データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 英米兩國より滿洲の門戸閉鎻の事實に關し注意喚起の件(英米両国より満州の門戸閉鎖の事実に関し注意喚起の件)

[場所] 米国公使館
[年月日] 1906年3月19日
[出典] 日本外交年表並主要文書上巻,外務省,258‐259頁.
[備考] 
[全文]

 (譯文)一

壹號

 千九百六年三月十九日

  英國大使 クロード、ヱム、マクドナルド

 西園寺侯爵閣下

以書翰致啓上候陳者芝罘及大連大東溝間ノ航海業並ニ英國通商ニ對スル滿洲開放ノ件ニ就キ客月七日及十三日附書翰ヲ以テ御照會ニ及置候處今又北淸ニ於テ日本國ノ軍事占領繼續ノ爲メ一切ノ營業ハ必然ノ結果日本官憲直轄ノ下ニ行ハレ其ノ執レル態度ニ對シ該地方ニ於ケル英國商會カ危惧ノ念ヲ起シ居候儀ニ就キ貴國政府ノ注意ヲ促カスヘキ旨本國外務大臣ヨリ訓令ニ接シ候

客年十二月中倫敦ノ支那協會ハ在牛莊英國居留民ヨリ電報ヲ接受シ之ヲ外務省へ移牒致候處其電報ニ據レハ地方官吏カ英國人ノ通商上及企業上ニ加ヘタル障碍ニ鑑ミ右等商人ハ日本國政府ノ意圖ニ對シ不一方憂慮ヲ抱キ居ルモノト相見へ候英國汽船カ大東溝ニ於テ從來ノ慣行ニ係ル繭ノ輸出貿易ヲ再始スルコトヲ拒絕セラレタルカ如キ將又關係官吏ニ於テ商業ノ經營上必要缺クヘカラサル郵便電信及鐵道輸送ニ關スル便宜ヲ與フルヲ懌ハサルカ如キ右電報所載ノ主點ニ有之而シテ右電報ニ記述セル一般ノ事態ハ獨立セル各種方面ヨリ接受シタル詳報ノ確證スル所ニ有之候

尙又本年一月中外務省カ同協會ヨリ受領シタル報吿ニ據レハ英國船舶ハ依然大東溝ノ輸出入貿易ニ從事スルコトヲ拒絕セラレ其結果英國ノ砂糖貿易並ニ芝罘ニ於ケル絹業ハ重大ナル障碍ヲ蒙リ之ト同時ニ牛莊ニ於ケル關稅ノ徵收日本人ノ手ニ移リ同港ノ稅關吏ハ悉ク交迭シ淸國海關ノ職員ナラサル日本人之ニ代リタル等ノ事實ニ依リ商業界ニ於テ一般ノ不安ヲ來シ候

又倫敦ノ英米煙草會社ヨリモ外務省へ苦情申出候右ニ據レハ北淸ニ於ケル同會社ノ代表者ハ幾度モ奉天ハ勿論牛莊以北何地ヘモ立入ルコトヲ拒絕セラレタル趣ニ有之候右會社ヨリ最後ニ接受シタル一月十八日附報吿ニハ奉天ノ日本官憲ハ同會社ノ牛莊代理人カ右市街中ニ分配シタル總テノ廣吿物ヲ取除キタル旨ノ記述有之候一面ニ於テ前顯陳情書中ニ記載シアルカ如キ寸法ヲ以テ外國貿易ヲ阻遏シ乍ラ他方ニ於テ日本官憲ハ近頃時事新報ノ報道シタルカ如ク奉天ニ於テ日本生產品博覽會開設ノ準備ヲ爲スノ餘裕アルノ事實ニ徵スレハ軍事ノ必要ニ依リ通商上ニ加ヘラレタル制限ハ未タ日本國ノ通商ヲ奬勵スルヲ妨クル程ニアラサルコトヲ表示スルカ如クニ相見へ候

