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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第26回主要国首脳会議における九州・沖縄サミットに関する懇談会における森総理大臣挨拶

[場所] 
[年月日] 2000年6月5日
[出典] http://www.g8kyushu-okinawa.go.jp/j/theme/0605.html
[備考] 
[全文]

 本日はお忙しい中九州・沖縄サミットに関する懇談会にお集まり頂き感謝申し上げます。

 私は我が国の当面の外交日程において九州・沖縄サミットが最も重要との認識の下,ゴールデンウィークを利用して,サミットにつき各国首脳と率直な意見交換を行いました。G8各国の首脳に対しては,九州・沖縄サミットでは,21世紀に向けた「一層の繁栄」,「心の安寧」及び「世界の安定」を実現するためにG8として何をなすべきかを基本的テーマとしたいと提案し,各国からの賛同を得ました。

 本日は,こうしたテーマの下で議論すべき具体的議題としてG8各国からも特に強い関心の示されたIT,感染症及び食品安全の問題の三点に焦点を当てて,これらの分野において識見を有しておられる皆様から率直なご意見を賜りたいと考えます。

 皆様からのご意見を賜ります前に,これらの三つのテーマにつき簡単に一言ずつ述べさせていただきたいと思います。

(IT)

 まずはじめにITについては,G8各国首脳に対して九州・沖縄サミットにおいては現在の世界経済の構造変化の中核的役割を担っているITを中心的なテーマにしたいと提案し,この点についてはほぼ全ての首脳から強い支持を得ることが出来ました。ITは21世紀に向け経済社会全体に活力をもたらす鍵であり,先進国のみならず,途上国も教育,医療等様々な分野でITを活用することにより更なる発展が可能になるものであると考えます。また,ITにより世界中の人々とのコミュニケーションが容易になり,異なる文化への理解も深まるものと期待されます。更に,ITは我々の日常生活にも確実に変化をもたらしています。遠く離れた家族からの便りやかわいい孫の写真を瞬時に届けてくれるEメールは良い例ですが,核家族化と高齢化が進む社会の中で人と人とのつながりを強める役割も担いつつあるのではないでしょうか。

 ITについてはデジタル・ディバイドの問題が各方面で指摘されており,この問題への取り組みがもとより極めて重要であることは論を待ちませんが,以上のようなITのもたらす機会を前向きにとらえ,「デジタル・オポチュニティー」という観点を大切にしていきたいと考えております。そこで,沖縄においては,8才の子供から80才のお年寄りまで皆がITを活用出来るような明るい時代を拓いていくためにG8が何をなすべきかにつき,各国の首脳と中身の濃い議論を行いたいと考えます。そのためITビジネスの先端を行く産業界の方々からのご意見も伺ってきたいと考えており,サミットの直前に日本を含む世界有数のビジネス・リーダーの方々からの提言を頂く予定にしています。また,一貫して教育の問題に取り組んできた自分としてはIT時代の要請にあった教育・訓練の強化についても触れていきたいと考えます。勿論,アジアをはじめとする途上国がITを活用して急速な発展が可能となるために,どのようなお手伝いが出来るかも真剣に考えなければなりません。

 この点につきましては,我が国自身もG8の議長国として,途上国との協力においてリーダーシップを発揮すべく,包括的な支援策を打ち出したいと考えております。途上国と一口に申しましても,一部のASEANの国のようにITの導入が既に相当進んでいる国々もあり,状況は各国各様です。そのため,我が国としても,民間の積極的な取組を補完する形で,多様で柔軟な支援策としたいと考えております。具体的には,第一に,ITは途上国においてもチャンスであるとの認識の向上に努めつつ,政策・制度作りへの知的支援を行っていくこと,第二に,研修・教育を中心とする人造り支援,第三に,情報通信基盤の整備・ネットワーク化支援,そして第四に,開発援助を通じたIT利用の促進という,四本の柱からなる支援策としたいと考えております。

 沖縄では世界規模でのIT革命に本格的に取り組んだと言えるようなサミットにしたいというのが私の希望です。

(感染症)

 次に感染症について一言申し上げたいと思います。サハラ以南のアフリカにおけるエイズ感染者数は2330万人といわれており,エイズ,結核,マラリアという感染症が今世界各地,特に途上国において多数の尊い命を奪っています。また,結核はアジアを中心に深刻な状況にあります。このことからも明らかなように感染症の問題は途上国における一部の人々の問題には留まらず,経済全体の発展にすら大きな影響を与える極めて重大な問題となってきています。

 私は,感染症の問題は現代の医学的・技術的・財政的資源を動員してG8で協力し取り組みを強化すれば決して解決不可能な問題ではないと信じております。しかし,そのためには「新たなパートナーシップ」を構築しなければなりません。即ち,途上国自身の感染症対策の努力に対し,先進国の政府,NGO,民間企業,国際機関等の全ての関係者が一致協力して支援していく体制をうち立てていかねばならないと考えます。このことは決して容易ではありませんが,沖縄でこうした新たなパートナーシップ構築への第一歩をしるすことが出来れば非常に有益と考えます。

(食品安全)

 最後に遺伝子組み換え作物を中心に議論されてきている食品安全の問題について申し上げれば,この問題について米欧間の意見が対立してきたことは広く知られているところです。遺伝子組み替え作物の扱いについて将来的に科学的な裏付けのある国際的なルールが確立されるべきことについては各国の立場は一致しています。しかし,科学的な分析に時間がかかるのもまた事実であり,科学的な分析が完了する迄の間「疑わしきは罰せず」と考えて規制をすべきではないとの立場をとるか「転ばぬ先の杖」と考えて予防的に規制をすべしとの立場をとるかによって大きく対応が異なります。

 バイオテクノロジーはITと並んで21世紀に向けて人類の繁栄をもたらす鍵であろうと考えます。環境や健康への影響,消費者の関心にも配慮しつつ如何にその大きな可能性を活かしていくべきかという問題は一朝一夕に解決できない非常に大きな問題です。ケルン・サミット以降OECDを中心として様々な検討が行われてきており問題点の整理は進んできておりますので,沖縄で一定の方向性を見出せればと考えております。

 以上,IT,感染症及び食品安全の三つの問題につき簡単に述べさせていただきましたが,本日は,これらの問題を含め,九州・沖縄サミットに向けて我が国が如何に取り組むべきかにつき,皆様方より忌憚のない御意見を賜り,今後の検討の参考とさせて頂きたいと思いますのでどうぞよろしくお願い申し上げます。