データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 富山物質循環フレームワーク

[場所] 富山
[年月日] 2016年5月16日
[出典] G7伊勢志摩サミット公式ホームページ
[備考] 仮訳
[全文]

我々、G7の環境担当大臣、上級代表及び欧州委員は、2016年5月15-16日に富山で行われた資源効率性・3Rに関する議論に基づき、

世界人口が2050年までには90億人を超えると予想され、資源需要の増大が資源消費量と廃棄物発生量の増加を招き、これらの傾向が有害物質による大気、土壌、水質汚染を含む自然環境の劣化や気候変動をもたらし、将来世代に影響を及ぼすことを認識し、

異なる資源間のつながりを考慮した適切な資源効率性・3R政策は、環境保全のみならず、資源の持続可能な利用、ビジネスリスクの回避、イノベーション、雇用創出及びグリーン成長に貢献することを理解し、

資源効率性のためのG7アライアンスが、関係者を積極的に巻き込み、ネットワークを支援することを通して恩恵を受ける動的で自発的なプラットフォームであることを強調し、

物質のライフサイクル(採掘、デザイン、製造、使用、リサイクル又は廃棄)や二次資源を含む物質の取引はしばしば世界規模で行われ、それゆえ、関係国や産業界を含む関係者との協力の確保がますます重要であることを再確認し、

3R(リデュース、リユース、リサイクル)プラス再生可能資源の持続可能な利用を含む、資源の効率的及び循環的利用に関するその他の概念の重要性に留意するとともに、持続可能な物質管理、循環型社会及び循環経済の重要性に留意し、

各国特有の事情に応じて、各国が政策やその他の行動を決定する役割を担うことを尊重しつつ、神戸3R行動計画、資源効率性のためのG7アライアンス及びその他の既存のイニシアティブに基づき、今日我々が直面する新たな課題を踏まえ、以下の行動をとることにコミットする。

資源効率性向上・3R推進に関するG7共通ビジョン

・我々の共通の目標は、関連する概念やアプローチを尊重しつつ、地球の環境容量内に収まるように天然資源の消費を削減し、再生材や再生可能資源の利用を促進することにより、ライフサイクル全体にわたりストック資源を含む資源が効率的かつ持続的に使われる社会を実現することである。

・これはすべて、資源が繰り返し循環し、自然界への廃棄物の排出が最小化され、廃棄物の拡散を防ぎ、また、自然界における物質循環をかく乱せずに受容され得る程度に環境負荷が管理される社会を確立するためである。

・この様な社会は、廃棄物や資源の問題への解決策をもたらすのみならず、雇用を生み、競争力を高め、グリーン成長を実現し得る、自然と調和した持続可能な低炭素社会をも実現するものである。

G7メンバーによる野心的な行動

○目標1:資源効率性・3Rのための主導的な国内政策

1-1政策の統合及びポリシーミックス

・ライフサイクルアプローチや持続可能な開発の環境、経済、社会的側面を考慮しつつ、資源効率性・3Rと気候変動、異常気象、有害物質、災害廃棄物、自然環境保全、海洋ごみ、原材料へのアクセス、産業競争力その他の課題に関する政策を包括的に統合し、促進する。

・産業界を含む多様な関係者のポテンシャルを最大化するために、規制的措置に加え、透明性や説明責任を確保しつつ、事業者による自主的な行動や情報的措置等の適切な政策及び措置を最大限活用する。

1-2資源の効率的かつ最大限の利活用

・資源効率性及び温室効果ガス排出削減の観点から、リサイクルに加え、リデュース及びリユースを促進する。

・廃棄物管理のヒエラルキーに従い、リサイクルや飼料化、コンポスト化、エネルギー回収等の様々な措置から、地域の実情や廃棄物の種類に応じた最適なアプローチを採択することを通じて、廃棄物の最小化と環境上安全な最終処分を図る。

・廃棄物管理のヒエラルキーに従い、廃棄物の有効利用を更に進める効率的なエネルギー回収技術を開発し、導入する。大量に発生する災害廃棄物の適正処理と再生利用、災害に対して強靱な廃棄物処理施設の整備及びエネルギー供給拠点としての活用の推進を行うことにより、自然災害の頻発化や激甚化に対処し、環境上適正な災害廃棄物管理を進める。

1-3地域の多様な主体と連携したイニシアティブ(産業・地域共生)

