データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 食料安全保障と栄養に関するG7行動ビジョン

[場所] 
[年月日] 2016年5月27日
[出典] G7伊勢志摩サミット公式ホームページ
[備考] 仮訳
[全文]

今日,飢餓及び栄養不良は,紛争及び危機の状態にある人々を含む,地球上の20億人以上

の人々の生命に直接的な影響を与える深刻な問題を引き起こしている。それと同時に,農業部門の成長の促進,並びに食料安全保障及び栄養の強化は,グローバルな持続可能な開発を推進し得るものであり,またアディスアベバ行動目標を含む,持続可能な開発のための2030アジェンダ(以下,「2030アジェンダ」)全体の達成のために必要である。

G7は,2016年が食料安全保障及び栄養に関するグローバルな取組を一体化していくために重要な年であることを認識する。G7は,2030アジェンダ及びCOP21のパリ協定の実施にコミットする。G7は,成長のための栄養(以下,「N4G」)サミットが,グローバルな栄養のアジェンダを進展させるための重要な機会になることも認識する。

G7は,2015年のG7食料安全保障及び栄養に関する広範な開発アプローチ(以下,「広範なアプローチ」)に基づき,この「食料安全保障と栄養に関するG7行動ビジョン」(以下,「V4A」)を提示し,2030年までに開発途上国において5億人を飢餓及び栄養不良から救い出すという野心的な目標(以下,「エルマウ・ターゲット」)の達成に向け,協調的かつ焦点を絞った行動をとることで,G7の政治的責務を果たしていく。

G7は,次の3つの重点分野,すなわち女性のエンパワーメント,人間中心のアプローチを通じた栄養の改善,並びに農業及びフードシステムにおける持続可能性及び強靱性の確保の分野において,協働して進める行動を特定した。これらの行動は,グローバルな取組を強化すること,また広範なアプローチの4本の柱に横断的な効果を強固にすることによって,G7として付加価値を高めていくものである。

このV4Aは,G7が協働して優先的に取る行動を示すことにより,広範なアプローチの複数の側面を発展させまた具現化することを意図している。これらの重点分野において取る行動は,互いに補強する効果を持つものであり,また,2030アジェンダの実現を支える広範なアプローチを進展させるためにG7が遂行するその他の行動とも補完的なものである。

重点分野における行動

農業及びフードシステムにおける女性のエンパワーメント:

FAOの推測によると,女性に男性と同等のリソースへのアクセスを与えると,開発途上国の農業及びフードシステムにおける総生産量を2.5-4%増加させることができ,世界の飢餓人口を1-1.5億人減少させることができ,貧困削減に長期的な効果を及ぼし得るとされて

いる。

よって,G7は,次のとおり重点を置く。1)女性が同等の権利及び資源,特に土地に関して同等のアクセスを持つことを推進すること。2)農地及び農地以外の双方において,より高額かつ適正な利益を得られる経済的機会を増やすこと。3)女性が経済活動に参画できるような環境を創り出すこと。G7は,女性の経済的なエンパワーメントに関する国連ハイレベルパネルのみならず,女性のエンパワーメントに関するより広範なG7の行動との整合性を確保する。

この目的のため,G7は以下を決定する。

・既存のG7の土地パートナーシップを通じたものを含む,関連するODAプログラムにおいて「国家の食料安全保障の文脈における土地所有,漁業,森林に関する責任あるガバナンスのための任意ガイドライン(VGGT)」に沿った女性による土地所有の確保を推進する。

・食料安全保障及び栄養のためのニュー・アライアンスなどの既存のイニシアティブを通じて実施するものを含む,金融及び金融派生サービスなどのリソース及び生産的資産に対する,女性の同等の権利並びにアクセスを確保する法,規制,及び社会システムの構築,改善及び執行を支援する。

・農産品の選別,加工,配送及び販売を含む,農業及びフードシステムにおいて女性が衡平な経済的利益を得られる適切な雇用機会を創出すること,並びに職業教育及び訓練を通じて女性が必要技能を習得できるようにすることを支援する。

・灌漑,水の複合的利用システム,エネルギーへのアクセス増加,並びに革新的かつ持続可能な農業生産及び加工技術を含む,女性の時間的余裕を生むようなインフラ,より良いサービス,及び個々の文脈に則した技術の利用を促進する。

・農業における女性のエンパワーメントに関する指標,及びその他の女性のエンパワーメントに関する成果指標の利用を促進し,また体系的に結果を性別によって細分類して集計する。

人間中心のアプローチを通じた栄養の改善:

