過程への参加が実現することを強く望みます。また,私は,西岸及びガザをめぐる自治交渉の当事者に対し,交渉がすべての当事者にとつて納得のしうる成果を生み出すよう,関連国連決議にのつとり,勇気ある柔軟な態度をとることを強く要請したいと思います。それとの関連で,イスラエルに対しては,占領地における入植地の建設,南レバノンに対する武力攻撃といつた交渉の雰囲気を悪化させるような行為を慎しむよう求めたいと思います。

 わが国としては,この地域の安定と発展は,世界の平和と繁栄のために不可欠であるとの認識に立つて,この地域の国々の開発努力に対し引続き独自の立場から積極的に協力していく方針でありますが,このような見地からも,この地域に1日も早く,公正かつ永続的な平和がもたらされることを強く望むものであります。

議長

 アフリカの国々は,世界の平和と繁栄を考える上で,不可欠のパートナーであります。このような見地から,わが国は,アフリカ諸国の国造りに対し,積極的な協力を行つて行く方針であります。

 しかしながら,アフリカ情勢には未だ不安定な面もあります。特に,南部アフリカにおいて,依然として多くの人々が人種差別の桎梏の下に苦しんでいることは極めて重大であります。

 南アフリカのアパルトヘイト政策に何等抜本的な改善がみられないことは極めて遺憾であります。

 また,ナミビア問題について,南アフリカが国際連合の活動に背を向け,内部解決という危険な道をたどりつつあることは,国際社会に対する挑戦とも言うべき重大な事態であります。私は,南アフリカに対し強く反省を促すとともに,国際連合の監視の下の選挙によつてナミビアの独立を達成しようとする国際連合の努力に協力することを求めたいと思います。

 私は,この機会に,わが国としては,ナミビアに平和裡に独立をもたらすための国際連合の活動に対して積極的に参加・協力する用意があることをあらためて申し上げておきたいと思います。

 さらに,私は,南ローデシアにおいて,真の多数支配に基づく独立が1日も早く,平和裡に達成されることを強く希望するものであります。かかる観点から,わが国は,先般の英連邦首脳会議の合意を高く評価するものであり,これに基づいて,現在ロンドンで行われているローデシア制憲会議において,紛争当事者双方が互譲の精神をもつて,真の多数支配実現のために建設的な話合いを行うことを強く期待するものであります。

議長

 中南米諸国は,世界の平和と繁栄のために,今後益々重要な責任と役割りを担うべき重要な国々であります。

 私は,最近中南米諸国を訪問いたしましたが,各国において,経済・社会開発と民主化のための努力が進められており,また,地域の枠を越えて,幅の広い国際的な相互依存関係の中に自らの平和と繁栄を求めようとする気運が高まりつつあることを感じ,勇気づけられました。私は,こうした中南米諸国の意欲に域外の諸国が積極的に応え協力して行くことは,80年代の1つの課題であると考えます。

 なお,一部の国々の民主化の問題につき,その過程において生ずる個々の問題を摘出,非難するよりも,むしろ,各々の国のおかれた立場と過程を進んで理解し,その民主化への努力を助長する方向で対処することが,これらの国々の民主化を促進する所以であると考えます。

議長

 以上述べたような世界の各地域の抱える問題を解決するための努力と並んで,実現可能な軍縮措置を一歩一歩積み重ねて行くことも我々に課された重要な課題であります。

 かかる観点から,私は,米ソ両国の間でSALTII条約が署名されたことを歓迎するとともに,将来のSALTIIIの交渉を通じて戦略兵器の量的削減及び質的規制が具体的に進展することを期待するものであります。また,私はこの機会に,核不拡散体制の強化,包括的核実験禁止の早期実現,並びに化学兵器の禁止を含む非核軍縮措置についての交渉の促進を重ねて強く訴えたいと思います。

議長

 世界の平和と繁栄を確保するためには,今まで私が述べてきた分野の努力だけでは十分でないことは申すまでもありません。我々すべてが直面している重要かつ緊急を要する課題として世界経済に関する諸問題があります。

 第1に,世界経済は,エネルギー問題,インフレ,失業等,幾多の困難な問題を抱えております。そうした中で,世界経済の安定的拡大を図つて行くためには,すべての国が,各々の国内経済と世界経済の間の相関関係に思いを致し,世界経済全体の安定的拡大の中に自らの経済的繁栄を見出すという,国際協調の見地に立つた努力を強化して行くことが絶対に必要であります。

 わが国としては,世界経済に対するわが国の責任と役割りを十分認識して,今後とも国内市場の一層の開放を含む国際協調の見地に立つた努力を進めて参る方針であります。

 特に,世界経済の前途に大きな影響を及ぼすエネルギー問題につきましては,先進工業国の側において,東京サミットで合意された石油輸入の抑制や原子力その他の代替エネルギーの利用の拡大,更には新エネルギーの研究,開発について,着実な実施を確保することが極めて重要であることを指摘したいと思います。わが国を含む先進工業国による石油消費の抑制は,産油国と消費国との間の相互信頼関係の醸成に寄与し,ひいては人類全体の課題であるエネルギーの効率的利用についての産油国と消費国との間の協力関係を生み出すことにつながると信じます。

 なお,私は,エネルギー問題が世界のすべての国にとつて重要な問題であることにも鑑み,国際連合として,この問題に如何に取り組むかについて検討することは有益であると考えており,その意味でワルトハイム事務総長のイニシアティヴに注目しております。

