データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 海洋安全保障に関するG7外相宣言

[場所] 
[年月日] 2015年4月15日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文]

海洋空間は,人類の生活,生物の棲息環境,資源及び大陸間貿易の最大で9割の輸送経路の礎である。海洋空間は国家間及び地域間を連結し,遠く離れた国家同士を隣国にさせる。平和を維持し,国際的な安全と安定を強化し,数十億の人口を養い,人類の発展を後押しし,経済成長と繁栄を生み出し,エネルギー供給を確保し,生態学的多様性と沿岸地域の生活を保全するため,人類は安全で,堅固かつ安定した海上環境に依存している。世界の人口が増加するにつれて,通商の輸送幹線及び食料と資源の源として,人類の海洋への依存はさらに増大していくであろう。世界の海洋の自由かつ円滑な利用は,全ての国家の未来への道筋を下支えする。

我々,カナダ,フランス,ドイツ,イタリア,日本,英国,米国の外相及び欧州連合(EU)上級代表は,我々が協調的かつルールに基づく分野横断的な姿勢をとるとともに,国内的,地域的及び世界的に行動を連携する場合にのみ,海洋安全保障に対する脅威に包括的に立ち向かうことができると確信する。我々は,ルールに基づく持続可能な海と大洋の利用を追求し,海洋ガバナンスを強化するために我々が協力する限りにおいて,持続可能な海洋安全保障は達成され得ることを信ずる。

我々は,航行及び上空飛行その他公海及び排他的経済水域の国際的に適法な利用の自由、並びに,国際法に適合する無害通航,通過通航及び群島航路帯通航の権利を含む他の海域における関連の権利及び自由に対する決意を改めて表明する。我々はさらに,阻害されない適法な通商活動,乗員と乗客の安心と安全,海洋の生物多様性を含む天然資源及び海洋資源の保存と持続可能な利用への決意を改めて表明する。

我々は,とりわけ海洋法に関する国際連合条約(UNCLOS)に反映された国際法の原則に基づく海洋秩序を維持することをコミットする。我々は,東シナ海及び南シナ海の状況を引き続き注視し、大規模埋め立てを含む、現状を変更し緊張を高めるあらゆる一方的行動を懸念している。我々は、威嚇、強制又は力による領土又は海洋に関する権利を主張するためのいかなる一方的試みにも強く反対する。我々は,全ての国に対し,国際的に認められている法的な紛争解決メカニズムによるものを含め,国際法に従って海洋に関する紛争を平和的に管理及び解決することを追求し,彼らに拘束力を有する関連の裁判所によって下されたあらゆる決定を完全に履行することを求める。我々は,沿岸国が境界未画定海域において海洋環境に恒久的な物理的変更を引き起こす一方的な行動を控えることが重要であることを強調する。

我々は,海賊行為及び海上武装強盗行為,海洋空間での国境を越えた組織的犯罪及びテロ,密貿易,人身取引,移民の密輸,武器及び麻薬の取引,違法、無報告及び無規制(IUU)漁業,保護された野生動植物の種の違法取引及びその他の不法な海上活動を強く非難する。これらの行為は航行中船舶の乗客及び乗組員の生命及び福利厚生,海洋の生物多様性と食料安全保障,法の支配,並びに航行の自由と適法な通商及び交通に対する深刻かつ耐え難い脅威を構成する。それらは海賊行為及びその他の海上犯罪及び海上テロ活動が生じやすい地域の沿岸国の安定と発展に対する重大な危険をもたらす。我々は,重要な海上運輸基盤及び海上空間でのエネルギー供給の安全性に対する脅威とともに,貿易,交通及び観光を中断することを目的とした海上輸送経路の計画的な妨害に反対する。

