データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第24回主要国首脳会議におけるG7議長声明

[場所] バーミンガム
[年月日] 1998年月15日
[出典] 外務省
[備考] 外務省仮訳
[全文]

1.G7諸国の元首又は首相及び欧州委員会委員長は,本日5月15日に会合し,世界経済及び金融情勢並びに世界金融システムを強化するに当たって我々が直面する課題について議論した。

世界経済

2.我々は,我々自身の経済における最近の動向及び世界のその他の地域における経済の動向について議論した。我々自身の経済において,我々は,持続的なインフレなき成長を達成するために協力する。そのような成長及び安定は,我々自身の経済にとってのみならず,世界の他の経済,特にアジアの回復しつつある経済にとっても,かつてないほど重要である。

3.我々はまた,我々自身の経済の各々が直面する課題が依然として異なっていることに意見の一致をみた。

 ・米国,カナダ及び英国は,引き続き力強い成長を享受している。これらの諸国においては,課題は,あり得べきインフレ圧力の再燃の防止に備えつつ,また,米国においては国内貯蓄を増加させつつ,成長を持続させることである。

 ・ドイツ,フランス及びイタリアにおいては,経済成長は,昨年勢いを得,現在一層強固になりつつある。これが内需によって一層支えられることが重要である。構造改革を継続することも,成長及び雇用の長期的見通しを改善するために不可欠である。

 ・我々は,先月発表された日本政府の大規模な経済政策パッケージ及びその実施に向けた進展を強く歓迎する。これは,信認を回復し長期に持続する内需主導の成長を達成するためである。日本は,不良資産問題を断固として解決することを含め金融システムを強化する意思を説明すると共に,構造改革の促進の重要性を強調した。

4.我々は,5月2日になされた欧州経済通貨統合の創設に関する決定を歓迎する。我々は,国際通貨システムの安定に寄与する成功裡のEMUに期待する。健全な財政政策及び構造改革の継続に対する欧州連合諸国のコミットメントは,EMUの長期的成功並びに成長及び雇用に関する見通しの改善にとっての鍵である。

5.我々は,世界のすべての国が我々諸国の成長及び安定に関心を有していることを認識する。同様に我々は,その他の諸国の経済の持続的成長及び安定に関心を有している。我々は,アジア危機によって影響を受けた新興市場における健全な政策の実施の進展に勇気づけられる一方,ここ数日の出来事は事態が依然として脆いことを示している。特に,我々は,健全な経済及び金融政策の追求による世界の安定のためになされた貢献を歓迎する。更に,いくつかの新興国及び移行国によるそれらの経済政策を強化するための迅速な行動は,波及効果の制限に役立っている。すべての国における健全なマクロ経済政策,開かれた市場及び継続的な構造改革は,世界の長期的安定にとって不可欠である。最近の経験は,良いパブリック・ガヴァナンスの重要性をも強調する。

世界金融システムの強化

6.グローバリゼーションは,すべての国及び人々に莫大な経済的利益をもたらす力を有している。しかしながら,アジアの金融危機は,世界金融システムに潜在的な弱さと脆弱性があることを明らかにした。特に我々は,そのような危機が起こった場合の深刻な人的及び社会的影響を認識している。したがって,我々は,世界の金融構造を強化し,そのような危機が将来再発する危険を減少させ,また,それが起こった場合の衝撃に対してより強靱なシステムを構築するために措置をとることが緊急に必要であると考える。

7.これまでのサミットもまた,世界金融システムを強化する方途に取り組んできており,これは,改革のプロセスの継続とみなされるべきである。個々の国にとって,もし安定を達成しようとするならば,健全な経済政策,開かれた市場及び良い統治を追求することが不可欠である。同時に我々は,これらの健全な政策を促進し,将来の失敗を防止するために支援し,かつ,危機が起こった場合に対応するに当たって,国際金融機関(IFIs)が果たす中心的役割を確認する。それらの対応は,最近の諸問題に取り組む上で極めて重要であったし,我々は,将来におけるそれらの役割を強化する方法を見いださねばならない。

