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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第25回主要国首脳会議におけるG8外相会合

[場所] ケルン,「ギュルツェニッヒ」
[年月日] 1999年6月10日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

総括

1.グローバリゼーションに象徴づけられる新たな千年紀を目前に控え、また、平和、安定及び繁栄に対する未曾有の機会のみならず、継続的な課題をも認識し、我々は、G8及び世界に共通する多くの関心事項について議論した。我々は、以下の結論を得た。

2.20世紀の終わりにあたって我々が直面する主要な課題を特定しようとしつつ、我々は、以下の点を認識した。

 ・今後の世代を戦争の惨禍から救うという、国際連合加盟国の諸国民の主たる目標は、いまだ達成されていない。

 ・国際的な安定は、地域的、民族的及び一国国内の紛争によって損なわれている。主権国家の崩壊と分裂は、国際の平和と安全に対する深刻な危機となっている。

 ・民主主義は、世界中で重要な進展を遂げたが、全ての人々が民主的な社会で暮らす機会を得ているわけでは到底なく、また、いくつかの地域においては、民主化のための改革の速度は鈍化している。

 ・人権は、その意義をより広く承認されてきているが、世界のどこにおいても人々が保証された権利として人権を主張できるわけでは到底ない。

 ・全ての人が、特に武力紛争に巻き込まれた人が、国連憲章に盛り込まれた保護を受ける権利を享受しているわけではない。

 ・小火器から大量破壊兵器及びその運搬手段に至る武器の入手可能性の高まりは、国際的な安全と安定を増進させることを目的としてこれらの武器を削減し管理するという国際的な努力に逆行する。

 ・テロリズム、組織犯罪及び薬物の密輸は、我々の努力及び国際的な協力にもかかわらず、引き続き我々民主主義国と国際的な安定を危険にさらしている。

 ・市場の統合並びに人々、情報、モノ及び資本の未曾有の流動性は、経済成長、生活水準の向上、共有された考え方、価値観及び文化に対する理解を生み出し、また、人及び社会インフラに投資することの誘因となってきているが、グローバリゼーションはまた、先進国及び発展途上国双方において、新たな危険及び固有の脆弱性をもたらしている。

 ・国際金融危機は、社会の一体性を損ない、また、グローバリゼーションから生ずる社会的利益を確保し増進する我々の力を試している。

 ・持続可能な開発は、未曾有の貧困削減と環境保護の進展とともに、急速に定着しつつあるが、多くの人々が引き続き貧困の中で生活しており、深刻な環境劣化も継続している。

3.人間の安全保障

 個人としてであれ集団としてであれ、人々の効果的な保護は、引き続き我々の中心的課題である。G8は、人間の安全保障に対する多くの脅威の根底にある原因と闘う決意であり、また、全ての個人の基本的権利、安全及び生存そのものが保障されるような環境を創出することにコミットする。我々は、人間の安全保障にとっての非常に重要な基礎は、引き続き民主主義、人権、法の支配、良い統治及び人間開発であることを強調した。

 我々は、小火器の拡散、地雷によってもたらされる危険、国際テロリズム及び国際犯罪、薬物及び感染症、貧困、経済的困窮並びに圧制等を、人類に対する最も深刻な脅威として認識した。これらの脅威に対する効果的行動として、G8は、以下を支持することにつき意見の一致をみた。

 ・武力紛争下での、文民の保護及び児童の権利の保護  ・ 不法な小火器の拡散との闘い

 ・通常兵器の移転の管理

 ・地雷に関するオタワ条約の実施

 ・組織犯罪、薬物の密輸及びテロリズムとの闘い(テロ資金供与防止条約及び核テロ防止に関する条約を前進させることによることを含む)

4.紛争予防

 紛争の予防及び管理の改善のための我々の展望の中心にあるのは、改革された、効果的かつ効率的な国際連合である。国連憲章の規定並びに国際法の原則及び規範の全面的な尊重が基本である。民主主義、人権及び法の支配を強化することもまた、極めて重要である。

 ・新たな千年紀を目前に控え、我々は、議長国ドイツのイニシアティヴの下、紛争予防及び紛争解決につき議論するため、1999年12月にベルリンにおいて会合する。

5.不拡散及び軍縮

 我々は、軍縮のプロセスを更に推進すること及び国際的な不拡散体制を一層強化すること、並びに効果的な輸出管理メカニズムを確保することに引き続きコミットしている。我々は、インド及びパキスタンの核実験の影響を含め、南アジアにおける悪化しつつある状況を引き続き注意深く見守る。国連安保理決議1172の規定を想起しつつ、我々は、インド及びパキスタンに対し、両国が着手した信頼醸成措置を実施するとともに、優先事項として、包括的核実験禁止条約(CTBT)に加入するとの、また、この決議の残りの規定を遵守するとの意図表明を実行に移すよう呼びかける。

 軍縮及び不拡散のための協力の分野において、我々は、適切に資金的手当のなされた拡大脅威削減プログラムを含め、G8諸国及びその他の国が現在計画し及び取り組んでいる全てのイニシアティヴを歓迎する。

