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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日淸通商航海條約(日清通商航海条約)

[場所] 北京
[年月日] 1896年7月21日
[出典] 條約彙纂第一卷改訂版,外務省,399‐413頁.
[備考] 
[全文]

  明治二九年(一八九六年)七月二一日北京ニ於テ署名

  明治二九年(一八九六年)九月二九日批准

  明治二九年(一八九六年)一〇月二〇日北京ニ於テ批准書交換

  明治二九年(一八九六年)一〇月二八日公布

前文

大日本國皇帝陛下及大淸國皇帝陛下ハ明治二十八年四月十七日卽光緖二十一年三月二十三日下ノ關ニ於テ調印セラレタル條約第六條ノ規定ニ依リ通商航海條約ヲ締結スルコトニ決セリ因テ大日本國皇帝陛下ハ北京駐箚特命全權公使正四位勳一等男爵林董ヲ大淸國皇帝陛下ハ欽差全權大臣總理各國事務大臣尙書銜戶部左侍郞張蔭桓ヲ各其ノ全權大臣ニ任命シタルヲ以テ兩國ノ全權大臣ハ互ニ其ノ委任狀ヲ示シ其ノ良好妥當ナルヲ認メ左ノ諸條ヲ協議決定セリ

 第一條

永久ノ和親

大日本國皇帝陛下ト大淸國皇帝陛下トノ間竝ニ兩國臣民ノ間ニ永遠無窮ノ平和及親睦アルヘシ而シテ兩國臣民ハ各々兩締盟國ノ一方ニ於テ其ノ身體及財產ニ對シ等シク完全ナル保護ヲ享有スヘシ

 第二條

外交官ノ任置

大日本國皇帝陛下ハ便宜ニ從ヒ其ノ外交官ヲ淸國ニ駐箚セシムルコトヲ得大淸國皇帝陛下モ亦便宜ニ從ヒ其ノ外交官ヲ日本國ニ駐箚セシムルコトヲ得

外交官ノ最惠國待遇

右駐箚外交宮ハ各々國際公法ニ因リ之ニ附與スル一切ノ權利、特權及免除ヲ享有シ且總テ最惠國ノ同樣ノ外交官ニ附與スル所ノ待遇ヲ受クルコトヲ得其ノ身體、家族、隨員、衙署、居館及往復書信ハ犯スヘカラサルモノトス

外交官ノ從者

右外交官ハ毫モ障碍セラルルコトナク其ノ役員、使丁、通譯人、僕婢及從者ヲ隨意ニ選用スヘシ

 第三條

帝國領事官ノ任置

大日本國皇帝陛下ハ外國通商ノ爲メニ現ニ開カレ若ハ將來開カルヘキ淸國ノ港市ノ內日本帝國ノ利害ニ必要ナリト認ムル場所ニ總領事、領事、副領事及代辨領事ヲ駐在セシムルコトヲ得

帝國領事官ノ最惠國待遇

右領事官ハ淸國官吏ヨリ相當ノ禮遇ヲ受ケ且最惠國ノ領事官ニ現ニ附與シ若ハ將來附與スヘキ總テノ資格、職權、裁判管轄權、特權及免除ヲ享有スヘキモノトス

淸國領事官ノ任置及待遇

大淸國皇帝陛下モ亦同シク日本國內ニ於テ他國ノ領事官カ現ニ駐在シ若ハ將來駐在スヘキ場所ニ總領事、領事、副領事及代辨領事ヲ駐在セシムルコトヲ得而シテ右領事官ハ日本國ニ在ル淸國臣民及財產ニ對スル日本帝國裁判所ノ裁判管轄權ニ屬スル事項ヲ除クノ外通常領事官ニ附與スル權利及特典ヲ享有スヘシ

