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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第25回主要国首脳会議におけるケルン債務イニシアティブに関するG7蔵相のケルン経済サミットへの報告書

[場所] ケルン
[年月日] 1999年6月18〜20日
[出典] 外務省
[備考] 外務省仮訳
[全文]

1.1996年に始まった重債務貧困国の過剰債務を削減するイニシアティブ(HIPCイニシアティブ)は、初めて、国際機関、パリクラブ及び他の二国間公的債権者を債務救済の包括的枠組みにまとめ、これまで肯定的な結果を生み出してきた。それにもかかわらず、最近の進展及び経験からは、多くのHIPCsの外性的衝撃に対する脆弱性が強調されている。新たな千年紀を間近に控えた今こそ、再発する債務問題から適格国が強固かつ永続的に抜け出す展望をはっきりさせるために、本イニシアティブを強化する時である。

2.我々は、従って、改革や貧困軽減へのコミットメントを示している最貧国に対するより早く、深く、広範な債務救済を支持する。実施された場合、HIPCイニシアティブの適用可能性がある国の債務残高は、従来の債務削減措置を実施してもまだ残るとされる現在価値ベース(NPV)での710億ドル余から、追加的に270億ドル削減されることとなる。これらの措置と、G7諸国全体では名目価値で200億ドル余にのぼる政府開発援助(ODA)の債務の免除を合わせれば、債務国の債務支払負担を顕著に引き下げ、財源を優先順位の高い社会的支出に解放することとなる。

貧困削減のための枠組み

3.拡充された債務救済は債務国の政策活動の余地を強化するが、一方で、健全な経済政策の遂行が継続され、新たな非生産的支出は回避されなければならない。同時に、債務救済の便益は最も脆弱な住民層を支援することに充てられることが重要である。従って、債務救済と、継続的な調整、統治の改善、貧困軽減との間に強い関連性がなければならない。財政面でのより良い統治並びに債務救済により得られる資金により、基礎的社会サービスへの重点的支出が可能となるべきである。

4.健全な社会政策の遂行は、債務国による実施が期待される構造調整プログラムと統一されるべきである。新しいHIPCイニシアティブは、国際金融機関(IFIs)により作られる貧困削減のための拡充された枠組みの上に構築されるべきである。これは、発展のために不可欠な医療、教育、その他の社会的ニーズに対して、より多くの財源が投資されることを確保するために重要である。

5.このような趣旨に、世界銀行及びIMFは、「政策枠組書(PFP)」のもとでの支援、特に拡大構造調整ファシリティ(ESAF)のもとでのIMFプログラムを適合させるべきである。これらの努力を統合しつつ、世界銀行及びIMFは、適格国が社会的支出を守るための財政手続きの透明性を高めるとともに、債務救済により得られる資金の効果的使途を定める貧困削減計画を、策定、実施するのを助けるべきである。プログラム策定及び実施の間、市民社会のより広い層との協議が行われるべきである。そのような対話は、必要な調整プログラムが採用されることとなった際、債務国の政府及び市民のオーナーシップを深める基礎となるだろう。

6.我々は、世界銀行及びIMFに対して、貧困削減を目的とする拡充された枠組みのための特定の計画を、年次総会までに発展させることを要請する。

より早い債務救済

7.債務救済の実施は二つのステージにわたり健全な経済政策に基づいて継続されなければならないが、債務国には改善された経済実績を通じて「完了時点」を早めることが認められるべきである。従って、早期に大胆な政策目標を達成すれば、第二ステージを相当短縮することを可能とするようにする(「変動完了時点」)。このメカニズムにおいては、特に貧困削減に焦点を絞りつつ、構造改革をより深め、社会部門への投資を高めるために必要な特定の優先的措置を並べるようにすべきである。

8.過剰債務を解決することに加え、HIPCイニシアティブは、貧困削減のための財源を解放するため、債務支払の資金負担を著しく軽減することに、一層焦点をあてるべきである。債務削減が「完了時点」で実施される以前においてでも、国際金融機関による「暫定期間中の救済」を通じて、適格国の債務支払負担をより早急に軽減すべきである。このことは既にパリクラブの二国間債務について採られており、国際金融機関は同等の措置を講じるべきである。更に、「完了時点」後、国際金融機関は、早い時期の債務支払をより軽減する方法により、債務残高の削減を前倒し的に実施することができるだろう。

