データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] デジタル連結世界憲章

[場所] 香川県高松市
[年月日] 2016年4月29‐30日
[出典] G7伊勢志摩サミット公式ホームページ
[備考] 
[全文]

1. 情報通信技術(ICT)は、様々な社会経済活動の推進力であり、経済成長と人類の繁栄のエンジンとなっている。

2. 我々は、ICTインフラとサービスの世界的な普及によって、人とモノがいつでもどこでもグローバルかつシームレスに連結することが可能になり、社会の繁栄が増進することを期待する。インターネット技術、インフラ、アプリケーション及びサービスの急速な発展と普及を可能にする重要な要素は、創造性とイノベーションを許容する環境である。イノベーターが、現在、相互に有しているアクセスは、全く新たな分野における人類の努力、創造性及び連携を、一層誘発し、加速化する。人々の生き方及び働き方をより変革するような形で、ネットワークの連結性が次第に日常のモノへと広がっていることから、この不可欠なダイナミズムを保持することが重要である。

3. デジタル連結世界への歴史的な移行により創出される機会を踏まえて、我々は、持続可能かつ包摂的な成長を実現するための以下の共通の目的を共有し、我々が直面する地球規模課題の解決における協力の意思を再確認する。

デジタル連結世界に向けた目的

4.我々は、グローバルなデジタル連結性は、以下の方法により、特にあらゆる場所の全ての人々のための社会の繁栄、イノベーションを通じた経済成長の創出及び持続可能かつ包摂的な成長の実現に貢献するべきことを信じる。

社会の繁栄

5. 法の支配の遵守、民主主義の推進、透明で説明責任のある統治の増進、人権及び基本的自由、とりわけプライバシーへの恣意的又は不法な介入を受けない権利、女性・女児等の平等な権利、表現及び平和的集会の自由の享受の促進、並びに文化的多様性の増進等を通じて、世界中の全ての人々に対して、一層の社会の繁栄のための機会を創出することによる、社会の繁栄。我々は、犯罪やテロの目的のためのICTの潜在的な使用によって引き起こされる課題を認識し、これらの課題に、全てのステークホルダーとの連携を通じて対処することに合意する。

イノベーションを通じた経済成長

6. 製造過程の改善、ICTによる製品の製造並びに雇用及び富を創造することとなるプライバシーとデータ保護を考慮したデータ駆動型イノベーションを通じて、デジタル技術の活用と新たなビジネスモデルの実現、国際市場へのアクセスの提供、更に、人々が世界のどこでも連結し、協働し及び取引することを実現することによる、イノベーションを通じた経済成長。

持続可能かつ包摂的な成長

7. 2015年9月に国連総会で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」における持続可能な開発目標として掲げられているような、貧困の撲滅、食料安全保障の強化、保健医療及び教育の改善、持続可能な交通及び輸送の促進、男女平等の実現、エネルギー安全保障の供給、貧困層や脆弱層へのアクセシビリティの強化、気候変動の緩和並びに防災を含む、我々が直面する地球規模課題を解決するための戦略、更にはグリーンIT原則及び2015年12月にCOP21で採択されたパリ協定の目的の実現に貢献することによる、持続可能かつ包摂的な成長。

基本原則

8. 我々は、デジタル連結世界を支えるものと信じている、以下の基本理念を再確認し、共有する。

i.人権の促進と保護

9. デジタル連結世界憲章を規定することにより、我々は、人々がオフラインにおいて有するものと同様の人権及び基本的自由が、オンラインにおいても適用され、保護されなければならないと認識する。デジタル連結世界に向けての進捗は、世界情報社会サミットの成果文書の実行に関する国連総会による見直し(WSIS+10)の成果文書で公表されたように、経済成長の機能として、また、人権及び基本的自由への関連の両面から測定されるべきである。

ii.情報の自由な流通の促進と保護

10. インターネットの、オープンで、相互運用性があり、分散された本質により、イノベーションと経済成長が強力に実現される。情報の自由な流通は、人権及び法の支配の尊重に基づく、また、プライバシーやデータ保護のための適用可能な枠組み及びデジタルセキュリティの強化を尊重しつつ、インターネットのオープン性、特に分散されて、相互接続された本質を強化する政策を通じて、イノベーション及び創造性を誘発し、研究及び知識の共有を支援し、貿易及び電子商取引を強化し、新たなビジネス及びサービスの開発を可能とし、また、人々の福祉を増大することが可能である。