 第四條

帝國臣民ノ享有スヘキ特權及免除及之ニ關スル最惠國待遇

日本國臣民ハ其ノ家族、雇員及僕婢ト共ニ現ニ外國人ノ居住貿易ノ爲メ開キ又ハ將來開クヘキ所ノ淸國ノ諸港諸市ニ往來シ、住居シ商工業、製造業ヲ營ミ又ハ其ノ他一切合法ノ職業ニ從事シ且其ノ商品及携帶品ヲ搭載シ前記諸開港地ノ間ヲ隨意ニ往來スヘク又其ノ地ニ於テ外國人ノ使用及占有ノ爲メ旣ニ選定シ若ハ將來選定セラルヘキ地區內ニ於テ家屋ヲ貸借賣買シ地所ヲ貸借シ寺院、墓所、病院ヲ建設スルコトヲ得但シ此等一切ノ事項ニ付最惠國ノ臣民或ハ人民ニ現ニ附興シ若ハ將來附與スヘキモノト同一ノ特權及免除ヲ享有スヘキモノトス

 第五條

帝國船舶ノ航行權

日本國船舶ハ現ニ立寄港ナル安慶、大通、湖口、武穴、陸溪口及吳淞併ニ將來立寄港トセラルヘキ總テノ場所ニ於テ外國貿易ニ關スル現行章程ニ從ヒ旅客商品ヲ積卸セシムル爲メ之ニ寄港スルコトヲ得

淸國ノ諸開港及諸立寄港外ノ港ニ不法ニ進入シ若ハ沿海及河筋ニ於テ密商ニ從事スル船舶ハ其ノ積荷ト共ニ淸國政府ニ於テ之ヲ沒收スヘキモノトス

 第六條

帝國臣民ノ淸國內地ニ於ケル游歷及旅行

日本國臣民ハ自國領事ヨリ下附シ地方官ノ副署シタル旅劵ヲ携帶スルトキハ游歷又ハ商用ノ爲メ淸國內地ノ各部ニ旅行スルコトヲ得而シテ該旅劵ハ旅行地方ニ於テ檢査ヲ求メラレタルトキハ之ヲ示スヘキモノトス該旅劵ニ不正ノ點ナキニ於テハ携帶者ハ進行ヲ許可セラレ且其ノ旅行用ノ爲メ又ハ携帶品商品運搬ノ爲メ人夫、畜類、車輛、船隻ヲ雇入ルルニ故障アルヘカラス若シ旅行者ニシテ旅劵ヲ携帶セス又ハ法律ヲ犯ストキハ之ヲ處分スル爲メ最寄ノ領事官ニ引渡スヘシ但シ其ノ際唯必要ノ拘束ヲ加フルノミニシテ決シテ之ヲ虐待スヘカラス旅劵ハ之ヲ發シタル日ヨリ淸曆十三箇月間效力ヲ有スヘシ日本國臣民旅劵ヲ携帶セスシテ內地ニ旅行シタルトキハ三百兩ヲ超過セサル罰金ニ處スヘシ尤モ日本國臣民ハ各開港地ヨリ一百淸里以內ニハ五日間ヲ限トシ旅劵ヲ携帶セスシテ游歷スルコトヲ得但シ本條ノ規定ハ之ヲ船舶乘組ノ水夫ニ適用スルコトヲ得ス

 第七條

帝國臣民ニ依ル淸國臣民ノ雇入及使用

淸國ノ開港地ニ住居スル日本國臣民ハ淸國臣民ヲ雇入レ總テ正當ノ業務ニ之ヲ使用スルコトヲ得

但シ淸國政府又ハ官吏ニ於テ之ヲ制限シ或ハ妨碍スルコトヲ得ス

 第八條

帝國臣民ニ依ル艇隻賃借權

日本國臣民ハ荷物又ハ旅客運搬ノ爲メ一切ノ艇隻ヲ賃借スルコトヲ得而シテ之カ爲メ拂フヘキ金額ハ貸借人相互ノ間ニ於テ之ヲ定メ淸國政府又ハ官吏之ニ干涉スルコトヲ得ス艇數ニ對シ制限ヲ置クヘカラス又ハ右艇隻ニ關シ若ハ貨物運搬ニ從事スル人夫ニ關シ何人ニモ專業免許ヲ附與スルコトヲ得ス而シテ右艇隻ヲ以テ密商ニ從事スルモノハ法ニ照シ之ヲ處罰スヘシ