9.HIPCイニシアティブのプロセスをより予測可能なものとし、資金繰りのより早期の救済を簡素化するために、債務削減額は「決定時点」において、その時の状況に基づいて、決定されるべきである。このことは、債務救済の程度について確実性を高めることとなるだろう。

10.重債務を負っている多くの最貧国は、未だHIPCイニシアティブのプロセスを開始していない。我々は、国際金融機関とパリクラブに対して、これらの国がプロセスを開始することを助けることを優先するよう要請する。

より深い広範な債務救済

11.HIPCイニシアティブ適格国の債務問題の永続的な解決を達成し、貧困軽減の努力を支援するために、国際社会は財源を解放する新たな措置にコミットするべきである。債務返済が持続可能と見込まれる水準を示す目標値を、再評価し、引き下げるべきである。従って、我々は、債務輸出比率を200〜250%から150%に引き下げることを支持する。更に、その代替となる債務歳入比率について、より焦点を当て、280%から250%に引き下げるべきである。これに伴い、この代替指標のもとでモラルハザードを回避するために設定された、輸出及び歳入の対GDP比率の最低値を示す副基準の変更も提案する。これらの副基準はそれぞれ、40%及び20%から、30%及び15%に引き下げられうる。これら一連の変更は、より深い債務免除をもたらし、債務国の財政状況をより考慮に入れるようにし、HIPCイニシアティブをより多くの国に拡大することとなろう。

12.パリクラブの二国間債権者は、現在HIPCイニシアティブの適格国に対して商業債権について80%までの債務削減を行っているが、我々はより一層の削減を支持する。債務返済の持続可能な水準を達成するために、我々は、90%まで、特に中でも貧しい国に対して、必要があれば個々の事情に応じそれ以上の削減を行う用意がある。HIPCイニシアティブに適格ではない貧困国に対して、パリクラブは、ナポリ・タームの削減率を67%に一本化すること、その他の債務国については、適切な透明性に配慮しつつ債務スワップの上限を引き上げることを検討しうる。

13.多くの二国間債権者は政府開発援助から生ずる債務を免除し、かつ/または、貧困国に対するODAを無償でのみで供与してきたが、他方残っているODA債務は、多くの国において過剰債務の一つの原因となり続けている。従って、我々は、全ての債権国に対し、適格国に関し債務返済を持続可能な水準に収めるのに必要な債務削減に加え、全てのODA債務を、選択方式を通じて二国間で免除することを要請する。我々は、そのような免除がいくつかの債権国に特別の負担となることを認識する。HIPCsが将来新たな債務問題に直面しないことを助けるために、新たなODAはなるべく無償で供与するべきである。

資金措置

14.我々は、これらの変更が、特に国際金融機関に対する債務について相当の費用を伴うことを認識する。しかしながら、本イニシアティブの最終的費用は多くの不確定要素に左右されるものであり、実際の支出は長期間にわたり拡散されるであろう。我々は、国際金融機関が譲許的融資を適切に行う能力を維持することの重要性を認識しつつ、これらの費用を賄う多くの措置を支持する用意がある。

 ・IMFの費用を賄うため、IMFは、適切な準備金の水準を維持する一方で、割増利子収入の利用、特別偶発勘定からの払い戻しあるいは同等の資金措置の可能な限りでの利用、及び、IMFの金準備の1千万オンスまでの、制限的で慎重に段階分けして行う売却益の運用を通じ、自己財源を動員するべきである。

 ・国際開発金融機関は、自己財源の活用を最大化する革新的なアプローチの特定及び活用について既に開始した作業を進めるべきである。

 ・国際金融機関にとっての費用を賄うためには、二国間レベルでの資金拠出が必要となる。我々は、既存のHIPC信託基金への相当額の資金拠出を約束した。我々は、拡大されるHIPC信託基金への資金拠出を誠実に検討する。

 ・これらの費用を賄う上で、我々は、既に供与されたODAや過去のODA債権の減免の規模と質を含む全ての関連事情を考慮し、また、GDPと比較してODA債権残高が多額の国の貢献を認識しつつ、ドナー国間の適切なバードンシェアリングを要請する。

15.この枠組みに基づいて、我々は、国際金融機関及びパリクラブに対して、より早く、深く、より広範な債務救済を実施することを要請する。具体的な提案は、IMF及び世界銀行の次回年次総会の時までに合意されるべきである。