データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 国連第21回総会における椎名外務大臣の一般討論演説

[場所] 
[年月日] 1966年9月23日
[出典] 国際連合第21回総会の事業,1966,上巻,511‐519頁.
[備考] 
[全文]

 議長,私は,日本代表団の名において,貴下が国際連合第21回総会の議長に当選されたことに対し,心からお祝い申し上げます。私は,貴下がその卓越せる識見とこの世界機構における豊富な経験により,今回の重要な総会が意義ある成果を収めるよう指導されることを確信するものであります。とくに,私は,貴下がわが国の属するアジア・アフリカ諸国の全幅の支持を得て当選されたことに対し,心からの満足を覚えるとともに,今次総会がとどこおりなく,かつ,協調の精神の下にその任務を達成しうるよう,貴下に協力すべき責務をより深く自覚する次第であります。

 この機会に,私は,前議長アミントーレ・ファンファーニ・イタリア外相閣下に対し,深甚なる感謝の意を表明したいと思います。前議長は,外交の分野における豊富な経験をいかし,第20回総会の事業を指導され,国際連合の権威を高揚されました。

 同時に,私は,ウ・タン事務総長閣下に対するわが代表団および政府の深甚なる敬意を表するものであります。過去数年間は,国際連合にとって最も苦難に満ちた試練の時代であったのでありますが,その間にあって,ウ・タン氏は,類まれなる豊かな識見と冷静沈着な指導力をもって,事務象徴の識務の声価を高らしめました。同氏の平和への寄与と平和の事業への献身は,われわれをして深く感動させずにおかないものがあります。同氏がその任務の遂行に際して時に悲痛な挫折感に見舞われることがあったことは理解しうるところではありますが,同氏がそのために努力を傾けられた平和の理想は,それとは比較にならない程偉大なものであります。日本国代表団は,同氏が今次総会中留任する意向のある旨を表明されたことを歓迎するものであります。

 私は,また,今次総会の開幕を飾るにふさわしい明るい出来事の一つとして,インドネシア政府が今次総会を期して国際連合との全面的協力関係を回復することを決定されたことを歓迎します。わが代表団は,アジアの隣国として親近感を有するインドネシアが今後国際連合を通ずる世界平和建設の事業に再びわれわれとともに参加することを決定したことを欣快とし,これを衷心より支持するものであります。

 また,私は,ガイアナ代表団に対し,その加盟をお祝いし,心からの歓迎の意を表したいと思います。

 わが代表団は,インドネシアおよびガイアナが,平和,自由,人権および経済社会開発に関する国際連合の活動に十分なる貢献を行なわれることを深く期待し,かつ,確信するものであります。

 議長,本年はわが国が国際連合に加盟して十周年に当りますが,わが国は,国際連合がこの十年間ますますその加盟国を拡大し,世界平和維持,植民地の独立,経済社会開発等の事業を進めている事実を目のあたりにし,まことに世界のため,人類のため慶賀に堪えない次第であります。

 国際連合の果している役割のなかで重要なものとして,国際連合が人類の将来に理想を与えている点を指摘したいと思います。各国の外交には,常に二つの面,すなわち,それぞれの国家および国民の現実の利益を守る面と人類全体の理想の実現に貢献する面とがあり,この二つの面は表裏一体をなすものであります。今日の世界において,一国の平和と繁栄は,世界の平和と繁栄につながっており,各国がそれぞれの国家および国民の利益を守るべく努力すると同時に,国際社会の将来について正当なる理想を持ち,これが実現のため不断の努力を行なうべきであり,この点についての自覚と実行を欠く国家は,国際社会において名誉ある地位を占めることはできないと考えます。

 国際社会の理想は,人種,思想または宗教のいかんを問わず,あらゆる民族が等しく平和で豊かな生活を享受することであると思います。そしてこれを実現する手段について,現在国際社会に属するほとんどすべての国が,その国の思想のいかんにかかわらず表明している基本的態度の中には,明白な共通点がみとめられます。すなわち,それは,国際連合を強化育成して,究極においては世界の平和と個々の国の安全面的にこれに託し,かつ国際連合をして,基本的人権,経済,社会その他すべての分野における人類進歩の主導力とすることによって,世界平和の建設に積極的に寄与させるということであります。二つの大戦を経て,国家的利己主義のみしか存在しない国際社会がいかに悲惨な結果をもたらすかを体験した各国が,かかる理想を一致して持つに至ったことは極めて当然というべきでありましょう。

