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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] CONNEX持続可能な開発に向けた基本指針

[場所] 富山
[年月日] 2016年5月27日
[出典] G7伊勢志摩サミット公式ホームページ
[備考] 仮訳
[全文]

 G7の複雑な契約交渉の支援強化(CONNEX)に係るイニシアティブは,2014年のG7ブリュッセル・サミットにおいて立ち上げられたものであり,当初採取部門に焦点を当て,複雑な商業契約交渉のための分野横断的かつ具体的な専門性を開発途上にあるパートナー国に対して提供することを目的としている。CONNEXイニシアティブは,当事国及び投資企業の利益を保護しつつ,当事国の成功裏かつ包摂的な発展に資するよう,このような複雑な商業契約が高度に練られかつ十分に交渉されることを確保するために作られている。

 G7は,2014年6月17日にニューヨークで開催されたCONNEX発足会合の機会に発出された別添のファクトシートに,CONNEXイニシアティブの構成要素として,既存のリソースに関する情報統合とアクセス可能性(柱1),既存の交渉支援の強化(柱2),及び長期的な能力構築及び透明性の向上との関連づけ(柱3)の3本柱を特定し,CONNEXイニシアティブの下で講じられる措置の概要を示した。

 過去2年間の進捗としては,関連情報の統合とアクセス可能性を通じた交渉支援へのアクセス向上のためのウェブ・ポータル(www.negotiationsupport.org)に係るコロンビア持続可能な投資センター(CCSI)との協力関係の構築,契約交渉における助言的な支援を向上させるためのモデル要素を提供するCONNEX行動規範の承認,及び支援提供者,パートナー国及び投資家の間の知見の共有と相互学習を促進するためのOECD開発センターとの連携によるネゴシエーション・サポート・フォーラム(NSF)の発足等が挙げられる。

 歳入のみならず経済成長及び雇用にも影響を及ぼしている現在の一次産品価格の低下に直面する状況の中,CONNEXイニシアティブの重要性と関連性が一層高まっていることを認識し,G7は,本イニシアティブの枠内での共同の取組を継続するコミットメントを再確認する。また,G7は,CONNEXイニシアティブを通じた契約交渉のための専門家派遣のような即時的支援は,長期的な能力構築及び透明性向上の取組と並行して実施されるべきであることを認識する。

 G7は,CONNEXイニシアティブが以下の指針に沿って実施されることをここに確認する。以下の一連の指針は,採取部門に係る現在の本イニシアティブの焦点を反映しているため,本イニシアティブの将来的な範囲の拡大に伴い必要性が生じる場合,本指針は見直され,改訂され得る。

CONNEX基本指針

1.G7は,持続可能な開発のための2030アジェンダに含まれる持続可能な開発目標の達成に向けた現行のグローバルな取組に貢献するためにCONNEX イニシアティブを実施する。

 天然資源の開発から生み出される歳入は,天然資源を有する開発途上にあるパートナ

ー国によって効果的かつ効率的に動員・活用されれば,持続可能な開発目標(SGDs)の達成に向けたグローバルな取組において重要な役割を果たしうる。しかし,それらの歳入が十分な役割を果たすためには,関係法令に加えて契約に頼っている開発途上の資源保有国は,まず天然資源開発契約が適正かつ正当に交渉され,締結され,及び実行されることを確保し,また自国資源の開発プロジェクトがもたらす収入が公正かつ正当な形で得られることを確保しなければならない。

 CONNEXイニシアティブは,開発途上にあるパートナー国が,公正な収入を確保する公正な契約を確保し,2015年7月に第3回開発資金国際会議で採択されたアディスアベバ行動計画に沿って,国内の公的資金を,持続可能な成長のために動員し,効果的かつ効率的に活用することを助ける。したがって,本イニシアティブは,2015年9月の国連持続可能な開発サミットにおいて採択された,持続可能な開発のための2030アジェンダに含まれるSDGsを達成するための既存のグローバルな取組に対するG7の貢献の不可分の要素となる。

