データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 21世紀における革新(イノベーション)を生み出す社会のための教育(第32回サンクトペテルブルク主要国首脳会議‐G8サミット)

[場所] サンクトペテルブルク
[年月日] 2006年7月16日
[出典] 外務省
[備考] 外務省仮訳
[全文]

1.教育は人類の進歩の核心である。21世紀における経済的・社会的繁栄は、各国がその全ての国民に対して、急速に変化する世界における生存に備えるための教育を施すことができるかにかかっている。イノベーションを生み出す社会とは、変化を受け入れられるよう人々に備えさせる社会である。我々は、「知識の三角形」の全三要素(教育、研究、イノベーション)を発展・統合し、人材、技術及び研究に十分な投資を行い、知識に基づくグローバルな経済のニーズにより則したものとなるよう教育制度の現代化を支援することにより、グローバルなイノベーションを生み出す社会を促進する。

2.教育は、文化を豊かにし、世界的な相互理解を創造し、民主的社会を支え、法の支配の尊重を構築する。教育、技術の向上、新たな知見の創造は、人的資源の発展に不可欠であると共に、経済成長の鍵となる動力源であり、市場の生産性を推進し、全ての国家の結束の源である。

3.グローバルなイノベーションを生み出す社会の発展は、全ての国における人、知識及び技術の流動性及び統合にかかっている。科学、技術及び経済の進歩がより世界的になるにつれ、根本的なグローバルな課題に対する解決策を見つけるのに必要な人材と知識を生み出すためには国際的な協働が不可欠となっている。

4.知識に基づく経済は、イノベーションを生み出す教育制度、そして信頼できる、透明で、差別的でない法的、制度的、政策的な枠組を必要とする。これらの枠組は、知的財産権の強固な保護を提供し、研究、開発及び投資を支援し、イノベーションに資するインセンティブを提供して、競争に親和的で予見可能な政策を醸成する。

5.こうしたイノベーションを生み出す社会のための共通の展望を実現するために、2006年6月2日に教育大臣により採択されたモスクワ宣言に留意し、我々は、

○教育関連のミレニアム開発目標(MDGs)及び万人のための教育(EFA)の目的に沿って、質の高い基礎教育、識字能力及び男女平等を達成するために積極的に協力する。

○各国が、グローバルなイノベーションを生み出す社会の課題に対処し、これに完全に参画できるように現代的かつ効果的な教育制度を構築する。

○多様かつ効率的であり、持続可能で質の高い高等教育機関を育成する教育政策及び投資を奨励する。

○個人が変化に適応し、技術と知識を最大化し、その社会と職場に貢献できるよう、G8ケルン・サミット憲章「生涯学習の目的と希望」の原則に基づく生涯学習を促進する。

○知識を創造する研究ネットワークを拡大し、イノベーションを奨励し、新しい技術を迅速に研究室から市場へと移すために、民間部門と協力する。

○科学、技術及び他の分野における交流を全ての教育段階において増大し、海外の資格及び教育上の成果に対するより良い理解を促進する。

○特に数学、科学、技術、及び外国語における高い水準を全ての教育段階で促進し、これらの決定的に重要な分野における高度な資格を有する教師の関与を支援する。

○教育を効果的な手段の一つとして、移民の受入国及びその社会への社会的・経済的な統合を促進する。

I.グローバルなイノベーションを生み出す社会の発展

6.我々は、長期の経済成長を持続させるため、新たな知識を生みだし、イノベーションを醸成しなくてはならない。我々は、高等教育機関、研究センター及びビジネス間の研究ネットワークを創造すべく協働し、それらが創り出す最先端技術を利用する。我々は、グローバルな規模での知識の普及を円滑化し、技術を迅速に研究室から市場へ移すために、知識に基づく集合的な発達及び官民パートナーシップに関するベスト・プラクティスを共有する。

7.我々は、知識、研究及び開発への投資を促進する。我々はまた、教育分野を含む研究・開発に民間資金を引きつけるため、公的支出を戦略的に活用する。また、我々は、より緊密な産学協力を奨励する。これらの行動は、人々の生活、国家の繁栄及び地球規模社会の幸福を向上するイノベーションを生み出す。