 国際政治の働きは常に流動し,われわれの理想は,その時により近づいたり遠ざかったりして見え,ある時にはそれがほとんど言葉の上だけの理想に過ぎないように見える場合もありましょう。今日の国際連合の現状は,われわれの理想からいまだ程遠いものでありますが,人類の理想を相互に確認し,将来への努力を誓い合う場としての国際連合の価値はいくら大きく評価しても大き過ぎるということはないでありましょう。

 議長,20世紀の後半における世界史的な意義を有する大きな出来事と言えば,それは民族と民族の間の支配,隷属の関係が崩れて,平等の原則の下に新しい秩序が築かれつつあることであります。この新しい流れの過程を通じて国際連合の果した役割は偉大なものがあります。第15回総会において採択された植民地独立付与宣言にもられた植民地独立の原則は,つとに国際社会の指導原則の一つとなっております。一部の国のかたくなな態度のために,この原則がいまだ実施されるに至っていない地域が残っていることは遺憾でありますが,いまや植民地独立の大事業はすでに最終段階に入ったと言っても過言ではないと考えます。

 しかしながら,植民地の独立により問題がすべて解決した訳ではありません。新たに政治的独立を獲得した諸国は,自らの運命を自らの意志と力により開拓するために真剣な努力を行なっておりますが,これら諸国が,その国家建設に全力を注ぐためには,まずこれら諸国の属する地域の政治的安定が不可欠な要件であります。国際連合は,これらの地域の政治的安定のために,従来幾多の貢献を行なってきており,国際連合のエネルギーの大半がこれらの地域に注がれてきたと言っても過言ではないと思います。このことは,国際連合が,その創立以来行なった平和維持活動の殆んどすべてが,これらの地域において行なわれたという事実よりしても明らかであります。

 また,新たに独立を獲得した諸国を中心とする開発途上の地域の経済的,社会的諸問題の解決は,独立問題以上に解決困難な問題であります。世界の一方においては,繁栄と高い生活水準を享受している国民があるのに対して,世界のその他の大部分の国民が貧困と飢饉と疫病に脅かされているという状態は,国家間,民族間の不和あつれきを惹起する要因ともなりかねないのであります。国際連合およびその専門機関は,この要因を除去するため,工業および農業の開発,教育の普及,社会福祉の向上等あらゆる分野で大きな努力を傾けてきました。

 このように植名地{前3文字ママ}独立と新しく独立した国を中心とする開発途上の地域の政治的安定およびこれらの地域に対する開発援助こそ,現在まで現実に国際連合が行なってきた活動の中心的命題であり,このような過程を通じて国際連合は,世界平和の建設に現実に貢献していると言いうるでありましょう。

 議長,アジアにおいては,戦後なお戦乱と不安と停滞が存在し,その発展は遅々たるものがありましたが,そのアジアに最近漸く新たな気運が生まれつつあります。

 まず私は,アジアに新たな協調と融和の気運が起りつつあることを指摘したいと思います。すなわち,従来アジア地域においては,他の地域に比して,域内協力促進を目的として,この地域の共通の問題を討議する機会が少なかったきらいがありますが,本年に入ってから,東京における東南アジア経済開発閣僚会議,ソウルにおけるアジア太平洋協議会閣僚会議(ASPAC)が開催され,きたる11月にはアジア開発銀行の創立総会が,12月には東南アジア農業開発会議が,いずれも東京において開催される予定であります。国際連合としても,アジア極東経済委員会(エカフェ)をしてアジア地域の経済社会問題について引続き広範な活動を行なわせており,その努力の一つの成果として,アジア開発銀行が発足の運びとなったのでありますが,これは域内国の自助の努力と先進国の協力の賜であります。

 同時に,私は,従来ともすれば対立と緊張の絶えなかったアジアにおいて,最近ようやく,和解と友好の精神に基づき隣接国の間の紛争を話し合いによって解決しようとする傾向が芽生えつつあることを指摘したいと思います。

