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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] G8国際テロ及び国際組織犯罪の専門家からG8首脳への報告書(第34回北海道洞爺湖主要国首脳会議‐G8サミット)

[場所] 
[年月日] 2008年7月8日
[出典] 北海道洞爺湖サミット公式サイト
[備考] 仮訳
[全文]

前文

 国際テロリズムは国際平和と安全に対する最も深刻な脅威のうちのひとつであり、G8首脳は、テロ行為に対し非難するとともに、テロとの闘いに対する共同のコミットメントを行う。国際組織犯罪も、同様に、G8首脳にとって深刻な懸念であり、国境を越える違法な犯罪活動と闘うため、G8において断固たる行動をとっている。我々国際テロ及び国際組織犯罪の専門家であるG8ローマ・リヨン・グループは、テロ・国際組織犯罪対策に向けた我々の取組及び活動を、ここにG8首脳に対し報告する。

I.国連のテロ対策の取組に対する支援

 我々は、テロリズムへの国際的な取組における中心的な役割を担うのは国連であり、G8は国連によるこの取組を支援していくことを再確認する。我々は、2006年に国連総会により採択された国連グローバル・テロ対策戦略の重要性を強調し、テロ対策実施タスクフォース(CTITF)の取組を支援し、継続して同戦略実施に取り組むことを決意する。我々は、本年秋に予定されている同戦略のレビューが、今後の着実な実施に向けての新たな弾みを与えるものとなることを確実ならしめるべく取り組む。

 すべての国連加盟国が国際的なテロリズムとの闘いに関連するすべての安保理決議を履行する義務を遵守することが重要である。我々は、この関連で、タリバーン・アルカーイダ制裁委員会(1267委員会)及びテロ対策委員会(CTC)による努力を高く評価する。

 我々は、すべての国連加盟国に、既存のテロ防止関連条約及び議定書を締結し、右条約等の完全な履行を呼びかける。この関連で、我々は、13本目のテロ防止関連条約である核テロリズムの行為の防止に関する国際条約の発効を歓迎し、すべての国連加盟国が同条約を締結することを推奨する。我々は、すべての加盟国に、如何なる理由又は不満をもっても、如何なる形式のテロリズムも正当化されないことについての国際的な決意を強化するような方法で、包括テロ防止条約案の妥結に向けて最大限努力すべきことを呼びかける。

 国連のテロ対策措置の実施に向けて加盟国を支援するため、G8は、テロ対策委員会事務局(CTED)及び国連薬物犯罪事務所(UNODC)を含む国連及び関連機関との協力を行ってきている。我々は、更にテロ対策行動グループ(CTAG)の活動を通じて、この協力を強化することを約束する。

II.新たな脅威、多様化する手法への対応

1.近代的情報通信技術の悪用{前14文字下線有り}

 テロリスト及び犯罪グループは、連絡、情報収集、要員のリクルートや暴力的過激主義の普及のために、近代的情報通信技術を悪意をもって利用することができる。この技術は組織犯罪にも濫用される場合があり、規制物質である薬品及び模倣医薬品の違法取引や児童ポルノの提供の申し出等複雑かつ多様な方法によって利用され得る。

 我々は、こうした違法な傾向を特定し、テロリスト及び犯罪者による近代技術の利用を発見及び阻止するために取り組むことを断固約束する。我々は、我々の結果を最大限活用し、国内法体系の違いを尊重しつつ有効な国際協力を追求する。

 我々は、同時に、ハイテク犯罪24時間コンタクト・ポイント・ネットワークを構築し、強化し、訓練した。今日、このネットワークは世界の50の国・地域によって構成されており、我々は、ハイテク犯罪に対する法整備及び法執行能力を強化しつつ、同ネットワークの構築に継続的に取り組んでいる。