 我々は、プルトニウム処分を含め、防衛目的にとり不要とされた兵器級核関連物質の安全かつ効果的な管理の必要性を認識し、この問題についての我々の作業を継続することに引き続きコミットするとともに、この目的のために行われている具体的なイニシアティヴを強く支持する。我々は、核兵器用核分裂性物質生産禁止条約の交渉の早期開始に向けて努力するとの我々のコミットメントを確認する。

 我々は、生物兵器禁止条約を強化するための法的拘束力ある議定書に関する交渉の早期かつ成功裡の集結を確保することを引き続き決意しており、また、化学兵器禁止条約の普遍的な遵守及び実施を働きかける。

6.地域問題

 1999年5月6日、我々は、ボンのペータースベルグにて会合し、コソヴォにおける暴力と抑圧を終了させ、全ての難民と強制移住させられた人々のコソヴォへの安全で自由な帰還 を可能にするために欠くべからざるものと我々が認識する一般的原則につき意見の一致を みた。これらの原則を基礎とし、欧州連合を代表するマルッティ・アハティサーリ・フィ ンランド大統領及びヴィクトル・チェルノムイルジン・ロシア連邦大統領特別代表は、1999年6月2日ベオグラードにおいて、スロボダン・ミロシェヴィッチ大統領に対し和平案 を提示し、これがユーゴスラヴィア連邦共和国政府及びセルビア共和国議会によって受け 入れられた。このようにして創出されたモメンタムは、1999年6月8日、ケルン「ギュルツェニッヒ」における会合において、我々が、公正で実行可能な政治的解決の基礎を提供する国際連合安全保障理事会決議の準備に成功することを可能とした。

 我々は、1999年6月9日の軍事技術協定(MTA)を歓迎し、早期の停戦及びセルビア軍のコソヴォからの検証された撤退の開始を期待する。これにより、コソヴォにおける軍事行動の停止、国際連合安全保障理事会決議の即時の採択並びに国際的な文民及び安全保障プレゼンスの急速な導入が可能となろう。これにより、ここ数週間行われてきた、コソヴォにおいて暴力を終了させ、平和を回復するための集中的な努力が実を結ぶこととなった。我々は、MTAの当事者に対し、その規定を完全に遵守するよう呼びかける。

 現在の優先事項は、難民及び強制移住させられた人々の故郷への自由で安全な帰還のための条件を創出するため国連安保理決議の規定が迅速に実施されるよう確保することである。我々は、コソヴォにおける全てのセルビア人居住者及びその他の少数民族の居住者に対し、その地に留まり、また民主的で多民族のコソヴォの創出に寄与するよう呼びかける。コソヴォにおける文民プレゼンスは、提案されている南東欧安定協定と整合的な形で、自治権のあるコソヴォの、更にはより広く地域の全ての民族のために、安全、民主主義及び経済再建を創出するための非常に重要で緊急の役割を担うこととなろう。

 我々は、国際的なドナー国・機関に対し、(構想された)安定協定のメカニズム、並びに決定的な調整役を担う欧州連合及び世界銀行との緊密な協力の下、出来る限り早期に国際会議において会合するよう要請する。この会議は、南東欧地域において影響を受けた諸国に対し積極的な国際的支持及び連帯の強いシグナルを送るため、南東欧の再建と経済安定化のための全ての必要な措置を打ち出すべきものである。我々は、欧州連合が、コソヴォの復興と再建のための目下の必要に対処するため、できる限り早期に世界銀行とともにドナー会合を開催することにより、このプロセスを開始する用意があることを歓迎する。

 我々は、領土と平和の交換原則、国連安保理決議242、338及び425並びにマドリッド合意及びオスロ合意に基づいて、交渉を通じた包括的な中東和平に対する我々の全面的な支持を再確認する。我々は、ワイ・リバー合意の完全かつ即時の実施、恒久的地位に関する交渉の即時の再開、及び交渉の結果を害するような一方的行為の回避を呼びかける。

 我々は、イラクが安全保障理事会の全ての関連する決議を遵守しなければならないと信じる。我々は、軍縮、人道的支援及びクウェイト人行方不明者の扱いに関するパネルの報告書に基づいて、パネルの報告書の勧告を基礎とし、全ての関連する国連安保理決議に基づく包括的な戦略を策定し採択するよう安全保障理事会に対し呼びかける。

 我々は、初の地方選挙の実施を含むイランにおける最近の政治面での進展、及びイスラム諸国会議機構(OIC)におけるイランのリーダーシップを歓迎する。我々は、イランとのより緊密な関係を望み、また我々は、イランに対し、中東和平プロセスについてより前向きなアプローチをとるよう要請する。我々は、イランに対し、バハイ教徒及びその他の社会集団を含め、全ての市民の人権を確保するための更なる措置をとり、また、全ての形態の暴力及びテロリズムに対し、大量破壊兵器及びそれらを運搬するためのミサイルを製造しないよう呼びかける。

