データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第31回国際連合総会一般討論における小坂外務大臣演説

[場所] ニューヨーク
[年月日] 1976年9月27日
[出典] 外交青書21号,28−36頁.
[備考] 
[全文]

議長

 私は,日本政府代表団の名において,貴下が国際連合第31回総会議長に選出されたことに対し,お祝いを申し述べます。国際政治に対する卓越した見識と,豊富な体験を有する貴下が,第3次国連海洋法会議の議長として画期的な海洋新秩序の確立のため示されている手腕を以つて,この第31回総会を実り多きものとすることを確信いたします。

 私は,前議長ガストン・トルン閣下が優れた国際的政治家として,多難であつた第30回総会を成功に導かれたことを高く評価いたします。

 私は,クルト・ワルトハイム事務総長閣下が世界平和の維持及び経済,社会,文化等各般の分野における国際協力推進のため,多様化した国際環境に国際連合が対応しうるよう,リーダーシップを以つて活躍されていることに深甚な敬意を表するものであります。

 わが国は,今総会において新たに加盟したセイシェル共和国に対し歓迎の意を表したいと思います。わが国は同国と友好関係を維持しておりますが,同国が国際連合の活動に積極的に貢献することを期待いたします。

議長

 国際連合創設以来,世界は大きな変動を続けてまいりました。嘗て厳しい冷戦が続いていた東西関係においても,米ソ,米中間に開始された対話により緊張の緩和がもたらされ,また,西欧諸国やわが国の国際政治経済面における役割の増大や,新興独立国数の急激な増加を見ており,これによつて世界政治の様相は大きな変化を遂げ,国際関係は益々多様化してまいりました。確かに,今日の世界においても,今なお朝鮮半島の問題が未解決であり,また,中東,サイプラス,南部アフリカ地域等のように依然として複雑な不安定要因を抱える地域が存在することは事実であります。しかしながら,例えば,アジアにおいては,長い戦火を被つたインドシナ諸国が今や復興と建設を進めており,ASEAN諸国は連帯と自主性の強化を図る努力を行つており,インド亜大陸においても,域内諸国相互関係の改善に向けて新たな進展が見られ,新情勢への適応の努力と安定化への動きが看取されます。

 また,経済,社会面においても,今日の世界では国際的相互依存関係が嘗てない程に深まつて来ております。各国間には政治体制,経済発展段階あるいは歴史的背景等に基づく立場の相違はありますが,経済,貿易,資源,エネルギー,食糧,環境,人間居住,人権,婦人,学術等どの分野をとつても,いかなる国も独力でその直面する諸問題を解決し難いことは多言を要しません。

議長

 加盟国が前述の如き複雑困難な諸問題を克服し,真に平和と繁栄を等しく享受しようとするならば,加盟各国は,先進工業国も開発途上国も,大小いずれを問わず,国連憲章の規定と精神に則り,世界的規模において共存共栄を図つて行く必要があります。即ち,あらゆる分野において,加盟各国が相互の立場の尊重と互譲の精神に基づき,対決を回避し,調和と協調を推し進め,責任ある行動をして行くことが不可欠でありましよう。

 このようにすることによつて,今日の世界における唯一にして最高の平和の砦である国際連合の機能が発揮されるのであります。力の強い国が実力をもつて他の国を征服したり侵略し掠奪を行つたり,政府の転覆をはかつたり,その内政に干渉したりすることが嘗ては行われ,それが悲惨な歴史をつくつていた時代がありました。今日世界が平和であることを望まない国はないと思いますが,そのためには,不法な力の行使は絶対にしてはならないのであります。わが国はそのようなことを決していたしません。わが国は,1946年に公布した憲法に,国際紛争を解決する手段としての戦争を永遠に放棄することを明記しており,「専制と隷従,圧迫と偏狭を地上から永遠に除去したい」としていますが,これはその決意の表明であります。わが国の平和主義は,国連憲章の規定と精神の希求しているところと全く軌を一にしているのであります。

 明治におけるわが国の民主主義の先覚者である福沢諭吉は「天は人の上に人を造らず,人の下に人を造らず」といいましたがこの言葉は広くわが国の人口に膾炙しております。私はこの言葉はそのまま国家の場合にも当てはまると思います。即ち「天は国の上に国を造らず,国の下に国を造らず」であり,一国は他国の上に君臨してはならず,民族と民族の関係は支配と隷属の関係であつてはならないのであります。

