データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第18回主要国首脳会議における政治宣言,新しいパートナーシップの形成

[場所] ミュンヘン
[年月日] 1992年7月7日
[出典] 外交青書36号,443−447頁.
[備考] 外務省仮訳
[全文]

1.我々7カ国の首脳及び欧州共同体の代表は,東西対立の終焉をもたらすとともに世界の政治地図を根本的に塗り変えた民主革命を支持する。我々が前回会合して以来,劇的な一層の変化が民主主義,市場原理に基づく経済及び社会正義に向けての進歩を加速した。ついに再統合された欧州のみならず,アジア・太平洋地域その他の世界の地域においても,責任を共有する新しいパートナーシップへの道が開かれた。我々は,協力が対立にとって代わる時代に入りつつある。

2.この新しいパートナーシップは,様々な形態をとることとなろう。東西間でこれまで敵対してきた諸国は,経済,政治及び安全保障問題につき広範に協力することとなろう。我々は,同種の協力が各地域内及び各地域間において世界中で発展することを期待する。

我々は,先進国として,開発途上国に対して継続的な支持及び支援を提供する。国境を越えた問題,特に大量破壊兵器の拡散問題は,国際協力を通じてしか解決できないと信じる。政治的及び経済的自由,人権,民主主義,正義並びに法の支配という原則に基づき共通の価値観が根付くにつれて,パートナーシップが発展することとなろう。我々は,政治的自由と経済的自由とが密接に結び付いているとともに,相互に強化し合うものであり,それゆえ,良き統治及び人権の尊重が経済援助を供与するに当たっての重要な基準であると信じる。

3.中欧及び東欧諸国並びに旧ソヴィエト連邦諸国は,今や前例のない機会をつかみ取ることができる。他方,これらの諸国は,多大な課題に直面してもいる。我々は,これらの諸国が民主的な社会と政治的及び経済的自由の実現に向けて進むに応じ,これらの諸国を支援する。我々は,これらの諸国が改革計画のための安定的な憲法その他の法制を制定することを奨励するとともに,軍事部門に向けられる公共支出の割合を大幅に削減するこれらの諸国の努力を賞賛する。

4.欧州共同体の12ヵ国によりマーストリヒトにおいて署名された条約は,欧州連合に向けての歴史的な一歩である。この条件の実施は,欧州大陸における政治的安定を増進するとともに,協力の新たな機会をもたらすこととなろう。

5.我々が前回会合して以来,北大西洋協力理事会の設立は,北大西洋同盟の中欧及び東欧諸国並びに旧ソヴィエト連邦諸国との協力関係を強化した。また, 西欧連合も中欧及び東欧諸国との関係を強化しつつある。

6.民族主義の再燃と民族間の緊張に起因する新たな不安定と紛争も,国際協力の必要性を浮き彫りにしてきた旧ユーゴースラヴィアの全土,旧ソヴィエト連邦の一部その他の世界の地域において,地域共同体及び領土をめぐる紛争は,武力による解決が図られておりこのため無辜の人々が命を落とし,破壊に遭い,大規模な避難を余儀なくされている。

7.欧州安全保障・協力会議(CSCE)のすべてのコミットメントを完全かつ即時に実施することは,欧州の安全保障と安定を構築する上で不可欠である。CSCEのすべての参加国は,紛争を平和的手段によって解決し,すべての少数民族に対する平等の待遇を保証しなければならない。我々は,CSCEヘルシンキ首脳会議に対し,紛争の予防,危機管理及び紛争の平和的解決に関するCSCEの能力を強化するための決定を行うよう要請する。我々は,また,ヘルシンキ首脳会議において安全保障協力フォーラムが設立されることを期待する。この点に関し,我々は,CSCEの責任の下で実施される平和維持活動に対する支援に関するNATO外務大臣会合及び西欧連合閣僚会合が最近行った決定を歓迎する。我々は,共通の関心事項に関する日本とCSCEとの間の定期的かつ生産的な対話の進展を支持する。

8.アジア・太平洋地域においては,アセアン拡大外相会議,アジア・太平洋経済協力(APEC)等の既存の地域的枠組みが平和と安定を促進する上で重要な役割を有する。我々は,カンボディアの現状に深刻な懸念を有しており,すべての関係当事者に対し,和平プロセスが成功裡に完了するよう,国連カンボディア暫定行政機構(UNTAC)を支援するとともにいまだ脆弱なこのプロセスを支持していくことを求める。

9.我々は,法と正義の原則に基づき外交政策を遂行するとのロシアの公約を歓迎する。我々は,このロシアの公約が領土問題の解決を通じた日ロ関係の完全な正常化の基礎となるものと信じる。

1.東西対立の終焉は,核兵器その他の大量破壊兵器及びこれらの兵器を運搬する能力のあるミサイルの拡散を抑制するための歴史的な機会を提供する一方で,この抑制を緊急に図る必要性を強める。我々は,1995年の再検討会議における核兵器不拡散条約(NPT)の無期限延長はこの過程における重要な一歩となるものであり,かつ,核兵器の軍備管理及び削減の過程は継続されなければならない旨の確固たる意見を有している。また,地域的安全保障を進める努力を通じても,核拡散の動機は減少されよう。