 すなわち,昨年12月には,戦後20年を経てはじめて日韓国交正常化が実現し,両国間に新たな友好親善関係が開かれたのであります。ついで,本年1月のタシケントにおけるインド・パキスタン両国の首脳会談の結果,カシミール紛争の戦火が鎮り,さらに,インドネシア・マレイシア間の紛争についても,本年春以来,両国首脳の間において続けられてきた紛争解決への𣓤まざる努力と熱意が実を結んで,さる8月,3年の長きにわたって続いてきた紛争に終止符が打たれ,両国の友好関係が回復されたことは,いまだわれわれの記憶に新しいところであります。

 このようにアジアにおいて,最近政治的安定と地域協力の気運が出て来たことは誠に慶賀に堪えない次第でありますが,他面,アジアにはまだ暗雲が残っており,この暗雲が吹きはらわれない限り,大災害を招く危険のあることも事実であります。

 いまや,東南アジアにおいて残された課題は,申すまでもなく,ヴィエトナムをめぐる問題をいかにして平和裡に解決するかこということであります。ヴィエトナムにおいては,紛争解決への見通しは依然立たないまま殺戮と破壊が繰返えされております。本来アジアの建設のために向けられるべき貴いアジアの資源と人力が,このように戦闘のために浪費されつつあることは,誠に遺憾なことと申さなければなりません。私は,さきに述べましたとおり,話し合いによって問題の解決を図るという好ましい風潮が広くアジアにおいて強まりつつありこの際,ヴィエトナム紛争についても同様,紛争が一日も早く話し合いによって平和裡に解決されることとなるよう強く希望するものであります。そのためには,とにかく双方が戦闘行為を停止するとともに,話し合いのテーブルにつくことが肝要であると考えます。

 現在,米国は無条件に話し合いに入る用意がある旨を屢次声明しているのに対し,北越およびヴィエトコンは,あくまで自己の主張が認められぬ限りいかなる話し合いにも応じないとに態度をとっておりますが,私は,共産側が,和平を求める世界諸国の声に耳をかたむけ,和平への建設的な態度を示すことを強く希望するものであります。この点に関連し,昨日の米代表の発言は極めて重要かつ建設的なものと考えられ,真剣な検討に価するものと考えます。わが国といたしましては,今後とも,あらゆる機会をとらえて,和平探求への努力を続けていくことを強く表明いたします。

 議長,ヴィエトナム問題とともに,中国問題は,単にアジアのみならず,世界の平和と安全に密接につながる重要問題であります。アジア大陸におけるほとんどすべての国際問題は,なんらかの形で中国問題につながっているといえましょう。

 中国問題が困難かつ複雑な性格を有し,その解決が容易でないことは,わが代表団が毎次総会で指摘して来たところでありますが,中国問題の解決を困難にしていて大きな原因の一つとして,中共の態度を指摘せざるを得ません。最近のヴィエトナム和平問題とも関連して関係国の態度を比較して見ますと,どうしても中共の態度は,柔軟性を欠いているように感じられます。中国およびその周辺の問題を解決するためには,直接当事者間の話し合いをはじめとして,国際連合の内外における数多の方法や手続が考えられます。しかし,根本的には,世界各国が,たとえその思想を異にしても,世界諸国民の平和と生存をこいねがい,そのために努力しているという単純な事実を中共が認めて,他国の善意を信頼し,協調的な態度で問題の解決に臨むことが,アジアのみならず世界の平和と安全のために必要不可欠なことと思います。

 中国代表権問題についてのわが国の態度は,例年の総会においてわが代表団が繰り返し述べたところであります。

 要約すれば,わが国の態度は,中国問題は現在の世界の平和と安全に関する重大な問題であり,中国代表権問題はその本質に関係する重要問題であるので,この問題の審議は関連するすべての要素の現実的かつ均衡のとれた評価の上に立って慎重に行なう必要がありまた,この問題は総会で決定される他の多くの重要問題と同様,重要問題として三分の二の多数をもって決定されるべき問題であるということであります。

 中共の責任者の発言等から考えても,世界情勢は現在中国代表権問題を円満に解決する客観情勢に達しているとは言い難いのであります。わが代表団といたしましては,総会が,中国代表権問題の取扱いについて,引続き昨年と同じような慎重な態度で臨むことを希望するものであります。

 議長,戦後アフリカにおいて行なわれた変貌は,正に世界史的変革であります。アフリカはいまや植民地支配の桎梏を脱し,自己の意志と力をもって自らの運命を切り開くため,懸命の努力を行なっております。新たに独立を獲得したアフリカ諸国は,アフリカ統一機構を組織して,アフリカの団結と統一を目標に,地域協力体制の確立のため絶大な努力を払っており,このようなアフリカにおける建設的な動きは,他の地域における協力体制の確立を促進する効果すら発揮しております。

