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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] G8外相会合議長声明(第36回主要国首脳会議‐G8サミット)

[場所] カナダ・ガティノー
[年月日] 2010年3月30日
[出典] 外務省
[備考] 外務省仮訳
[全文]

 G8外相は、世界の平和と安全に影響を与える状況や問題について意見を交換し、行動を調整するために、3月29日、30日にケベック州ガティノーで会談を行った。外相は、ガティノーにおいて、核不拡散・軍縮、テロリズム、安全保障上の脆弱性という3つの広範なテーマについて議論を行った。外相は、安全と繁栄は、人権と法の支配を尊重する民主主義国家によって最もよく維持されていることに同意した。以下は、議長国が理解したところの議論の概略を反映している。

核不拡散・核軍縮

 核拡散から生じる世界の安全に対する脅威は重大であり、2010年は未来に向けた道筋を描く上で決定的な年である。G8外相は、核兵器のない世界に向けた重要な一歩として、核兵器を一層削減する米露交渉の妥結を賞賛した。これらの議論は、5月に開催され、外相が今回独立の声明を発出した核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議の成功に向け、前向きなモメンタムをつくることにも貢献する。外相はまた、大量破壊兵器の拡散に対するグローバル・パートナーシップの成功について議論を交わし、パートナーシップを2012年以降も延長すべきかどうかを検討するために、これまでの業績及び継続する問題についての評価を行うことを求めた。外相は、4月にワシントンで行われる核セキュリティ・サミットは、テロリストその他の権限のない個人又は組織等の手に核物質が渡ることを防ぐために、核物質の防護を促進するための重要な機会となるとの見方を共有した。この観点から、外相は、大量破壊兵器の拡散防止のため具体的な措置をとることを各国に求める国連安保理決議第1540号の履行、及び発展途上国による同決議の履行を支援する必要性を強調した。

 イラン{前3文字太字}がその原子力計画についての国連安保理決議上の義務及びIAEAの義務に引き続き従っていないことは、G8外相の重大な関心事項である。外相はイランが民生用原子力計画の権利を有することを認めつつも、コム近郊のウラン濃縮施設の建設に関する透明性の欠如を含むイランによる秘密裏の行動、同様に国連安保理決議に違反してウラン濃縮活動を拡大するとの最近の決定、及び国連安保理常任理事国5か国及びドイツによる問題の外交的解決に向けた仲介努力に呼応することへの拒否のすべては、その原子力計画における平和的性質に対する深刻な疑念を深めている。外相は、イランに対し、IAEAと完全に協力し、関連する国連安保理決議に従うことを可能な最も強い言葉で要請した。デュアル・トラック・アプローチの文脈において、外相は、引き続き対話に開放的であり続けることに同意すると共に、国際核不拡散体制を堅持するとの国際的な決意を示し、イランがその原子力計画の平和的な性格について国際社会の一層の信頼を得ることを促すため、適切かつ強力な措置をとる必要性についても再確認した。

 正当な反対意見が、イラン政府によって暴力的に抑圧され続けていることについても懸念が表明された。外相は、イラン政府に対し、法の支配や普遍的に認められている人権を遵守するよう求めた。

 北朝鮮{前3文字太字}の核及びミサイル計画は、地域及び国際社会を不安定にさせるものである。外相は、北朝鮮に対し、無条件で六者会合に復帰し、朝鮮半島の完全かつ検証可能な非核化を含むコミットメントを果たすよう要請した。この観点から外相は、すべての国が国連安保理決議第1718号及び第1874号を完全に履行することの必要性を強調した。外相は、北朝鮮に対し、拉致問題を含め、人道上の状況について国際社会が有する懸念に取り組むよう求めた。

テロリズム

 2001年9月11日のテロ攻撃以降、広範な国際社会の協力は、テロリストが新兵を訓練し、攻撃を実行する能力を弱体化させてきた。しかし、テロリストは彼らの目標を達成するための新しい方法を追求し続けている。独立の声明において、外相は、3月29日にモスクワの地下鉄で発生した卑劣なテロ攻撃を強く非難し、関係者が訴追されることを求めた。