食事の質などの栄養改善は,疾病及び死亡のリスクを軽減し,重病に苦しむ人々を助け,

人々が経済的・社会的活動に生産的に参画することを可能にする。栄養不良の防止は,罹患率,障がい,及び関連する医療費を削減し,人々の健康及び福祉を増進させることから,国家が行い得る最も優れた経済的投資の一つであることが証明されている。特に,妊娠から子どもが2歳になるまでの最初の1,000日間において,栄養不良の予防が最も効果的となり得る。G7は,生涯を通じ,農村から都市にわたってあらゆる形態の栄養不良に苦しむ脆弱な個々人の多様なニーズに注目する,人間中心のアプローチを取ることの効果を認識する。G7はまた,分野横断的かつ統合的な取組を通じて,人口集団レベルの栄養不良の主要因にも対処する。

よって,G7は個人及びコミュニティのエンパワーメントにより,集団のみならず人間一人ひとりが持続的な栄養改善の成果を得られるようにすることに重点を置く。その実施においては,G7は栄養に関するローマ宣言及び国連「栄養に関する行動の10年」との整合性を確保する。また,他の関連するイニシアティブ及びステークホルダーとの連携を強化し,N4Gサミットにおいてリーダーシップを発揮することで,さらなる効果を得られるようにする。

この目的のため,G7は以下を決定する。

・中央政府による,栄養政策の策定,効果的かつ分野横断的な行動及び計画の実施,現実的な目標値の設定,並びにモニタリング・フレームワークの導入への支援を強化する。

・特に国内において新たな投資を生み,栄養に関する革新的資金調達を奨励するため,マルチ・ステークホルダー・イニシアティブを支援し,また,パートナー国政府の優先課題にG7の投資を合致させ,特に栄養スケールアップ(SUN)ドナー・ネットワークとの協働によってドナー協調を強化する。

・医療,栄養及び普及活動の従事者の訓練,並びに食育及び栄養教育の推進を通じて実施するものを含む,中央政府による様々なレベルでの能力開発への支援を強化する。

・農業,保健,教育及び社会的保護を含む異なる分野で横断的に栄養向上を促進するような栄養改善のための間接的な行動とともに,特に妊娠から最初の1,000日間において健康的な成長及び発達を促進するような栄養改善のための直接的な介入の拡大を可能にする。

・SDG2の指標のデータ収集及び活用を支援し,特に性別及び農村と都市の間でデータの細分類による集計を向上させるために食料不安経験指数(FIES)の普及を支援する。また,

特に子ども及び出産年齢の女性の食事の多様性に関する指標を,世帯調査に含めることを促進する。

農業及びフードシステムにおける持続可能性及び強靱性の確保:

農業生産及びフードシステムは,環境及び気候に強く影響を受け,またこれらに影響を与える。特に牧畜で生活をする人々など生計を農業に依存する人々,及び貧しく栄養不足の人々は,環境の悪化,生態系サービスの喪失,気候変動及びこれに関連して起きる,エル・ニーニョに伴って発生するような極端な気象現象に対して,特に脆弱である。COP21に先立って示された約束草案のおよそ3分の2は,これを認識し,農業部門における気候変動への適応策及び緩和策を含んでいる。農業はまた,農村から都市にわたって経済成長及び貧困削減の力強いエンジンとなっているが,農業の変革は一層枯渇に近づく天然資源についての競争を激化し得るものであり,責任ある,かつ持続可能な投資が必要となる。

よって,G7は,次のとおり重点を置く。1)FAOが定義した気候変動対応型農業を含み得る,持続可能な農業慣行に関する研究開発,知見の交換,実施及び普及を推進すること。

2)VGGT及び世界食料安全保障委員会(CFS)で採択された「農業及びフードシステムにおける責任ある投資のための原則(CFS-RAI)」を全てのステークホルダーが適用し及び実施するよう促進すること。3)農村から都市にわたって,及び地域内で農業とフードバリューチェーンの連関を強化すること。4)天候によるショック及び長期化した危機状況に対する,農業セクター従事者の生計手段の強靭性,並びに農業及びフードシステムの強靱性を強化すること。G7は,強靱で持続可能な国内及び世界のフードシステムに貢献するため,小規模農家の支援に焦点を置くことを再確認する。

この目的のため,G7は以下を決定する。

・農業及び食料安全保障のプログラムにおいて気候変動適応型の慣行を主流化し,環境及び農業への影響を効果的にモニタリングする手法の開発を支援する。

・「気候変動対応型農業のためのグローバル・アライアンス(GACSA)」,国際農業研究協議グループの「気候変動・農業・食料安全保障研究プログラム(CCAFS)」,及び4/1000イニシアティブの重要性を認識し,気候変動,天然資源の管理及び農業に関する,研究開発及び知見の交換を強化するような既存のメカニズム,プラットフォーム及び機関を支援する。

