データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 包括的核実験禁止条約の議定書

[場所] 
[年月日] 1996年9月10日
[出典] http://www.iijnet.or.jp/JIIA-CPDNP/j-treaty.html
[備考] 
[全文]

包括的核実験禁止条約の議定書

第一部 国際監視制度及び国際データセンターの任務

一般規定

国際監視制度は、第四条16に規定する監視施設及びその各通信手段から成る。

国際監視制度に含められる監視施設は、この議定書の附属書一に掲げる施設から成る。国際監視制度は、関連する運用手引書で定める技術上及び運用上の要件を満たすものとする。

機関は、第二条の規定に従い、締約国、締約国以外の国及び適当な場合には国際機関との協力及び協議の上、国際監視制度を設け、並びに国際監視制度の運用、維持及び将来合意される変更又は発展を調整する。

国際監視制度の施設を受け入れ又はその他の方法によってこれについて責任を負う締約国又は締約国以外の国及び技術事務局は、国際法に従い、これらの国の管轄若しくは管理の下にある区域内又はその他の場所において監視施設、関連する公認された実験施設及びその各通信手段を設置し、これらを運用し及び維持し、これらの水準を高め並びにこれらに対して資金を供与することについて、適当な協定又は取決め及び手続に従って合意し及び協力する。その協力については、関連する運用手引書で定める安全上の要件、データが改変されないことを確保するための要件及び技術上の仕様に従って行う。これらの国は、技術事務局に対して設備及び通信の接続を点検するための監視施設へのアクセスの権限を与え、並びに合意された要件を満たすために設備及び運用上の手続について必要な変更を行うことに同意する。技術事務局は、これらの国に対し、国際監視制度の一部を成す施設が適切に機能するために必要であると執行理事会が認める適当な技術上の援助を提供する。

国際監視制度の施設を受け入れ又はその他の方法によってこれについて責任を負う締約国又は締約国以外の国と機関との間の4の協力の方法については、協定又は適当な場合には取決めで定める。

地震学的監視

締約国は、この条約の遵守の検証に役立つように地震学上のデータの国際的な交換について協力することを約束する。その協力には、世界的規模の主要な及び補助的な地震学的監視観測所網の設置及び運用を含む。これらの観測所は、合意された手続に従って国際データセンターに対してデータを提供する。

主要親測所網は、この議定書の附属書一の表1Aに掲げる五十の観測所から成る。これらの観測所は、地震学的監視及び地震学上のデータの国際的な交換のための運用手引書で定める技術上及び運用上の要件を満たすものとする。主要観測所のデータは、直接又は国内のデータセンターを通じ国際データセンターに対してオンラインで継続的に送付される。

主要観測所網を補足するため、百二十の観測所を有する補助観測所網は、国際データセンターに対しその要請に応じて、直接又は国内のデータセンターを通じて情報を提供するものとし、そのために使用される補助観測所は、この議定書の附属書一の表1Bに掲げる。補助観測所は、地震学的監視及び地震学上のデータの国際的な交換のための運用手引書で定める技術上及び運用上の要件を満たすものとする。補助観測所のデータについては、国際データセンターがいつでも要請することができるものとし、コンピュータのオンライン接続を通じて直ちに利用することができるようにする。

放射性核種監視

締約国は、この条約の遵守の検証に役立つように大気中の放射性核種に関するデータの国際的な交換について協力することを約束する。その協力には、世界的規模の放射性核種監視観測所網及び公認された実験施設の設置及び運用を含む。当該観測所網は、合意された手続に従って国際データセンターに対してデータを提供する。

10 大気中の放射性核種を測定する観測所綱は、この議定書の附属書一の表2Aに掲げる八十の観測所から成る。すべての観測所は、大気中の関連する粒子状物質の存在を監視することができるものとする。これらのうちの四十の観測所は、更に、この条約が効力を生ずる時に関連する希ガスの存在を監視することができるものとする。このため、会議は、その第一回会期において、希ガスを監視することができる四十の観測所をこの議定書の附属書一の表2Aに掲げる観測所のうちのいずれとするかについて準備委員会が行う勧告を承認する。会議は、その第一回の年次通常会期において、当該観測所網の全体にわたって希ガスの監視を実施するための計画について検討し及び決定する。事務局長は、希ガスの監視の実施の態様についての報告で会議に提出するものを作成する。すべての観測所は、放射性核種監視及び放射性核種に関するデータの国際的な交換のための運用手引書で定める技術上及び運用上の要件を満たすものとする。

11 放射性核種監視観測所網は、関連する運用手引書に従い技術事務局によって公認される実験施設であって機関との契約に基づいて及びサービスごとに有科で放射性核種監視観測所の試料の分析を実施するためのものの支援を受ける。この議定書の附属書一の表2Bに掲げる実験施設で適切な設備を有するものは、更に、必要な場合には、放射性核種監視観測所の試料の追加的な分析を実施するために技術事務局によって利用される。技術事務局は、必要な場合には、執行理事会の同意を得て、手動式の監視観測所の試料の通常の分析を実施するために新たな実験施設を公認することができる。すべての公認された実験施設は、国際データセンターに対して分析の結果を提供するものとし、その提供に当たり、放射性核種監視及び放射性核種に関するデータの国際的な交換のための運用手引書で定める技術上及び運用上の要件を満たすものとする。

水中音波監視

12 締約国は、この条約の遵守の検証に役立つように水中音波に関するデータの国際的な交換について協力することを約束する。その協力には、世界的規模の水中音波監視観測所網の設置及び運用を含む。これらの観測所は、合意された手続に従って国際データセンターに対してデータを提供する。

13 水中音波監視観測所網は、この議定書の附属書一の表3に掲げる観測所から成るものとし、六の水中聴音器観測所及び五のT相観測所から成る。これらの観測所は、水中音波監視及び水中音波に関するデータの国際的な交換のための運用手引書で定める技術上及び運用上の要件を満たすものとする。

微気圧振動監視

14 締約国は、この条約の遵守の検証に役立つように微気圧振動に関するデータの国際的な交換について協力することを約束する。その協力には、世界的規模の微気圧振動監視観測所網の設置及び運用を含む。これらの観測所は、合意された手続に従って国際データセンターに対してデータを提供する。

15 微気圧振動監視観測所網は、この議定書の附属書一の表4に掲げる観測所から成るものとし、六十の観測所から成る。これらの観測所は、微気圧振動監視及び微気圧振動に関するデータの国際的な交換のための運用手引書で定める技術上及び運用上の要件を満たすものとする。

国際データセンターの任務

16 国際データセンターは、国際監視制度の施設が得たデータ(公認された実験施設において実施された分析の結果を含む。)を受領し、収集し、処理し及び分析し、これについて報告し、並びにこれを保管する。