 第2に,開発途上国の「国造り」,「人造り」のための努力に対する経済,技術協力の質,量両面にわたる拡充強化は,今後とも,わが国を含む先進工業国の最も重要な施策の1つとして行かねばなりません。私は,世界経済が様々な困難を抱えている今こそ,このような努力が一層重要であることを特に指摘したいと思います。また,開発途上国による一次産品輸出の安定と製品輸出の安定的拡大についての開発途上国の期待と願望に応えるべく,積極的な努力を行つていくことも,先進工業国の側において今後益々重視して行かねばならない課題であります。

 わが国はアジアに位置する国として,また自ら,近代国際社会に遅れて登場し,先進国との隔差の是正に心血をそそいだ経験を持つ国として,開発途上国の経済・社会開発に対する意欲と願望には強い共感を抱いており,経済,社会開発に関する開発途上国の正当な期待に応えることは,わが国を含む先進工業国の責務であると考えております。

 このような見地に立つて,わが国は,開発途上国の経済・社会開発への自助努力を支援するために,最大限の協力を行うことを外交の基本方針としております。

 わが国が政府開発援助を3年間で倍増すべく努力していること,アン・タイ化の促進,援助条件の緩和等に努めていること,また共通基金の成立のために積極的な役割を果たして来たこと等は,このようなわが国の基本方針に基づくものであります。わが国は,今後ともこの基本方針を堅持し,特に政府開発援助については,その量的増大を図り,対GNP比をさらに改善すべく一層の努力を払つて参る方針であります。

 南北問題の解決のためには,南北間の間断なき対話が必要であります。本年5月に開催されました第5回国連貿易開発会議も,共通基金の基本的要素についての合意を背景として,南北対話の流れを将来に向つてつないで行く重要な過程であつたと評価しております。こうした対話を通じて,長期的な見地に立つた南北間の相互依存関係,相互補完関係についての認識が深まり,その上に真の協調関係が生まれてくることが問題解決の大前提である,と私は考えます。

 このような見地から,我々がこれから取り組まんとしている新国際開発戦略についても,開発途上国の経済・社会開発の促進のために,国際社会が果たすべき努力目標を規定するものとすることが重要であり,その意味でこの国際開発戦略は,開発途上国・先進国の双方を対象とするものでなくてはならないと考えます。

 また,新国際開発戦略は,地球上に未だ8億人も存在しているとされている絶対的貧困に苦しむ民衆を救うことに配慮するとともに,同時に,より開発が進んだ途上国が,さらに開発を進めつつ世界経済の拡大のために貢献しうるよう配慮し,現実的かつ実際的な観点から策定されるべきであると考えます。

議長

 最後に私は,国際平和の維持の分野における国際連合の役割を強化する方策について一言申し上げたいと思います。

 国際平和の維持の面において,国際連合がこれまでに果たして来た役割が,その本来の目的に照して極めて不十分なものに終つていることは,遺憾ながら事実であります。

 国際連合創設以来30年以上を経過した今日,国際連合の在り方を一挙に変えることは困難でありましよう。しかし,国と国の間の相互依存関係が益々深まり,国際協調が益々必要となつてくるこれからの国際社会において,国際連合の果たすべき役割はより大きなものとなつて行かなければなりません。

 このような見地から,私は,国際平和の維持の分野における国際連合の役割を強化するための第一歩として,国際連合が国際粉争についての事実関係を調査する機能を強化することを提唱したいと思います。国際粉争について,国際連合自体がその事実関係を常に把握し,国際世論の前に客観的な事実を提示することが出来れば,国際世論に直接訴えることによつて関係国に圧力を行使し,紛争の解決を促進することが出来ると考えます。

 そのための1つの方法として,重要な紛争が発生するごとに,事務総長の代表をその地域に一定の期間駐在せしめ,事実関係を調査し,事務総長に随時報告せしめることとする方式も考えられると思います。今年のインドシナ情勢の推移に思いを致すときこのような方式の必要性は容易に理解出来ると思います。

 このような見地から,私は,国際連合における討議の基礎とすべき事実関係を国際連合自らが調査することが出来るようにするために,国際連合は,憲章の上で諸機関に認められている事実調査機能を,最大限に活用すべきであると思います。そして,私は,こうしたことは国連加盟国の側に国際連合を活用しようという意欲さえあれば,今日からでも実施可能であることを特に指摘したいと思います。

議長

 以上申し述べました通り,私は,国と国,地域と地域の間の深まりつつある相互依存関係の中に,世界の平和と繁栄を目指す国際的な協調関係の基礎を見出すことが,1980年代における我々の課題であると信じます。

 こうした努力は決して容易なことではありません。しかし,人類全体を破滅に至らしめる兵器が存在し,他方,人類が利用しうる資源にも空間にも限界が見え始めている今日,各国の国民が,自らの平和と繁栄を世界全体の平和と繁栄との結びつきにおいて考え,各国が世界の平和と繁栄のために果たすべき責任と役割を自覚し,それを積極的に果たしていくこと以外に国際社会の進むべき途はありません。

 東西間の問題,南北間の問題,先進工業国の間の問題等々,国際社会の抱えている問題は多々あります。そのいずれにおいても,各国が,自らの主張や利害に固執して対決の姿勢をもつて他にのぞむことを慎しみ,人類共通の悲願である世界の平和と繁栄のために努力するという同一の立場,同一の視点に立つて,心を開いて話合えば,かならずや問題解決の途が開けてくる,と私は信じます。そして,このように各国が心を開いて話合うことが出来るか否かが,1980年代の国際社会の進路を決める鍵であると私は考えます。

 私は,人間の理性と英知を信ずる者の1人として,80年代に向つて,国際社会の将来に明るい展望が開けることを信じて,発言を終えたいと思います。

 ありがとうございました。