 外相は、金銭目的のものを含むテロリストによる誘拐の急増、及び不法な薬物取引、海賊及び組織犯罪と幾つかのテロリスト集団との結びつきの懸念についても議論した。外相は、テロリストが隠れる場所を見つけることが出来ないように訴追してゆくことも含め、警戒を怠らず、テロリストの活動を阻害し抑制するために協力し続ける必要性について同意した。外相は、暴力的な過激主義や過激化に対抗し、テロリストの思想の拡散に歯止めをかけ、暴力的な過激主義を増幅する現地の状況に取り組むために、多面的で調整された努力が必要であることに同意した。外相は、テロとの闘いの中で、非排他性や寛容性の原則、民主主義の促進及び人権の尊重を擁護していくとのコミットメントを確認した。グローバルなテロの脅威に直面し、外相は、テロ防止関連諸条約、国連グローバル・テロ対策戦略、国連安保理諸決議、その他の関連メカニズムやツールの基礎の上に、これらの課題に一層組織的、能動的かつ包括的に取り組む必要性を強調した。外相は、テロとの闘いに向けた国際的な努力への貢献を一層強化するために、特にローマ・リヨン・グループとテロ対策行動グループの諸活動の補強と相互連関性を志向する、堅固な行動計画を練り上げることに合意した。この計画は、ムスコカ・サミットにおいて各国首脳へ報告される。外相はまた、世界的に航空保安を強化し続けることの重要性について議論した。

 外相は、アフガニスタン{前7文字太字}が再びテロリストの安息地にならないよう、同国における軍事的及び文民的関与について議論した。外相は、アフガニスタン政府が安全や基本的サービスの提供、領域内での民主的統治に責任を担うことを支援する必要性を議論し、1月のロンドン会議でのコミットメントを実施する上でアフガニスタン政府が自らの役割を果たすことを求めた。外相の見解は、独立の声明で詳述されている。

 外相はまた、パキスタン{前5文字太字}の状況と、民主的制度の強化を含む、国内の経済社会的課題の解決に向けた同国政府の取組について議論した。外相は、特にアフガニスタンとの国境地域における、暴力的な過激主義を根絶するためのパキスタン政府の対応も歓迎した。

 外相は、国境地域におけるアフガニスタン及びパキスタン両政府の取組を引き続き支援することに同意した。外相は、軍事的対応のみでは不十分であり、解決策には開発や良い統治、経済改革に対する支援が含まれなければならないことに同意した。この観点から、外相は、アフガニスタン及びパキスタン両政府、世界銀行、及びアジア開発銀行と連携して、経済発展及び地方の雇用の拡大のために貿易及び国境地域のインフラを構築することを目的とした、アフガニスタン・パキスタン国境地域繁栄イニシアティブ{前26文字太字}を実施することに同意した。外相は、同イニシアティブの背景を説明する独立の文書を発出した。

 外相は、アラビア半島及びアフリカの一部、特にイエメン、ソマリア、サヘル地域{前15文字太字}において増加しているテロリストの活動について議論した。国内紛争や政府の実効支配が及ばない地域は、テロリストが新兵を採用し、処罰を受けずに活動するために都合のよい場所を創り出すと共に、海賊、誘拐、違法な薬物、武器、人身の取引、及び不法移民といった他の問題も惹起している。外相は、イエメン{前4文字太字}政府がテロと闘い、政治・経済改革を実施することを国際社会がいかに支援できるかについて議論した。政府と北部の反政府勢力との休戦は、歓迎される。依然として不安定なソマリア情勢も、外相の関心事項であり、暫定連邦「政府」への国際的支援を奨励した。外相はまた、犯罪集団及びテロリストの分子の浸透拡大によって引き起こされている、サヘル地域全体に及ぶ安全保障上の脅威についても深刻な懸念を有している。外相は、これらの問題の相互連関性について議論し、テロと闘い、治安を強化するとともに、経済社会的課題へ取り組むための能力の強化を目的とした広範な地域的アプローチや地方政府との関与の必要性についても議論した。

