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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] エネルギー安全保障と気候変動に関する主要経済国首脳会合宣言(第34回北海道洞爺湖主要国首脳会議‐G8サミット)

[場所] 北海道洞爺湖町
[年月日] 2008年7月9日
[出典] 外務省
[備考] 外務省仮訳
[全文]

我々、豪州、ブラジル、カナダ、中国、欧州連合(EU)、フランス、ドイツ、インド、インドネシア、イタリア、日本、韓国、メキシコ、ロシア、南アフリカ、英国及び米国の首脳は、2008年7月9日に日本の北海道の洞爺湖において世界の主要経済国として一堂に会し、以下のとおり宣言する。

1.気候変動は、我々の時代の重大な地球規模の挑戦の一つである。このような挑戦に対応するための指導的役割を自覚し、我々、先進国及び開発途上国の双方から成る、世界の主要経済国の首脳は、共通に有しているが差異のある責任及びそれぞれの能力に従い、気候変動と闘うことをコミットするとともに、気候変動と相互に関連する、エネルギー及び食料安全保障と人類の保健を含む持続可能な開発の挑戦に立ち向かう。我々は、気候問題に関する交渉の世界的なフォーラムである、国連気候変動枠組条約の下での努力に貢献するために参集した。我々の貢献と協力は、同条約の目的、規定、原則に基づいている。

2.我々は、2009年12月に合意された結果を得るために、現在、2012年まで、及び2013年以降の、長期的協力の行動による同条約の完全、効果的かつ持続可能な実施を可能とする包括的なプロセスの開始を含む、バリにおける国際社会の決定を歓迎する。我々は、挑戦の規模と緊急性を認識し、同条約の実施を強化するとともに、合意された結果が、すべての国の努力を最大化するとともに、生態系が気候変動に自然に適応し、食糧の生産が脅かされず、かつ経済開発が持続可能な態様で進行することができるような期間内に達成されるべきである、同条約第2条の究極的な目的の達成に貢献するものとなることを確保するよう、引き続き協力していく。

3.主要経済国会合は、いくつかの方法で、バリ・プロセスに建設的に貢献する。第一に、我々の政治的、政策的、技術的レベルでの対話は、我々が同条約の下での次なる方策を検討し、かつ世界的な気候変動と闘うための政治的意思を引き続き動員する中で、我々の国々の間の信頼を醸成し、国際社会が直面する多くの挑戦について相互の理解を深めた。第二に、我々は結果若しくは他国の考えを予断することなく、この宣言に盛り込まれた共通の理解が、国際社会の取組を前進させるための一助となり、2009年末までに合意された結果を達成することが可能となることを信じる。第三に、我々は、緊急の行動の必要性及び、現在から2012年までの間の同条約の実施の強化のためのバリ行動計画の指示を認識し、パラグラフ10に記された行動を遅滞なくとることにコミットする。

4.我々は、成長、繁栄及び、持続可能な消費と生産に向けた主要な努力を含む持続可能な開発のその他の側面を保証する、排出量削減の世界全体の長期目標を含む、長期的な協力行動のためのビジョンの共有を支持する。これらはすべて、低炭素社会の実現を目指すものである。我々は、科学的知見を踏まえ、世界全体の排出量の大幅な削減が、同条約の究極的な目的の達成に必要となること、及び適応はそれに応じた極めて重要な役割を果たすことを認識する。我々は、条約の下での交渉において、締約国が衡平原則を考慮して、世界全体の排出量の削減について世界全体の長期目標を採択することが望ましいと信じる。我々は、とりわけ気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の野心的な複数のシナリオに対して、真剣な考慮が与えられるよう求める。温室効果ガスの排出量を削減し気候の回復力を築く、既存の技術とベスト・プラクティスの広範な展開のための資金供与を増大することにより、世界全体の長期目標に向けた重要な進展が実現される。しかしながら、我々が世界全体の長期目標を究極的に達成できるか否かは、調達可能で、新しく、更により進歩した革新的な技術、インフラ及び、我々の生活様式やエネルギーの生産・利用の仕方及び、土地の利用方法を変えるような慣行にもかかっている。

5.我々は、科学、技術及び経済面での評価を考慮し、野心的、現実的でありかつ、達成可能な温室効果ガスの緩和の強化が本質的に重要であることを認識している。我々は、共通に有しているが差異のある責任及び各国の能力という原則に沿い、更なる行動をとる。即ち、我々は、他の優先目標も達成しつつ、我々の政策とパフォーマンスを引き続き改善していく。世界全体の長期目標の達成には、とりわけ社会及び経済的条件、エネルギーミックス、人口動態、インフラに関する差異及び上述のIPCCの複数のシナリオを考慮しつつ、バリ行動計画の合意された結果に反映されることになる個別の中期目標、約束、行動が必要となる。この観点から、先進主要経済国は、先進国間で比較可能な努力を反映しつつ、国際的な義務に合致した形で、中期の国別総量目標を実施するとともに、これに関連する行動を、排出量の絶対的削減を達成し、更に可能な場合にはまずは可能な限り早く排出量の増加を停止するためにとる。同時に、途上主要経済国は、対策をとらないシナリオの下での排出量からの離脱を達成するために、国毎の適切な緩和の行動を遂行する。右は、持続可能な開発の文脈の中で、技術と融資とキャパシティ・ビルディングにより支援され可能となる。