 G7は,SDGsの達成に向けて採取関連の投資を活用するために,CONNEXイニシアティブを活用する更なる機会を追求する。本イニシアティブのSDGs達成への貢献を確実にするため,G7は,本イニシアティブの下で支援を提供する際には,特に地域コミュニティの環境,人権,及び生活の質に関連する持続可能性のあらゆる側面を含む,2030アジェンダに包含される目標及び原則に対して採取活動が与える潜在的な予期せぬ影響について慎重に考慮する。G7はまた,SDGsの達成に,一次産品価格の乱高下が与える潜在的な負の影響に対処するためG7全体での努力を継続する。

2.CONNEXイニシアティブは,ステークホルダー間の相互信頼の精神に則って実施され,また開発途上のパートナー国のオーナーシップを基盤として,G7メンバーとの間で築かれる協力に基づき実施される。

 ステークホルダー間,特に開発途上にあるパートナー国,支援提供者,及び支援提供者

から派遣されるアドバイザー間の相互信頼は,CONNEXイニシアティブの成功の鍵を握る。G7は,これを認識し,支援提供者から当事国の利益のために働くよう派遣されるアドバイザーの地位を保証し,これら支援提供者がCONNEXイニシアティブの下で複雑な契約交渉における助言業務を遂行する際のガイドラインとして,分野横断的な助言サービスのためのCONNEX行動規範を策定した。CONNEX行動規範の中心となる要素をうまく活用するための教訓の蓄積のために,また同規範の試験的適用に活用可能な交渉支援プロジェクト又はプログラムを特定するために,G7の努力は継続される。このような試験的なプロジェクトはまた,分野横断的なチームに交渉支援の機会をもたらす。

 CONNEXイニシアティブは,開発途上にあるパートナー国が資源採取プロジェクトの公正な契約を確保するための努力を支援するものであり,そのため,開発途上にあるパートナー国のオーナーシップが無ければ望むような効果を実現することは出来ない。本イニシアティブはこれらパートナー国が自らの直面する課題を特定する取組と,自発的にそれら課題に取り組むための支援を求める取組が組み合わさった場合にのみ成功する。

 このため,本イニシアティブの下でのあらゆる支援は,CONNEXの理念の下で活動すると宣言し,CONNEX行動規範を適用するか又は行動規範に含まれる中心的な要素と綿密に調整を取る形で支援を行う支援提供者によってのみ遂行される。さらに,開発途上国が明示的に支援を要請する時及び場合にのみ支援が実施される。

3.G7は,CONNEXイニシアティブの下での支援と,開発途上国における能力構築のための長期的支援を合致させ,採取部門におけるプロジェクトの全ての段階を取り扱う。

 CONNEXイニシアティブの核心的な要素の一つは,情報統合とアクセス可能性にあり,

本イニシアティブの短期的支援は,開発途上にあるパートナー国が感じている,複雑な契約交渉のための専門性と能力についての喫緊のニーズと,既存のメカニズムから得られる支援との間のギャップを埋めるべきものである。

 CONNEXイニシアティブは,その交渉支援プロジェクト又は試験的なプロジェクトの過程で実地訓練を与える機会を時折生じ得るものの,上記のギャップ,すなわち組織的能力及び複雑な契約交渉に必要な専門知識を有する人材の不足という,根本的な原因に対処するものではない。したがって,CONNEXイニシアティブの支援は,開発途上にあるパートナー国が能力及び専門知識に関する自国のボトルネックを解消することを支援するためのG7による長期的な能力構築支援に合致するよう実施されるべきである。

 これらの能力構築の取組の範囲は,効果的な法的,規制的及び政策的枠組みの構築,契約交渉の準備,投資の実施のモニタリング,及び天然資源投資から生じる紛争の解決を含む,資源採取プロジェクトの全ての段階を含有するべきである。同様に,適当な場合には,

開発途上国において財政収入を確保し向上させるため,税務,ロイヤリティー及びその他の政府収入に係る行政能力の構築を通じるものを含め,国内資金動員強化のための国や国際機関による種々の支援の取組を含めるように拡大されなければならない。これらの取組は,租税条約交渉に係る能力構築の強化や適正な鉱物産品の価格決定のための義務の強化といった開発途上国が直面している税源浸食と利益移転(BEPS)に関連する課題に対処するための実用的なツールキットの開発を含む。

