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政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 化学兵器禁止条約,化学物質に関する附属書

[場所] パリ
[年月日] 1993年1月13日
[出典] 外務省条約局,条約集(多数国間条約)平成9年,224−231頁.
[備考] 
[全文]

化学物質に関する附属書

化学物質の表のための指針
表1のための指針

ある毒性化学物質又は前駆物質を表1に掲げるべきであるか否かを検討するに当たっては、次の基準を考慮する。

(a) これらの物質が第二条に定義する化学兵器として開発され、生産され、貯蔵され又は使用されたことがあるか否か。

(b) (a)の基準に該当しない場合において、これらの物質が次の一又は二以上の条件を満たすことによりこの条約によって禁止されている活動に使用される可能性が高いため、この条約の趣旨及び目的に対し高度の危険をもたらすものであるか否か。

(i) これらの物質が表1に掲げる他の毒性化学物質の化学構造と密接に関係する化学構造を有しているため、当該毒性化学物質と同等の特性を有すること又は有することが予想されること。

(ii) これらの物質が、当該物質を化学兵器として使用することを可能とする致死の又は機能を著しく害する毒性その他の特性を有すること。

(iii) これらの物質が表1に掲げる毒性化学物質の生産における技術の単一の最終段階において前駆物質として使用されるものであること(当該最終段階が施設内、弾薬内その他のいかなる場所において生ずるものであるかを問わない。)。

(c) これらの物質がこの条約によって禁止されていない目的のために使用されることがほとんど又は全くないか否か。

表2のための指針

表1に掲げていない毒性化学物質又は表1若しくは表2Aに掲げる化学物質の前駆物質を表2に掲げるべきであるか否かを検討するに当たっては、次の基準を考慮する。

(a) これらの物質が、当該物質を化学兵器として使用することを可能とし得る致死の又は機能を著しく害する毒性その他の特性を有するため、この条約の趣旨及び目的に対し相当な危険をもたらすものであるか否か。

(b) これらの物質が表1又は表2Aに掲げる化学物質の生成の最終段階における化学反応の一において前駆物質として使用されるものであるか否か。

(c) これらの物質が表1又は表2Aに掲げる化学物質の生産において重要であるため、この条約の趣旨及び目的に対し相当な危険をもたらすものであるか否か。

(d) これらの物質がこの条約によって禁止されていない目的のために商業上多量に生産されるものでないか否か。

表3のための指針

表1及び表2に掲げていない毒性化学物質又は前駆物質を表3に掲げるべきであるか否かを検討するに当たっては、次の基準を考慮する。

(a) これらの物質が化学兵器として生産され、貯蔵され又は使用されたことがあるか否か。

(b) (a)の基準に該当しない場合において、これらの物質が、当該物質を化学兵器として使用することを可能とする可能性がある致死の又は機能を著しく害する毒性その他の特性を有するため、この条約の趣旨及び目的に対し危険をもたらすものであるか否か。

(c) これらの物質が表1又は表2Bに掲げる一又は二以上の化学物質の生産において重要であるため、この条約の趣旨及び目的に対し危険をもたらすものであるか否か。

(d) これらの物質がこの条約によって禁止されていない目的のために商業上多量に生産されるものであるか否か。

化学物質の表

次の表には、毒性化学物質及びその前駆物質を掲げる。この条約の実施上、これらの表は、検証附属書に従って検証措置を実施するために化学物質を特定する。これらの表は、第二条1(a)に規定する化学兵器の定義を構成するものではない。

(括弧内にアルキル基を掲げるジアルキル化化合物類については、その括弧内のアルキル基の可能なすべての組合せにより考えられる可能なすべての化学物質は、明示的に除外されない限り、それぞれの表に掲げられたものとみなす。表2Aにおいて(*)が付されている化学物質については、検証附属書第七部の規定に従って申告及び検証のための特別な基準の対象とする。)