 今日,国際連合に加盟する145の国が,互いに力を背景として争うことを止め,互いに自国の長所を他国のために役立たせることを心がけるならば,国際連合の崇高な理想である平和の達成は可能と信じます。私は平和外交を標榜する日本の立場として,心から世界の平和を願い,その平和を阻害せんとするあらゆる試みに反対であることを表明するものであります。

 かかる観点から,大国,特に国際の平和と安全の確保について憲章上特別の地位を有する大国の果たすべき責任が極めて重大であると考えます。国際連合の活動が全ての加盟国の発意と協力に支えられるべきことはいうまでもありませんが,他方,国際連合の活動の多くの分野において大国が大きな責任と義務を果たすように期待されていることを強調したいと思います。このような分野としては,軍縮,武器輸出の自制,平和維持活動の制度化,この機構の行財政面等があり,私は大国がこのような責任と義務を自覚して,より積極的かつ建設的な貢献を行うことにより,国際連合の存在価値を一層大きなものとするよう期待いたします。

議長

 わが国は,加盟以来,「言語に絶する悲哀を人類に与えた戦争の惨害から将来の世代を救う」ため国際の平和と安全を維持し,一層大きな自由の中で社会的進歩と生活水準の向上を図るための国際協力を謳つた憲章の目的と精神を忠実に遵守し,国際連合の活動に積極的に参加協力してまいりました。

 このように,わが国は,自ら軍事大国への途を排し,世界の諸国民の公正と信義に信頼し,国際紛争の解決に当つてはもつぱら平和的手段によることとし,軍事的手段に訴えることを断乎として排除して参りました。最少限度の自衛力しか持たず,国際の平和と繁栄に寄与せんとするわが国の平和外交は,わが民族の重大な決意を示すものであります。

 本年6月,わが国が核兵器不拡散条約を批准いたしたのもわが国のかかる平和外交の一環に他なりません。この条約は,「核兵器国」に対してのみ核兵器の保有という特別の地位を認める一方,潜在的核保有能力を有する国を含む他の全ての国による核兵器保有を禁止しております。わが国は,このような不平等は,固定永続化されてはならないと考えます。而して,かかる不平等は,人類の絶滅の危険をもたらす核兵器の拡散によつて是正されるべきではなく,将来核兵器国が核兵器を廃絶することによつて是正されなければならないものであります。この条約を批准する可否につき,無論国内に種々の議論がありましたがわが国は,核兵器国が誠意をもつて核軍縮の努力を行うことを期待し,且つ,同条約の批准により世界の平和と安定により一層の寄与を行わんことを祈念しつつ,この一大決定を行つたのであります。

 このような立場から,唯一の被爆国であり,その惨害を身をもつて体験したわが国が核軍縮の促進と核兵器拡散防止に関する国際協力の必要性を最も重視していることは当然でありましよう。

 すなわち,核軍縮について特別の責任を有する核兵器国が核軍備の削減,包括的核実験禁止等の具体的な核軍縮に真剣な努力を怠るときは,核兵器不拡散条約が有名無実のものとなることは必至でありましよう。他方,原子力平和利用の名のもとに,核兵器保有の能力が拡散しつづけて行くことは問題であります。特に核兵器製造に重大な関連のあるような核物質の濃縮・再処理施設が平和利用のための妥当性と有効な保障なく取得,建設されることの危険性は憂慮すべきことであり,関係諸国による自制と,原子力平和利用確保のための国際協力が今日もつとも緊急な課題の一つとなつております。

 わが国は核兵器不拡散条約の締約国として核軍縮及び核兵器拡散防止のための国際協力に今後一層積極的な貢献を行つて参る決意であります。

議長

 他方,核の均衡が保たれている今日の世界においても,国際の平和と安全を維持するための国際環境造りを更に進める必要があります。この観点からすれば通常兵器に関する軍縮も核軍縮に劣らず重要であると言わねばなりません。最近一部の地域においては,実際上の必要性があろうとは思いますが,通常兵器の輸入急増による軍拡が行われているのであります。このようなことは既に存在している紛争を更に激化させ,あるいは,新たな紛争を惹起する危険をはらむものであります。

 わが国は,紛争地域への武器輸出禁止の政策をとつておりますが,国際紛争を助長することを回避するため,武器移転について何らかの世界的合意の可能性とその方法を探求すべき時期に至つていると信じます。私は関係各国が,それぞれ相互に自粛措置を早急にとることを要請するとともに,全ての加盟国が,この問題を真剣に考慮するよう希望するものであります。

議長

 国際連合は,発足以来幾多の困難に直面しながらも,国際の平和と安全を維持,並びに経済,社会,人権等の分野における国際協力の推進を任務とする普遍的な国際機構として成長してまいりました。