17 国際データセンターが合意とされた任務を遂行するに当たって使用する手続及び事象の標準的な選別のための基準、特に標準的な資料を作成し及び締約国に対する標準的な範囲のサービスを提供するための手続及び基準については、国際データセンターのための運用手引書で定め及び漸進的に充実させる。準備委員会が当初作成するこれらの手続及び基準については、会議がその第一回会期において承認する。

国際データセンターが作成する標準的な資料

18 国際データセンターは、すべての締約国に代わって国際データセンターの標準的な資料を作成し及び保管するため、通常の業務として、国際監視制度によって得られたデータで未処理のものについて自動処理による方法を用い及び人による対話式の分析を行う。当該標準的な資料は、締約国に対して無料で提供される。当該標準的な資料は、事象の性質についての最終的な判断を示すものではなく、その判断については、締約国の責任で行う。当該標準的な資料には、次のものを含む。

(a) 国際監視制度によって探知されたすべての信号の一覧表、事象の標準的な一覧表及び事象の標準的な報告。事象の標準的な一覧表及び事象の標準的な報告には、国際データセンターがその位置を確認した事象に関し標準的な要素について算定した数値及び関連する不確実性を含める。

(b) 選別された事象の標準的な報告(自然現象又は非核の人工的な現象に合致すると認められる事象を特徴付け及び事象の標準的な報告において強調し並びにそのようにすることによって当該事象を除外するため国際データセンターがこの議定書の附属書二に規定する特徴付けの要素に基づく事象の標準的な選別のための基準を各事象に適用することによって作成されたもの)。選別された事象の標準的な報告においては、各事象につき当該各事象が事象の標準的な選別のための基準にどの程度適合するかを数字で明示する。国際データセンターは、事象の標準的な選別のための基準を適用するに当たり、世界的規模の選別のための基準及び可能な場合には地域的な相違を考慮するための補足的な選別のための基準を使用する。国際データセンターは、国際監視制度の運用において得た経験によってその技術上の能力を漸進的に向上させる。

(c) 国際データセンターが入手し及び保管するデータ並びに国際データセンターが作成する資料を要約し並びに国際監視制度及び国際データセンターの任務の遂行及び運用状況を要約した概要

(d) (a)から(c)までに規定する国際データセンターが作成する標準的な資料の一部であって各締約国の要請に応じて選択されるもの

19 国際データセンターは、信号及び事象の標準的な要素に係る数値の算定方法を改善するため、機関又は締約国の要請がある場合には、締約国の負担によることなく、国際監視制度によって得られるデータの詳細かつ技術的な検討のための専門家の分析による特別の研究を行う。

締約国に対する国際データセンターのサービス

20 国際データセンターは、締約国に対し、国際監視制度によって得られたすべてのデータ(未処埋のもの及び処理済みのもの)、自己が作成したすべての資料及び自己が保管し又は国際監視制度の施設が保管する国際監視制度によって得られた他のすべてのデータヘの開かれた、平等の、適時の、かつ、利用しやすいアクセスを提供する。この場合において、国際監視制度の施設が保管する当該他のすべてのデータヘのアクセスについては、国際データセンターを通じて行う。データ又は作成された資料へのアクセスを容易にし及びデータ又は作成された資料を提供する方法には、次のサービスを含む。

(a) 締約国に対し国際データセンターが作成した資料又は当該資料の一部で締約国が選択したもの及び締約国が要請する場合には国際監視制度によって得られたデータの一部で当該締約国が選択するものを自動的かつ定期的に送付すること。

(b) 国際データセンター及び国際監視制度の施設が保管するデータ又は作成された資料の必要な部分を入手することについての締約国の特別の要請に応じてデータ又は作成された資料を提供すること(国際データセンターのデータベースヘの対話式の電子的なアクセスを認めることを含む。)。

(c) 締約国が特定の事象の原因を明らかにすることができるよう、当該締約国の要請に応じ、国際監視制度によって得られたデータ及び当該締約国が提供したその他の関連するデータの専門家による技術上の分析によって当該締約国を援助すること。その援助については、これが通常払われる努力によるものであるときは、無料で行う。当該技術上の分析の結果は、当該締約国が作成した資料とされるが、すべての締約国は、これを利用することができる。
(a)及び(b)に規定する国際データセンターのサービスについては、締約国が無料で利用することができる。データ及び作成された資料で送付されるものの量及び形式は、国際データセンターのための運用手引書で定める。

締約国が指定する基準による事象の選別

21 国際データセンターは、締約国が要請する場合には、自己が作成した標準的な資料につき当該締約国が指定する事象の選別のための基準を定期的かつ自動的に適用し、及びその分析の結果を当該締約国に提供する。そのようなサービスは、当該締約国に対して無料で行われる。そのような事象の選別のための処理の成果は、当該締約国が作成した資料とされる。

技術上の援助

22 国際データセンターは、要請がある場合には、締約国に対して次のことを行う。

(a) データ又は作成された資料を選択し及び選別するための要件を定めることについて技術上の援助を行うこと。

(b) 国際データセンターのための運用手引書に含まれていない信号及び事象の新たな要素について算定するに当たり当該締約国が提供するコンピュータ・アルゴリズム又はソフトウェアを使用することによって技術上の援助を行うこと。当該援助については、これが通常払われる努力によるものであるときは、無料で行う。その成果は、当該締約国が作成した資料とされる。

(c) 当該締約国が国内のデータセンターにおいて国際監視制度によって得られるデータを受領し、処理し及び分析する能力を発展させるために技術上の援助を行うこと。

23 国際データセンターは、継続的に、国際監視制度の施設、通信の継続及び自己の処理システムの運用状況を監視し、並びに当該運用状況について報告するものとし、これらの施設、通信の継続及び処理システムを構成する要素の運用上の性能が関連する運用手引書で定める合意された基準に達していない場合には、責任を有する者に対して直ちに通報する。

第二部 現地査察

一般規定

この部に定める手続については、第四条に規定する現地査察に関する規定に従って実施する。

現地査察は、その要請の原因となった事象が発生した区域において実施される。

現地査察の区域は、連続的なものとし、その面積は、千平方キロメートルを超えないものとする。当該現地査察の区域においては、いかなる方向にも五十キロメートルを超える直線距離があってはならない。

現地査察の期間は、現地査察の要請が第四条46の現定に従って承認された日から六十日を超えてはならない。ただし、同条49の規定に従って最長七十日延長することができる。

査察命令に特定する査察区域が二以上の締約国の領域又はその管轄若しくは管理の下にあるその他の場所に及ぶ場合には、現地査察に関する規定は、適宜、査察区域が及ぶ各締約国について適用する。