2.児童の性的搾取との闘い{前13文字下線有り}

 2007年のミュンヘンでのG8司法・内務大臣会議における重要な成果は「児童ポルノとの国際的闘いの強化」に関する共同宣言であった。我々は、児童の性的搾取に対する闘いを引き続き重大視しており、このため、現在プロジェクトのポートフォリオを作成している。このポートフォリオには、現時点で、とりわけ、児童虐待画像の製造、交換や使用が児童及び社会に与えるリスクを評価する国際調査シンポジウム、G8国際「重要指名手配」ウェブサイトの構築、児童誘拐という現象に対する法的及び法執行面での対応の調査、オンラインにおける児童性的虐待と闘うためのG8の法執行機関での共同訓練プロジェクト及びG8が創設を支援したインターポールの児童虐待画像データベースの実施に伴う進行中の作業が含まれている。

 我々は、児童を性的搾取から保護し、これらの犯罪を犯す人々を法に照らして処罰するためにこの現象と闘う我々の継続した努力を約束する。

3.国境管理及びID犯罪{前12文字下線有り}

 我々は、身分証明書及び渡航文書の審査を厳格化する措置を進捗させ、実施するための努力を行っている。これらの措置が国境管理の強化、テロ・犯罪資金対策に資するものであることを踏まえ、我々は、身分証明書及び渡航文書の偽造並びに違法な使用を防止するための好事例(ベスト・プラクティス)の特定及び共有を継続する。我々は、また、犯罪者による身分情報の悪用に関する問題について調査するとともに、スキミングやなりすまし等犯罪活動の多様な態様に対処するための戦略を構築している。

 我々は、また、テロリストの経歴をもつ人物の国内領域からの追放に取り組んでおり、そのためには、国内法及び国際法の義務に従い、国外退去その他の退去手続きの円滑化に関する規定が必要となる。我々は、G8メンバー国の法的立場を把握及び評価し、テロ容疑者を退去させるための困難や可能な解決策について議論した。

4.交通保安{前6文字下線有り}

 近年のテロ攻撃は、テロリストが大量交通機関を狙っていることを示している。一部は未然に阻止されている一方で、実行されたテロにおいては深刻な破壊及び大量の犠牲者が発生している。

 G8は、交通保安改善の分野において、これまで世界をリードする役割を果たしてきており、引き続き、航空保安、海上・港湾保安、陸上交通保安のいずれの分野においても、効果的な保安強化策の研究及び構築を行っている。その成果はG8及び関連国際機関との間で共有されている。なお、我々は、陸上交通セキュリティ国際ワーキンググループ(IWGLTS)の活動を歓迎し、同ワーキンググループとの連携に取り組んでいく。

5.重要インフラ施設{前10文字下線有り}

 G8首脳は、ハイリゲンダム・サミットにおいて、重要なエネルギー・インフラ施設の脆弱性評価及び潜在的な危険度評価を行い、効果的な安全策の好事例(ベスト・プラクティス)を共有していくことを約束した。これに従い、我々は、重要エネルギー・インフラ施設の脅威評価を行い、関連する施設の防護のための好事例を共有した。我々は、同時に、国際的な重要情報施設の防護のための官民協力に関する好事例を共有した。今後、これらの研究や取組の成果を踏まえ、重要エネルギー・インフラ施設の防護の更なる強化を図っていく。

6.化学、生物、核物質、核(CBRN)テロ対策{前23文字下線有り}

 テロリストが、化学、生物、核物質及び核(CBRN)の手段を使って攻撃を仕掛ける可能性は依然続いている。そのような事件が発生した場合に甚大な数の犠牲者と広範な被害が発生することに留意し、G8メンバー国は、CBRNテロの脅威に取り組む措置を行っており、G8の専門家はCBRN攻撃からの復旧策について研究を進めている。G8は、核物質の防護に関する条約とその2005年の同条約の改正及び核テロリズムの行為の防止に関する国際条約等、核テロを防止するための国際的手段の履行の重要性を強調する。