 我々は、最近のインドネシアにおける選挙を歓迎するとともに、この選挙が国内の緊張の緩和につながることを希望する。我々は、改革プロセスが国民全体に資するような持続的発展を促すものと信じ、このプロセスを引き続き支持していく。また、我々は、1999年5月5日に国連事務総長、ポルトガル外相及びインドネシア外相により署名された東チモールの将来に関する合意を歓迎する。我々は、全ての関係者に対し、暴力の速やかな終了及び国連監視員の早急な展開を実現するよう要請する。我々は、この永年の問題の、東チモールに受け入れ可能な条件での成功裏の解決を期待している。

 我々は、大韓民国の北朝鮮に対する包容政策を支持し、南北対話の再開を歓迎する。我々は、合意された枠組み及び朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)を引き続き支持し、その作業に対するより広範な国際的支持を促す。我々は、北朝鮮のミサイル実験及びミサイル技術の輸出を懸念し、北朝鮮に対し、不安定化を招く行動を避けるよう期待する。我々は、北朝鮮に対し、安全保障及び人道上の問題について建設的に行動するよう要請する。

 我々は、アフガニスタンにおける各派間の交渉の中断及び戦闘の激化を懸念する。我々は、各派に対し、国連の下での交渉を再開するよう緊急に呼びかける。

 我々は、ミャンマー/ビルマにおける民主主義の完全な回復と人権の尊重を臨む。

 我々は、管理ラインを超える武装勢力の侵入によって引き起こされた、カシミールにおける継続する軍事的対立を深く懸念する。我々は、インド及びパキスタンに対し、管理ラインを尊重し、戦闘の即時停止のために努力し、ラホール宣言の精神の下で交渉のテーブルに復帰するよう呼びかける。

 我々は、多くのアフリカ諸国において、経済改革、持続可能な開発、民主主義及び良い統治の分野において、この10年間でなされた進展を歓迎する。特に我々は、ナイジェリアの民政と民主主義への復帰を心より歓迎し、強く支持する。我々は、ナイジェリアに対し、経済及び制度の改革に向けた早期の具体的な措置をとり、また、経済成長と繁栄を促進するために不可欠な、開かれた、透明な制度を創出するよう促す。我々は、アフリカにおける武力紛争の拡大、アフリカの紛争地域への武器及び軍備品の大翌フ流入{前5文字ママ}、並びに、その密輸が武力活動をあおるような資材を管理している非国家団体のこれら紛争における増大する役割を深く懸念する。我々は、国際社会に対し、アフリカにおける紛争を予防するための努力を強固にするよう要請し、アフリカ統一機構(OAU)及び域内地域機構と協力しつつ行われる国連の更なる努力を期待する。

 特に我々は、コンゴー民主共和国と大湖地域全体において現在進行中の紛争、アンゴラにおける内戦の再発、並びにエティオピアとエリトリアとの間、スーダン及びソマリアで継続している紛争を懸念し、ギニア・ビサオ、ニジェール、コモロにおける正統政府の転覆を非難する。我々は、シエラ・レオーネにおける紛争の平和的解決の強化を支持する。国際連合安全保障理事会の関連する決議が完全に尊重されることが死活的に重要であり、我々は、アフリカ諸国の発展及びアフリカの大部分の安定と安全を脅かす紛争を解決するための全ての努力を促す。

 我々は、国連安全保障理事会の関連する決議を基礎として、サイプラス問題の包括的解決を目指す国連の努力に対する我々の支持を改めて表明する。我々は、前提条件をつけずに包括的交渉を始めるよう双方の指導者に呼びかけることをG8首脳が国連事務総長に対し要請するよう勧告する。我々は、全ての関係者に対し、サイプラスの緊張を高め、公正かつ永続的な平和を促進する努力を混乱させうるいかなる措置も回避するよう要請する。

7.強靱な経済のための社会的・政治的基盤

 民主主義及び人権、法の支配並びに良い統治が広く確立され、また、地域協力に効果的に参加している国は、予想外の金融・経済危機の影響に対し、一般的により強靱で脆弱性が低いということは、経験の示すところである。にもかかわらず危機が進行する場合には、その負の影響を緩和するための効果的な社会的支出を維持することが不可欠である。我々は、危機へのシステム上の脆弱性を減少させるための、国際金融機関、国際連合及びその他の国際機関並びに援助国による増大しつつある協力を通じたキャパシティ・ビルディングの促進のための努力を賞賛する。我々はまた、ソーシャル・セイフティ・ネット及びその他の社会インフラに関する最良の実践の共有を促す。我々は、国際金融機関に対し、これらの分野において途上国が改善を図ることを支援する努力を増進し、また、脆弱なグループを支援すること及び効果的な発展のための基盤を改善することを視野に入れ、社会政策において最良の実践に関する作業を継続するよう要請する。

8.非同盟運動

 我々は、非同盟運動(NAM)のトロイカ三ヶ国(南アフリカ、コロンビア及びバングラデシュ)代表の外相との間で、我々の協力を強化するために、広範な地球規模の問題について実り多い意見交換を行った。