査察区域が被査察締約国の管轄若しくは管理の下にあり、かつ、他の締約国の領域内に存在する場合又は入国地点から査察区域へのアクセスが認められるために被査察締約国以外の締約国の領域を通過することが必要となる場合には、当該被査察締約国は、この議定書に従って、査察に関する権利を行使し、及び査察に関する義務を履行する。この場合において、当該査察区域がその領城内に存在する締約国は、当該査察を容易にし、及び査察団がその任務を適時のかつ効果的な方法で遂行することができるようにするために必要な援助を提供する。当該査察区域に到着するためにその領域を通過することが必要とされる締約国は、その通過を容易にする。

査察区域が被査察締約国の管轄又は管理の下にあり、かつ、この条約の締約国でない国の領域内に存在する場合には、当該被査察締約国は、査察がこの議定書に従って行われることを確保するために必要なすべての措置をとる。その管轄又は管理の下にある区域をこの条約の締約国でない国の領域内に有する締約国は、自国について指名された査察員及び査察補の受入れがその領域内に査察区域が存在する国によって行われることを確保するために必要なすべての措置をとる。被査察締約国は、アクセスを確保することができない場合には、アクセスを確保するために必要なすべての措置をとったことを証明する。

査察区域が締約国の領域内に存在し、かつ、この条約の締約国でない国の管轄又は管理の下にある場合には、当該締約国は、現地査察がこの議定書に従って行われることを確保するため、国際法の規則及び慣行の範囲内で、被査察締約国及び当該査察区域がその領域内に存在する締約国に対して求められる必要なすべての措置をとる。当該締約国は、当該査察区域へのアクセスを確保することができない場合には、アクセスを確保するために必要なすべての措置を国際法の規則及び慣行の範囲内でとったことを証明する。

査察団の規模については、査察命令を適正に遂行するために必要な最小限度に保つ。
被査察締約国の領域内に存在する査察団の構成員の総数は、掘削が実施されている間を除くほか、いかなる時点においても四十人を超えてはならない。要請締約国及び被査察締約国の国民は、査察団の構成員となることはできない。

10 事務局長は、個々の要請における事情を考慮して、査察団の規模を決定し、並びにその構成員を査察員及び査察補の名簿から選定する。

11 被査察締約国は、査察団が必要とする便宜(例えば、通信手段、通訳、輸送、作業場所、宿泊、食事、医療)を提供し又はそのための措置をとる。

12 機関は、査察が終了した後合理的に短い期間内に、被査察締約国の領域内における査察団の滞在及び任務の遂行のための活動に係るすべての費用(11及び49に定めるものを含む。)について当該被査察締約国に償還する。

13 現地査察の実施のための手続は、現地査察のための運用手引書でその詳細を定める。

恒常的な措置

査察員及び査察補の指名

14 査察団については、査察員及び査察補によって構成する。現地査察を実施する査察員は、査察の任務のために特別に指名された能力のある者でなければならない。査察員は、特別に指名された査察補(例えば、技術要員、事務要員、航空機の乗務員、通訳)の援助を受けることができる。

15 査察員及び査察補については、締約国又は技術事務局の職員の場合には事務局長が現地査察の目的及び任務に関連する専門的知識及び経験に基づいて指名のために提案する。提案された者は、18の規定に従って事前に締約国によって承認される。

16 締約国は、この条約が自国について効力を生じた後三十日以内に、事務局長に対し、査察員及び査察補の指名のために自国が提案する者の氏名、生年月日、性別、地位、資格及び職業上の経験を通報する。

17 技術事務局は、この条約が効力を生じた後六十日以内に、すべての締約国に対し、事務局長及び締約国が指名のために提案した査察員及び査察補についてその氏名、国籍、生年月日、性別及び地位を記載した当初の名簿を当該査察員及び査察補の資格及び職業上の経験の記述と共に通報する。

18 締約国は、指名のために提案された査察員及び査察補の当初の名簿の受領を直ちに確認する。締約国が当該名簿の受領を確認した後三十日以内に書面により受け入れない旨を宣言する場合を除くほか、当該名簿に含まれる査察員及び査察補は、受け入れられたものとされる。締約国は、その反対する理由を当該宣言に含めることができる。提案された査察員又は査察補は、受け入れられない場合には、受け入れない旨を宣言した締約国の領域内又はその管轄若しくは管理の下にあるその他の場所において、現地査察の活動に従事せず又は参加しない。技術事務局は、反対する旨の通報の受領を直ちに確認する。

19 事務局長又は締約国が査察員及び査察補の名簿についての追加又は変更を提案する場合にはいつでも、当初の名簿について定められた方法と同様の方法で代替の査察員及び査察補の指名が行われる。締約国は、自国が提案した査察員又は査察補がその任務を遂行することができなくなった場合には、技術事務局に対して直ちに通報する。

20 技術事務局は、査察員及び査察補の名簿を常時最新のものとし、並びに当該名簿についての追加又は変更をすべての締約国に通報する。

21 現地査察を要請する締約国は、第四条61の規定に基づき、査察員及び査察補の名簿に掲げられる査察員のうちのいずれかの査察員が自国が派遣するオブザーバーとしての任務を遂行するよう提案することができる。

22 締約国は、いつでも、既に受け入れられている査察員又は査察補の受入れに反対する権利を有する。ただし、23の規定が適用される場合は、この限りでない。当該締約国は、書面により、受人れに反対する旨を技術事務局に通報するものとし、反対する理由をその通報に含めることができる。当該締約国による反対は、技術事務局がその通報を受領した後三十日で効力を生ずる。技術事務局は、その通報の受領を直ちに確認するものとし、反対する締約国及び受入れに反対される査察員又は査察補を提案した締約国に対し、これらの査察員又は査察補の指名が当該反対する締約国について停止する日付を直ちに通報する。

23 査察の通告を受けた締約国は、査察命令に掲げられている査察員又は査察補を査察団から除外することを求めてはならない。

24 締約国により受け入れられる査察員及び査察補の数は、適切な数の査察員及び査察補の利用を可能にするのに十分なものでなければならない。事務局長は、締約国が提案された査察員又は査察補を受け入れないことによって十分な数の査察員及び査察補の指名が妨げられる等現地査察の目的の効果的な遂行が阻害されると認める場合には、この問題を執行理事会に送付する。

25 査察員及び査察補の名簿に掲げられる査察員は、関連する訓練を受ける。当該訓練については、現地査察のための運用手引書で定める手続に従って技術事務局が提供する。技術事務局は、締約国との合意の上、査察員のための訓練の日程を調整する。

特権及び免除

26 締約国は、18に規定する査察員及び査察捕の当初の名簿又は19の規定に従ってその後変更された当該名簿を受け入れた後、自国の国内の手続に従い、査察員又は査察補の申請により、査察員及び査察補が査察活動を行う目的で自国の領域内に入国し及び滞在することができるように数次の出入国査証、通過査証その他の関連する文書を発給する義務を負う。このため、当該締約国は、当該申請を受領した後四十八時間以内に又は査察団が自国の領域内の入国地点に到着した後直ちに、必要な査証又は旅行証明書を発給する。これらの文書は、査察員又は査察補が査察活動を行う目的で当該締約国の領域内に滞在することができるようにするために必要な期間有効なものとする。