・「土地に基づく責任ある農業投資に関する分析枠組み」や,OECD-FAOの「責任ある農業

サプライチェーンのためのガイダンス」といった既存の実践的な指針の試験的利用をより広い規模に拡大し,また,世界銀行,UNCTAD及びローマに本部を置く国連機関(注:FAO,WFP,IFAD)といった関連のパートナーとの協働によって,多様なステークホルダーの関与を得つつVGGT及びCFS-RAIのアウトリーチ・プログラムの更なる実施を行う。

・フードバリューチェーン全体を通じて,フードロスや食品廃棄及び温室効果ガスの排出の削減を強調するとともに,仙台防災枠組(2015-2030)を考慮し,環境に優しく,災害への強靱性を有する質の高いインフラの構築及び改良に対する責任ある投資により一層重点を置く。

・国家の戦略及び計画を補完するために地方の食料安全保障及び栄養に関する計画の策定を支援するとともに,農村から都市にわたって,またより広い地域の発展に資する,食料安全保障及び栄養並びに経済的機会を持続可能な形で向上するため,政策の形成及びビジネス環境の醸成を促す。

・最も脆弱な世帯及びコミュニティのため,社会的保護措置,気候リスク早期警戒システムイニシアティブ,及び気候リスク保険イニシアティブを含む,気候リスク・マネジメントの取組を促進する。

実施及び説明責任の強化

G7は,これらの行動の効果的な実施を確保し,説明責任を強化するため,次の措置を講じ

る。

より良いデータへの着目:

G7は,エルマウ・ターゲット及び2030アジェンダの達成のための「データ革命」の重要性を認識する。G7は,ステークホルダーの協調を強化し,並びに政策及びプログラムに必要な情報を提供するためにこれらのデータを使用することなどによって,飢餓及び栄養不良の測定に係るG7自らの取組を改善し,また開発途上国の取組を支援することにコミットする。G7は,ステークホルダーが農業及び栄養に関するデータを世界的に取得でき,アクセスでき,かつ利用できるようにする上での,「農業と栄養のためのグローバル・オープン・データ・イニシアティブ(GODANイニシアティブ)」の重要性を認識する。

食料安全保障及び栄養に関する実施中のコミットメントと進捗報告の改善:

G7は,食料安全保障及び栄養に関するコミットメントの進捗をモニターし,G7メンバー間で情報を共有し及び協調を強化し,重点項目を見直し,並びに優先課題に関してG7首脳に助言するため,食料安全保障作業部会の会合を,2030年まで少なくとも毎年1度は開催する考えである。食料安全保障作業部会は,世界的な食料安全保障及び栄養に資する実例及びグッド・プラクティスを共有しつつ,補完性及び政策の一貫性を促進するために,例えば2016年G7新潟農業大臣会合宣言等の臨時で開催されるG7農業大臣会合の成果について然るべく考慮する。

G7は,説明責任及び透明性を引き続き強化するため,G7進捗報告書やその他のフォーマットにおいて,適当な場合にはV4Aの行動に関する進展を含め,食料安全保障及び栄養に関するコミットメントについての進展を報告する。G7は,より良いモニタリング及びSDGs達成のための取組を強調して行うため,食料安全保障及び栄養に関する分野におけるOECD/DAC及びその他の関連する国際機関や研究機関への関与を継続する。

幅広いステークホルダー及び他のフォーラムとの間での相乗効果及び関与の強化:

G7は,G20並びにその食料安全保障及び栄養の取組との間で更なる相乗効果を追求し,また,第6回アフリカ開発会議(TICADⅥ)のような機会を活用することも含め,それぞれの地域の独自の文脈及び課題を考慮しまた必要に応じアプローチを調整することを勘案し,包括的アフリカ農業開発プログラム(CAADP)のような地域的な取組及びフォーラムとの協調を進める。

G7は,アディスアベバ行動目標を想起し,2030アジェンダの達成のためには複数の資金の流れを動員することが決定的に重要であることを強調する。G7は,食料安全保障に資する資金を,より効果的かつ持続可能な形で動員するために,関連するステークホルダーと協働し,SUN運動が栄養に関して行っている同様の活動を補完する。G7は,世界農業食料安全保障プログラム(GAFSP)で示されたような,民間投資を呼び込むための更なる取組を歓迎する。

G7は,開発途上にあるパートナー国,農村開発のためのグローバル・ドナー・プラットフォーム(GDPRD)を含むその他のドナー,国際機関及び地域機関,開発銀行,研究者や学者,並びに慈善団体を含む全てのステークホルダーの間で,このV4Aが提示する課題についての関心を高め,協調的な行動を促し一貫性を高める。G7は,食料安全保障及び栄養のためのニュー・アライアンスによるものを含む,民間セクター及び市民社会との協調を引き続き進めていく。G7は,特にCFSなど,食料安全保障及び栄養について関連するフォー

ラム及びプラットフォームを最大限に活用し,広範なステークホルダーとの対話に関与する機会を追求する。

(了)