8.我々は、イノベーションと起業精神を奨励する新たな技術の創造と普及を促進するための政策を展開する。我々はまた、イノベーションを生み出す者の権利を保護しつつ、ビジネス、教育制度及び国家にまたがる技術の進展と研究を効果的に活用する。我々は、さらなるイノベーションを促し、21世紀における教育と労働力の必要性を満たすために官民の資源、知見、専門性を活用することを議論するために2006年7月11日に集まった我々各国のビジネスと高等教育の指導者による貢献を評価する。我々は、サンクトペテルブルク・サミットのフォローアップとして、UNESCOと協力して「教育、イノベーション、研究:持続可能な開発のための新しいパートナーシップ」に関する世界フォーラムを組織するというイタリアの申し出を歓迎する。

9.教育は公共の利益にとって決定的に重要である。我々の政府は、イノベーションを生み出す質の高い高等教育及び研究開発システムの発展において民間部門と協力する。我々は、前向き、競争に親和的かつ予見可能な政策枠組を醸成する、信頼でき、透明で、かつ差別的でない環境が、知的財産権の強固な保護を提供し、投資のインセンティブを提供し、イノベーションを奨励する規制政策を促進することを確保する。我々の政府は、健全な高等教育及び人的資源政策を展開するため、ビジネス、高等教育及び労働界との対話と共働を促進する。

10.我々は、イノベーションの同盟を促進し、G8諸国における大学を基礎とする官民パートナーシップについての知見と専門知識・技術の交換を増大する。教育管理、資金調達、現代的教育方法、及び資格の認証・透明性に関するベスト・プラクティス、知見及び経験を、関係者の間で共有することもまた付加価値を与え得る。我々は、イノベーションを生み出す社会を支援するために必要な中心的な科学技術分野における人材及び知識を産み出すため、イノベーションの同盟を通じ国際的に協働する。

11.我々は、知見と専門性の交換を円滑に行えるよう各国の連絡箇所を特定すると共に、こうしたパートナーシップの進展における民間部門の関与が、高等教育とグローバルなイノベーションを生み出す社会の必要性との間の効果的な連関を達成するための主たる鍵の一つであることを認識する。

12.我々は、全ての段階における国際的な学術面での移動を促進し、学生、教師及び研究者の移動を大幅に増加させる。我々は、既存の交換プログラムを強化し、言語面及び異文化にまたがる技能の発展を促進する。欧州高等教育圏の創設を目指すボローニャ・プロセスはそのようなプログラムの一例である。我々はまた、学生や学者の移動を妨げる複数の要因を考慮しつつ、他の国において生み出された知識へのアクセスを円滑にする。

13.我々は、各国における学術上の慣行と伝統についての理解を増進するため我々の国における資格制度に関する情報を共有する。我々は、より良いアクセスによる知能とイノベーションを融合するグローバルな教育環境を醸成し、官民部門における外国資格の認証の評価と比較のための効果的な制度を奨励する。

II.良質の教育を通じた生活と労働のための技能の構築

14.我々は、若者と将来世代のためにより良い機会を提供するため教育の質を向上させる。我々は、全てのレベル及び人生の全ての段階において公的資源を教育により効果的に活用することを促進する。我々は、継続的な労働者技能の向上と生涯学習のための創造的機会を提供するイノベーションを生み出す社会を構築する。

15.我々は、生涯学習を通じて人々が変化を受け入れられるように備える。我々は、遠隔教育や国境を越えた教育サービスの提供等を通じ、学習、企業研修及び労働市場の間の連携を強化する。我々は、G8ケルン・サミット憲章「生涯学習の目的と希望」の重要性と、その中で全ての人々のために生涯学習のための機会とインセンティブが生み出されるべきことが謳われていることを再確認する。

16.我々は、若年の子供達がしっかりとしたスタートを切り、社会的な公正を強化するために、早期幼児教育の重要性に高い政策的優先度を置く。我々はまた、中等及び高等教育を超えた成人学習へのより多くかつより公正な参画を醸成する。

17.我々は、我々の社会と経済に必要な能力と技能を提供する継続的な教育の発展への経済界及び非政府組織の積極的な参加を歓迎する。

18.我々各国は、教育制度の質、効率性、実効性、及び低廉さを達成することに集中する。我々は、UNESCO及びOECDによる、国境を越えて提供される高等教育の質保証に関する任意のガイドラインを策定する共同作業に留意する。我々は、教育管理、指導及び経営の最善のモデルを用いることを確保するため、学術界及び民間部門と協働する。