27 査察団の構成員は、その任務を効果的に遂行するため、次の(a)から(i)までに規定する特権及び免除を与えられる。特権及び免除は、この条約のために査察団の構成員に与えられるものであり、当該構成員の個人の一身上の便宜のために与えられるものではない。特権及び免除は、被査察締約国の領域内に到着してから当該領域を出発するまでの全期間にわたって当該構成員に与えられ、その後は、当該構成員の公の任務の遂行に当たって既に行われた行為に関して与えられる。

(a) 査察団の構成員は、千九百六十一年四月十八日の外交関係に関するウィーン条約第二十九条の規定に基づいて外交官が享受する不可侵を与えられる。

(b) この条約に基づいて査察活動を行う査察団の住居内及び事務所の構内は、外交関係に関するウィーン条約第三十条1の規定に基づいて外交官の住居に与えられる不可侵及び保護を与えられる。

(c) 査察団の書類及び通信(記録を含む。)は、外交関係に関するウィーン条約第三十条2の規定に基づいて外交官のすべての書類及び通信に与えられる不可侵を享受する。査察団は、技術事務局と通信するために暗号を使用する権利を有する。

(d) 査察団の構成員が携行する試料及び承認された装置は、この条約に定めるところに従って不可侵とし、及びすべての関税を免除される。有害な試料は、関連規則に従って輸送する。

(e) 査察団の構成員は、外交関係に関するウィーン条約第三十一条の1から3までの規定に基づいて外交官に与えられる免除を与えられる。

(f) この条約に基づく活動を行う査察団の構成員は、外交関係に関するウィーン条約第三十四条の規定に基づいて外交官に与えられる賦課金及び租税の免除を与えられる。

(g) 査察団の構成員は、いかなる関税又は関係する課徴金も支払うことなく、個人的な使用のための物品を被査察締約国の領域内に持ち込むことを許可される。ただし、輸出入が法令によって禁止されており又は検疫規則によって規制されている物品を除く。

(h) 査察団の構成員は、一時的な公の任務を有する外国政府の代表に与えられる通貨及び為替に関する便益と同一の便益を与えられる。

(i) 査察団の構成員は、被査察締約国の領域内で個人的な利得を目的とするいかなる職業活動又は商業活動にも従事してはならない。

28 査察団の構成員は、被査察締約国以外の締約国の領域を通過する場合には、外交関係に関するウィーン条約第四十条1の規定に基づいて外交官が享受する特権及び免除を与えられる。当該査察団の構成員が携行する書類及び通信(記録を含む。)、試料並びに承認された装置に関しては、27の(c)及び(d)に規定する特権及び免除が与えられる。

29 査察団の構成員は、その特権及び免除を害されることなく被査察締約国の法令を尊重する義務を負い、及び査察命令と両立する限り当該被査察締約国の国内問題に介入しない義務を負う。被査察締約国及び事務局長は、当該被査察締約国がこの議定書に規定する特権及び免除の濫用があったと認める場合には、濫用があったか否かを決定するため及び、濫用があったと決定するときは、これが繰り返されることを防止するために協議を行う。

30 事務局長は、査察団の構成員に対する裁判権からの免除が正義の実現を阻害するものであり、かつ、この条約の実施を害することなくこれを放棄することができると認める場合には、当該免除を放棄することができる。放棄は、常に明示的に行われなければならない。

31 オブザーバーは、このBの規定に基づいで査察団の構成員に与えられる特権及び免除と同一の特権及び免除を与えられる。ただし、27(d)の規定に基づいて与えられる特権及び免除については、この限りでない。

入国地点

32 締約国は、この条約が自国について効力を生じた後三十日以内に、入国地点を指定し、及び技術事務局に対して必要な情報を提供する。当該入国地点については、査察団が少なくともいずれかの入国地点からいかなる査察区域へも二十四時間以内に到着することができるようなものとする。技術事務局は、すべての締約国に対して入国地点の所在地を通報する。入国地点については、出国地点とすることもできる。

33 締約国は、技術事務局に通報することにより、入国地点を変更することができる。その変更は、すべての締約国に対して適切な通報が行われるようにするため、技術事務局が変更の通報を受領した後三十日で効力を生ずる。

34 技術事務局は、入国地点の数が査察の適時の実施のために不十分であり又は締約国が提案する入国地点の変更の結果査察の適時の実施が妨げられると認める場合には、このような問題を解決するために当該締約国と協議を行う。

不定期航空便の利用に関する措置

35 査察団は、商業上の定期航空便を利用することによって適時に入国地点へ移動することができない場合には、不定期航空便を利用することができる。締約国は、この条約が自国について効力を生じた後三十日以内に、査寮団及び査察に必要な装置を輸送する不定期航空便のための外交上の許可番号を技術事務局に通報する。航空路については、外交上の許可を与えるための基礎として締約国と技術事務局との間で合意した確立された国際航空路に沿うものとする。

査察のための承認された装置

36 会議は、その第一回会期において、現地査察の間に使用される装置の一覧表について検討し及びこれを承認する。締約国は、当該一覧表に掲げるべき装置について提案することができる。現地査察のための運用手引書で定める装置の使用基準については、当該装置が使用される可能性のある場所における安全及び秘密の保護に考慮を払ったものとする。

37 現地査察の間に使用される装置は、69に規定する査察の活動及び技術のための中核的な装置並びに現地査察の効果的なかつ適時の実施のために必要な補助的な装置から成る。

38 技術事務局は、すべての種類の承認された装置が必要に応じて現地査察のために利用可能であることを確保する。技術事務局は、個々の現地査察に際してこれに必要な装置が調整され、維持され及び保護されていることを正当に証明する。技術事務局は、被査察締約国が入国地点において装置を点検することを容易にするため、その証明が確かなものであることを示すための文書を提供し、及びそのための封印をその装置に施す。