 しかしながら,アフリカにおいて,いまだにその願望に反して,独立を与えられない諸民族が残されていることは遺憾であります。また,植民地独立の問題とならんで,人種差別問題が残っています。いまや,南部アフリカ問題はは{前2文字ママ},アジアにおけるヴィエトナム問題や中国問題と同様,世界における重要な政治問題の一つとなっています。

 南西アフリカ問題につきましては,先般国際司法裁判所がエティオピア,リベリア両国の提訴について判決を下しましたが,この判決は,実質問題についてなんら触れるところがなかったのであり,南アフリカ共和国政府が国際連合累次の諸決議にもかかわらず,ひき続き実施している政策をなんら正当化するものではありません。わが国といたしましては,委任統治条項に基づいて南アフリカ共和国が統治している地域である南西アフリカが自治独立への道を着実に歩むことを要求するものであり,他方,現在南西アフリカで行なわれている人種差別政策は,当然のことながら直ちに停止されるべきであると思います。そして,この目的を達するための法的,政治的手続きについて,この総会が広汎かつ慎重に検討すべきでめ{前3文字ママ}ると考えます。

 ローデシア問題につきましては,わが国は,白人による少数支配を永続化させようとする一方的独立宣言には一貫して反対するものであります。かかる立場から,わが国は,安全保障理事会の決議に従って,国内的に多大の犠牲を払いつつも経済制裁等の措置を忠実に実行しており,わが国の南ローデシアからの輸入は実質上皆無に等しい状態であります。わが国は,今後とも友好諸国と協調しつつ,安全保障理事会決議の目的を達成するためにあらゆ{前1文字ママ}努力を尽す所存であります。

 南西アフリカ問題にいたしましても,また,ローデシア問題にしましても,その背後には,共通の問題として,人種差別問題が大きく横たわっています。南アフリカ共和国政府が,長年にわたる国際連合の非難決議にもかかわらず,その人種差別政策を放棄しないばかりではなく,人種差別体制を強化していることは遺憾に堪えません。わが国といたしましては,今後とも南アフリカ共和国政府がその人種差別政策を早急に放棄し,人類の理想に向い共同歩調をとるよう強く訴えるとともに,安全保障理事会決議に則り,対南ア武器禁輸を遂行して行く方針であります。

 民族の独立,人種平等の働きは,大きな歴史の流れであり,いかなる者もこの歴史の流れに逆うことはできません。人種の政治的社会的平等の主張は,人種の良心の声であります。私は南部アフリカを統治する諸国が,まずこのことを十分理解し,その叡智をもって歴史の流れに従った解決の途を歩むことを切望するものであります。

 他方,はじめに述べましたとおり,国際連合は,人類の理想をになっている機関であります。この総会に出席しているわれわれは,世界史を創り出しているといっても過言ではありません。したがって,われわれは,われわれの行動が後世に重大な影響を与えることを認識して,責任ある行動をとるべきであると考えます。私は植民地問題および人種差別問題について,基本的な正義がアジア・アフリカ諸国の側にあることは信じて疑いません。ただそれを実現する手段を選ぶに当っては,この重大な責任を常に考慮に入れるべきであると思います。

 議長,以上私は,アジアおよびアフリカが直面する諸問題について述べた次第でありますが,開発途上の地域に繁栄をもたらし,その住民に社会福祉を享受させることが,これらの地域に平和と安定を築き,かつ,これを維持する上に欠くべからざる要件であると考えます。したがって,開発途上の地域の経済社会開発の問題は,単なる経済社会問題としてではなく,平和建設の事業として把握されるべきものと考えます。

 開発途上の地域の経済社会開発は,いうまでもなく,先進国と開発途上の国の協力によてっ{前3文字ママ},はじめて可能となるものであります。この意味において,国際連合が1960年代を「国際連合開発の十年」と名付け,この問題について多大の努力を払っていることは,重大な歴史的意義を有するものと考えます。

「国際連合開発の十年」は,いまや,その半ばを過ぎたところで,その実績は,必ずしも満足すべきものとは言えないかも知れませんが,加盟諸国の協力により,着実な進歩のあとが認められます。なかんずく,昨年度においては,国際連合貿易開発会議の機構作りの完了,国際連合工業開発機関の設置決定,国際連合開発基金の統合,拡大された規模での世界食糧計画の継続実施等がみられ,今後これらの分野において国際連合の充実した活動が期待されております。