 国際連合が,今後とも世界的な諸問題解決に建設的な貢献を行うためには,「対話」と「協調」に根ざした国際連合の意思形成が重要であります。

 国際連合は最も普遍的な国際フォーラムとして加盟諸国に話し合いの場を提供するものであり,国際連合総会は加盟各国が,共通の問題について意見交換をする最適な場であります。しかし,相互の立場の尊重と互譲の精神に基づく対話と協調の推進がなくてはたとえ決議が採択されてもその履行は確保され得ず,そのような事態は国際連合の威信を傷つけ,その存在意義をも失わせ兼ねません。

 その「対話と協調」が最も期待されている重要分野の1つはいわゆる「南北問題」であります。それは,この南北問題が今日の世界において真剣に取り組むことを要する重要問題であると同時に,今後,われわれが解決への努力を中断することのできない長期的な課題の1つでもあるからです。

 日本国政府は,第7回国連特別総会から第4回国連貿易開発会議を経て,「対話と協調」が一歩推し進められたことを評価するものであります。わが国としても,一時産品総合計画,政府開発援助の拡充・改善を含む各種の課題に取り組むに際し,現実的なアプローチを通じて実効的な解決方途を探求すべく,国連貿易開発会議を含む国際連合の各種フォーラムのみならず,東京ラウンドの多角的貿易交渉,国際経済協力会議等を通じても真剣な努力を払つてゆく考えであります。

 また近年,開発途上諸国間における発展の格差の拡大も無視し得なくなつており,先進工業国と開発途上国との問題という従来の画一的概念から脱却し,総合的な開発戦略として現実的かつ有機的に問題を捉え直す必要があります。

 わが国としても,かかる認識に沿い,今後,後発開発途上国に対する一層の配慮を含め,貿易・援助等多くの分野で開発途上国の経済社会発展に係る自助努力に対し多角的な協力を拡充していきたいと思います。

 更に多国間協力については,わが国は国際復興開発銀行,アジア開発銀行等に対する協力のほか,国連開発計画等多くの国際連合の基金に多額の拠出をしており,国際農業開発基金設立に際しても,応分の貢献をすることを明らかにしております。又,以上の通り開発途上国の自助努力に対する協力を考えるに当つて,今後,産油国等の能力のある開発途上国並びに社会主義国も各々の特性に応じて協力分担をするよう強く要請されるべきであると考えます。

議長

 国際間の努力が必要な分野として,海洋に関する新法秩序の問題がありますが,第3次国連海洋法会議においても,複雑多岐にわたる海洋の諸問題を利害の対立する国家間の「対話と協調」の精神に基づき,各国の幅広いコンセンサスによつて解決し,長期的に安定する国際法秩序を形成することが肝要と考えております。

 わが国としても,国際社会全体の調和のとれた利益を反映した新条約が1日も早く実現するよう努力する決意であります。この会議に参加している各国が早期妥結のために,更に格段の努力を結集するよう呼びかけたいと思います。

議長

 開発途上国の経済社会問題を考えるに当り,各国がそれぞれ自国の開発に携わる人材を養成することの重要性は,わが国の今日までの経験にかんがみても多言を要しないと思います。

 わが国としては開発途上国における人材の養成に積極的に貢献すべく,開発途上国の技術水準,教育水準の向上のため各般の協力を拡充していく考えであります。

 わが国は国連大学の創設を推進し,その本部を東京に誘致いたしました。国連大学は,多数の加盟国の支持を得て発足し,人類全体の福祉のための活動を開始しております。わが国は,この大学のために,他の加盟国も同様な貢献を行うことを期待して,五カ年間に1億ドルの拠出をする意向を表明し,現在までに既に4千万ドルの拠出をしておりますが,未だ拠出を行つていない他の加盟国が国連大学の意義と重要性を理解して,積極的に拠出を行うよう強く要望するものであります。

議長

 わが国は,朝鮮半島に隣接し,歴史的,文化的にも深い関係を有する国として,この地域の平和と安定の維持に多大の関心を有しております。わが国は,朝鮮半島の平和維持及び朝鮮人民の自由に表明された意思に基づく平和的再統一のためには,南北両朝鮮の速やかな対話再開が先ず必要であると考えております。