政府がテロと闘い、政治・経済改革を実施することを国際社会がいかに支援できるかについて議論した。政府と北部の反政府勢力との休戦は、歓迎される。依然として不安定なソマリア情勢も、外相の関心事項であり、暫定連邦「政府」への国際的支援を奨励した。外相はまた、犯罪集団及びテロリストの分子の浸透拡大によって引き起こされている、サヘル地域全体に及ぶ安全保障上の脅威についても深刻な懸念を有している。外相は、これらの問題の相互連関性について議論し、テロと闘い、治安を強化するとともに、経済社会的課題へ取り組むための能力の強化を目的とした広範な地域的アプローチや地方政府との関与の必要性についても議論した。

安全保障上の脆弱性

 多くの国々は、紛争の予防と対処、災害後の安全の保障、並びにテロリズム、核拡散及び国際組織犯罪との闘いに必要な実効的で責任を果たしうる制度を欠いている。外相は、そうした国々及び地域機構が、民主的統治、法の支配及び人権の尊重を支える制度を構築することを支援し、自らの安全保障上の脆弱性に効果的に取り組むことができるようにする必要性について議論した。外相は、そうしたキャパシティ・ビルディングの努力が一層効果的で一貫性を有するものとなる方策を探求するための高級実務者会合を開催するというカナダの提案を歓迎した。

 外相は、ハイチ{前3文字太字}での救援活動は継続されなければならないが、同時にインフラ、統治及び安全保障上のより長期的なニーズについても注意が向けられなければならないとの見方を共有した。外相は、オーナーシップ、包括性、アカウンタビリティ、実効性、協調性及び持続可能性といった原則に基づき、ハイチの人々が、新しく、より良い未来をつくることを支援するとの意向について議論した。外相は、すべてのドナーに対し、2010年3月31日にニューヨークで行われる国際会議で、ハイチに対し寛大な支援を表明するよう要請した。

 外相は、国際組織犯罪や違法な薬物取引によりラテンアメリカ・カリブ地域{前13文字太字}の国々が直面している課題と、アメリカのみならず、(麻薬が通過する)アフリカ及びヨーロッパにまで拡大しつつあるその影響についても議論した。外相は、二国間及び多国間の協力、とりわけ米州機構を含む地域機構との協力を通じて、これらの安全保障上の脆弱性と闘う決意を再確認した。外相は、3月19日に中東和平のためのカルテットが発出した中東{前2文字太字}に関する声明を是認し、当事者間交渉の再開に向けた一歩としての間接交渉の重要性を強調した。外相は、両当事者に対し、ロードマップを遵守し、交渉の成功に寄与するような環境を醸成することを要請した。外相はまた、パレスチナ人が民主的制度を構築することを継続的に支援するとのコミットメントを再確認した。外相は、ミャンマー{前5文字太字}における国民対話の必要性と、最近採択された制限的な選挙法への懸念について議論した。外相は、2010年に予定されている選挙が透明、完全に包含的、自由かつ公正に実施されるよう要請した。外相はミャンマー政府に対し、来るべき選挙において完全なる民主的参加を実現することを要請し、拘留の継続が2010年実施予定の選挙の信頼性を阻害しうるアウン・サン・スー・チー女史を含む、すべての政治犯を釈放することを求めた。外相は、南部スーダンの将来の帰属を決する2011年1月の住民投票に先立ち4月にスーダン{前4文字太字}で行われる選挙が、包括和平合意により規定されたスーダンの民主化のための重要な一歩になりうることに同意した。外相は、ダルフール問題の進展の必要性を強調した。

 外相は、次回会合を、2010年9月にニューヨークにて、国連総会のマージンで行うことに同意した。