 また,これへ併行して,各専門機関も,それぞれの分野において開発途上の地域に対する援助活動を強化継続しており,されに多数国間あるいは二国間ベースでの努力が行なわれていることも看過してはならないと考えます。

 このように,国際連合の枠内および枠外において,真摯な活動が間断なく進められていることは欣快に堪えません。

 明年,国際連合貿易開発会議の第二回会議が開かれる予定でありますが,私は,この会議を成功に導く鍵は,先進国と開発途上の国の双方が,理解と信頼と善意にもとづき,問題解決の方途を見出すため最前の努力をいたすことにあると信じます。わが国といたしましても,できる限り積極的な態度をもって,この会議に臨みたいと考えております。

 現在,多くの開発途上の国,とくにアジア諸国において,農業問題へくに{前3文字ママ}人口増加と関連する食糧問題は深刻な様相を呈しており,食糧問題を解決し,また農業の生産性を高めることはこれらの地域で緊急に着手すべき最も重要な問題の一つであります。最近この重要問題に対する認識が世界的に高まっていることは欣ばしいことでありますが,わが国といたしましても,開発途上の諸国の農業開発のため,できる限り,協力する所存でありこの意味から,本年東京で,東南アジア諸国の参加をえて,農業開発会議の開催を予定し,まず,東南アジア諸国の協力によって,この重要な問題の解決に貢献したいと考えております。

 以上述べましたとおり,開発途上の地域の経済社会開発の問題は,複雑多岐にわたり,その解決は早急に期待し得ないかも知れませんが,わが国といたしましては,種々の国内的困難にもかかわらず,開発途上の諸国に対する援助の強化に努力してまいりました。わが国といたしましては,できる限り早く,国民所得の一パーセントを開発途上の国の経済社会開発援助にふりむけることを目標としており,わが国力の許す限りの援助活動の拡充を図る覚悟であります。

 議長,国際連合の最大の目的は,国際の平和へ安全の維持であります。この国際の平和と安全の維持について第一義的責任を有する安全保障理事会は,本年当初より,その議席を拡大し,新たな陣容をもって出発いたしましたが,最近においては,理事国間の協議により理事会における対決が回避され,その結果,大国の拒否権も実際に行使されない傾向が顕著となっています。安全保障理事会がよくその機能を発揮するためには,常任理事国のみならず非常任理事国が相互に一致協力することが肝要であります。わが国といたしましても,この点を十分に認識して,今後安全保障理事会の審議に臨む覚悟であります。

 議長,われわれは,国際連合の平和維持活動のあり方について,第19回総会以来,真剣な討議を重ねてまいりましたが,いまだなんらの実質的成果をあげるに至っていないことははなはだ遺憾であります。各加盟国は,国際連合の平和維持機能をいかにして効果的に遂行し,また,いかにしてこれに有効な財政的裏付けを与えるかは,国際連合の命運にかかわる最も重要な問題であることを認識し,すべての加盟国は,この問題の解決のため,一致協力すべきであると考えます。

 また,私は,平和維持活動と関連して,昨年の総会において,紛争を平和的に解決するための前提となるべき方策の一つとして,世界の各地域に国際連合の代表を設けること等を示唆しましたが,今後ともこれらの方策について検討を行なうべきであると考えます。

 過去の国際連合の平和維持活動の取扱い方から生じている国際連合の財政上の不健全化は,一日も早く解決を要する問題であります。私は,この際すべての加盟国が,第19回総会に得られた合意を想起し,財政検討専門家委員会設立に至る経緯を勘案し,かつ,明確となった国際連合の財政状況を基礎として,国際連合財政の健全化に建設的努力をいたすべきであると思います。

 私は,昨年の総会において,わが国は応分の自発的拠出を行なう旨申し述べましたが,この種国際連合財政についての正確な状況が判明しましたので,近く250万ドルの拠出を行なう所存であります。