表1

毒性化学物質   (CAS登録番号)

(1) O−アルキル(炭素数十以下のもの。シクロアルキルを含む。)=アルキル(メチル、エチル、ノルマルプロピル又はイソプロピル)ホスホノフルオリダート類
例えば、

サリン O−イソプロピル=メチルホスホノフルオリダート   (一〇七−四四−八)
ソマン O−ピナコリル=メチルホスホノフルオリダート   (九六−六四−〇)

(2) O−アルキル(炭素数十以下のもの。シクロアルキルを含む。)=N・N−ジアルキル(メチル、エチル、ノルマルプロピル又はイソプロピル)ホスホルアミドシアニダート類
例えば、

タブン O−エチル=N・N−ジメチルホスホルアミドシアニダート   (七七−八一−六)

(3) O−アルキル(水素又は炭素数十以下のもの。シクロアルキルを含む。)=S−二−ジアルキル(メチル、エチル、ノルマルプロピル又はイソプロピル)アミノエチル=アルキル(メチル、エチル、ノルマルプロピル又はイソプロピル)ホスホノチオラート類及びこれらのアルキル化塩類又はプロトン化塩類
例えば、

VX O−エチル=S−二−ジイソプロピルアミノエチル=メチルホスホノチオラート   (五〇七八二−六九−九)

(4) 硫黄マスタード類

二−クロロエチルクロロメチルスルフィド   (二六二五−七六−五)
マスタードガス ビス(二−クロロエチル)スルフィド   (五〇五−六〇−二)
ビス(二−クロロエチルチオ)メタン   (六三八六九−一三−六)
セスキマスタード 一・二−ビス(二−クロロエチルチオ)エタン   (三五六三−三六−八)
一・三−ビス(二−クロロエチルチオ)ノルマルプロパン   (六三九〇五−一〇−二)
一・四−ビス(二−クロロエチルチオ)ノルマルブタン   (一四二八六八−九三−七)
一・五−ビス(二−クロロエチルチオ)ノルマルペンタン   (一四二八六八−九四−八)
ビス(二−クロロエチルチオメチル)エーテル   (六三九一八−九〇−一)
O−マスタード ビス(二−クロロエチルチオエチル)エーテル   (六三九一八−八九−八)

(5) ルイサイト類

ルイサイト一 二−クロロビニルジクロロアルシン   (五四一−二五−三)
ルイサイト二 ビス(二−クロロビニル)クロロアルシン   (四〇三三四−六九−八)
ルイサイト三 トリス(二−クロロビニル)アルシン   (四〇三三四−七〇−一)

(6) 窒素マスタード類

HN一 ビス(二−クロロエチル)エチルアミン   (五三八−〇七−八)
HN二 ビス(二−クロロエチル)メチルアミン   (五一−七五−二)
HN三 トリス(二−クロロエチル)アミン   (五五五−七七−一)

(7) サキシトキシン   (三五五二三−八九−八)

(8) リシン   (九〇〇九−八六−三)

前駆物質

(9) アルキル(メチル、エチル、ノルマルプロピル又はイソプロピル)ホスホニルジフルオリド類
例えば、

DF メチルホスホニルジフルオリド   (六七六−九九−三)

(10) O−アルキル(水素又は炭素数十以下のもの。シクロアルキルを含む。)=O−二−ジアルキル(メチル、エチル、ノルマルプロピル又はイソプロピル)アミノエチル=アルキル(メチル、エチル、ノルマルプロピル又はイソプロピル)ホスホニット類及びこれらのアルキル化塩類又はプロトン化塩類
例えば、

QL O−エチル=O−二−ジイソプロピルアミノエチル=メチルホスホニット   (五七八五六−一一−八)

(11) クロロサリン O−イソプロピル=メチルホスホノクロリダート   (一四四五−七六−七)

(12) クロロソマン O−ピナコリル=メチルホスホノクロリダート   (七〇四〇−五七−五)