 第九條

淸國ニ於ケル稅目及稅則ニ關スル最惠國待遇

淸國ト泰西諸國トノ間ニ實施スル稅目及稅則ハ日本國臣民カ淸國へ輸入シ若ハ日本國ヨリ淸國へ輸入シ又ハ日本國臣民カ淸國ヨリ輸出シ若ハ淸國ヨリ日本國へ輸出スル際一切ノ物品ニ適用スヘシ淸國ト泰西諸國トノ間ニ存在スル稅目及稅則ニ於テ特ニ輸入若ハ輸出ヲ制限シ若ハ禁止セサル物品ハ規定ノ輸入若ハ輸出稅ヲ拂フノミニテ自由ニ淸國へ輸入シ若ハ淸國ヨリ輸出スルコトヲ得ヘシ但日本國臣民ハ何等ノ場合ニ於テモ最惠國臣民若ハ人民カ淸國ニ於テ現ニ納メ若ハ將來納ムヘキ輸出入稅ニ異ナルカ或ハ之ヨリ多額ノ納稅ヲ要セラルルコトナカルヘシ又日本國ヨリ淸國へ輸入シ或ハ淸國ヨリ日本國へ輸出スル一切ノ物品ハ其ノ輸出入ニ際シ最惠國ヨリ輸入シ或ハ之へ輸出スル同樣ノ物品ニ對シ淸國ニ於テ現ニ課セラレ若ハ將來課セラルヘキモノト異ナルカ或ハ之ヨリ多額ノ稅ヲ課セラルルコトナカルヘシ

 第十條

開港場間ヲ運搬中ノ物品ニ對スル稅金等ノ免除

日本國臣民カ淸國へ輸入シ或ハ日本國ヨリ淸國へ輸入シタル一切ノ物品ハ現行章程ニ從ヒ開港場ト開港場ノ間ヲ運搬中其ノ所有者ノ國籍或ハ之ヲ運搬スル運具船舶ノ國籍如何ニ拘ハラス之ニ對シ全ク各種ノ稅金、賦課金、手數料、釐金等ヲ取立ツヘカラス

 第十一條

輸入品ニ對スル抵代稅

日本國臣民ニシテ輸入物品ヲ淸國內地ノ市場ニ運搬セムト欲スルモノハ其ノ物品ノ有稅品ナルトキハ輸入稅ノ二分ノ一、無稅品ナルトキハ從價二分半ニ當ル抵代稅ヲ拂ヒ以テ其ノ物品ニ對スル一切ノ通過稅ノ免除ヲ受ルコト其ノ勝手タルヘシ而シテ右抵代稅ヲ拂ヒタルトキハ該物品ニ對シ一切ノ內地稅ヲ免除スル爲メ證書ヲ發附スヘキモノトス

但シ本條ハ輸入阿片ニハ適用セサルコトト知ルヘシ

 第十二條

輸出品ニ對スル抵代稅

淸國ニ在ル日本國臣民カ淸國開港外ノ地ニ於テ買入レタル一切ノ淸國生產物及物品ニシテ輸出セラレムトスルモノハ前條ニ記載シタル稅率ニ依リ輸入稅ノ代リニ輸出稅ヲ基礙トシテ算出シタル抵代稅ヲ拂ヒタル上其ノ輸出ニ際シ單ニ輸出稅ヲ拂フ外ハ淸國各地ニ於テ各種ノ稅金、賦課金、手數料、釐金等ヲ免セラルヘシ但シ右ハ前記ノ生產物及物品ニシテ通過稅仕拂ノ日ヨリ十二箇月ノ期限內ニ現ニ外國ニ輸出セラレタル場合ニ限ル

