データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] <紛争と開発に関するG8ニシアティブ>共有された水資源に関する協力的かつ持続的な管理の推進

[場所] ウィスラー
[年月日] 2002年6月14日
[出典] http://www.kantei.go.jp/
[備考] 仮訳
[全文]

 G8は、環境問題及び資源問題の有する紛争の潜在性について繰り返し強調してきた。1999年3月の会合において、G8環境大臣は、「環境破壊、資源の欠乏及びその結果生ずる社会ー政治的影響は、それらが内戦又は国家間の紛争を惹起し、又は悪化させるおそれがあるという点で安全保障に対する潜在的脅威である」と記した。同様に、紛争予防に関する宮崎イニシアティブの「紛争と開発」に関するイニシアティブの一部分として、G8は、「水等の天然資源をめぐる争いから生ずる紛争の要因に対処するため、経済・開発援助を活用し、かかる紛争の要因を管理するための地域的取組を奨励する方途について検討」した。

 水は、人間の基礎的ニーズであり、開発のための主要な要素である。水は、食糧生産のために基本的な資源であると同時に、社会的福祉を強化し及び経済成長をもたらすための基本的な資源である。水は、また、環境の源である。既に今日、世界の各地において、水は乏しい資源である。世界人口の約6分の1が安全な飲料水へのアクセスに欠けており、世界人口の3分の1が衛生へのアクセスに欠けていると見積もられている。仮に現在の傾向が継続すれば、地球上の3人に2人が「水問題に苦しんでいる」国で生活することとなる(コフィ・アナン、ミレニアム報告パラ274)。世界銀行の試算によれば、2050年までに世界人口の40%は何らかの形で水不足に直面することになり、5人に1人は、深刻な水不足に悩むことになるという。地球規模の気候変動がさらにこの問題を悪化させ得る。

 このような背景の下、G8は、共有された水資源の持続的な管理に貢献しかつそのような管理を推進することを希望する。共有された水資源の分野における協力を促進するための国際社会による重要な努力を認識しつつ、G8は、関心国及び共有された水資源の管理を支援することを目的としている地域協力機関との間で、自らの経験及び知見を共有する用意がある。

この問題に対するG8のアプローチは、次の諸原則に基づいている。

予防

健全な水の管理は、すべての者にとってより多くの意味を持ち、水に関連した紛争の潜在性を削減することができる。各国は、各国市民に対し健全かつ持続可能な水政策を通じて十分かつ衡平な水供給を提供するような水資源の統合的な管理を流域レベルで行うことを約束しなければならない。

主権の尊重

水の分野における紛争予防の成功は、直接関与している国家の主権並びにそれら諸国の特別な歴史的、文化的及び経済的状況を尊重することを基礎としてのみ達成され得る。

協力

水を巡る紛争を予防し、それらを平和的に解決することは、相互に利益を生ずる協力を通じてのみ達成され得る。したがって、共有された水の共同管理の問題は、挑戦のみならず、協力のための触媒として機能し、また、信頼を構築し、開発を促進する機会を提供する。

良い統治は、貧困者に対して安価な水を提供するためには、すべての水管理に関連する事項における透明性のあるかつ参加型の意思決定及び社会的考慮を統合した適正な価格設定の双方を確保しなければならない。

各国政府は、自国市民のために効率的、持続的かつ衡平な水の供給を確保するとの主要な責任を負っている。

G8は、

−共有された水システムからの水の不適切な供給及び配分に係る紛争の潜在性について注意を払う。また、水不足を防止するための努力を強化する必要性を認識する。

−国際社会に対し、二国間又は多国間レベルで、また適当な場合にはUNDP、国連地域経済委員会のような国際及び地域的機関と、この目的のためにより緊密にかつ効率的に協力するよう慫慂する。また、世界水パートナーシップ及び旧世界ダム委員会のようなフォーラムの活動に留意する。

−河岸諸国に対し、すべての水の利用が平和への触媒となるような水の使用を慫慂するとともに、共有された水資源の持続可能な利用と保護のための共通のビジョン(公正で効果的な紛争解決のためのメカニズムを含む。)を策定することを慫慂する。

−有益な越境協力のための1992年の国連/欧州経済委員会の国際河川及び国際湖沼の保護及び利用に関するヘルシンキ協定並びに1997年の国際河川の非水運利用のための国連協定に留意し、共有された水資源管理問題に関する効果的な地域的取決めの作成を慫慂する。

−前記の諸協定に基づいた地域協定又は二国間協定の作成を検討することを提案するとともに、地域的及び現地の状況を考慮し、その目的を推進する。

−例えば1999年の「環境分野における安全保障的側面に関する第7回経済フォーラム」の枠組におけるような、共有された水の共同管理に対する地域的アプローチのためのOSCEのイニシアティブを認識する。

−第6回持続的開発委員会で合意された決定6/1(「淡水管理のための戦略的アプローチ」)及び第2回世界水フォーラムの枠組において2000年3月22日に採択された21世紀の水の安全保障に関するハーグ閣僚宣言を歓迎し、2001年12月3日〜7日、ボンにおいてドイツ連邦政府により主催された世界淡水会議の結果、特に水の分野別テーマのすべての側面において重要な寄与を行っている行動のためのボン勧告を認識する。

−共有された水システムのインフラの要素の意図的な破壊を非難する。

−2002年の持続可能な開発に関する世界首脳会議は、協力の精神の下、淡水の供給及び衛生に関する問題を進展させる機会を提供するものであると考える。

−国際淡水年(2003年)に繋がる諸活動を支持し、2003年3月に日本により主催される第3回世界水フォーラムが水の持続可能な開発のためのあり得べき行動に関する更なる討議のための良い機会となることを期待する。

−越境河川委員会の利用に価値を見いだし、既存の委員会を十分に活用し、また新たな委員会を創設することにおいて各国を引き続き支持する。

−水管理の枠組みにおける現地及び地域の関係者を包含する協力(官民間の協力を含む。)の重要性を強調する。

−各国内及び国家間での共有された水資源の開発、管理、保護及び利用に係る分野において、統合的な水資源の管理及び良い統治を推進するために、開発援助を利用する。