 また,在韓国連軍司令部の解体及び休戦協定の取り扱いの問題については,直接関係当事者間での「話し合い」を通ずる解決を求めるものであります。わが国は本件に関し,従来より一貫して不毛な「対決」を回避し,「対話」を促進するような国際環境の醸成のため努力してまいりました。この観点から,今次総会において不毛な対決が避けられることとなつたことは歓迎するところであります。わが国としては,これを契機として南北両朝鮮の対話及び直接関係当事者間の話し合いが可及的速やかに実現するよう衷心より希望するものであります。

 なお,南北両朝鮮がそれぞれ希望するならば,平和的再統一が実現するまでの間,ともに国際連合に加盟することをわが国として歓迎する立場に変りありません。

議長

 わが国は,最近の中東地域における事態の進展,特にレバノン情勢の悪化が,複雑な中東問題の解決を更に遅らせるのではないかと深い憂慮の念を有しております。

 わが国は,安保理決議338に従い,安保理決議242が早期かつ完全に履行され,かつ国連憲章の諸原則に基づきパレスチナ人の正当な権利が実現されることにより,中東紛争が平和裡に解決されるよう強く求めるものであります。換言すれば次の諸原則が遵守されるべきであると考えます。

 一 武力による領土の獲得及び占領は許されず,従つて1967年戦争の全占領地からイスラエル兵力の撤退が行われること,

 二 域内のすべての国の領土の保全が尊重されねばならず,このための保障措置が執られるべきこと,

 三 中東における公正かつ永続的な平和実現にあたつてパレスチナ人の国連憲章に基づく正当な権利が承認され,尊重されること,

の三点であります。

 私は,中東紛争の解決が1日も早く達成され,同地域の人々が公正かつ恒久的平和を享受しうることを祈念するものであり,そのためには国連憲章及び関連決議に基づいてイスラエル,アラブ直接当事国及びPLO,その他の関係者が早急に話し合いに入ることを強く望むものであります。

 また,パレスチナ難民問題については,わが国は国連難民救済事業機関を通ずる人道的援助の努力に対し,他の諸国と協力して財政的支援を継続してゆく所存でありますが,特に本機関に従来財政的貢献をしてきていない社会主義諸国の拠出を慫慂いたします。

議長

 国際連合は長年にわたり南部アフリカ問題を取り扱い,重要な役割を果してまいりましたが,南ローデシア問題,ナミビア問題及びアパルトヘイト問題等について未だ解決がみられないのは誠に残念であります。

 本年に入り南部アフリカ問題を巡つて安全保障理事会において度重なる審議が行われる一方,関係諸国間の会談等も行われ,本問題の平和的話し合いによる解決のための努力が払われていることをわが国は評価します。しかしながら現実においては,南ローデシアにおいては武力紛争がみられ,南アフリカにおいては流血の惨事が相次いで発生しており,又,ナミビアにおいては国際連合の意向が反映されない状態が続いていることは憂慮に耐えないことであります。

 かかる情勢がこれ以上放置されてはなりません。

 これに関連し,私はキッシンジャー米国務長官並びに関係諸国の首脳が南部アフリカ問題の解決を目指して積極的に努力しておられることを多とし,これらの努力が実り多い成果をもたらすことを希望しております。

 わが国は,従来より一貫してとつている人種差別反対の立場に立ち,今後も南部アフリカ問題の平和的且つ速やかな解決のため出来る限りの努力を行つて行く所存であります。

議長

 国際の平和と安全の維持を第一義的目的とする国際連合が公正な第三者としての役割を果してきた好例としていわゆる「平和維持活動」があります。今日,中東地域に駐留している国連緊急軍及び国連兵力引離し監視軍,サイプラスにおける平和維持軍が,それらの平和維持のために多大の貢献をしていることは改めて指摘するまでもありません。「平和維持活動」は紛争の拡大と再発の防止を通じて国際連合が現在,実際に果しうる最も有効な平和維持機能であることを考え併せるならば「平和維持活動」の強化が国際連合の将来にとつて肝要であることは明らかであります。このように重要な「平和維持活動」を更に有効,円滑,確実に遂行し得るように,平和維持活動特別委員会の作業の進捗が期待されますが,わが国としても一層この分野における国際連合の活動強化に協力してゆきたいと思います。

議長

 ひるがえつて私は,国際連合が今後とも国際的諸問題解決のため建設的役割を果たしてゆくことを念願しつつ,国際連合の役割強化の観点から国際連合システムの機構と財政の問題に言及したいと思います。この面において,既に経済社会分野における機構改革の作業が手掛けられていることを評価するものでありますが,その作業を通じて,国際連合の活動の合理化,機構の簡素化,業務の能率化に一層の努力を払うことにより,国際連合の機能強化をめざすべきであると考えます。かかる観点から,国際連合諸機関,専門機関の活動内容に認められる重複問題,これら諸機関間の有機的総合的調整問題等も機構改革作業において十分に検討さるべきであります。