安全な航行,海洋環境の保護,通信及び海上輸送活動の基準の発展は長い間国際協力の一つの分野であった。我々は,政府,港湾当局,海運企業,船舶所有者,運航者,船長及び乗組員に対し,海上における人命の安全のための国際条約(SOLAS),船舶及び港湾の国際保安コード(ISPS),船舶による汚染の防止のための国際条約(MARPOL)及び国際海事機関(IMO)による,船舶所有者,運航者,船長及び乗組員に対する,船舶への海賊行為及び武装強盗行為を避け鎮圧するためのガイダンスを始めとした,海上の安全性を強化するための既存の法律及びガイダンスを適用し,履行することを求める。我々は船舶所有者,船舶運航者、船長及び乗組員に対し,将来のあり得べき襲撃から予防するため及びデータ収集の改善のために,海上におけるあらゆる犯罪行為を即座に報告することを求める。

我々は,海洋安全保障上の脅威との闘いに関する更なる国際協力へのコミットメントを再確認する。我々は,国連及びその専門機関,パートナーとの緊密な連携の下で行われている北大西洋条約機構(NATO)のオーシャンシールド作戦及びアクティブ・エンデバー作戦,並びに欧州連合(EU)のアタランタ作戦,米国主導の連合海上部隊及び貢献国,並びにソマリア沖海賊対策コンタクト・グループ(CGPCS)及びG7++ギニア湾フレンズ・グループ(FoGG)といったその他のイニシアティブに関し,海洋安全保障の強化及びルールに基づく海洋ガバナンスの強化の点において,その業績を称賛する。

我々は,北大西洋条約機構(NATO)による同盟海洋戦略(AMS)を実施に移す作業,欧州連合海洋戦略(EUMSS)と付随の行動計画,2050年アフリカ統合海洋戦略及び英国及び米国の海洋安全保障国家戦略を歓迎する。これらは全て,より安全な世界の海洋空間に向けた画期的文書である。

我々は,海洋犯罪の原因は陸上に存在すること、及び効果的かつ公平で,説明責任を果たし,透明性のある政府機関,司法制度及び法の執行の欠如により犯罪は悪化し得ると理解する。この観点から,我々は,既存の欠陥に対処するための支援に対するコミットメントを再確認する。同様に,我々は,欧州連合(EU)のアフリカの角における包括的取組及びギニア湾における戦略及び行動計画を称賛する。加えて,我々は,セーシェルにおける多国間プロジェクトである海洋の安心と安全のための地域合同法執行センター(REFLECS3)に留意する。

我々は,海洋安全保障を強化するための科学的及び技術的支援を提供し,情報共有と連携を促進し,その結果,世界的な海洋空間の持続可能な利用の一助となることを目的とした研究活動を歓迎し,奨励する。我々は,必要に応じ,こうした活動による発見を海洋安全保障政策の策定と実施へと具体化させる取組を支援する。

地域協力,オーナーシップ及び責任の醸成

1.我々は,海洋安全保障を強化することを目的とした機能的な地域協力メカニズムの設立を支持する。国家的及び地域的なオーナーシップと責任は,重要地域における海洋安全保障強化の鍵である。我々は,アジア太平洋地域の海上衝突予防規範,アジア海賊対策地域協力協定(ReCAAP),西インド洋及びアデン湾地域における海賊及び武装強盗の抑止に関する行動指針(「ジブチ行動指針」)及び中・西部アフリカにおける海賊及び武装強盗等の防止等に関する行動指針(「ヤウンデ行動指針」)等の地域的な国際約束及び文書の重要性を特に強調する。我々は,包括的な南シナ海における行動規範(COC)の策定に係る作業の加速化を求めるとともに、それまでの間,我々は,2002年のASEANによる南シナ海における関係国の行動宣言(DOC)を支持する。我々は,危機的状況における直接的な連絡手段の構築や、南シナ海における行動規範に関するASEAN・中国間の会合といったような、活動を律する指針とルールの構築努力を始めとした現実的な信頼醸成手段の建設的な役割を強調する。我々は,関係国に対し,コミットメントの履行のために最善を尽くすことを促すとともに,我々の能力及び地域的な優先事項の範囲内において各国を支援することを意図する。我々は更に,東アジア首脳会議,ASEAN地域フォーラム,EU-ASEAN協力や地域における沿岸警備隊関連フォーラムといった関連の枠組みにおける海洋安全保障に関するイニシアティブを歓迎する。