本件ノ事情ヲ閣下ニ開陳スルニ際シ本使ハ牛莊關東半嶋其他滿洲全般ニ於ケル各種ノ官憲ニ對シ至急訓令ヲ發セラレ英國政府ニ達シタル苦情ノ趣旨御開示ノ上其ノ辨明ヲ徵セラルル樣致希望候尙日本國カ淸國ノ領土占領ノ機會ニ乘シ其門戶開放主義ヲ固守スルノ實ヲ明カニシ因テ以テ本使カ閣下ノ御注意ヲ促カシタル事態ヨリ起レル憂慮ヲ緩和セラルルハ特ニ貴我兩國間ニ於ケル互信ノ誼アルニ鑑ミ如何ニ得策ナルヘキカニ就キ切ニ閣下ノ御配慮ヲ煩ハシ度候本使ハ此機ニ際シ閣下ニ向ヒ茲ニ重ネテ敬意ヲ表シ候敬具

 (譯文)二

亞米利加合衆國代理公使タル下名ハ日本軍隊ノ占領セル滿洲地方ニ於テ通商上機會均等主義實行セラレストノ報吿ニ就キ茲ニ再ヒ日本帝國政府ノ重大ナル注意ヲ促スノ光榮ヲ有ス去ル二十四日附國務長官ノ電訓ノ趣旨ハ左ノ如クニシテ下名ハ之ニ據リ日本帝國外務大臣西園寺侯爵閣下ニ本書ヲ進達ス

「合衆國政府カ其淸國ニ在ル代表者ヨリ承知スル所ニ據レハ軍隊撤回中滿洲ニ於ケル日本官憲ノ行動ハ總テノ主要ナル都市ニ於テ日本商業ノ利益ヲ扶植シ且總テノ利用シ得ヘキ地方ニ於テ日本臣民ノ爲メニ財產權ヲ收得セムトスルニ在リテ之カ爲メ該領土ノ撤兵ヲ了スル頃ニハ他ノ外國ノ通商ニ充ツヘキ餘地ハ稀有若クハ絕無タルニ至ルヘシ

世界列國ノ正當ナル通商及企業ニ對スル「門戶開放」ニ同意スト云ヘル日本國ノ從來ノ熱誠ナル宣言ニ鑑ミ斯ノ如キ行動ハ合衆國政府ノ甚タ痛惜スル所ナリ

露國カ該地方ニ於テ實利ノ國家的獨占ヲ爲サントシテ失敗シタルノ企圖ニ踵キ滿洲ニ於テ之ト均シキ日本利益ノ排他的扶植ハ痛切ナル失望ノ起因タルヘシ

貴官ハ我政府ノ憂慮ニ就キ切ニ日本政府ノ猛省ヲ促カシ之ニ對シ其然ラサル旨ノ明白ニシテ確實ナル保障ヲ得テ右憂慮ヲ解除スルコトヲ期セラルヘシ

右ハ此大體問題ニ關スル第二回ノ訓令ナリ」

客月二十三日附前回ノ電訓ニ據リ下名ハ滿洲ニ於ケル商人ニ對シ不公平ナル取扱アリトノ件ヲ敍述シタル覺書ヲ添へ日本帝國外務大臣閣下ニ宛テ書面ヲ提出スルノ榮ヲ得タリシカ尙ホ下名ハ本件ノ重大ナルヲ念ヒ去ル十五日附口上書ヲ以テ迅速ニ其本國政府ニ確答スルヲ得ヘキ場合ニ至ラムコトノ希望ヲ再言シ且口頭ヲ以テ此ノ重要問題ニ對シ日本政府ノ速カニ之ニ注意セラレンコトヲ促シタリ

然ルニ下名ハ前回ノ訓令ニ據リ交涉ヲ開キタル以來未タ其本國政府ニ回答スルヲ得ルノ場合ニ至ラス而シテ是レ唯合衆國政府ノ抱ケル憂慮ヲ增長セシムルニ外ナラサルヘキハ閣下ノ容易ニ了解セラルル所ナルヘシ

下名ハ此ノ機ニ際シ日本帝國外務大臣閣下ニ對シ重ネテ深厚ナル敬意ヲ表ス

 千九百六年三月二十六日

  米國公使館ニ於テ

  ハンチングトン・ウヰルソン