日本國臣民カ淸國ノ開港地ニ於テ買入レタル一切ノ淸國生產物及物品ニシテ海外輸出ヲ禁セラレサルモノハ輸出ノ際單ニ輸出稅ヲ納ムル外ハ一切ノ內地稅、賦課金、手數料、釐金等ヲ免除セラルヘシ且日本國臣民カ淸國各地ニ於テ輸出ノ爲メ買入レタル一切ノ物品モ亦現行章程ニ從ヒ各開港間ニ運搬スルヲ得ルモノトス

 第十三條

再輸出品ニ對スル輸出稅ノ免除及輸入稅ノ拂戾

商品ニシテ其ノ出所外國ニ屬スルコト僞ナク且之ニ對シ已ニ輸入稅ヲ完納シタルトキハ其ノ輸入ノ日ヨリ三箇年內何時モ日本國臣民ニ於テ何等ノ輸出稅ヲ納ムルコトナクシテ之ヲ淸國ヨリ何レノ外國ヘモ輸出スルヲ得又該再輸出者ハ已ニ右商品ニ對シテ納メラレタル輸入稅額ニ向テ淸國稅關ヨリ稅金拂戾證書ヲ受クヘシ但シ該商品ハ原荷作ノ儘完全ニ保存セラレ異動ナキヲ要ス右拂戾證書ハ其ノ所有者ノ望ニ因リ淸國稅關官吏ニ於テ現金ヲ以テ之ヲ償辨スルヲ得ヘキモノトス

 第十四條

官設倉庫ノ設置

淸國政府ハ其ノ諸開港地ニ於テ官設倉庫ヲ設クルコトニ同意ス本件ニ關スル規則ハ追テ之ヲ設クヘシ

 第十五條

船舶ニ對スル噸稅

日本國ノ商船ニシテ噸數百五十噸以上ノモノハ淸國ノ開港ニ入航スルニ當リ其ノ登記噸數壹噸ニ付淸銀四錢{錢にメースとルビ}ノ割ヲ以テ噸稅ヲ課セラルヘシ噸數百五十噸及其ノ以下ノモノハ登記噸數壹噸ニ付壹錢{錢にメースとルビ}ノ割トス然レトモ右船舶ニシテ其ノ積荷ニ異動ナク入港後四十八時間以內ニ出港スルモノハ噸稅ヲ免除セラルヘシ

日本國ノ船舶前記ノ噸稅ヲ納メタル上ハ該稅ヲ納メタル港口出發ノ日ヨリ向フ四箇月間ハ淸國ノ何レノ開港或ハ立寄港ニ於テモ噸稅ヲ免除セラルヘシ但シ日本國ノ船舶ハ淸國ニ於テ現ニ修繕ヲ加へ居ル間ハ噸稅ヲ納ムルヲ要セス

艇隻ニ對スル噸稅

淸國ノ何レノ開港間ニ於テ旅客、手荷物、書柬、無稅品運搬ノ爲メ日本國臣民ノ使用スル小船及艇隻ハ噸稅ヲ納ムルコトナカルヘシ尤モ其ノ運搬ノ時ニ當リ稅金ヲ課セラルヘキ商品ヲ運搬スル所ノ小船及荷舟ハ總テ壹噸ニ付壹錢{錢にメースとルビ}ノ割ヲ以テ四箇月每ニ一囘噸稅ヲ納ムヘシ

噸稅ニ關スル最惠國待遇

日本國ノ船舶及艇隻ニ對シテハ噸稅ノ外別ニ手數料或ハ賦金ヲ課スルコトナカルヘシ但シ日本國ノ船舶及艇隻ハ最惠國ノ船舶及艇隻ノ噸稅ニ異ナルカ又ハ之ヨリ多額ノ噸稅ヲ納ムルコトナシト知ルヘシ

 第十六條

水先案內者ノ使用

淸國ノ開港ニ來航スル日本國ノ商船ハ其ノ入港ノ際隨意ニ水先案內者ヲ雇入ルルコトヲ得該商船總テ正當ノ諸稅皆納ノ上出發セムトスル時ハ出港ノ際ニモ亦水先案內者ヲ使用スルコトヲ得