39 技術事務局は、その保持する装置を適切に保管するものとし、当該装置の維持及び調整について責任を負う。

40 技術事務局は、適当な場合には、一覧表に掲げる装置の提供を受けることについて締約国と取決めを行う。当該締約国は、当該装置の維持及び調整について責任を負う。

現地査察の要請、査察命令及び査察の通告

現地査察の要請

41 現地査察の要請には、第四条37の規定に従って少なくとも次の事項を含める。

(a) 当該要請の原因となった事象が発生したと推定される位置の地理学的経緯度及び地表又は水面からの垂直距離並びにこれらについての誤差の範囲

(b) 査察が行われる区域の境界線として提案する境界線(2及び3の規定に適合するもの)で地図に表示されたもの

(c) 査察が行われる一若しくは二以上の締約国の名称又は査察が行われる区域の全部若しくは一部がいずれの国の管轄若しくは管理の下にもない旨の記述

(d) 当該要請の原因となった事象が発生した場所の予想される環境

(e) 当該要請の原因となった事象が発生したと推定される時刻及びこれについての誤差の範囲

(f) 当該要請の根拠となるすべての資料

(g) 提案するオブザーバーがある場合には当該オブザーバーについての詳細

(h) 第四条の規定による協議及び説明の手続の結果又は適当な場合には当該協議及び説明の手続が行われなかった理由の説明

査察命令

42 現地査察の命令には、次の事項を含める。

(a) 現地査察の要請に関する執行理事会の決定

(b) 査察が行われる一若しくは二以上の締約国の名称又は査察が行われる区域の全部若しくは一部がいずれの国の管轄若しくは管理の下にもない旨の記述

(c) 査察区域の位置及び境界線で地図に表示されたもの(要請締約国と協議し並びに要請の根拠となるすべての情報及び他の利用可能なすべての技術上の情報を考慮して決定されたもの)

(d) 査察区域における査察団の予定される活動の種類

(e) 査察団が使用する入国地点

(f) 適当な場合には通過地点又は基地点

(g) 査察団長の氏名

(h) 査察団の構成員の氏名

(i) 提案されたオブザーバーがある場合にはその氏名

(j) 査察区域において使用される装置の一覧表執行理事会が第四条の46から49までの規定に従って行った決定によって査察命令の変更が必要となる場合には、事務局長は、適宜、(d)、(h)及び(j)に規定する事項について当該査察命令を変更する。事務局長は、その変更について被査察締約国に対して直ちに通告する。

査察の通告

43 事務局長が第四条55の規定に従って行う通告には、次の事項を含める。

(a) 査察命令

(b) 査察団が入国地点に到着する日及び予定時刻

(c) 入国地点に到着する手段

(d) 適当な場合には不定期航空便のための外交上の許可番号

(e) 査察区域における使用のために査察団が利用することができるよう事務局長が被査察締約国に要請する

装置の一覧表

44 被査察締約国は、事務局長の通告を受領した後十二時間以内に、当該通告の受領を確認する。

査察の事前の活動

被査察締約国の領域への入国、入国地点における活動及び査察区域への移動

45 査察団の到着の通告を受けた被査察締約国は、その領域への査察団の即時の入国を確保する。

46 技術事務局は、入国地点への移動のために不定期航空便が利用される場合には、被査察締約国の空域に入る前の最終の飛行場から入国地点までの当該不定期航空便に利用される航空機の飛行計画を、当該飛行場からの出発予定時刻の六時間前までに、国内当局を通じて当該被査察締約国に提出する。当該飛行計画は、民間航空機について適用される国際民間航空機関の手続に従って提出される。技術事務局は、当該飛行計画の備考欄に外交上の許可番号及びその航空機が査察のための航空機であることを示す適当な注釈を含める。軍用航空機が利用される場合には、技術事務局は、被査察締約国に対しその空域に入ることについての事前の許可を要請する。

47 被査察締約国は、査察団が到着予定時刻までに入国地点に到着することができるようにするため、自国の空域に入る前の最終の飛行場からの当該査察団の出発予定時刻の三時間前までに、46の規定に従って提出される飛行計画が承認されることを確保する。

48 査察団長及び被査察締約国の代表者は、必要な場合には、基地点、入国地点から基地点までの飛行計画及び必要に応じて入国地点から査察区域までの飛行計画について合意する。

49 被査察締約国は、入国地点並びに必要な場合には基地点及び査察区域において、技術事務局の要請に応じて、査察団が利用する航空機のための駐機場、警備上の保護、役務及び燃料を提供し又はそのための措置をとる。当該航空機は、着陸料、出国税及びこれらに類する課徴金を免除される。この49の規定は、現地査察の間に上空飛行に利用される航空機についても適用する。

50 51の規定が適用される場合を除くほか、被査察締約国は、査察命令に合致する承認された装置を査察団が自国の領域に持ち込むこと並びにこの条約及びこの議定書に従って当該装置を使用することについていかなる制限も課してはならない。

51 披査察締約国は、54に規定する時間的な枠組みを害することなく、装置が承認されており及び38の規定に従って証明されていることを、入国地点において査察団の構成員の立会いの下に、点検する権利を有する。当該被査察締約国は、査察命令に合致せず、承認されておらず又は38の現定に従って証明されていない装置を排除することができる。

52 査察団長は、入国地点に到着した後直ちに、被査察締約国の代表者に対し、査察命令及び査察団が作成した査察のための当初の計画であってその行う活動を明記したものを提出する。もっとも、この規定は、54に規定する時間的な枠組みを害するものではない。査察団は、当該被査察締約国の代表者から、適宜地図その他の文書を用いた説明を受ける。当該説明には、関連する自然環境の特徴、安全及び秘密の保護に関する事項並びに査察のための受入れに関する措置を含める。当該被査察締約国は、査察の目的に関係しないと認める査察区域内の場所を明示することができる。

53 査察団は、事前の説明を受けた後、適当な場合には、被査察締約国の意見を考慮した上、査察のための当初の計画を修正する。修正された査察のための計画については、当該被査察締約国の代表者が利用することができるものとする。

54 被査察締約国は、査察団を援助するためにその権限の範囲内で可能なすべてのことを行うものとし、査察団が入国地点に到着した後三十六時間以内(57に規定する時間的な枠組みの範囲内で別段の合意がされる場合を除く。)に査察団、50及び51に規定する承認された装置並びに荷物が入国地点から査察区域まで安全に移動することを確保するためにその権限の範囲内で可能なすべてのことを行う。

55 査察団は、その到着した区域が査察命令に明記された査察区域であることを確認するため、位置を決定するための承認された装置を使用する権利を有する。被査察締約国は、その使用について査察団を援助する。

査察の実施

一般規則

56 査察団は、この条約及びこの議定書に従ってその任務を遂行する。

57 査察団は、できる限り速やかに、いかなる場合にも入国地点への到着の後七十二時間以内に、査察区域において査察活動を開始する。

58 査察団の活動は、その任務の適時のかつ効果的な遂行を確保するよう並びに被査察締約国にとっての不便及び査察区域に対する障害ができる限り少なくなることを確保するように行われる。

59 被査察締約国は、43(e)の規定により査察団が査察区域において使用する装置を利用可能なものとするよう要請される場合又は査察が行われている間にそのように要請される場合には、可能な範囲内でその要請に従う。

60 査察団は、現地査察が行われている間、特に、次の権利を有し、及び次の義務を負う。

(a) 査察を進める方法を査察命令に合致するように及び被査察締約国が管理されたアクセスに関する規定に従ってとる措置を考慮して決定する権利

(b) 査察の効果的な実施を確保するために必要に応じて査察のための計画を修正する権利

(c) 査察のための計画に対する被査察締約国の勧告及び修正案について考慮する義務

(d) 査察が行われている間に生ずるあいまいな点に関して説明を要請する権利

(e) 69に規定する技術のみを使用し及び査察の目的に関連しない活動を差し控える義務。査察団は、査察の目的に関係する事実を収集し及び記録するものとし、査察の目的に明らかに関係のない情報を求め又は記録してはならない。収集された資料であって収集後に関連しないことが判明したものについては、被査察締約国に返還する。

