データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第2回先進国首脳会議における三木内閣総理大臣の第一日目発言

[場所] サンファン
[年月日] 1976年6月27日
[出典] 三木内閣総理大臣演説集,139−141頁.
[備考] 
[全文]

一 昨年十一月の仏大統領の提唱によってわれわれがランブイエに集ったときは,いずれの国も経済の成長は前年比マイナスであり世界貿易も輸出入ともにマイナスであった。失業率も依然高い水準にあった。

 そして自由経済体制と民主主義のガバナビリティーがとわれている時期であった。われわれは責任と自信を分かち合い,ランブイエ宣言にある如く,創造的協力により各国それぞれ景気が上向くよう政策をとった。その結果,本年に入ってから各国とともに,プラスの経済成長となり,世界貿易もプラスに転じた。世界に景気回復のきざしがみえて,お互いに経済運営に対する人々の信頼の回復に寄与しているが,しかし景気の回復というものが一時的なものであってはならない。インフレ再燃を防ぎながら,着実にかつ持続的な景気の回復を確保していかねばならない。

 そのためには各国による弾力的かつ機動的な政策と世界貿易の拡大への努力など国際協調の推進が絶対に必要である。今日のサンファン会議の性格は国際協力についてお互いに熱意をもって話し合う会議であると思う。このときにあたっていち早く景気を回復し世界景気のけん引となったアメリカ大統領の提唱により,このサンファンにおける先進工業民主主義国の首脳会議が開催されたことは世界経済が微妙かつ重要な段階にあるばかりでなく,民主政治の試練の日が続いている時極めて時宜に適している。各国の最高責任者が腹蔵なく意見を交換し,相互の理解と相互の信頼感を深めることは極めて有意義である。ホスト国の労をとられたフォード大統領に敬意を表しておきたい。

 われわれここに集った七ヵ国の総生産は世界全体の六割を占め,その貿易は五割を占めている。また世界に数少ない自由民主主義国として左右両極の挑戦に抗しながらも中正なデモクラシーの擁護と発展を政治信条として持ちつづけている国である。われわれは転換時の世界に少なからざる責任と使命を分担するものである。今後共必要な場合にはこのような会議を気軽にもとうではないか。

二 わが国の景気については,本年に入り,昨年来の数次の景気対策の効果もあり,内外需要の増加から回復のテンポが早まっている。今後も景気の回復基調を維持することにより,一九七六年は前年度比六%程度の実質成長が達成されることは確実と考えている。回復要因としては輸出ののびもあるが,最近ではむしろ個人消費,民間住宅投資,政府支出など国内需要ののびの比重の方が大きくなってきている。物価はまだ十分に満足すべき水準とは言い難く,消費物価指数は年間八%程度,卸売物価指数は五%程度と見込んでいる。物価は着実に鎮静化しつつあるといえる。賃金も所得政策の採用なしにおだやかなものになった。

三 ランブイエ会議以降,通貨制度改革の作業が推進され,ジャマイカでの国際通貨基金暫定委員会をへて国際通貨基金協定第二次改正条がまとめられたことを歓迎する。右協定の速やかな発効は世界経済の安定的発展のため不可欠であり,わが国はすでに国会の承認を受けて,他の国にさきがけて寄託を行なった。各国の早期受諾を期待する。

 介入により市場の実勢に反して相場を一定水準に維特することは困難である。わが国は相場形成を市場の需給に委ねることを原則とし,介入はかく乱的な市場の動きの防止のためにのみ行なうこととしている。

 わが国においてはこのところ一次的に貿易収支の黒字幅が増加しているが,今後の国内景気の回復に伴ない輸入増大が見込まれるため,黒字幅がやがて縮小し,経常収支は赤字になる可能性がある。石油価格上昇による国際収支の赤字基調はまだ当分続く。先進国間の国際収支上の協力措置の一環として,経済協力開発機構の金融支援基金設立協定があるが,わが国は五月三十一日にこれを批准している。米国を始め未批准国の批准による早期発効を期待している。