6.我々は、森林減少及び劣化等によるものも含む排出量を削減するとともに、土地利用・土地利用変化及び森林セクターにおける、森林火災への取組の協力を含む、吸収源による除去量を増加させる行動が、大気中の温室効果ガスの安定化に貢献し得ることを認識する。これらの行動はまた、気候変動の影響を軽減し、複合経済財と生態系サービスを維持するという、大きなコベネフィットを有し得る。我々は、キャパシティ・ビルディングと実証活動について、また排出量を削減し吸収源による除去量を増加させるための、資金供与を含めた革新的な解決及び方法論的問題について、引き続き協力していく。我々はまた、あらゆるレベルにおいて森林に関連したガバナンスと協力的行動を向上させることの必要性を強調する。

7.我々は、適応は不可避的な気候変動の影響に取り組む上で不可欠であり、かつ気候変動の悪影響は開発途上国に不均衡に及ぶ可能性があることを認識している。我々は、我々の条約上のコミットメントに従い、開発途上国、とりわけ最も脆弱な国々の、気候変動に適応する能力を強化するため、共に努力していく。これは、脆弱性と適応の評価の改善のための手段と方法論の開発と普及、気候変動への適応を全体の開発戦略に統合すること、適応戦略の実施強化、適応技術への更なる注力、回復力の強化と脆弱性の低減、投資刺激策の検討と資金的・技術的支援の入手可能性の増大を含む。

8.我々は、エネルギー安全保障及び気候変動という相互に連関する世界的な挑戦への対処における、技術の極めて重要な役割及び技術の飛躍的な進歩の必要性を確認する。短期的には、多くの既存の技術の幅広い展開が緩和及び適応の両方に不可欠である。特に、省エネルギー、エネルギー効率、災害抑制、及び水・天然資源管理に関する技術は重要である。我々は、再生可能エネルギー、よりクリーンで低炭素の技術及び、我々の中で関心を有する国については原子力を含む技術の採用及び利用を促進する。キャパシティ・ビルディングの促進と同様に、途上国との技術協力及び途上国への技術移転もまた、この努力において不可欠である。より長期的には、革新的技術の研究、開発、実証、展開及び移転は決定的に重要であり、我々はこれらの分野における投資及び協力を強化する必要性について認識する。我々は、様々な代替エネルギー技術の重要な役割に留意し、特に炭素回収・貯留に関する研究、開発及び大規模な実証並びに関連する協力の必要性を認識する。我々はまた、クリーン・エネルギーの研究、開発、実証及び展開における継続的な投資及び協力の促進のための手段としての技術ロードマップの価値にも留意する。

9.我々は、気候変動への取組は、国内的及び国際的にも、より多くの資金の動員を必要とすることを認識する。資金フロー、特に途上国への資金的支援規模を拡大し、行動のための前向きなインセンティブを創出し、よりクリーンかつ低炭素な技術の増加費用への資金を供与し、気候変動に向けられた資金をより効率的に活用し、民間部門に対し価格シグナル及び経済的インセンティブを提供し得る適切な市場メカニズムのすべての潜在力を実現し、公的部門による投資を促進し、商業的に有効な民間投資の促進を可能にする環境を創出し、革新的アプローチの開発を行い、緩和及び適応双方に関連する技術の移転のための、適切なインセンティブを創出するとともに、それに対する障害を低減及び除去することによるコストを低減する緊急の必要性が存在する。

10.現在から2012年までの期間、完全で、実効的かつ持続可能な条約の実施を可能とするため、我々は、

●特定の経済セクターにおける緩和関連技術協力に関する戦略について協力し、セクター別の効率性に関する緩和の情報及び分析の交換、国別の技術的なニーズの特定及び自発的かつ行動指向の国際協力を促進するとともに、条約に整合的な形で、協力的セクター別アプローチ及びセクター別行動の役割を検討し、

●WTOの課題を担当する通商担当者に対し、気候変動に関する協力の促進に関連する問題について、切迫感をもって協議を進めるよう指示し、

●緩和・適応努力を支援するため、技術の開発及び移転、資金提供並びにキャパシティ・ビルディングに関する行動の強化を加速し、

●気候変動の影響、脆弱性及び適応に関するナイロビ作業計画の実施を支援し、

●温室効果ガス排出量を削減し、エネルギー安全保障を強化する低コストの方法として、エネルギー効率を著しく向上させ、

●世界全体の気候系の利益のために、オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書の下での行動を引き続き促進し、

●温室効果ガスの効果的な計測方法の改善のため、既存のフォーラムにおける我々の取組を遅滞なく強化する。

11.我々主要経済国は、2009年のコペンハーゲン気候変動会議の成功を促進するため、引き続き建設的に協力する。