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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 特定通常兵器使用禁止制限条約,地雷、ブービートラップ及び他の類似の装置の使用の禁止又は制限に関する議定書(議定書II)

[場所] ジュネーヴ
[年月日] 1980年10月10日
[出典] 外務省条約局,条約集(多数国間条約)昭和58年,563−571頁.
[備考] 1996年5月3日に新しく改定されている。
[全文]

地雷、ブービートラップ及び他の類似の装置の使用の禁止又は制限に関する議定書(議定書II)

第一条 物的適用範囲

この議定書は、この議定書に定義する地雷、ブービートラップ及び他の類似の装置の陸上における使用(海岸上陸、水路横断又は渡河を阻止するための地雷の敷設を含む。)に関するものであり、海又は内水航路における対艦船用の機雷の使用については、適用しない。

第二条 定義

この議定書の適用上、

「地雷」とは、土地若しくは他の物の表面に又は土地若しくは他の物の下方若しくは周辺に敷設され、人又は車両の存在、接近又は接触によつて起爆し又は爆発するように設計された弾薬類をいい、「遠隔散布地雷」とは、この1に定義する地雷であつて、大砲、ロケット、迫撃砲若しくはこれらと類似の手段で投射されるもの又は航空機から投下されるものをいう。

「ブービートラップ」とは、外見上無害な物を何人かが動かし若しくはこれに接近し又は一見安全と思われる行為を行つたとき突然に機能する装置又は物質で、殺傷を目的として設計され、組み立てられ又は用いられるものをいう。

「他の類似の装置」とは、殺傷し又は損害を与えることを目的として設計され、取り付けられた弾薬類及び装置であつて、遠隔操作により又は一定時間の経過後自動的に作動するものをいう。

「軍事目標」とは、物については、その性質、位置、用途又は使用が軍事活動に効果的に貢献するもので、その全面的又は部分的な破壊、奪取又は無効化がその時点における状況の下において明確な軍事的利益をもたらすものをいう。

「民用物」とは、4に定義する軍事目標以外のすべてのものをいう。

「記録」とは、公式の記録に登録するため地雷原、地雷及びブービートラップの位置の確認を容易にするすべての入手可能な情報を取得することを目的とする物理的、行政的及び技術的作業を行うことをいう。

第三条 地雷、ブービートラップ及び他の類似の装置の使用に関する一般的制限

この条の規定は、次の兵器に適用する。

(a) 地雷

(b) ブービートラップ

(c) 他の類似の装置

この条の規定の適用をうける兵器は、いかなる状況の下においても、文民たる住民全体又は個々の文民に対して攻撃若しくは防御のため又は復仇{きゆうとルビ}の手段として使用することを禁止する。

この条の規定の適用を受ける兵器は、無差別に使用することを禁止する。無差別に使用するとは、これらの兵器に係る次の設置をいう。

(a) 軍事目標でないものへの設置又は軍事目標を対象としない設置

(b) 特定の軍事目標のみを対象とすることのできない投射の方法及び手段による設置

(c) 予期される具体的かつ直接的な軍事的利益との比較において、過度に、巻き添えによる文民の死亡、文民の傷害、民用物の損傷又はこれらの複合した事態を引き起こすことが予測される場合における設置

この条の規定の適用を受ける兵器の及ぼす効果から文民を保護するため、すべての実行可能な予防措置をとる。実行可能な予防措置とは、人道上及び軍事上の考慮を含めてその時点におけるすべての事情を勘案して実施し得る又は実際に可能と認められる予防措置をいう。

第四条 居住地域における遠隔散布地雷以外の地雷、ブービートラップ及び他の類似の装置の使用に関する制限

この条の規定は、次の兵器に適用する。

(a) 遠隔散布地雷以外の地雷

(b) ブービートラップ

(c) 他の類似の装置

この条の規定の適用を受ける兵器は、地上兵力による戦闘が発生していない都市、町村その他の文民の集中している地域又は地上兵力による戦闘が急迫していると認められないこれらの地域において使用することを禁止する。ただし、次の場合を除く。

(a) これらの兵器が、敵対する者に属する軍事目標若しくはその者の支配下にある軍事目標に設置され又はこれらに極めて近接して設置される場合

(b) これらの兵器の及ぼす効果から文民を保護するための措置、例えば、警告標識の掲示、歩哨{しようとルビ}の配置、警告の発出又は囲いの設置の措置がとられる場合

第五条 遠隔散布地雷の使用に関する制限

遠隔散布地雷は、軍事目標である地域又は軍事目標を含む地域内のみで使用され、かつ、次のいずれかの条約が満たされる場合を除くほか、使用することを禁止する。

(a) 第七条1(a)の規定に基づき当該遠隔散布地雷の位置を正確に記録することができること。

(b) 効果的な無力化のための装置、すなわち、遠隔散布地雷がその設置の所期の軍事目的に役立たなくなると推定される時に当該遠隔散布地雷を無害にし若しくは破壊するように設計された自動作動装置又は遠隔散布地雷が設置の所期の軍事目的に役立たなくなつた時に当該遠隔散布地雷を無害にし若しくは破壊することができるように設計された遠隔制御装置が個々の遠隔散布地雷に使用されていること。

文民たる住民に影響を及ぼす遠隔散布地雷の投射又は投下については、状況の許す限り、効果的な事前の警告を与える。

第六条 特定の種類のブービートラップの使用の禁止

武力紛争における背信に関する国際法の規則の適用を妨げることなく、次のブービートラップの使用は、いかなる状況の下においても、禁止する。

(a) 外見上無害で持運び可能な物の形態により、爆発性の物質を含むように、かつ、これを動かし又はこれに接近した場合起爆するように設計され及び組み立てられたブービートラップ