 先ず私は,既存の機構の活用を考慮し,機構の新増設が不可避な場合にも「スクラップ・アンド・ビルド」の原則を適用すべきことを示唆します。

 また,職員については,限られた国の職員によつて枢要なポストが占められている事態は改善されるべきであります。かかる見地から,職員全体の規模を現在以上に拡大することを極力抑制しつつも,その適正な地理的配分の確保,なかんずく,採用職員数が不当に少い国からの採用にこの際特別の配慮を払うことが重要であります。

議長

 国際連合は,時代の要請に応じ,その活動の分野を拡大してきましたが,これに伴いその為の経費も年々増大してきました。その通常予算は過去10年間に約3倍に増加し,過去5年間の増加率は年率約15%でありました。

 しかしながら,この予算拡大のテンポが加盟国の国家財政の実状とはほとんど関係なく決められてきたことは問題であり,事実多くの国にとつて増大する国際連合の経費を負担する事は相当の重荷となりつつあります。たとえばわが国の場合は分担率が増大した事も加わつて分担金額は過去10年間に約8倍となつております。

 国際連合は,予算策定にあたつては先に述べた機構の合理化と併せ極力予算の節減に努め,限られた財源を最も有効に使用するよう努力すべきであると考えます。特に,財源に充分な考慮を払う事なく,当面の資金需要を優先させる事により,著しく資金不足が生じるなどという事態が起らないよう,事務局も加盟国も現状を正しく認識し,協力して適切な措置をとる事が必要と考えます。

 わが国は国際連合がかかえる財政赤字により,その有効かつ円滑な活動が阻害されることを危惧して1千万ドルの特別拠出を行い,もつて問題解決への第一歩となる事を期待しました。しかし,わが国の自主的拠出に続く国も少なく今もつて問題解決の見通しが得られないのは甚だ残念であります。又,政治的理由により分担金の支払いの停止もしくは遅延はすべきでない事を強く訴えます。国際連合が今後も国際的な諸問題解決に一層効果的に貢献しうるためには機構・財政を確固とした基盤に置くべきであります。

 本年は3年毎に行う分担率改定を審議する時期にあたりますが,その決定方式についても,国民所得指標等に基づいて判定される支払能力の他に,国連憲章上の特別の地位の如き要素をも配慮に加えて再検討すべきではないかと考えます。

議長

 最後に,私は,現行国連憲章の枠内での改善及び国連憲章の再検討を通じての国際連合の機能強化の重要性を強調しておきたいと思います。もとより,如何なる組織も機構もそれを構成し運営する構成員の努力と決意なしには有効に機能しません。現在国際連合に向けられている批判の多くも,機構もしくは憲章上の欠点に帰すべき点だけではなく,加盟国の憲章遵守意志の欠如に由来している場合が多いことも事実です。その意味では,加盟国が国連憲章を誠実に遵守する決意を再確認し,それを実行をもつて示すことが先ず重要であることは申すまでもありません。

 しかしながら,創設後30年以上を経過した現在,国連憲章起草当時に想定した機構・機能と,その後大きく変化してきた国際政治経済環境の中で国際連合が実際に果たすことが期待されている役割との間には多くのギャップが生ずるに至つていることも否定し得ません。また,憲章の特定の条項が既に時代遅れとなり意味を失つていることも事実であります。

 憲章再検討問題との関連では,従来よりわが国は,「平和維持活動」の強化,事実調査機能の強化,安全保障理事会構成の再検討,経済社会理事会を中心とした経済社会開発分野の調整機能の強化,信託統治制度の再検討,旧敵国条項の削除等について再検討の必要がある旨述べてきたことを想起したいと思います。

 いずれにしても私は,「憲章及び国際連合の役割強化に関する特別委員会」ならびに経済・社会分野における機構改革に関する「機構改革アド・ホック委員会」の作業が憲章再検討を含む国際連合の在り方について建設的な成果を生み出すことを希望します。

議長

 私は,この演説を終えるにあたり全加盟国が,人類の理想をになつた世界的規模の機関であるこの国際連合を強化育成して,世界に平和と繁栄を築いていくため今後益々協力し,努力することが肝要であると信じ,そして,加盟20周年を迎えたわが国国民及び政府が,この目的達成のために最善の努力を尽す決意であることを再確認するものであります。