 第十七條

遭難船ノ積荷、乘客及乘組員ノ待遇

日本國ノ商船破損又ハ其ノ他ノ理由ヲ以テ避難所ヲ要スルノ止ムヲ得サルニ至リタルトキハ最寄ノ何レノ淸國港口ニモ入航スルコトヲ得尤モ其ノ船舶ノ修繕ヲ遂ル爲メ陸揚シタル物品ニ對シテハ諸稅若ハ噸稅ヲ拂フコトナカルヘシ但シ該物品ハ稅關吏ノ監督ニ屬スルモノトス右等ノ船舶淸國沿岸ニ於テ淺瀨ニ乘揚ケ又ハ難破シタルトキハ淸國官吏ハ直ニ其ノ乘客及乘組員ヲ救助シ該船舶竝ニ其ノ積荷ヲ安全ナラシムルノ措置ヲ施スヘシ而シテ救助シタル人々ニハ懇篤ノ待遇ヲ與へ必要ノ場合ニハ最寄ノ領事館マテ送屆クヘシ

淸國ノ商船破損又ハ其ノ他ノ理由ヲ以テ最寄ノ日本港口ニ避難所ヲ要スルノ止ムヲ得サルニ至リタルトキハ該船舶ハ日本官吏ヨリ同一ノ待遇ヲ享有スヘシ

 第十八條

詐僞又ハ密商ノ取締

諸開港地ニ於ケル淸國官吏ハ詐僞又ハ密商ノ爲メ收入ニ減少ヲ來タササル樣其ノ必要ナリト認ムル措置ヲ施スヘシ

 第十九條

被掠奪船ニ對スル處置

日本國ノ船舶淸國ノ强盜又ハ海賊ノ掠奪ニ遇フトキハ該强盜海賊ヲ逮捕處罰シ其ノ贓品ヲ取戾シ之ヲ其ノ持主ニ還付スルコトヲ務ムルハ淸國官吏ノ職務タルヘシ

 第二十條

帝國臣民ニ對スル裁判管轄權

淸國ニ在ル日本國臣民ノ身體財產ニ關スル裁判管轄權ハ當該日本國官吏ニ專屬ス日本國臣民或ハ一切ノ他國臣民又ハ人民ヨリ日本國臣民竝ニ其ノ財產ニ係ル訴訟ハ總テ淸國官吏ノ干涉ヲ受クルコトナク右官吏ニ於テ審理判決スヘシ

 第二十一條

民事訴訟ノ裁判管轄權

淸國官吏又ハ臣民カ淸國ニ在ル日本國臣民ニ對シ又ハ其ノ財產ニ關シ民事訴訟ヲ起ストキハ日本國官吏ニ於テ之ヲ審理判決スヘシ

淸國臣民ニ對シ又ハ其ノ財產ニ關シ淸國ニ在ル日本國官吏或ハ臣民ヨリ起ス所ノ民事訴訟ハ總テ淸國官吏ニ於テ之ヲ審理判決スヘシ

 第二十二條

刑事訴訟ノ裁判管轄權

淸國ニ於テ犯罪ノ被吿トナリタル日本國臣民ハ日本國ノ法律ニ依リ日本國官吏之ヲ審理シ其ノ有罪ト認メタルトキハ之ヲ處罰スヘシ

淸國ニ在ル日本國臣民ニ對シ犯罪ノ被吿トナリタル淸國臣民ハ淸國ノ法律ニ依リ淸國官吏之ヲ審理シ其ノ有罪ト認メタルトキハ之ヲ處罰スヘシ

 第二十三條

詐欺逃亡者ニ對スル措置

淸國臣民カ日本國臣民ニ對シテ負債ヲ償辦セス又ハ詐僞逃亡スルトキハ淸國官吏之ヲ逮捕シ其ノ負債ヲ償還セシムルコトヲ務ムヘシ日本國官吏ニ於テモ日本國臣民カ淸國臣民ニ對シテ詐僞逃亡シ又ハ其ノ負債ヲ償辨セサルモノハ處分スルコトヲ務ムヘシ