・地域の多様な主体間の連携(産業・地域共生)に基づき、各地域の資源、物品、エネルギーの融通、活用を図り、新産業育成や雇用創出、地域活性化を推進する。

・地域における文化等の特性、人と人とのつながり、中小企業の果たす役割に着目し、地域での資源循環を促進する。

・例えば、使用済み製品の回収、再生材の地域での活用、リサイクルが困難な廃棄物を処理する施設のエネルギー供給拠点化や防災拠点化を通じて、地域のまちづくりにおける資源効率性や3R(及び関連するその他の概念)の採用を奨励する。

1-4最終需要者/消費者に対する行動

・とりわけ、信頼のできる、容易にアクセス可能であり、理解のできる情報や環境配慮型製品を消費者に提供することを通じて、最終需要者(消費者)が情報に基づきかつ持続可能な選択を行うための動機付けや啓発を実現、奨励し、家庭レベルでの持続可能な消費行動の実践を促す。

・持続可能な消費や、欲深くならずに分相応のところで満足すべきという考え方である「足るを知る」、スマートな購買、グリーンな公共調達、リユース、リペア、シェアリング等の新サービス、エコ・ラベリング等による環境的な及び経済的な利点に対する消費者意識の向上を促進する。

具体例:食品ロス・食品廃棄物を含む有機性廃棄物に関する野心的なイニシアティブ

・生態系の他の機能への影響を考慮しつつ、有機性廃棄物、特に食品ロス・食品廃棄物の削減、食品廃棄物の効果的な再生利用、エネルギー源としての有効利用、廃棄物系バイオマスの利活用を促進する。

・国連持続可能な開発目標のターゲット12の3に沿って、国内や地域での政策や計画の策定等、食品ロス・食品廃棄物の最小化及び有効かつ安全な利用に向けたイニシアティブを加速させる。

・食品廃棄物を有効かつ安全に削減し、利用することに伴う環境、経済、社会便益について、情報交換や協力を通じて各国の知見の共有を進める。この様な活動には、食品廃棄物そのものや、食品廃棄の削減がもたらす気候変動上の便益等の関連する環境上の便益を測る比較可能な方法論の開発に向けた連携を含む。

○目標2:グローバルな資源効率性・3Rの促進

2-1他の国々との協力

・資源効率性に関するG7アライアンス等の適切な国際協力の機会を通じて、ベスト・プラクティスや適用可能な最良技術(BAT)、有用な教訓を他の国々と共有する。

・途上国における効果的な資源効率性・資源循環政策に必要な能力の構築を支援する。こうした活動には、二国間又は多国間パートナーシップ(例えば、アジア太平洋3R推進フォーラムや短期寿命気候汚染物質削減のための気候と大気浄化のコアリション)を通して、相手国でプロジェクトを実施する際に、科学的及び統計的な情報を整備する取組を含む。これらの取組は陸域起源の海洋ごみ対策にも寄与し得るものである。

・災害廃棄物管理の分野において、都市化や気候変動の進展により頻発する地震等の災害による影響が激甚化しているアジア太平洋の世界的なホットスポット地域等の、巨大自然災害を経験する国・地域を支援する。

2-2グローバルサプライチェーンにまたがる協力

・物質のライフサイクル全体にわたる環境負荷を考慮しつつ、資源効率性を向上させる持続可能な調達の実践を促進する。

・ビジネスにおける環境上適正な意思決定を促進するため、ライフサイクルを通したデータの適切な共有を含む、産業の上流側と下流側の協力と連携を推進する。

・上流産業における、再生可能資源の利用を含むリユース及びリサイクルのための積極的な取組を奨励する。

具体例:電気電子廃棄物(E-Waste)の管理

・廃棄物の各国・地域内における環境上適正な管理を優先する。

・特に電気電子廃棄物について、廃棄物と非廃棄物を識別するため、また、適正なルートで行われる回収、リユース及びリサイクルの割合を向上させるとともに違法取引を防止する水際対策の実効性を高めるため、スペアパーツを用いた再製造等の資源効率的な取組を促進しつつ、既存のアプローチを共有し、国際的な協調行動を強化する。

・特に廃棄物を環境上適正に管理する能力を有しない国から必要な管理能力を有する国への有害廃棄物の輸出に関しては、関係する国内・国際規制に従って行われる限り、有害廃棄物を安全に管理する能力を有しない国に能力開発のための時間的余地を与える等、環境と資源効率・資源循環に寄与するものであることを認識する。