(f) 現地査察の要請の原因となった事象の性質に関する資料及び説明であって被査察締約国が提供するその国内の監視網その他の出所から得られたものについて考慮し及びこれを査察団の報告に含める義務

(g) 被査察締約国に対しその要請に応じて査察区域において収集された情報及び資料の写しを提供する義務

(h) 被査察締約国の秘密並びに安全上及び保健上の規則を尊重する義務

61 被査察締約国は、現地査察が行われている間、特に、次の権利を有し、及び次の義務を負う。

(a) 査察団に対して査察のための計画の修正についていつでも勧告する権利

(b) 査察団と連絡を保つために代表者を指名する権利及び義務

(c) 自国の代表者を、査察団がその任務を遂行する間当該査察団に同行させ、及び当該査察団が行うすべての査察活動に立ち会わせる権利。もっとも、そのために当該査察団の任務の遂行が遅滞させられ又はその他の態様で妨げられてはならない。

(d) 査察に関連すると認める追加の情報を提供し並びに査察に関連すると認める追加の事実を収集し及び記録することを要請する権利

(e) すべての写真、ビデオテーブ、測定結果及び試料を検査し並びに査察の目的に関係しない機微に係る場所を撮影した写真及びビデオテープ又はこれらの一部のすべてを保有する権利。被査察締約国は、すべての写真、ビデオテープ及び測定結果の写しを受領する権利を有する。被査察締約国は、写真の原板及びこれを使用することによって現像された写真並びにビデオテープの原本及びその写しを保有し並びに自国の領域内において写真及びビデオテープ又はこれらの一部に査察団と共に封印を施す権利を有する。被査察締約国は、査察団が要請する写真又はビデオの撮影のためカメラを操作する者を自国より提供する権利を有する。当該カメラを操作する者が提供されない場合には、写真又はビデオの撮影については、査察団の構成員が行う。

(f) 査察団に対し現地査察の要請の原因となった事象の性質に関する資料及び説明であって自国の国内の監視網その他の出所から得たものを提供する権利

(g) 査察団に対し査察が行われている間に生ずるあいまいな点について解決することに必要な説明を行う義務

通信

62 査察団の構成員は、現地査察が行われている間を通じて、相互に及び技術事務局と通信する権利を有する。このため、査察団の構成員は、被査察締約国が自己に対して他の電気通信手段の利用を認めない場合には、当該被査察締約国の同意を得て、正当に承認されかつ証明された自己の装置を使用することができる。

オブザーバー

63 要請締約国は、第四条61の規定に従い、オブザーバーが査察団の入国地点又は基地点への到着の時から合理的な期間内に当該査察団が使用した入国地点又は基地点に到着するよう調整するために技術事務局と連絡を保つ。

64 オブザーバーは、査察が行われている間を通じて、被査察締約国に所在する要請締約国の大使館又は大使館が存在しない場合には要請締約国と連絡を取る権利を有する。

65 オブザーバーは、査察区域に到着する権利並びに被査察締約国によって当該査察区域へのアクセス及び当該査察区域内におけるアクセスが認められる権利を有する。

66 オブザーバーは、査察が行われている間を通じて、査察団に対して勧告を行う権利を有する。

67 査察団は、査察が行われている間を通じて、査察の実施及び調査結果についてオブザーバーに常時通報する。

68 被査察締約国は、査察が行われている間を通して、11の規定に基づいて査察団が享受する便宜と同様の便宜でオブザーバーが必要とするものを提供し又はそのための措置をとる。被査察締約国の領域内におけるオブザーバーの滞在に係るすべての費用については、要請締約国が負担する。

査察の活動及び技術

69 次の査察の活動及び技術については、管理されたアクセス、試料の採取、取扱い及び分析並びに上空飛行に関する規定に従って実施し又は使用することができる。

(a) 査察の活動を支援するものとして、査察区域の境界線を確定し及び当該査察区域内の場所の経緯度を確定するために上空から及び地表又は水面において位置を確認すること。

(b) 異状又は人工物の存在を調査するための地表又は水面及びこれらの下における並びに上空からの目視、ビデオ及び写真の撮影並びにマルチスペクトル画像の撮影(赤外線の測定によるものを含む。)

(c) 放射線の異常の存在を調査し及び識別するために上空から並びに地表又は水面及びこれらの下においてガンマ線監視及びエネルギー弁別解析を行うことによって、地表又は水面の上、地表又は水面及び地表又は水面の下における放射能の水準を測定すること。

(d) 異状を探知するために地表又は水面の上、地表又は水面及び地表又は水面の下における固体、液体及び気体を環境試料として採取し及びこれらを分析すること。

(e) 調査区域を限定し及び事象の性質の決定を容易にするための受動的な地震学的余震監

(f) 地下の異状(空洞及び角礫帯を含む。)の存在を調査し及びその位置を発見するための共鳴地震計測及び能動的な地震探査

(g) 異状又は人工物を探知するために地表又は水面において及び適当な場合には上空から、磁場及び重力場を調査し、地中レーダーによる測定を行い並びに電気伝導度を測定すること。

(h) 放射性試料を得るための掘削

70 査察団は、第四条46の規定に従って現地査察が承認された後二十五日の期間、69の(a)から(e)までに規定する活動を実施し及び技術を使用する権利を有するものとし、同条47の規定に従って査察の継続が承認された後、69の(a)から(g)までに規定する活動を実施し及び技術を使用する権利を有する。査察団は、同条49の規定に従って執行理事会によって掘削が承認された後にのみ、これを実施する。査察団は、同条49の規定に従って査察期間の延長を要請する場合には、69に規定する活動及び技術のうち査察命令の遂行を可能にするために実施し又は使用しようとするものをその要請において明示する。

上空飛行

71 査察団は、査察区域の概要を把握し、地上における査察を行う場所を最も適当な範囲に限定し及び事実関係の証拠の収集を容易にするため、現地査察が行われている間、79に規定する装置を使用して査察区域の上空における飛行を実施する権利を有する。

72 上空飛行については、実際上できる限り早期に実施する。査察区域の上空における飛行の総時間は、十二時間を超えてはならない。

73 被査察締約国の同意が得られる場合には、79及び80に規定する装置を使用する追加的な上空飛行を実施することができる。

74 上空飛行が実施される区域は、査察区域を越えるものであってはならない。

75 被査察締約国は、査察の目的に関係しない機微に係る場所の上空における飛行を制限し又は、例外的な場合において正当化する合理的な根拠があるときは、禁止する権利を有する。その制限は、飛行高度、通過及び旋回の回数、空中停止の時間、航空機の種類、搭乗する査察員の人数並びに測定又は監視の種類について課することができる。被査察締約国は、機微に係る場所の上空における飛行に対する制限又は禁止が査察命令の遂行を阻害すると査察団が認める場合には、査察のための代替的な手段を提供するためにあらゆる合理的な努力を払う。