19.我々は、教育機関及び適切な組織に、我々各国の資格制度、教授方法、教育管理及び財務に関する情報を共有し、理解を促進することを奨励する。

20.我々は、「グローバルな情報社会に関する沖縄憲章」及び世界情報社会サミットのチュニス・コミットメントに従って、情報通信技術を教育においてより効果的に活用するとの我々のコミットメントを再確認する。情報通信技術は、技術集約経済の教育的必要性を満たすために決定的に重要である。アクセス可能な教育資源は、より公正かつより効率的なグローバルな情報環境を創造するために重要な手段である。

21.我々は、グローバルなイノベーションを生み出す社会に強固な基礎的要素を提供するため、特に、数学、科学、及び技術における高い水準を達成するため努力する。全ての初等及び中等教育カリキュラムは、これらの科目分野におけるより集中的な学習や、問題解決技術及び批判的思考を促進するべきである。我々はまた、初等及び中等教育における科学、技術及び数学教育を向上するための開発途上国の努力を奨励する。

22.我々は、全ての教育段階において外国語の学習及び習得を支援するイニシアティブを歓迎する。意思疎通と外国語の学習能力はまた、今日のグローバルな環境において不可欠である。それは社会的・国際的な技能、異文化をまたぐ知識と能力、及び文化と社会の底流をなす価値と歴史に対する理解と敬意を伴う。

23.我々は、新たな要請に対応する能力を伴う研究機関、市民大学、技術学校及び官民の職業訓練機関を含む、アクセス可能で多様な、かつ持続可能で質の高い、大学とそれ以外の高等教育機関の制度を育成することを目指した教育政策の発展を奨励する。大学及びその他の高等教育機関は、イノベーションを生み出す社会において人々を教育する鍵となる役割を果たす。これらの機関は、教育政策の枠内で効果的かつ透明な管理を通じ、社会と労働市場の変化する要請に迅速に適応できなくてはならない。

24.我々は、各国制度の枠内において、教師を魅力的な職業選択とし、教師の知識と技術を発展させ、有能な教師を学校に維持するよう取り組む。教師は教育の中心をなす。学生の学習とその成果を向上させるためには、全ての教室に質の高い教師が存在することが不可欠である。教師は、効果的な教育者及び指導者となるため内容及び指導方法につき十分な知識を有していなくてはならない。効果的な教師は、内容における決定的に重要な知識を学生に教え、卓越しそして生涯学習を追求する欲求と能力の発展を助ける。

25.我々は、関係する教育当局、民間部門、及びその他の関係者が教育制度の現代化に関する幅広い課題について情報とベスト・プラクティスを共有することを奨励する。我々の教育制度の現代化は我々の共通の戦略的目標を達成する上で重要な役割を果たさなくてはならない。この新千年紀において、知識戦略のマネージメントは人事、財務、設備という、より伝統的な教育資源のマネージメントと同じく基本的なものである。従って、教育制度は、内容の習得のみならず既存の情報を処理し、適合し、応用し、そしてより重要なこととして新たな知識を創造するという観点からも、知的能力の発展に更に集中すべきである。教育はまた、卓越性と可能な限り広範なアクセスを融合するための方途を見出さなければならない。

III.万人のための教育(EFA)と開発

26.我々は、社会的・経済的背景、年齢、性別、宗教、人種あるいは障害に関係なく、万人が利用可能な低廉で良質な教育と職業のための専門的訓練の提供に努める。教育は、国とその国民の持続可能な発展への死活的な投資である。識字能力、数的能力及び生活技能の研修を含む基礎教育がその根底をなす。アクセスに加え、学生の学習内容及び学習成果の質も同等に重要である。

27.我々は、批判的思考力、及び開かれた知識交換を発展させる教育的要素を支持し、それは、万人への機会を伴う民主的社会とよく機能する経済の双方を構築する。教育された国民と労働力の創造は死活的に重要である。この戦略的目的を達成するため、国際社会は、万人の初等教育の修了と全ての教育段階における男女平等というEFAの目標に優先度を置く教育関連MDGsを採用した。我々は、初等及び中等教育における男女格差の解消に関連する中間的目標がまだ達成されていないことを遺憾とする。2015年までにこれらの鍵となる目標を満たすことができるよう、万人による更なる協調した行動が必要となる。我々は、これに関連して、我々のコミットメントを再確認する。

