データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 栗野公使提示ノ我日露交涉基礎案及露公使對案(栗野公使提日露交渉基礎案及露公使対案)

[場所] 
[年月日] 1903年8月12日
[出典] 日本外交年表竝主要文書上巻,外務省,212‐213頁.
[備考] 
[全文]

  明治三十六年八月十二日

第一條 淸韓兩帝國ノ獨立及領土保全ヲ尊重スルコト幷ニ該兩國ニ於ケル各國ノ商工業ノ爲機會均等ノ主義ヲ保持スヘキコトヲ相互ニ約スルコト

第二條 露國ハ韓國ニ於ケル日本ノ優勢ナル利益ヲ承認シ日本ハ滿洲ニ於ケル鐵道經營ニ就キ露國ノ特殊ナル利益ヲ承認シ併セテ本協約第一條規定ノ下ニ右劃定セラレタル兩國各自ノ利益ヲ保護スルカ爲メニ必要ナル措置ヲ日本ハ韓國ニ於テ露國ハ滿洲ニ於テ執ルノ權利ヲ相互ニ承認スルコト

第三條 日露兩國ハ本協約第一條ノ條項ト背馳セサル限リ韓國ニ於ケル日本及滿洲ニ於ケル露國ノ商業的及工業的活動ノ発達ヲ阻礙セサルヘキコトヲ相互ニ約スルコト

 又今後韓國鐵道ヲ滿洲南部ニ延長シ以テ東淸鐵道及山海關牛莊線ニ接續セシメントスルコトアルモ之ヲ阻礙セサルヘキコトヲ露國ニ於テ約スルコト

第四條 本協約第二條ニ揭ケタル利益ヲ保護スルノ目的又ハ國際紛爭ヲ起スヘキ叛亂若クハ騒擾ヲ鎭定スルノ目的ヲ以テ日本ヨリ韓國ニ或ハ露國ヨリ滿洲ニ軍隊派遣ノ必要ヲ見ルニ於テハ其派遣ノ軍隊ハ如何ナル場合ニ於テモ實際必要ナル員數ヲ超ユ可カラサルコト且右軍隊ハ其任務ヲ果シ次第直ニ召還スヘキコトヲ相互ニ約スルコト

第五條 韓國ニ於ケル改革及善政ノ爲助言及援助(但シ必要ナル兵力上ノ援助ヲモ包含スルコト)ヲ與フルハ日本ノ專權ニ屬スルコトヲ露國ニ於テ承認スルコト

第六條 本協約ハ滿洲韓國ニ關シテ日露兩國間ニ結ハレタル總テノ協定ニ替ハルヘキコト

  十月三日ローゼン露國公使提出ノ對案

第一條 韓帝國ノ獨立幷ニ領土保全ヲ尊重スルコトヲ相互ニ約スルコト

第二條 露國ハ韓國ニ於ケル日本ノ優越ナル利益ヲ承認シ竝ニ第一條ノ規定ニ背反スルコトナクシテ韓帝國ノ民政ヲ改良スヘキ助言及援助ヲ同國ニ與フルハ日本ノ權利タルコトヲ承認スルコト

第三條 韓國ニ於ケル日本ノ商業的及工業的企業ヲ阻礙セサルヘキコト及第一條ノ規定ニ背反セサル限リ右企業ヲ保護スルカ爲ニ取ラレタル總テノ措置ニ反對セサルヘキコトヲ露國ニ於テ約スルコト

第四條 露國ニ知照ノ上右同一ノ目的ヲ以テ韓國ニ軍隊ヲ送遣スルハ日本ノ權利タルコトヲ露國ニ於テ承認スルコト但右軍隊ノ員數ハ實際必要ナルモノヲ超過セサルヘキコト且右軍隊ハ其任務ヲ果シ次第直ニ召還スヘキコトヲ日本ニ於テ約スルコト

第五條 韓國領土ノ一部タリトモ軍略上ノ目的ニ使用セサルコト及朝鮮海峡ノ自由航行ヲ迫害シ得ヘキ兵要工事ヲ韓國沿岸ニ設ケサルヘキコトヲ相互ニ約スルコト

第六條 韓國領土ニシテ北緯三十九度以北ニ在ル部分ハ中立地帶ト見做シ兩締約國敦レモ之ニ軍隊ヲ引入レサルヘキコトヲ相互ニ約スルコト

第七條 滿洲及其沿岸ハ全然日本ノ利益範圍外ナルコトヲ日本ニ於テ承認スルコト

第八條 本協約ハ從前韓國ニ關シテ日露兩國ノ間ニ結ハレタル總テノ協定ニ替ハルヘキコト