データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第24回主要国首脳会議における地域情勢に関する首脳声明

[場所] バーミンガム
[年月日] 1998年5月15日
[出典] 外務省
[備考] 外務省仮訳
[全文]

インドネシア

 我々は、インドネシアにおける情勢、特に、今般の暴力の高まりと人命の損失を深く懸念する。我々は、死者の発生を遺憾とし、当局に対し、最大限の自制を示し、殺傷力の行使を控え、個人の人権を尊重するよう求める。我々は民衆に対し、意見を平和的に表明するよう要請する。暴力の高まりを回避することが不可欠である。

 我々は、経済危機のもたらした困難を認識している。我々は、国際金融機関との間で合意され、支援を受けている経済改革プログラムは、信認と成長の回復のための唯一の方法であると信じており、政府がこれを履行することを完全に支持している。しかし、経済改革が成功し、これに対し国際的支持が得られるには、十分な政治的・社会的安定が必要であろう。我々は、改革を支援し困難を軽減するため、国際金融機関と共同で、取組みを継続する。

 現在の社会的騒擾は、危機を解決するためには、政治的及び経済的改革が必要であることを示している。インドネシアでは政治的改革の必要性は広く認識されている。我々は、当局に対し、インドネシアの民衆の願望に応える対話を開始し、必要な改革を行うことにより、迅速に対応するよう慫慂する。

ユーゴスラビア連邦共和国(FRY)/コソボ

 コソボにおいて暴力が継続していることは、新たなバルカン戦争の恐怖を復活させている。この地域は既にあまりに多くの流血をみている。コソボ問題の政治的解決は、同地域の全ての人々の平和と福祉にとって死活的に重要である。我々は、5月15日に行われたミロシェヴィッチ大統領とルゴヴァ氏との会談が、肯定的な第一歩であると考える。ミロシェヴィッチ大統領が、コソボの将来の地位を含め、コソボ問題の解決の模索にあたり個人的責任を負うことが特に重要である。我々は、双方に対し、現在開始された対話が、緊張の緩和と暴力の停止のための具体的措置の採用に早急に至ることを確保するよう求める。コソボの地位問題の解決は困難であるが、ユーゴスラビア連邦共和国(FRY)に住む人々すべてのために不可欠である。

 欧州の平和と安定は、国境が不可侵であり、また、政治的変化は平和的手段によってもたらされねばならないとの原則に依拠している。我々は、いかなる側に対しても、政治的目的を達成したり、また、反対意見を圧殺するためにテロリズムと暴力を用いることを拒否する。この地域の諸国は、危機の非暴力的解決に貢献すべきである。すべての諸国は、難民及び避難民問題に対処するに当たり協力すべきである。

 我々は、ゴンザレス・ミッションとの協力の重要性を強調する。我々は、FRYの国際社会への完全な統合に向けた明確かつ達成可能な路線を促す用意がある。しかしながら、仮にベオグラードが、最近の進展を踏まえることなく、真の政治プロセスが進行しなければ、その孤立化は深刻化する。

 5月31日のモンテネグロの選挙は、自由、公正かつ民主的基準を満たしたものである必要があり、その結果はすべてのものにより尊重されなければならない。

ボスニア・ヘルツェゴヴィナ

 我々は、ボスニア・ヘルツェゴヴィナにおいて最近和平履行に進展がみられたことを歓迎し、和平プロセスを推進する上での上級代表の積極的な役割を支持する。本年は、ボスニアにおける和平の安定化、特に、難民の帰還及び9月に予定されている全国的な選挙による民主的発展にとって極めて重要な年である。ボスニアの人々は極めて困難な状況の下で、多くのことを成し遂げたが、我々は、ボスニアの指導者が、自国のすべての市民にとって安定した豊かな未来を構築するために一層努力することを期待する。

中東和平プロセス

 我々は、和平プロセスが、既存の合意が履行されることなく停滞し続けていることにつき深く憂慮している。我々は、和平プロセス再活性化のためのあらゆる努力を慫慂する。我々は、イスラエルの第二次再展開を含む、すでに米国より提示された建設的かつ現実的な提案のパッケージについて両当事者の合意を得るための努力を強く支持する。我々は、すべての当事者に受け入れられれば最終的地位交渉の再開につながることとなるこれらの提案に対しパレスチナ側が原則として合意していることを歓迎する。我々は、イスラエル及びパレスチナの指導者に対し、最終的地位交渉を先取りし信頼を阻害するような一方的措置をとることを避けるよう要請する。我々は、包括的和平に向けて、イスラエル、パレスチナ、シリア、レバノンのすべての当事者と引き続き協同する決意である。イスラエル・パレスチナ交渉の再開は地域における信頼を醸成し、和平プロセス全体のモメンタムを回復するのに資するであろう。他方、交渉の中断が継続すれば、地域全体の安全保障に深刻な結果をもたらしかねない。

インドの核実験

 我々は、インドが5月11日及び13日に核実験を実施したことを非難する。こうした行動は、CTBTの149の署名国により表明された核実験を行わないとの意思に逆行し、世界的な不拡散体制を強化しようとする努力に逆行し、また、地域的及び国際的な平和と安全を増進しようとする措置に逆行するものである。この行動は、各国政府から及びより広範に、即座の国際的な懸念と反対をもって受け止められている。我々は、世界的な不拡散体制の基本であり、核軍縮推進の不可欠の基礎となっている核兵器不拡散条約(NPT)及び包括的核実験禁止条約(CTBT)に対する我々の完全なコミットメントを強調する。我々は、南アジア及びその他地域における核及びミサイル拡散の危険が増大したことに深い懸念を表明する。我々は、インド及び地域のその他の諸国に対し、これ以上の核実験や、核兵器及び弾道ミサイルの配備を行わないよう求める。我々は、インドに対し、国際世論の大勢に従い、無条件にNPT及びCTBTに従い、核兵器に必要な核分裂性物質の生産を禁止する世界的な条約交渉に参加するよう求める。我々それぞれとインドとの関係はこれらの展開により影響を受けた。我々はインドとの直接の交流及び関係においてこのことを明らかにしており、我々は他の諸国にインドに対する懸念を同様に示すよう要請する。我々は、パキスタンに対し、今次核実験実施に際して最大限の自制を保つよう、また、国際的な不拡散規範に従うよう要請し、これを慫慂する。