4.G7は,採取産業におけるガバナンス及び透明性向上に関してCONNEX イニシアティブの下での支援と,開発途上にあるパートナー国に対する長期的支援を合致させる。

 採取プロジェクトから生じる収入が,当事国の持続可能かつ包摂的な成長を実現するた

めの重要な役割を果たすためには,この収入による恩恵が,国家,地域,及び地方現地レベルで,公正かつ衡平な方法で国民に再分配されるか,又は国家の発展並びに国民の福祉及び生活水準の向上を支援するために効果的かつ効率的に活用されるべきである。これはまた,CONNEXイニシアティブの下での支援の結果として締結される契約を通じて得られるあらゆる収入にも適用される。

 天然資源から生じる国富の適正な再分配を確保するため,開発途上にあるパートナー国は,採取部門におけるガバナンス,徴税における透明性,公正な利益分配及び採取プロジェクトから生じる関連公的財源の流れ,また同様にこの財源の適正な管理及び衡平な分配に係る適切な戦略又は政策を持つことが必須である。これに関して,多くの国及び国際機関が,開発途上国に対して,税の透明性に関する国際基準の履行,及び開発途上国の税務行政が直面する情報の非対称性問題を軽減するための情報交換の支援を行ってきた。

 したがって,CONNEXイニシアティブの下でのあらゆる支援は,開発途上にあるパートナー国が公正で包摂的な国家開発及び国民の福祉向上に関する戦略又は政策を改善することを支援するG7の取組と一貫した方法で行われるべきであり,これによって採取部門におけるガバナンス及び透明性向上に関して開発途上にあるパートナー国の取組を促進又は奨励する。

 同様にこの点において,G7は,CONNEXイニシアティブの支援を得て締結された契約に関する更なる透明性向上のために必要な追加的な活動を検討する。この活動は,市民社会が過程を追うことが出来るような方法で,また採取産業透明性イニシアティブ(EITI)を含む,採取産業及び天然資源のガバナンスにおける透明性を向上させる様々なイニシアティブ及び枠組みとの協働により行われる。

5.G7は,採取産業及び持続可能な開発に関する分野において関連のステークホルダーによる取組と補完的な形でCONNEXイニシアティブを実施する。

 採取産業及び持続可能な開発に関係する分野においては,国家及び地方政府,国際機関

及び地域機関,開発銀行,国際金融機関,民間企業,シンクタンク及び研究機関並びに市民社会を含む数多くの関連するステークホルダーによる広範にわたって継続中の取組が存在する。

 CONNEXイニシアティブは,これらの取組とシナジーを構築し及び強化することを通じて,一方ではこれらの取組に重要な貢献を果たすことができ,もう一方でこれらの取組から価値あるインプットを得ることができる。これらの取組は,以下に限定はされないものの,BEPSプロジェクト及び腐敗対策関係プログラムを含むOECDの取組,世界銀行のエネルギー&採取グローバル・プラクティス(the Energy & Extractives Global Practice),採掘鉱物金属及び持続可能な開発に関する政府間フォーラム(Intergovernmental Forum on Mining, Minerals, Metals and Sustainable Development)及び交渉支援提供者とその他のステークホルダー間の対話を促進するその他のイニシアティブを含む。

 CONNEXイニシアティブは,アフリカ開発銀行,アフリカ法的支援ファシリティ,アジア開発銀行及びアフリカ開発のための新パートナーシップを含む地域機関による取組とも協働で実施される。本イニシアティブはその実施の観点からは地理的境界線を有さず,よっていかなる地域にある開発途上にあるパートナー国にも拡大され得る。

 G7は,関連するステークホルダーによるこれらの取組との一貫性を向上させるために,既存の取組との更なる協働及びシナジー向上の機会を追求するための措置を講じる。G7はまた,前述の機関への全ての貢献がCONNEXイニシアティブの目標と合致して形成されるように,これらの関連するステークホルダーの課題設定及び活動を方向付けるように取組を連携させる。このため,G7はまた,関連するステークホルダーの中からCONNEX行動規範の中心的な要素に合致して取組を行うことによってCONNEXイニシアティブを推進する意思がある支援提供者を特定するための取組を継続する。

(了)