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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 九州・沖縄サミットに関する懇談会における小渕内閣総理大臣挨拶

[場所] 
[年月日] 2000年2月28日
[出典] 小渕内閣総理大臣演説集(下),610−614頁.
[備考] 
[全文]

 本日はお忙しい中、九州・沖縄サミットに関する懇談会にお集まり頂き、心より感謝申し上げます。

 昨年十月にも様々な分野の専門家の方々にお集まりいただき、九州・沖縄サミットに如何なる考え方で臨むべきかについて色々な御意見を伺いました。その後我が国は正式に議長国となり、徐々にG8間でも意見交換を始めつつあります。本日は、まず最初に、こうしたG8との意見交換の様子も踏まえて、私が現時点で考えている九州・沖縄サミットのテーマについて概略を御説明し、その上で御出席の皆様方から忌憚のない御意見を賜りたいと存じます。

(総論)

 九州・沖縄サミットは、二〇〇〇年という区切りの年に開催されるのみならず、サミットが始まってから二十五年経ったという意味においても節目の年に開催されます。こうした節目の年に開催される九州・沖縄サミットにおいては、これまでサミットが果たしてきた役割を総括し、二十一世紀に向けてサミットが果たすべき役割について議論していきたいと考えております。

 その際、二十一世紀に全ての人々が一層の繁栄を享受し、心の安寧を得、より安定した世界に生きられるよう明るく力強いメッセージを発出したいと考えています。また、そのようなメッセージを発出するに当たっては、最近の私のUNCTAD出席の機会等に得たアジア諸国からの声も反映させて行きたいと思います。

 サミットが始まって二十五年の間に、サミット参加国が共有している市場経済、民主主義及び人権という価値観が世界に広く浸透しそれを基盤とし人類は大いなる繁栄を享受しました。二十一世紀に向けても引き続きこれらが人類の繁栄の基盤であることには変わりがないものと確信致します。

(IT革命)

 その一方で人類を取り巻く大きな環境の変化の一つとしていわゆる「IT革命」があります。米国経済を見ても分かるようにITが経済に与えるプラスの効果が非常に大きい一方、ITを悪用した犯罪等の問題にも対処しなければなりません。また、いわゆる「デジタル・ディバイド(情報格差)」の問題も生じており、この問題には、先進国と途上国との格差の問題と先進国の国内での格差の問題との二つの側面があります。例えば世界のインターネット利用者の六割が北米にいる一方、アフリカにおけるインターネット利用者は世界全体の一%以下とも言われており、情報の面における格差が経済格差を更に大きくしてしまうおそれがある訳です。IT革命は民間主導で進んできているものであり、サミットにおいてこの問題を正面から議論したことはありませんが、沖縄ではこうした経済社会のあり方を大きく変える流れについて政府の役割のあり方も含め忌憚の無い議論をしてみたいと考えます。

(開発)

 二十一世紀に向けグローバル化・情報化の流れから取り残される途上国の問題も深刻化していく恐れがあり、こうした途上国を如何にグローバルな経済・社会に統合していくかが極めて重要であります。アジア諸国はグローバル化にも適応しつつ「アジアの奇跡」とも、言われるほどの急速な成長を遂げました。他方、アジアの国において経済危機の後に貧困層が増加しておりソーシャル・セーフティ・ネットの整備が必要となっています。沖縄では、これらの点も含め、包括的な観点から開発の問題に取り組みたいと考えています。

(保健)

 その際、開発とかかわる論点として、G8における議論の中で再びその重大さが認識されつつあるのが感染症の問題です。ポリオ等の感染症については既に大きな成果が得られつつありますが、全世界で感染者総数三千三百万人と言われるHIV/エイズの問題は深刻さを増しており、マラリアには毎年三億人以上が感染していると言われています。また、一時は克服されつつあると見られていた結核は、途上国のHIV感染者の最大の死因と言われています。結核は我が国を含めて世界各地で復活しつつあります。こうした感染症の問題についても、九州・沖縄サミットに向けてG8間で議論を開始しているところです。

(文化)

 二十一世紀に向けた人々の一層の繁栄について議論する際、経済や技術の問題ばかりではなく、是非文化についても議論したいと考えています。ケルン・サミットの際にも、自分は、グローバル化の進む世界において文化の多様性が如何に重要かにつき意見を述べさせていただきました。沖縄においても、グローバル化の中で自国の文化が失われつつあると危倶している国々の懸念を踏まえ、G8として、ダイナミズムの源としての文化の多様性の重要性を訴えていきたいと考えております。

(その他)

 以上、九州・沖縄サミットに向けた課題の内幾つかにつき若干敷衍させていただきましたが、九州・沖縄サミットで議論されるテーマは必ずしもこれらに止まらないと思います。

 例えば、グローバル化に伴う国境を越えた犯罪の問題は、G8において非常に重要な問題となって来ています。他方、高齢化の問題については、最近は他のG8諸国でも重要性が認識されるようになっており、特に高齢者の経済・社会への参画を如何に促進するかが大きな関心事項となっています。

 また、昨年のコソヴォ問題を契機に紛争予防の問題については益々関心が高まっております。私は二十一世紀を「平和の世紀」と位置付けておけ、戦争や紛争のない、平和で安定した二十一世紀を建設すべく、G8間でも緊密に協力していきたいと考えております。

(結び)

 九州・沖縄サミットにおいては、以上の点を含めて様々な問題につき積極的に議論し、二十一世紀が全ての人々にとって、より素晴らしい時代となるという希望を世界の人々が抱けるよう、沖縄から明るく力強いメッセージを発出したいと考えています。そのためにも、様々な分野において専門的な知見を有しておられる皆様から忌憚のない御意見を伺いたく、よろしくお願い申し上げます。