iii.マルチステークホルダー・アプローチの支持

11. 我々は、特に、政府、民間セクター、市民社会、技術コミュニティ及び国際機関による十分かつ活発な参加を含め、インターネットガバナンスにおけるマルチステークホルダー・アプローチへのコミットメントを再確認する。我々は、国内の政策形成プロセスにおいて、必要に応じてマルチステークホルダーの包摂を引き続き優先させ、また、デジタル連結世界の実現に当たって、全てのステークホルダーにとって包摂的で、透明性があり、説明責任のある、マルチステークホルダーによるプロセス及びイニシアチブを国際的に支持する。

iv.デジタル連結性及び包摂性の強化

12.デジタル連結世界の便益は、人やモノの連結性の増大に依存している。デジタル連結性は、透明性があり、予測可能な法的及び政策的な枠組みを提供するような、支援的で実現可能な政策及び規制環境の中で進展する。これは、連結性を強化し、ローカルコンテンツ、文化的かつ言語的多様性の発展へのICTの活用を促進するような、ローカルなインフラ及びアプリケーションへの投資を誘発する。

G7ICT戦略

13. 前述の理念に基づき、我々は、デジタル連結世界の潜在性を実現するための以下の戦略を支持する。

i.ICTへのアクセスの向上

14. 我々は、以下の取組を通じて、全ての人に対して、グローバルな通信ネットワークへの手頃で質の高いアクセス、デジタルスキルの開発、及びデジタルの利用を促進するべきである。

(a)デジタルディバイドの解消

(b)投資、及び競争を促進させるような公正で透明性のある政策及び法的枠組みを通じた、世界規模でのICTインフラ、製品及びサービスの、質及び手頃感の向上

(c)あらゆる人へのアクセシビリティとデジタルリテラシーの促進

(d)文化的及び言語的多様性の尊重

ii.情報の自由な流通、プライバシーの保護及びサイバーセキュリティを促進するための国際連携の強化

15. オープンで、相互運用性があり、信頼ができ、安全なサイバー空間を実現するため、以下の取組を促進する際の国際連携を強化するべきである。

(a)越境情報流通の促進

(b)プライバシー保護とデータ保護の促進

(c)サイバーセキュリティの促進

16. この連携を実現するため、我々は、原則を促進するような、また、ベストプラクティスを交換し、発展させるような関係団体におけるステークホルダーの取組に、引き続き支援をし、また、貢献をする。

iii.イノベーションの促進

17. ICTは、貿易、金融、医療、教育及び運輸等の様々なセクターに影響を及ぼしながら、グローバル経済のあらゆる側面に浸透してきている。特に、ICTは、地方創生を促進し、失業及び格差を減少させ、更に人々を貧困から脱却させるような、持続可能かつ包摂的な経済成長を推進する。したがって、イノベーションにより創出される機会や便益を最大化させる戦略の開発が重要である。我々は、以下の取組を促進することで、これを実現する。

(a)市場の開放

(b)標準を通じた相互運用性の促進

(c)オープンデータ政策の推進

(d)人材育成

(e)知的財産の保護

(f)研究開発及び新たな技術の受容の促進

iv.ICTの活用による地球規模課題及び機会への取組

18. 我々は、世界的なICTの一層の活用が、貧困と飢餓、保健医療、児童のオンライン上での保護、高齢化社会、教育、男女の平等と女性・女児の活躍、アクセシビリティ、エネルギーと気候変動、レジリエンスと防災、及び持続可能な交通と輸送等の分野において、地球規模の経済的及び社会的な課題への対応、及び機会の確保に貢献することを信じる。我々は、相互に、また、世界中の他の国と、グッドプラクティスを共有し、連携を強化する。

v.包括的な国際連携、国際協力の強化

19. 我々は、デジタル連結世界の潜在性の最大化に向けて、G7各国間と同様に、先進国及び途上国、特に小島嶼開発途上国、国際機関、民間企業、学術団体、市民社会の全てのステークホルダーと連携するべきである。