76 上空飛行については、被査察締約国の航空規則に従って提出され、かつ、承認される飛行計画に従って実施する。被査察締約国の飛行安全規則は、上空飛行が実施されている間を通じて厳格に遵守される。

77 上空飛行の間の着陸は、通常、休憩又は燃料補給のためにのみ許可される。

78 上空飛行は、査察団が要請する高度であって、実施される活動、視界の状態、被査察締約国の航空規則及び安全規則並びに査察の目的に関係しない機微に係る情報を保護する当該被査察締約国の権利に適合するもので実施される。上空飛行を実施する高度は、地表又は水面から千五百メートルを超えてはならない。

79 71及び72の規定によって実施される上空飛行に当たっては、次の装置を航空機内において使用することができる。

(a) 双眼鏡

(b) 受動的な位置決定装置

(c) ビデオカメラ

(d) 携帯用カメラ

80 航空機に搭乗する査察員は、73の規定によって実施される追加的な上空飛行に当たって、次のもののための持運び可能かつ容易に設置可能な装置も使用することができる。

(a) マルチスペクトル画像の撮影(赤外線の測定によるものを含む。)

(b) ガンマ線スペクトル分析

(c) 磁場の調査

81 上空飛行は、比較的低速の固定翼航空機又は回転翼航空機によって実施される。これらの航空機は、機体下の地表を妨げられることなく広く見渡すことができるものでなければならない。

82 被査察締約国は、関連する運用手引書で定める技術上の要件に従って適宜事前に装備された自国の航空機及び乗務員を提供する権利を有する。そのような航空機及び乗務員が提供されない場合には、技術事務局が航空機を提供し又は借り上げる。

83 技術事務局が航空機を提供し又は借り上げる場合には、被査察締約国は、当該航空機が査察のための承認された装置を装備していることを確認するためにこれを点検する権利を有する。その点検については、57に定める時間的な枠組みの範囲内で完了させる。

84 航空機に搭乗する人員は、次の者によって構成される。

(a) 当該航空機の安全な運航に必要な最小限の人数の乗務員

(b) 四人以内の査察団の構成員

(c) 二人以内の被査察締約国の代表者

(d) オブザーバーがある場合には一人のオブザーバー(被査察締約国の同意を条件とする。)

(e) 必要な場合には一人の通訳

85 上空飛行の実施のための手続は、現地査察のための運用手引書で定める。

管理されたアクセス

86 査察団は、この条約及びこの議定書に従って査察区域へのアクセスが認められる権利を有する。

87 被査察締約国は、57に定める時間的な枠組みに従って査察区域内におけるアクセスを認める。

88 第四条57及び86の規定に基づく被査察締約国の権利及び義務には、次のものを含む。

(a) この議定書に従い機微に係る設備及び場所を保護するための措置をとる権利

(b) 査察区域内におけるアクセスが制限される場合には、代替的な手段を通じ査察命令の要求を満たすためにあらゆる合理的な努力を払う義務。もっとも、査察活動の一部に関する問題の解決のため、その他の査察活動の実施が遅滞させられ又は妨げられてはならない。

(c) この条約及び管理されたアクセスに関する規定に基づく義務を考慮した上査察団のあらゆるアクセスに関して最終的な決定を行う権利

89 被査察締約国は、第四条57(b)及び88(a)の規定に基づき、査察区域内において、査察の目的に関係しない機微に係る設備及び場所を保護し並びに査察の目的に関係しない秘密の情報の開示を防止するための措置をとる権利を有する。当該措置には、特に、次のことを含めることができる。

(a) 機微に係る表示、貯蔵品及び設備を覆うこと。

(b) 放射性核種の放射能及び核放射線の測定を査察の目的に関連する種類の放射性核種及び核放射線並びにこれらのエネルギーが存在するか否かを決定するためのものに限定すること。

(c) 試料の採取及び分析を査察の目的に関連する放射性生成物その他の生成物が存在するか否かを決定するためのものに限定すること。

(d) 90及び91の規定に従って建物その他の工作物へのアクセスを管理すること。

(e) 92から96までの規定に従ってアクセス制限区域の設定を宣言すること。

90 建物その他の工作物へのアクセスについては、第四条47の規定に従って現地査察の継続が承認されるまでは行ってはならない。ただし、鉱山その他の掘削が行われている場所又は大規模な穴の入口を有する建物その他の工作物へのアクセスがこれらの場所又は穴へのアクセスの唯一の方法である場合は、この限りでない。そのような建物その他の工作物については、査察団は、被査察締約国の指示に従いこれらの場所又は穴に立ち入るために通過する権利のみを有する。

91 査察団は、第四条47の規定に従って査察の継続が承認された後建物その他の工作物へのアクセスが査察命令の遂行に必要であること及び当該査察命令において許可されている必要な活動を当該建物その他の工作物の外部において実施することができないことを被査察締約国に対して確実に証明する場合には、当該建物その他の工作物へのアクセスが認められる権利を有する。査察団長は、当該アクセスの目的、査察員の人数及び予定している活動を明示して、特定の建物その他の工作物へのアクセスを要請する。当該アクセスの態様については、査察団と被査察締約国との間で交渉する。被査察締約国は、建物その他の工作物へのアクセスを制限し又は、例外的な場合において正当化する合理的な根拠があるときは、禁止する権利を有する

92 アクセス制限区域の設定が89(e)の規定に基づいて宣言される場合には、各アクセス制限区域は、四平方キロメートルを超えるものであってはならない。被査察締約国は、合計して五十平方キロメートルまでのアクセス制限区域の設定を宣言する権利を有する。二以上のアクセス制限区域の設定が宣言される場合には、各アクセス制限区域については、他のアクセス制限区域からの距離が二十メートル以上であるものとする。アクセス制限区域は、明確に定められ、かつ、アクセスが可能な境界線を有するものとする。