 議長,ついで私は,国際の平和と安全の維持に密接な関係をもつ軍縮問題について,わが代表団の見解を述べたいと思います。

 今日の国際環境において,全面完全軍縮の理想を一挙に実現することは困難でありますが,われわれがこの理想に向って,誠実かつ冷静に一歩一歩着実な歩みを続けることが肝要であると考えます。この意味におきまして,18カ国軍縮委員会が,本年1月より8月まで,軍縮問題について熱心な討議を重ね,今次総会後も再開することを決定している事実は,たとえその会期中に見るべき成果がなかったとはいえに{前3文字ママ},軍縮対する{前5文字ママ}世界の熱意を反映するものであると考えます。

 今日の軍縮問題の焦点となっている核兵器拡散防止問題については,18カ国軍縮委員会の努力にも拘わらず,これまでのところ,核兵器拡散防止条約の案文についてなんらの合意もみるに至らなかったことははなはだ遺憾であります。わが代表団は,昨年の総会において,核兵器拡散防止条約の作成に当っては,各国の安全保障について十分な配慮が払われるべきこと,核保有国および非核保有国の双方がともに責任と義務を分ち合うとの精神をもってのぞみ,双方の発言権が尊重されるべきことおよび条約発効後この条約の運用と核保有国の軍縮に対する努力を評価するための締約国会議を開催することが望ましいこと等の諸点を指摘いたしました。私は,関係国が,これらの諸点を含む種々の問題点を十分検討し,その困難を克服して,すみやかにこの条約の締結が実現されることを強く希望いたします。

 議長,全面的核兵器実験禁止は,核軍縮のみならず,核拡散防止のために効果的な手段であることからみても,現在いまだ国際条約によって禁止されていない地下核実験は,速やかに禁止さるべきであります。この問題については,現地査察,検証等,国際管理の要否をめぐって,関係国の間に深刻な意見の対立がありまま{前4文字ママ}。スウェーデン政府の提唱になる「地震学的資料交換のための国際協力」構想,いわゆる核探知クラブの構想は,地震学的資料の交換という技術的性格のものでありますが,このような地味な活動が地下核実験禁止問題の行きづまりの打開に,なんらかの貢献を行ないうるならば幸であります。わが国は,このクラブの発展のため,今後できる限りの寄与を行ないたいと考えています。

 このように世界各国が核兵器拡散防止や全面的核実験禁止のため真摯な努力を行ないつつあるさなかにあって,中共およびフランスが,それぞれ,今年も核兵器開発の目的をもって大気圏において核実験を行なったことは遺憾であります。私は,両国が,世界の希望を容れて,世界各国の軍縮への努力に協力することを希望します。

 わが国は,核戦争の惨禍を現実に体験した国として,軍縮の達成に向っての諸国民共同の努力に積極的に参加してゆきたいと考えております。

 議長,二十世紀とくにその後半における科学技術の発展は誠に目覚ましいものがあります。いまや,宇宙開発における技術の急速な進歩は,かって空想の世界であった宇宙空間を人類の活動の領域としつつありますが,私は,この人類の新たな活動領域こそ諸国が地上の利害を離れて人類の理想を実現すべき絶好の場であると確信いたします。この時に当たって国際連合宇宙空間平和利用委員会が宇宙天体条約案を審議し,これについて今次総会に報告することとなったことは,極めて時宜を得たものであると思います。私は,この画期的な条約をすみやかに締結し,宇宙および天体における法秩序を確立し,われわれが一致協力して,宇宙および天体を全人類の利益のために活用することをこいねがうものであります。

 議長,以上私は,人類の理想と国際連合,アジア,アフリカを中心へする{前3文字ママ}開発途上の地域の直面する政治的,経済的諸問題,国際連合の平和維持活動,軍職問題等についてのわが代表団の基本的立場ならびに希望を申し述べました。

 いまや,科学技術の進歩は,人類をして宇宙開発を可能ならしめましたが,国際社会の進歩が科学技術の進歩におくれをとることがあってはならないと考えます。国際社会の進歩をこいねがうわれわれは,その理想をになった機関であるこの国際連合を強化育成して世界に平和と繁栄を築くための有効な機構となりうるよう今後益々協力し,努力することが肝要であります。日本国政府は,この目的のために最善の努力をつくす決意であります。

 議長,私は,今回の総会が,貴議長の指導のもとに,多大の成果を収め,国際連合の権威を高めるとともに,世界の平和へ繁栄のために貢献しうることを切に希望いたします。わが代表団といたしましても,そのために,あらゆる努力と協力を惜しまないことをここに誓うものであります。