データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 外國人土地所有權享有に關する件(外国人土地所有権享有に関する件)

[場所] 
[年月日] 1909年9月28日
[出典] 日本外交年表竝主要文書上巻,外務省,326-327頁
[備考] 
[全文]

 明治四十二年九月二十八日閣議決定

外國人ニ對シ土地所有權ノ享有ヲ許スヘキヤ否ヤハ帝國經濟上竝社會上ノ重要問題ニ屬シ深ク國家永遠ノ利害ヲ講究シタル上初メテ之ヲ決定スヘキ事項ナリトス從テ現行通商條約改正ノ際ニ於ケル利益交換ノ資ニ供スル爲漫然土地所有權ノ享有ヲ外國人ニ許スカ如キハ固ヨリ之ヲ避止セサルヘカラサル所ナリ之ト同時ニ該問題ハ由來條約改正談判ノ宿題ニ屬シ帝國政府ハ前回ノ談判ニ際シ土地所有權ヲ外國人ニ享有セシムルヤ否ヤハ之ヲ後日ノ問題トナスヘキ旨ヲ列國ニ答ヘ其解決ヲ他日ニ讓リタル次第ナルヲ以テ今回條約改正談判ヲ開始スルニ當リテハ豫メ本問題ニ關スル帝國政府ノ方針ヲ決定シ置クコトヲ必要ナリトス

帝國ハ最近ニ於テ日淸・日露ノ二大戰役ヲ經國運ノ益々隆盛トナルト共ニ國民ノ實力竝自信モ亦著シク增大シ經濟上其他諸般ノ關係ニ於テ優ニ歐米諸國ノ人民ト角逐ヲ試ムルヲ得ルニ至リタルヲ以テ此際土地ノ所有權ヲ外國人ニ許スコトアルモ之カ爲我國民ニ於テ外國人ノ蹂躪ヲ蒙ルカ如キ虞ナキコトハ最早疑フヘカラサル所ナリ從テ國防ノ爲必要ナル地域竝北海道、樺太及臺灣ノ如ク地方開發ノ目的ヲ達スル爲特ニ土地ノ兼併ヲ豫防シ併セテ土地ヲ基礎トスル殖民ノ途ヲ講スヘキ地方ヲ除クノ外ハ外國人ニ對シ土地所有權ノ享有ヲ許スモ亦何等ノ差支ナシト思考ス而シテ現今歐米諸國ニ於テハ土地所有權ハ一般ニ之ヲ外國人ニ附與スルコトトナリ各國ハ何レモ其國內法若ハ條約ニ依リテ外國人ニ土地所有權ヲ附與シ或ハ又事實上ニ於テ外國人ニ土地所有權ノ享有ヲ許容シツツアルヲ以テ我ニ於テ各國トノ間ニ完全ナル對等條約ノ締結ヲナサムトスル以上ハ特ニ帝國ノ爲不利益ナル結果ヲ來ササル限リ此ノ如ク世界文明國カ普通ニ外國人ニ許與スル所ノ權利ハ我ニ於テモ亦之ヲ外國人ニ附與スルコトヲ必要トス加フルニ今回ノ條約改正タル協定稅率、沿岸貿易等ノ如ク我ニ於テ回復スヘキ所ノ權利利益多クシテ之カ代償トシテ彼ニ附與スヘキモノナキヲ以テ諸外國ハ勢ヒ土地所有權ノ享有ヲ我ニ求ムルニ至ルヘク我ニ於テ若シ結局之ヲ許容スルノ意思アル以上ハ此機ニ於テ之ヲ斷行スルコトトシ我國家的利害ニ何等ノ影響ヲ受ケスシテ條約改正談判上ノ便宜ヲ占ムルコトトナスヲ適當ナリトス

右ノ次第ナルヲ以テ帝國政府ニ於テハ此際大體左記ノ方針ニ依リ外國人ニ土地所有權ヲ附與スルコトニ決セラレ之ト同時ニ森林ニ關シテハ土地ト同一ノ取扱ヲナシ鑛山採掘權ニ關シテハ現行法ノ規定ヲ維持スルコトニ決定セラレ當局ヲシテ至急右ニ關スル法案ヲ起草セシメ次期ノ帝國議會ニ附議セラルルコト必要ナリト認ム

一、外國人ハ本邦人カ其國ニ於テ土地ヲ所有シ得ル場合ニ限リ帝國ニ於テ土地ヲ所有スルヲ得ルコト

 右ノ國名ハ勅令ヲ以テ之ヲ指定スルコト

二、外國人ハ國防ノ爲必要ナル地域並北海道・臺灣又ハ樺太ニ於テ土地ヲ所有スルコトヲ得サルコト但シ臺灣ニ於テ外國人カ旣ニ所有スル土地ハ此限ニアラサルコト

三、土地ヲ所有スル外國人カ帝國ニ於テ土地ヲ所有スルコトヲ得サルニ至リシ場合ニ於テハ其所有地ノ處分ニ付テハ相當ノ方法ヲ設クルコト

四、前記規定ノ施行期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ムルコト