表2

毒性化学物質   (CAS登録番号)

(1) アミトン O・O−ジエチル=S−[二−(ジエチルアミノ)エチル]ホスホロチオラート   (七八−五三−五)
及びそのアルキル化塩類又はプロトン化塩類

(2) PFIB 一・一・三・三・三−ペンタフルオロ−二−(トリフルオロメチル)−一−プロペン   (三八二−二一−八)

(3) BZ 三−キヌクリジニル=ベンジラート(*)   (六五八一−〇六−二)

前駆物質

(4) 一のメチル、エチル又はプロピル(ノルマル又はイソ)と結合しているが、その結合以外に炭素原子とは結合していないりん原子を含有する化学物質(表1に掲げる物質を除く。)
例えば、

メチルホスホニルジクロリド   (六七六−九七−一)
ジメチル=メチルホスホナート   (七五六−七九−六)

ただし、次のものを除く。

ホノホス O−エチル=S−フェニル=エチルホスホノチオロチオナート   (九四四−二二−九)

(5) N・N−ジアルキル(メチル、エチル、ノルマルプロピル又はイソプロピル)ホスホルアミディック=ジハリド類

(6) ジアルキル(メチル、エチル、ノルマルプロピル又はイソプロピル)=N・N−ジアルキル(メチル、エチル、ノルマルプロピル又はイソプロピル)ホスホルアミダート類

(7) 三塩化砒素{砒にひとルビ}   (七七八四−三四−一)

(8) 二・二−ジフェニル−二−ヒドロキシ酢酸   (七六−九三−七)

(9) キヌクリジン−三−オール   (一六一九−三四−七)

(10) N・N−ジアルキル(メチル、エチル、ノルマルプロピル又はイソプロピル)アミノエチル−二−クロリド類及びこれらのプロトン化塩類

(11) N・N−ジアルキル(メチル、エチル、ノルマルプロピル又はイソプロピル)アミノエタン−二−オール類及びこれらのプロトン化塩類
ただし、次に掲げるものを除く。

N・N−ジメチルアミノエタノール   (一〇八−〇一−〇)
及びそのプロトン化塩類
N・N−ジエチルアミノエタノール   (一〇〇−三七−八)
及びそのプロトン化塩類

(12) N・N−ジアルキル(メチル、エチル、ノルマルプロピル又はイソプロピル)アミノエタン−二−チオール類及びこれらのプロトン化塩類

(13) チオジグリコール ビス(二−ヒドロキシエチル)スルフィド   (一一一−四八−八)

(14) ピナコリルアルコール 三・三−ジメチルブタン−二−オール   (四六四−〇七−三)

表3

毒性化学物質   (CAS登録番号)

(1) ホスゲン 二塩化カルボニル   (七五−四四−五)

(2) 塩化シアン   (五〇六−七七−四)

(3) シアン化水素   (七四−九〇−八)

(4) クロロピクリン トリクロロニトロメタン   (七六−〇六−二)

前駆物質

(5) オキシ塩化リン   (一〇〇二五−八七−三)

(6) 三塩化リン   (七七一九−一二−二)

(7) 五塩化リン   (一〇〇二六−一三−八)

(8) 亜リン酸トリメチル   (一二一−四五−九)

(9) 亜リン酸トリエチル   (一二二−五二−一)

(10) 亜リン酸ジメチル   (八六八−八五−九)

(11) 亜リン酸ジエチル   (七六二−〇四−九)

(12) 一塩化硫黄   (一〇〇二五−六七−九)

(13) 二塩化硫黄   (一〇五四五−九九−〇)

(14) 塩化チオニル   (七七一九−〇九−七)

(15) エチルジエタノールアミン   (一三九−八七−七)

(16) メチルジエタノールアミン   (一〇五−五九−九)

(17) トリエタノールアミン   (一〇二−七一−六)

編注 表は加工しました。