能力開発及び人材育成の強化

2.我々は,沿岸国,並びに地域内及び地域間の海洋安全保障体制の能力構築及び強化のために,海賊及び他の海上犯罪の影響を受けている港湾及び沿岸地域を含む諸地域における,包括的な能力開発及び人材育成への支援にコミットする。我々は,第三国に対し,複数のG7パートナー国が主要ドナーである,この分野の様々なマルチドナー信託基金に拠出することを奨励する。我々は,ソマリア沖海賊対策コンタクト・グループ(CGPCS)の下での能力構築作業部会を通じて,アフリカの角において実践されたように,また,ReCAAPを通じてアジアで実践されたように,そしてG7++ギニア湾フレンズ・グループ(FoGG)によって,ギニア湾において実践されたように,その効果を最大限化するために,能力開発及び人材育成を積極的に調整し,支援する。

情報共有の緊密化及び海洋状況把握

3.船貨を含む海洋保安に関連する事案及び状況についての時宜を得た正確な情報へのアクセスは,迅速かつ的確な対応にとり不可欠であるため,我々は,海洋安全保障と安全情報システム(MSSIS),EUの共通情報共有環境(CISE)を始めとした情報共有,並びに海洋における状況把握及び監視に係る地域的及び国際的なイニシアティブを支持する。我々は,可能な最良の海洋状況把握の追求において,ギニア湾海洋貿易情報共有センター・プロジェクトを始め,地域機関,沿岸国及び海運業により共同して情報を収集し,共有する取組を支援する。この点に関し,我々は,アジア海賊対策地域協力協定(ReCAAP)の情報共有センター(ISC),シンガポールの情報融合センター(IFC)及びジブチ行動指針の情報共有センター(ISC)のモデルに続く,情報共有及び情報融合センター(ISC及びIFC)の設立を奨励し,インド洋のために情報融合センター及び業務調整センターを設立するとの2013年7月のインド洋委員会の決定を歓迎する。我々は,各国の国内法及び政策による制約の範囲内において,最終的に世界の海洋空間における包括的な状況把握枠組を創設することを目標とし,海洋空間に係る情報共有及び監視に関する既存方式を超えて拡大することを目指す。

人身取引及び移民の密輸との闘い

4.我々は,社会における弱者を餌食とし,想像を絶する苦難をもたらす犯罪である,海洋空間における人身取引及び移民の密輸と闘うために,海陸双方における行動を国内的及び国際的に調整する。我々は,この分野における国際機関の取組を支持する。我々は,これらの犯罪と闘い,不法移民を生む政治的又は社会経済的要因に対処することを目指す。我々は,密輸,人身取引及び強制労働を防止し,これらの活動に関わる組織的な犯罪集団を阻止し,これらの犯罪の資金調達機会を絶つために,送出国,目的国及び経由国の責任を強調する。我々は,全ての国家に対し,国際的な組織犯罪防止に関する国際連合条約及びその人身取引と密入国に関する議定書及び万人の人権を守る国際文書を批准し,もしくはこれに加盟し,かつこれを履行することを求めるとともに,各国による履行を下支えする能力構築プログラムを支援する。

適法的な国際通商の一体性確保

5.我々は適法な国際通商に関連する脅威を効果的に特定し,これに対処するため,当局間の情報共有及び協力のための取組を奨励する。我々は,商品の密輸,武器及び麻薬の不正取引,並びにこうした国境を越えた不法取引による利益獲得行動といったテロ及び組織犯罪活動との闘いにおいて,国際法に従って,海洋空間での物流のリスクに基づく監視を支援する。

グッド・ガバナンスの強化及び経済開発の促進

6.我々は,グッド・ガバナンスへの取組と積極的なコミットメント,機能し,能力がありかつ公平な政府機関及び海賊その他の海上犯罪行為が発生しやすい国家における市民社会と正当かつ包括的な政治プロセスの発展を通じて,海賊その他の海上犯罪行為の防止に貢献する。我々は,社会的及び政治的一体性を強化し,不安定性又は紛争に内在する構造的要因を低減させるため,経済発展,代替的雇用機会の創出及び沿岸国における基礎的社会サービスの提供を支援する。我々は,海賊その他の海上犯罪行為が発生しやすい地域における各国の国内優先事項及び計画による制約の範囲内で,これらの課題に取り組むべく努力する。