・電気電子廃棄物の適正な回収、リユース及びリサイクル推進のための各国のイニシアティブや基準、環境上適正な管理や適用可能な技術についての情報交換を活性化させる。

○目標3:着実かつ透明性のあるフォローアップ

3-1G7メンバーによる国内の取組

・本フレームワークに基づく行動の進展についての方向性を与えるための、適切かつ科学に基づき、広く認知された国内指標を検討する。

・他の国々が参考とできるよう、算定方法や指標、レビュー結果の共有を含む透明性のあるフォローアッププロセスを国内で構築する。

3-2国際的な取組

・様々な環境影響の低減効果や資源ストックの有効性を測ることのできる指標を特定する国際的な取組を支援する。

・ワークショップやその他のフォーラムを通じて、本フレームワークの実施に関する進捗、課題及び教訓の共有を継続する。

・議長国イタリアのもと、我々は、UNEP国際資源パネル及びOECDから提出された報告書及び勧告や、資源効率性のためのG7アライアンス・ワークショップの教訓に基づき、資源効率性・3Rを推進するための政策行動や優先順位、次のステップについてフォローアップし、議論する。

・資源効率性のためのG7アライアンスの活動に基づき、また、関係者や関連する国際機関とも議論しながら、サプライチェーンを含むライフサイクルに基づく物質管理や資源効率性、3Rを推進するための行動を優先順位付けするロードマップを作成する。



別添 表.G7メンバーの取組の例

日本 ・ 枠組法としての循環型社会形成推進基本法と、実施計画である循環型社会形成推進基本計画を策定。基本計画は5年ごとにレビュー。

・ 資源生産性(460,000円/トン)、循環利用率(17%)、最終処分量(1,700万トン)それぞれに、2020年までの達成目標を設定。他の補助指標も適宜レビュー。

・ 家リ法再商品化率の引き上げ、小型家電リサイクル法の導入。東日本大震災で発生した災害廃棄物の8割以上を再生利用。近年の災害での教訓・知見を踏まえ、廃棄物処理法・災害対策基本法改正を含む災害廃棄物対策を強化。

イタリア ・ 循環経済に関する省庁間連携組織を確立。

・ 2016年2月に採択された循環経済及び資源効率性に関する環境法。包括的なグリーン法、2030アジェンダ-SDGsやMFAに基づいた国家持続可能な開発戦略の改定、策定中の持続可能な生産と消費に関する行動計画。

・ 国会監査の下で、食品廃棄物を回避し、他の製品の再使用を促進するための国家法。

・ 都市廃棄物及び・産業廃棄物(非有害及び有害)に対する特定の廃棄物の削減目標を設定する国家廃棄物発生抑制プログラムを採択。

・ TMRを、1990年比で2010年までに25%、2030年までに75%(ファクター4)、2050年までに90%(ファクター10)減少させる目標を設定(持続可能な開発戦略2002年において設定。)。

・ 国家レベルでの分別収集の義務的目標を設定。

・ 国家レベルでのリサイクル性能を改善。

・ 再使用のための引き取りメカニズム、及び民間企業間の産業共生モデルを通じた関係の促進。持続可能な公共調達(義務的環境基準)の拡大活用も通じたリサイクル製品市場及び二次原材料の質の向上。二次原材料を用いた製品購入支援のための消費者、企業、地方当局を動機付けるメカニズムを定義。環境税制改革の実施(例:エコ製品に対する減税、環境効率的企業に対する税控除、優秀リサイクル地方当局に対するインセンティブ、90年代の燃料税低減の復活、汚染トラックに対するEHSの削減)

カナダ ・ 3Rに関し、化学物質の排出を削減し、生産者責任を強化し、廃棄物に関するビジョンと行動計画を策定し、廃棄物及び化学物質排出に関する統計を整備。

・ 物質のライフサイクル全体での資源利用の影響とコストに関する科学研究の推進及びデータ収集の実施。

・ 2014年に、電気電子廃棄物の環境上適正な管理に関する報告書を発表。

・ 拡大生産者責任に関する全カナダ行動計画の採択、現在160の自主的及び法制化されたEPRプログラム、グリーン鉱業イニシアティブの実施。

フランス ・ 2015年8月に、循環経済への移行を目指した目標や取組を含むグリーン成長へのエネルギー移行法を発表。資源プログラムを含み、5年ごとに改定される循環経済戦略の策定を計画。