28.我々は、新たな国際的な開発努力の不可分の部分として2000年に世界教育フォーラムにおいて採択された「ダカール行動枠組(万人のための教育)」を促進するとの2005年世界サミットにおける決議を歓迎する。我々は、EFAの課題に対する我々のコミットメントを再確認すると共に、EFAの目標を達成し、各国レベルでの実施を支援する多国間援助機関による協調的かつ補完的な行動のための枠組を提供するための「グローバル・アクション・プラン」を確定するというUNESCOの取組を歓迎する。現在、4千万人以上の児童が学校教育システムから排除されていて、その60パーセントが女児という、アフリカを含む最貧の国々には、特別の注意を払う必要がある。我々は、UNESCO及びその他の「ダカール枠組」に係る会合の主催機関(UNDP、UNFPA、UNICEF及び世界銀行)が、各国の優先政策、計画及び目標の調和と調整を支援し、取組の重複を排除して効率性を向上させるために各組織の独自の能力を活用することを求める。

29.我々はまた、EFAの「ファスト・トラック・イニシアティブ(FTI)」の効果的な実施を支援し、FTIで認定された各国が持続的な能力を発展させ、持続可能な教育戦略を追求するに必要な資源を特定することを支援するとの我々のグレンイーグルスにおけるコミットメントを強調する。我々は世銀年次会合における世銀によるFTIの進捗状況の報告に期待する。我々は「万人のための教育(EFA)」アジェンダの達成においてアフリカを支援することについて我々のコメットメントを繰り返し述べる。これは、「アフリカ行動計画」(カナナスキス)及びその後のグレンイーグルス宣言に掲げられているように、G8諸国がアフリカとともに築いてきたパートナーシップを踏まえるものである。この文脈において、我々はこれらの目標を達成するために、新規に認定される国を含むFTIで認定されたすべての国と協力することに対する我々のコミットメントを確認する。

30.我々は、開発途上国が、率先して、健全な国家教育戦略、政策及び計画を作成し、それらを国家の開発計画に完全に統合し、万人のための教育機会の提供のために関連する全ての関係者と協力することを求める。開発途上国自身による強固な展望と確固としたコミットメントが、明確に策定された「貧困削減戦略文書」やそれと同等のもの、かつ教育分野全体に関するよく練られた長期的な計画に基づく国としてのオーナーシップと自助努力と共に存在して初めて、EFAの成功は可能となる。効果的なガバナンス、健全な政策と制度的環境、質へのフォーカス、及びインフォーマル及びノンフォーマル教育の価値の認識が、健全な教育システムの中心にある。

31.我々は、EFAの目標を達成するための協力と良い事例の共有を促進すべく全ての関係者と協力する。三角協力を含む、先進国及び開発途上国同士及び両者の間での新しい形の協力はEFAの目標を達成する上で重要な役割を果たす。我々は、特に学習成果及び教育管理、教材及び教師の質の向上のため、これを奨励する。

32.我々は、EFAの目標を達成し、教育機会を狭める他分野における障害を排除することにコミットする。教育分野への支援のみでは問題は解決しない。我々は、教育制度におけるHIV/エイズへの意識を向上させ、EFAの目標達成のため、教育への投資と、貧困削減、保健・衛生、水、栄養、及びインフラといったその他の鍵となる分野への投資とを連動させる、分野横断的な方策を支援するよう努める。

IV.教育を通じた社会的結束と移民統合の進展

33.我々は、人々が個人の潜在能力を最大化し、社会参画の障害を克服することを支援するため、市民参画と機会平等及び異文化間の理解を促進する。他者を受け入れ尊重し、かつ公平な社会は、技術と知識の獲得、革新の促進、及び経済的・社会的成功の牽引にとり最も有効な条件を提供する。我々は、文化多様性と外国語の知識、新たな人材に対する開放性、及び労働力の流動性をイノベーションを生み出す包括的社会に不可欠な特性とみなす。

34.我々は、生涯学習の支援を促進すると共に、技術と経験のレベルに応じた雇用の確保に必要な言語的能力を奨励することにより、我々の社会における社会的、文化的、専門職業的統合を容易にする。我々はまた、G8諸国及びこの重要な分野におけるその他の関係者の間で、知識、経験、及びベスト・プラクティスについての共同研究及び交換を行うことを求める。

35.我々は、教育分野及び職場における多様性がイノベーションを進展させ創造力を促すという認識をもった政策を通じ、全ての人々の人的・社会的資本を最大化することを目指す。民主的市民のための教育を含む社会的結束のための政策が成功することは、不寛容と差別と闘うことの助力となる。各国はその経済と社会における受入れと統合を促進するために様々な異なる政策を採るということを考慮に入れつつ、我々の教育制度はこれらの根本的な目標の達成を促進すべきである。