93 アクセス制限区域の面積、所在地及び境界線は、当該アクセス制限区域の全部又は一部を含む場所への査察団によるアクセスの時までに査察団長に提示される。

94 査察団は、アクセス制限区域の境界線までの場所において装置を設置し及び査察の実施のために必要なその他の措置をとる権利を有する。

95 査察団は、アクセス制限区域の境界線から当該アクセス制限区域内の見通すことができるすべての場所を目視することを認められる。

96 査察団は、宣言されたアクセス制限区域へのアクセスを要請する前に、当該アクセス制限区域外において査察命令を遂行するためのあらゆる合理的な努力を払う。査察団が被査察締約国に対し査察命令において許可されている必要な活動を当該アクセス制限区域外において実施することができないこと及び当該アクセス制限区域へのアクセスが査察命令の遂行に必要であることを確実に証明する場合にはいつでも、査察団の構成員の一部は、当該アクセス制限区域内において特定の任務を遂行するためのアクセスを認められる。被査察締約国は、査察の目的に関係しない機微に係る設備その他の物を覆い又はその他の方法によって保護する権利を有する。査察員の人数は、査察に関係する任務を完了するために必要な最小限度のものにする。当該アクセスの態様については、査察団と被査察締約国との間で交渉する。

試料の採取、取扱い及び分析

97 査察団は、86から96まで及び98から100までの規定に従うことを条件として、査察区域において関連する試料を採取し及びこれを当該査察区域から持ち出す権利を有する。

98 査察団は、可能な場合にはいつでも、現地において試料を分析する。被査察締約国の代表者は、現地において試料が分析される時に立ち会う権利を有する。被査察締約国は、査察団の要請により、合意される手続に従って現地における試料の分析のために援助を提供する。査察団は、試料の必要な分析を現地において実施することができないことを明らかにする場合に限り、現地外における分析のために、機関が指定した実験施設に試料を移送する権利を有する。

99 被査察締約国は、採取された試料が分析される場合にはその一部を保有する権利を有するものとし、採取された試料と同一のものを採取することができる。

100 被査察締約国は、使用されなかった試料又はその一部を返還するよう要請する権利を有する。

101 指定された実験施設においては、現地外における分析のために移送された試料の化学的及び物理的分析を実施する。そのような分析の詳細は、現地査察のための運用手引書で定める。

102 事務局長は、試料の警備、保全及び保存について並びに現地外における分析のために移送される試料の秘密を保護することを確保することについて主要な責任を負う。事務局長は、現地査察のための運用手引書で定める手続に従ってこれを行う。事務局長は、いかなる場合においても、次のことを行う。

(a) 試料の採取、取扱い、移送及び分析を規律する厳重な制度を設けること。

(b) 種々の分析を実施するために指定された実験施設を公認すること。

(c) 指定れた実験施設における設備及び手続の標準化並びに移動式の分析用装置及びこれに関連する手続の標準化を監督すること。

(d) 指定された実験施設の公認並びに移動式の分析用装置及びこれに関連する手続について質の管理及び総合的な水準を監視すること。

(e) 指定された実験施設の中から、特定の調査に関係して分析を実施し又はその他の役割を果たすものを選定すること。

103 試料については、現地外における分析が実施される場合には、少なくとも二の指定された実験施設において分析する。技術事務局は、分析の速やかな処理を確保する。試料については、技術事務局が責任を負うものとし、使用されなかった試料又はその一部は、技術事務局に返還される。

104 技術事務局は、査察の目的に関連する試料の実験施設における分析の結果を取りまとめる。事務局長は、第四条63の規定に従い当該分析の結果を被査察締約国に対しその意見を述べることができるように直ちに送付し、その後執行理事会及び他のすべての締約国に送付するものとし、これらの送付に当たり指定された実験施設が使用した設備及び用いた方法に関する詳細な情報を含める。

いずれの国の管轄又は管理の下にもない区域における査察の実施

105 事務局長は、いずれの国の管轄又は管理の下にもない区域における現地査察の場合には、適当な締約国と協議し及び査察団が査察区域へ迅速に到着することを容易にするために通過地点又は基地点について合意する。

106 その領域内に通過地点又は基地点が存在する締約国は、査察を容易にするため、査察団並びにその荷物及び装置を査察区域へ輸送し並びに11に規定する関連する便宜を提供することを含むできる限りの援助を行う。機関は、当該援助を行った締約国が負担したすべての費用について当該援助を行った締約国に償還する。

107 事務局長は、執行理事会の承認を得て、いずれの国の管轄又は管理の下にもない区域における現地査察の場合の援助を容易にするための取決めについて締約国と交渉することができる。

108 いずれの国の管轄又は管理の下にもない区域について現地査察の要請が行われる前に締約国が当該区域においてあいまいな事象についての調査を実施した場合には、執行理事会は、第四条に規定する審議において当該調査の結果を考慮することができる。

査察の事後の手続

109 査察団は、査察が完了した後、査察団のとりあえずの調査結果を検討し及びあいまいな点を解消するために被査察締約国の代表者と会合する。査察団は、被査察締約国の代表者に対し、標準様式に従って書面にしたとりあえずの調査結果を98の規定に従って査察区域から持ち出す試料その他の資料の一覧表と共に提供する。当該調査結果には、査察団長が署名する。被査察締約国の代表者は、その内容について知らされたことを示すために当該調査結果に連署する。この会合については、査察の完了の後二十四時間以内に完了する。

出国

110 査察団及びオブザーバーは、査察の事後の手続が完了した後、被査察締約国の領域からできる限り速やかに退去する。被査察締約国は、査察団を援助するため並びに査察団、装置及び荷物が出国地点まで安全に移動することを確保するためにその権限の範囲内で可能なすべてのことを行う。使用される出国地点は、被査察締約国及び査察団が別段の合意をする場合を除くほか、入国地点と同一の地点とする。

第三部 信頼の醸成についての措置

締約国は、第四条68の規定に従い、自国の領域内又は自国の管轄若しくは管理の下にあるいかなる場所においても三百トン以上のトリニトロトルエンに相当する爆発物質を使用する化学的爆発が単一の爆発として実施される場合には、当該化学的爆発について技術事務局に対して任意に通報する。その通報については、可能な場合には、事前に行う。その通報には、位置、時刻、使用される爆薬の量及び種類並びに爆発の形態及び目的に関する詳細を含める。

締約国は、この条約が効力を生じた後できる限り速やかに技術事務局に対して三百トンを超えるトリニトロトルエンに相当する爆発物質を使用するその他のすべての化学的爆発の自国内における実施に関する情報を任意に提供し、及びその後は一年ごとに当該情報を任意に改定する。締約国は、特に、次の事項について通報するよう努め、及び技術事務局が国際監視制度によって探知された事象の発生源を明らかにすることを援助する。

(a) 当該化学的爆発が発生する場所の地理的位置

(b) 当該化学的爆発を生じさせる活動の性質並びに当該化学的爆発の全般的な概要及び頻度

(c) 可能な場合にはその他の関連する詳細

締約国は、任意に、かつ、相互に受入れ可能な態様に従い、1及び2に規定する自国の領域内の場所を視察するよう技術事務局又は他の締約国の代表者を招請することができる。

締約国は、国際監視制度の観測所の特性を把握するため、その特性を把握するための化学的爆発を実施し又は予定されている他の目的のための化学的爆発に関連する情報を提供するために技術事務局と連絡を保つことができる。