・ 環境基準及び資源生産性目標に資源ヒエラルキーを統合。

・ 物質消費量、MSW発生量及び処理量その他の関連する指標をモニタリング。物質生産性は1990年比1.5倍に改善(2012年)。

・ 戦略的物質委員会(COMES)を設置し、特定し、資源効率性及びリサイクルを促進し、戦略的物質の可能な代替を検討し、また、より一般的には、戦略産業セクター及び地方レベル(産業共生)における資源効率性及び循環経済の実施を促進する。

・ 小売業における賞味期限切れ間近の食品の再分配に関する法律を導入。

・ 自主的なフットプリントラベルの開発。

・ 拡大生産者責任スキームの開発。

米国 ・ 2009年に持続可能な物質管理(SMM)への移行を開始。

・ 2013年に、都市固形廃棄物発生量及びリサイクル率に関するデータを含む「持続可能な物質管理の前進:事実及び図レポート」を公表。

・ ライフサイクルシンキングを政策及びビジネス決定に組み込む支援のための複数の取組の開始(例えば、ツール開発、ガイダンス、パイロット、LCA研究センターの設置。)。

・ 特に、食品や家電、構築環境セクターに対するSMMアプローチを継続して推進。

英国 ・ 持続可能性指標として、一次資源等価換算物質消費量(RawMaterialConsumption)(ヘッドライン指標)、家庭廃棄物リサイクル率、建設及び解体廃棄物の回収率をモニタリング。

・ 埋立税やレジ袋有料化等の廃棄物発生抑制に関する様々な経済的手法を実施。

・ 発生抑制プログラムを実施。これは、政府・企業・第3セクター・消費者・その他に適用する廃棄物の発生抑制と削減及び資源効率の改善のための幅広い手法を含み、より循環経済への移行を進めるためのものである。その手法例として、以下のものがある。

 *WRAPの主導による、食品及び包装、衣服、電気電子機器を対象に含む資源効率に関する自主的取組を実施。

 *2007年より、サプライチェーン及び家庭における食品廃棄物削減を目的とする大規模な関与を実施。それ以前の合意の成功に基づき、WRAPは2016年3月に2025年コートールドコミットメントを発表。これは、食品及び飲料の生産と消費をより持続的なものにするための食糧システムにわたる機関(生産者から消費者まで。)をまとめる野心的な自主協定である。

・ 政府は、政府活動に伴う環境影響を削減するためのグリーン政府コミットメント(GGCs)の一部と

して、より持続可能な製品の調達にコミット。

ドイツ ・ 循環経済法(1996)、直接埋め立て禁止(2005)、原材料戦略(2010)等の資源効率・3R関連政策。

・ 2016(ProgRessII)を最初とし、4年毎にレビューと更なる策定を行うドイツ資源効率プログラム(ProgRess)(2012年)。

・ 各種物質フロー指標を測定、原材料生産性を2020年までに1994年比2倍とする目標を設定し、輸入品のための原材料使用(間接輸入)を含む新たな指標、目標を発表。

・ 最も関連する分野での持続可能な消費を奨励、強化する持続可能な消費のためのドイツ国家プログラム(2016)を公表。

・ 物質資源効率性庁(2006)、資源効率性センター(2009)を確立。

EC ・ 既存の資源効率的な欧州フラッグシップイニシアティブ及びロードマップ(2011)に加え、2015年12月に循環経済パッケージを提案。同パッケージは、MSW,及び包装廃棄物のリサイクル率強化、埋立ての段階的廃止、食品廃棄物の発生抑制、循環経済の「ループを閉じる」ための対策に関する行動計画から構成されている。行動計画では、製品ライフサイクルの全段階に取り組む。

 * 生産(例:エコデザイン)

 * 消費(例:グリーン公共調達)

 * 廃棄物管理

 * 二次原材料市場の活性化、水の再使用促進

・ 行動計画は、循環経済において移行を足元から起こすためのイノベーションと投資を促進するための手段と同様に、栄養素、プラスチック、希少原材料、建設及び解体廃棄物並びにバイオマスに関する標的とする行動も見越している。

・ 欧州統計局がEU加盟国の物質フロー指標及び資源生産性を算出、集計。EU資源効率性スコアボードを公表。

・ 資源効率性・原材料スコアボードに基づいて循環経済のためのモニタリングフレームワークを策定。

※2016年2月に横浜市において開催されたワークショップにおける資料をもとに日本国環境省及び地球環境戦略研究機関が本表のドラフトを行い、G7メンバーからの意見に基づき取りまとめた。