7.テロ資金に利用される現金密輸対策{前18文字下線有り}

 テロ資金対策の厳格な措置の実施に加えて、テロ資金供与防止条約及び金融活動作業部会(FATF)の特別勧告IXで謳われているとおり、我々は現金密輸の問題に取り組んでいる。G8首脳は、ハイリゲンダム・サミットで、テロ又はその他犯罪の目的で国境を越えた非公式な違法資金移送手段と闘うための取組をさらに強化することに合意した。このコミットメントを踏まえ、我々は、我々のプログラム及び執行努力についての情報共有、脅威評価及び積換え・中継点の特定を行ってきた。我々は、今後も関連情報を共有し、共同訓練の実施及びキャパシティ・ビルディング支援プログラムの調整を通じて現金密輸の流れを阻止する取組を行うことを決意する。

III.キャパシティ・ビルディング

 人、物、資金や情報の大量の流れに特徴付けられるグローバル化した世界において、テロリスト及び犯罪組織が一国の能力欠如に乗じることは、その国のみならず他国にも脅威を与える。一部の国の法執行能力の不足や法的枠組みその他の分野における欠陥は、テロ・国際組織犯罪対策における国際社会全体の努力に抜け穴を生じさせる。

 それゆえ、G8メンバー国は、テロ・国際組織犯罪対策のために法執行や法と秩序等多数の分野におけるキャパシティ・ビルディング支援を必要とする諸国に対し、多国間及び二国間での支援を供与している。我々は、UNODCやその他関連する国連機関等との協力によって、すべての国が、国際組織犯罪防止条約(UNTOC)とその補足議定書を含むテロ・犯罪を防止していくための国際的な法的文書の締約国となり、そのような文書を批准し、実施するために必要な国内法整備を行うことを奨励し、支援している。

 我々は、CTAGを通じ、CTC/CTED及びその他関連国連機関との実用的かつ効果的な調整を強化する手段をとっており、その結果、国際テロとの闘いの中で支援を必要とする諸国のキャパシティ・ビルディングにさらなる貢献を行っている。

IV.アフガニスタン・パキスタン国境管理

 G8ハイリゲンダム・サミットでの首脳声明を踏まえ、我々はアフガニスタン・パキスタン国境地域における国境管理強化の支援プロジェクトに関する情報共有を行い、CTAGを通じて同プロジェクトの調整を行ってきた。G8は、関係国、国際機関及びアフガニスタン・パキスタン両政府と協力して、より効果的・効率的にアフガニスタン・パキスタン国境地域の国境管理が実施できるよう緊密に協力することを決意する。

V.過激化対策

 暴力につながる過激化の防止を含む過激化対策は、テロを抑制し、防止するために極めて重要である。我々は、憎悪を増幅し暴力を助長する過激思想の普及を効果的に防止するためのあらゆる努力を行う。

 我々は暴力的過激主義の最近の発展、過激化の原因とそのプロセス、過激化のためのインターネットの濫用及び関連する事項や傾向を評価し、よりよく理解するための一連の研究を行っている。こうした研究に基づき、我々は過激化対策のための措置について熟考している。

 過激化対策のための取組の一環として、多様性に対する尊重を促進し、暴力に結びつく過激思想を衰退させる環境を醸成していくことが重要である。同時に、我々は、テロを支援し、蔓延させる目的に利用される政治的、経済的及び社会的条件に継続的に取り組む重要性を忘れてはならない。

VI.民間部門との連携

 我々は、テロとの闘いにおいて、民間部門のパートナー、地域コミュニティ、市民社会及びその他の非政府機関との協力の重要性を再確認する。我々はまた、通信産業や重要インフラと共に行うプロジェクトの実施に際しての民間部門のパートナーとの協力的関係の価値、並びにコミュニティ及び非政府機関が暴力に結びつく過激化を防止するための社会の統合を促進する際の役割を認識する。

VII.腐敗との戦い

 ハイリゲンダム・サミットにおいて、G8首脳は、世界の腐敗と効果的に戦うための共通の努力を強化することを約束した。

 我々は、すべての加盟国による国連腐敗防止条約の効果的な実施のための適切な方策について議論を継続する。

VIII.テロ対策における人権の尊重

 我々は、テロ対策のための措置を実施するに当たり、人権及び法の支配を確保することの重要性を強調する。テロとの闘いにおける如何なる行動も、国際法、特に国際人権法、国際難民法及び国際人道法に基づく国家の義務を遵守するべきである。