(b) 方法のいかんを問わず、次のものに取り付けるブービートラップ又は次のものを利用するブービートラップ

(i) 国際的に認められた保護標章、保護標識又は保護信号

(ii) 病者、傷者又は死者

(iii) 埋葬地、火葬地又は墓

(iv) 医療施設、医療機器、医療用品又は医療用輸送手段

(v) 児童のがん具又は児童の食事、健康、衛生、被服若しくは教育に役立つように考案された製品若しくは持運び可能な物

(vi) 食料又は飲料

(vii) 厨房用品又は厨房器具(軍事施設、軍隊所在地又は軍の補給所内にあるものを除く){厨にちゆうとルビ}

(viii) 宗教的性質を有することの明らかな物

(ix) 国民の文化的又は精神的遺産を構成する歴史的建造物、芸術品又は礼拝所

(x) 動物又はその死体

過度の傷害又は無用の苦痛を引き起こすように設計されたブービートラップの使用は、いかなる状況下においても、禁止する。

第七条 地雷原、地雷及びブービートラップの位置の記録及び公開

紛争当事者は、次のものの位置を記録する。

(a) あらかじめ計画し、敷設したすべての地雷原

(b) 大規模に、かつ、あらかじめ計画の上のブービートラップを設置したすべての地域

紛争当事者は、設置した他のすべての地雷原、地雷及びブービートラップの位置を確実に記録するように努める。

1及び2に規定するすべての記録は、紛争当事者が保持する。紛争当事者は、次のことを行う。

(a) 現実の敵対行為の停止の後直ちに、次の(i)のことを行うこと及び次の(ii)又は(iii)のいずれかのことを行うこと。

(i) 地雷原、地雷及びブービートラップの及ぼす効果から文民を保護するため、すべての必要かつ適切な措置(当該記録の利用を含む)をとること。

(ii) 紛争当事者の兵力が敵対する紛争当事者の領域内に存在しない場合には、相互に及び国際連合事務総長に対し、敵対する紛争当事者の領域内の地雷原、地雷及びブービートラップの位置に関し自己の保有するすべての情報を利用可能にすること。

(iii) 紛争当事者の兵力が敵対する紛争当事者の領域から完全に撤退した時に、敵対する紛争当事者及び国際連合事務総長に対し、敵対する紛争当事者の領域内の地雷原、地雷及びブービートラップの位置に関し自己の保有するすべての情報を利用可能にすること。

(b) 国際連合の軍隊又は使節団が関係地域において任務を遂行している場合に、次条に規定する者に対し、同条に規定する情報を利用可能にすること。

(c) 可能な限り、相互の合意によつて、特に敵対行為の停止についての合意において、地雷原、地雷及びブービートラップの位置に関する情報の公開について定めること。

第八条 地雷原、地雷及びブービートラップの及ぼす効果からの国際連合の軍隊及び使節団の保護

紛争当事者は、関係地域において国際連合の軍隊又は使節団が平和維持、監視その他これらに類する任務を遂行している場合において、当該国際連合の軍隊又は使節団の長が要請するときは、可能な限り次のことを行う。

(a) 関係地域にあるすべての地雷及びブービートラップを除去し又は無害なものにすること。

(b) 国際連合の軍隊又は使節団がその任務を遂行する間、当該国際連合の軍隊又は使節団を地雷原、地雷及びブービートラップの及ぼす効果から保護するために必要な措置をとること。

(c) 関係地域の国際連合の軍隊又は使節団の長に対し、当該地域内の地雷原、地雷及びブービートラップの位置に関し自己の保有するすべての情報を利用可能にすること。

国際連合の事実調査使節団が関係地域において任務を遂行している場合には、紛争当事者は、同使節団に対し保護措置をとる。ただし、同使節団の規模が大きいために十分に保護措置をとることができない場合を除く。この場合には、紛争当事者は、同使節団の長に対し、当該地域内の地雷原、地雷及びブービートラップの位置に関し自己の保有する情報を利用可能にする。

第九条 地雷原、地雷及びブービートラップの除去の際における国際協力

現実の敵対行為の停止の後、紛争当事者は、紛争中に設置された地雷原、地雷及びブービートラップを除去し又は無害なものにするため必要な情報並びに技術的及び物的援助の提供(適当な状況の下においては、共同作業を含む。)に関し、紛争当事者間の合意の達成並びに適当な場合には他の国及び国際機関との合意の達成に努める。

地雷、ブービートラップ及び他の類似の装置の使用の禁止又は制限に関する議定書(議定書II)の技術的事項に関する附属書

記録に関する指針

議定書IIに基づいて地雷原、地雷及びブービートラップの位置を記録する義務が生ずる場合には、次の指針を考慮するものとする。

あらかじめ計画された地雷原及び大規模な、かつ、あらかじめ計画されたブービートラップの設置に関しては、次のことを行う。

(a) 地雷原又はブービートラップの設置された地域の範囲を示す地図、図表又は他の記録を作成すること。

(b) 一の照合点を原点とする座標により、並びに当該一の照合点との関係から地雷及びブービートラップの存在する地域の範囲を推定することにより地雷原又はブービートラップの設置された地域の位置を特定すること。

他の地雷原、地雷及びブービートラップの設置に関しては、可能な限り、地雷原、地雷及びブービートラップの存在する地域が識別されるよう1の規定の例により関連情報を記録する。