 第二十四條

詐欺逃亡者ノ帝國臣民タル場合

淸國ニ在ル日本人ニシテ罪ヲ犯シ又ハ負債ヲ償辨セスシテ詐僞逃亡シタル者淸國ノ內地ニ遁レ淸國臣民ノ住居若ハ淸國船舶中ニ潛伏スルトキハ淸國官吏ハ日本國領事ヨリ請求次第日本國官吏ニ之ヲ引渡スヘシ

詐欺逃亡者ノ淸國臣民タル場合

又淸國ニ在ル淸國人ニシテ罪ヲ犯シ又ハ負債ヲ償辨セスシテ詐僞逃亡シタル者淸國ニ在ル日本國臣民ノ住居若ハ淸國領海ニ於ケル日本國船舶中ニ潛伏スルトキハ淸國官吏ヨリ日本國官吏へ請求次第之ヲ引渡スヘシ

 第二十五條

條約ニ依ル特權、免除及利益

日本國ノ政府及臣民ハ其ノ現在效力ヲ有スル日淸間條約諸條款ニ據リ得タル一切ノ特權、免除及利益ヲ享有スルコトヲ更ニ茲ニ確定ス

特權、免除及利益ニ關スル最惠國待遇

且日本國ノ政府及臣民ハ大淸國皇帝陛下ヨリ他國ノ政府又ハ臣民ニ現ニ附與シ又ハ將來附與スヘキ一切ノ特權、免除及利益ヲ享有スヘキコトヲ特ニ茲ニ規定ス

 第二十六條

有效期限及通商條款ノ改正

締盟國ノ一方ハ本條約批准交換ノ日ヨリ十箇年ノ終ニ於テ稅目及本條約ノ通商ニ關スル條款ノ改正ヲ要求スルコトヲ得然レトモ若シ最初十箇年ノ終ヨリ起算シ六箇月以內ニ兩締盟國ノ何レヨリモ右要求ヲ爲サス改正ヲ行ハサルトキハ本條約竝ニ稅目ハ前十箇年ノ終ヨリ起算シ更ニ十箇年間其ノ儘效力ヲ有スヘシ而シテ其ノ後各十箇年ノ終ニ於ケルモ亦同樣タルヘシ

 第二十七條

章程ノ決定及準用

締盟國ハ本條約ノ效力ヲ完全ナラシムルニ必要ナル章程ヲ協議決定スヘシ尤モ右章程ノ實施セラルルニ至ル迄ハ現ニ淸國ト泰西諸國トノ間ニ存スル取極及章程ニシテ其ノ本條約ノ規定ニ矛盾セスシテ適用セラレ得ル限ハ締盟國ニ於テ之ヲ遵守スヘキモノトス

 第二十八條

本文

本條約ハ日本文漢文及英文ニ調印スヘシ然レトモ將來議論ヲ防ク爲メ締盟國ノ全權大臣ハ日本文本文ト漢文本文トノ間ニ解釋ヲ異ニシタルトキハ其ノ異ナル點ハ英文本文ニ依テ之ヲ決裁スヘキコトヲ協議決定セリ

 第二十九條

批准及批准書ノ交換

本條約ハ大日本國皇帝陛下及大淸國皇帝陛下ニ於テ之ヲ批准セラルヘク而シテ其ノ批准書ハ本條約調印ノ日ヨリ三箇月以內ニ可成速ニ北京ニ於テ之ヲ交換スヘシ

右證據トシテ兩國ノ全權大臣本條約ニ記名調印スルモノナリ

 明治二十九年七月二十一日卽光緖二十二年六月十一日北京ニ於テ作ル

  大日本帝國北京駐箚特命全權公使正四位勳一等男爵 林董(記名)印

  大淸帝國欽差全權大臣總理各國事務大臣尙書銜戶部左侍郞 張蔭桓(記名)印