法の支配の普及

7.海賊その他の海上犯罪行為との闘いを成功させることを確保するとの観点から,我々は,透明性,人権保護,及び刑事法を含む,法の支配に関する事案に関わる国家的及び非国家主体の機能性及び効率性を含め,機能的かつ効率的な国内司法制度を推進する。当該犯罪の犯罪者は裁かれるべきである。我々は,限られた数の犯罪者しか裁判を受けないことに帰結する,多くの沿岸国における脆弱な司法制度と,司法分野における意思及び能力,或いはその一方が欠如していることを懸念する。我々は,裁判後の移送制度を含め,ソマリア沖海賊コンタクト・グループを通じて構築された,アフリカの角地域における,海賊を訴追するための枠組を歓迎する。我々は,他の地域において,必要に応じこの例に倣おうとする努力を奨励する。贈賄及び腐敗は海洋における不法行為を醸成する。我々は各国政府に対し,より断固とした態度で,国連腐敗防止条約(UNCAC)を始めとする国際条約と整合する形で,この問題に対処することを奨励する。

民間海上警備会社による乗船警備のための既存の規制枠組の履行強化

8.我々は,航行中の船舶に民間武装警備員(PCASP)を提供する民間海上警備会社(PMSC)の利用を含め,海賊と闘う際の,乗組員及び船舶の安全に対する脅威からの自己防衛の向上を目指した,船舶及び貨物の所有者によって実施される予防措置の役割が増大していることを認める。我々は,この分野における国際海事機関(IMO)の勧告に基づき,民間海上警備会社(PMSC)の行動水準を引き上げるための旗国による及び国際的な努力を歓迎する。我々は船舶及び貨物の所有者の利益を代表する機関及び海上保険会社がこの勧告を適用することを奨励する。我々はまた,旗国の法律では対応できない場合,民間海上警備サービスの提供者がその運用において人権の尊重を保証するための基準及び行動規範を策定し,履行することも奨励する。我々はさらに,それら自己防衛努力において,無人航空機や無人海上輸送機を始めとした,新しい技術の使用に関する追加の方針が策定可能かどうかを追求することを奨励する。

沿岸地域の暮らしと海洋の生物多様性を保存する海洋ガバナンスの促進

9.我々は,ストラドリング魚類資源及び高度回遊性魚類資源の保存及び管理に関する国際連合協定及び国連食糧農業機関(FAO)の違法・無報告・無規制漁業の防止、阻止及び排除のための寄港国措置に関する協定(PSMA)といった,違法、無報告及び無規制(IUU)漁業を防止すること及び漁業資源を保存,管理することを目的とした措置及び規制の履行を確保する努力を強化することを意図する。我々は,漁船の国際的な記録及び説明責任及び追跡可能性を向上するために,全ての漁船に特定の識別番号を導入すると定めた国際海事機関(IMO)総会決議A.1078(28)の履行を求める。我々は,第三国及び地域的及び国際的な機関に対し,違法、無報告及び無規制(IUU)漁業を防止し,阻止し,及び排除するための政策を採用し,履行することを奨励する。

10.我々は,国家管轄権外区域の海洋生物多様性に関するアドホック・オープンエンド作業部会の勧告に従い,国家管轄権区域外の海洋生物多様性の保全及び持続可能な利用の重要性を重ねて表明し,本課題に対処するため,国連総会が,その第69会期の終了前に,海洋法に関する国際連合条約(UNCLOS)の下での国際文書の策定について決定することを期待する。

見通し

11.我々は,海洋安全保障及びルールに基づく持続可能な世界的な海洋空間の利用を強化するために,本課題に対する継続した関心,国際的なレベルでの更なる行動及び強化された国内的,地域的及び国際的な政治意思が必要であることを認識する。その観点より,我々は,海洋安全保障に関するG7ハイレベル会合を今年中に開催するとのドイツの意向を歓迎する。

(了)