2.我々は,NPT非締約国に対して参加を求める。我々は,ウクライナ,カザフスタン,ベラルーシその他のロシア以外の旧ソヴィエト連邦諸国が非核兵器国としてNPTに早期に加入することを期待する。我々は,二国間の接触並びにモスクワ及びキエフにおける国際科学技術センターを通じ,大量破壊兵器に関する専門知識の拡散を阻止するための努力を継続する。我々は,核物質その他機微な物品及び技術に関する効果的な輸出管理体制が旧ソヴィエト連邦において確立されることを最も重視するとともに,その実現に資するために研修及び実務的な支援を提供する。

3.世界は,核物質に保障措置を適用させるため,及び核兵器の移転又は核兵器の不法な若しくは秘密裡の生産を発見しかつ防止するための可能な限り最も効果的な行動を必要としている。今後の原子力協力に当たっては,NPT又はこれと同等の既存の国際的約束への加入を条件とするとともに,最近原子力供給国グループにより定められたとおり国際原子力機関(IAEA)のフルスコープ保障の採用を条件とすることとなろう。IAEAの既存の保障措置制度を強化するため,及これを達成する一つの方途として未申告であ疑惑のある原子力施設に対する効果的な特別査察を行うために必要な手立てをIAEAに与えなければならない。我々は,IAEAが拡散問題に係る未解決の事案を国連安全保障理事会に付託することを支持する。

4.我々は,不拡散に関するコミットメントに従って,原子力の平和的利用技術の利益を他のすべての国と分かち合う意思を有することを再確認する。

5.我々は,ミサイル関連技術輸出規制(MTCR)のガイドラインを採用するようすべての国に対して引続き奨励するとともに,あらゆる種類の大量破壊兵器を運搬する能力を有するミサイルに対してこのガイドラインの適用範囲を拡大する旨のMTCR全体会合で最近とられた決定を歓迎する。我々各自は,通常兵器の移転に係る透明性と協議を強化し及び通常兵器の移転の抑制を奨励するよう,引き続き努力する。国連軍備登録制度に対する完全かつ適時の情報提供は,このような努力の重要な要素である。

6.我々は,国際の安全に対する脅威を減少させるため,適当な場において機微な品目の輸出規制の分野のおける協力を引き続き強化する。こうした努力の重要な要素は,このような輸出規制を改善しかつ調和させるための非公式な情報交換である。

7.旧ソヴィエト連邦によって署名された軍備管理条約は,特にSTART及びCFE条約は,発効させなければならない。CFE条約の完全な実施は,欧州における新たな協力的安全保障の枠組みの基礎となるものである。我々は,6月に米国とロシアにより締結された戦略核兵器に関する画期的な追加合意を,より安全で安定した世界に向けての新たな大きな前進として歓迎する。米国及び旧ソヴィエト連邦が独自に表明した地上発射短距離核兵器の撤廃を始めめとする更ななる措置は,できる限り早期に実施すべきである。我々は,核兵器の廃棄の結果生じる核物質の平和的利用を確保するためのロシアの努力を支援する。化学兵器の実効的かつ包括的禁止に関する条約のためのジュネーヴ交渉は,今年中に成功裡に終結させなければならない。我々は,すべての国に対し,この条約の原署名国となるよう求める。

1.新たな挑戦は,変化する国際情勢を考慮しつつ国連を強化する必要性を浮き彫りにする。ロンドンにおける前回会合以来,特に危機の予防,紛争の管理及び少数民族の保護の分野において,国連の任務及び責任が劇的に一層増大した。国連は,湾岸,カンボディア,旧ユーゴスラヴィアその他の世界の地域における事態の展開に対する国際的な対応において,中心的な役割を果たしてきた。

2.我々は,国際の平和と安全を維持する上での国連の役割を支持する。新たな国々の国連加盟により,この役割の重要性が増大した。我々は,これらのすべての新加盟国に対し,国連憲章の目的及び原則を遵守するという厳粛な約束を履行するよう要請する。

3.我々は,現に存在する難民問題に関して協力するとの公約を再確認する。我々は,いかなる国又は集団によるものであれ,難民及び避難民の新たな流出を発生させることとなる少数民族に対する行為につき遺憾の意を表する。

4.我々は,緊急援助高級調整官の任命を含め,国連を改革するために事務総長がこれまでにとった措置を支持する。「平和のための計画」と題する事務総長の報告は,予防外交,平和の創出及び平和維持に関する国連の事業に対する価値ある貢献である。我々は,国際の平和と安全を維持するために必要な政治的支持及び手立てを提供する用意があることを事務総長に対して保証する。

5.我々は,国連憲章第8章に規定する国連と地域的取極及び地域的機関との間の協力の改善を強く支持する。紛争の解決に当たり,このような取極及び機関の役割は増大している。

6.宣言を締めくくるに当たり,我々は,人類社会のすべての構成員の固有の尊厳及び平等のかつ奪い得ない権利を認めることが世界における自由,正義及び平和の基礎をなすものであることを再確認する。人権は,個々の国家又はその政府が恣にしてよいものではなく,また,いかなる政治制度,イデオロギー体制又は宗教制度による統制に服させてもならない。人権の擁護及び増進は,引き続き国際社会の主要な資格の一つである。