8.我々は,世界の金融構造を強化するための方途に関する我々の蔵相の報告を歓迎し,承認する。彼らの構想の中で,我々は,以下について特に重要と考える。

透明性の向上

 ・例えば特別データ公表基準に同意し,同基準を満たさないメンバーを公に特定することにより,より正確かつアクセス可能な金融データを提供するようIMFメンバーを慫慂すること,

 ・財政政策の透明性における良好な実践に関するコードの採択を歓迎し,その促進を慫慂すると共に,IMFが類似の金融及び通貨政策における良好な実践に関するコードを検討することを支持すること,

 ・IMFメンバー及びその政策について,メンバーの政策決定及び脆弱性に関するIMFの懸念を含め,より多くの情報をIMFが公表し,また,IMF自身の意思決定に関するより多くの情報も公表するよう慫慂すること。

世界的な資本フローに対する世界中の国の準備への支援

 ・秩序立った資本勘定の自由化を進める最善の方法に関する助言を提供することと共に,各国が国内政策及び機構に関し必要な強化を行うことにより支援すること,

 ・IMFに対して,情報を提供し,市場の安定を促進するため,資本フロー,特に短期フローを如何に効果的に監視するかについて検討するよう求めること。

国内金融システムの強化

 ・すべての国が効果的な銀行監督に関するバーゼル・コア・プリンシプルを採用し,実施するよう慫慂すること,

 ・コーポレート・ガヴァナンス及び会計原則に関する国際的なコード及びガイドラインを策定すること,

 ・国内の金融監督及び規制制度に関する多角的サーヴェイランスのシステムを構築すること。我々の蔵相は,その方途につき検討することとなろう。また蔵相は,関連する国際機関に対し機構改革のための選択肢を含め,この分野における一層の協力を達成するための方途に関する提言を策定するよう要請した。

モラル・ハザードを減少するために民間セクターが自らの決定に十分な責任をとることの確保

* 民間セクターが金融危機の解決に時宜を得た適切な役割を果たすよう確保するための枠組みを構築すること,

* 危機の場合において,債務国が適切な調整政策を採用している場合に,債務の一時的未払いが生じている状況を含め,延滞に陥っている国に対して,融資を検討する用意があることを示すようIMFに対し要請すること,

* 国際的な債券の発行の際に,債務不履行の場合に再交渉を可能とする条項を慫慂すること。

9.我々は,我々の蔵相に対し,新興市場及び他の諸国と協力し議論しつつ,国際金融機関及び民間セクターと共にこれらの構想を推し進めるよう求める。我々はまた,我々の蔵相に対し,既存の世界的な議論のためのフォーラム,特にIMF暫定委員会においてより深くかつより効果的な対話が可能となるよう同フォーラムを如何に拡充できるかについて更に検討するよう求める。我々は,これらすべての問題に関する確固たる提案が本年後半に決定のために提出されることを希望する。また,我々は,我々の蔵相に対し,その進展に関し遅滞なく報告するよう要請する。

ウクライナ

10.我々は,ウクライナと力強い財政及び経済改革を実施するために協力するとの我々の決意を新たにした。我々は,ウクライナ政府及び議会がIMFと拡大信用供与ファシリティーについて合意するために必要な措置をとることを期待する。

11.我々は,G7とウクライナとの間の了解覚書(MoU)の完全実施に対する我々のコミットメントを再確認した。加えて,我々は,石棺実施計画の資金調達に関し,主要な努力を行っている。我々は,MoUの下で計画されたG7及び他の国際的なドナーからの資金調達が,2000年までに予定通りチェルノブイリの閉鎖が行われるか否かにかかっていることに留意する。チェルノブイリ第3号炉の安全性については既に懸念が生じている。

12.我々は,エネルギー・セクターに対する財政復興計画を採択するとのウクライナ政府の決定を賞賛する。我々は,ウクライナ政府がエネルギー・セクター及びその他のセクターへの投資を財政的に実行可能なものとするのに必要な根本的な改革を実施することを期待する。財政復興計画が実行されるに伴い,我々は,EBRDがクメルニツキ第2号炉及びロブノ第4号炉(K2/R4)プロジェクトのレヴューを速やかに完了すると共に,EBRDの財政の健全性の要請を尊重しつつ,成功裡の融資パッケージに実質的に貢献することを期待する。このことは,他の資金調達と同様,もちろんウクライナ政府がMoUの下での約束を履行するか否かにかかっている。