データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 宇宙物体により引き起こされる損害についての国際的責任に関する条約(宇宙損害責任条約)

[場所] ロンドン,モスクワ,ワシントンDC
[年月日] 1972年3月29日作成,1972年9月1日効力発生,1983年5月13日国会承認
[出典] 外務省条約局,条約集(多数国間条約)昭和58年,197−215頁.
[備考] 
[全文]

宇宙物体により引き起こされる損害についての国際的責任に関する条約

昭和四十七年三月二十九日 ロンドン、モスクワ、ワシントンで作成
昭和四十七年九月一日 効力発生
昭和五十八年五月十三日 国会承認
昭和五十八年六月七日 加入の閣議決定
昭和五十八年六月二十日 加入書寄託
昭和五十八年六月二十日 公布及び告示(条約第六号及び外務省告示第一九二号)
昭和五十八年六月二十日 我が国について効力発生

この条約の締約国は、

平和的目的のために宇宙空間を探査し及びその利用を推進することが全人類の共同の利益であることを認識し、

月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国家活動を律する原則に関する条約を想起し、

宇宙物体の打上げに関係している国及び国際的な政府間機関によつてとられる予防措置にもかかわらず、宇宙物体により損害が引き起こされることがあることを考慮し、

宇宙物体により引き起こされる損害についての責任に関し効果的である国際的な規則及び手続を定める必要、特に、宇宙物体により引き起こされる損害の被害者に対する十分かつ衡平な賠償がこの条約に基づいて迅速に行われることを確保する必要を認識し、

宇宙物体により引き起こされる損害についての責任に関し効果的である国際的な規則及び手続を定めることが平和的目的のための宇宙空間の探査及び利用の分野における国際協力を強化することに寄与することを確信して、

次のとおり協定した。

第一条

この条約の適用上、

(a) 「損害」とは、人の死亡若しくは身体の傷害その他の健康の障害又は国、自然人、法人若しくは国際的な政府間機関の財産の滅失若しくは損傷をいう。

(b) 「打上げ」には、成功しなかつた打上げを含む。

(c) 「打上げ国」とは、次の国をいう。

(i) 宇宙物体の打上げを行い、又は行わせる国

(ii) 宇宙物体が、その領域又は施設から打ち上げられる国

(d) 「宇宙物体」には、宇宙物体の構成部分並びに宇宙物体の打上げ機及びその部品を含む。

第二条

打上げ国は、自国の宇宙物体が、地表において引き起こした損害又は飛行中の航空機に与えた損害の賠償につき無過失責任を負う。

第三条

損害が一の打上げ国の宇宙物体又はその宇宙物体内の人若しくは財産に対して他の打上げ国の宇宙物体により地表以外の場所において引き起こされた場合には、当該他の打上げ国は、当該損害が自国の過失又は自国が責任を負うべき者の過失によるものであるときに限り、責任を負う。

第四条

損害が一の打上げ国の宇宙物体又はその宇宙物体内の人若しくは財産に対して他の打上げ国の宇宙物体により地表以外の場所において引き起こされ、その結果、損害が第三国又はその自然人若しくは法人に対して引き起こされた場合には、これらの二の打上げ国は、当該第三国に対し、次の定めるところにより連帯して責任を負う。

(a) 損害が当該第三国に対して地表において又は飛行中の航空機について引き起こされた場合には、当該二の打上げ国は、当該第三国に対し無過失責任を負う。

(b) 損害が当該第三国の宇宙物体又はその宇宙物体内の人若しくは財産に対して地表以外の場所において引き起こされた場合には、当該二の打上げ国は、当該第三国に対し、いずれか一方の打上げ国又はいずれか一方の打上げ国が責任を負うべき者に過失があるときに限り、責任を負う。

1に定める連帯責任が生ずるすべての場合において、損害の賠償についての責任は、1に規定する二の打上げ国がそれぞれの過失の程度に応じて分担する。当該二の打上げ国のそれぞれの過失の程度を確定することができない場合には、損害の賠償についての責任は、当該二の打上げ国が均等に分担する。もつとも、責任の分担についてのこの規定は、連帯して責任を負ういずれか一の打上げ国又はすべての打上げ国に対し、第三国がこの条約に基づいて支払われるべき賠償の全額を請求する権利を害するものではない。

第五条

二以上の国が共同して宇宙物体を打ち上げる場合には、これらの国は、引き起こされるいかなる損害についても連帯して責任を負う。

損害について賠償を行つた打上げ国は、共同打上げに参加した他の国に対し、求償する権利を有する。共同打上げの参加国は、その履行について連帯して責任を負う金銭上の債務の分担につき、取極を締結することができる。もつとも、この取極は、連帯して責任を負ういずれか一の打上げ国又はすべての打上げ国に対し、損害を被つた国がこの条約に基づいて支払われるべき賠償の全額を請求する権利を害するものではない。

宇宙物体がその領域又は施設から打ち上げられる国は、共同打上げの参加国とみなす。

第六条

損害の全部又は一部が請求国又は請求国により代表される自然人若しくは法人の重大な過失又は作為若しくは不作為(損害を引き起こすことを意図した作為若しくは不作為に限る。)により引き起こされたことを打上げ国が証明した場合には、その限度において無過失責任が免除される。ただし、2の規定が適用される場合は、この限りでない。

打上げ国の活動であつて国際法(特に、国際連合憲章及び月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国家活動を律する原則に関する条約を含む。)に適合しないものにより損害が引き起こされた場合には、いかなる免責も認められない。

第七条

この条約は、打上げ国の宇宙物体により次の者に対して引き起こされた損害については、適用しない。

(a) 打上げ国の国民

(b) 宇宙物体の運行に参画している外国人(宇宙物体の打上げの時からその落下の時までの間のいずれの段階で参画しているかを問わない。)又は宇宙物体の打上げ国の招請により打上げ予定地域若しくは回収予定地域に隣接する地域に滞在している外国人

第八条

損害を被つた国又は自国の自然人若しくは法人が損害を被つた国は、当該損害の賠償につき、打上げ国に対し請求を行うことができる。

損害を被つた自然人又は法人の国籍国が請求を行わない場合には、他の国は、その領域において当該自然人又は法人が被つた損害につき、打上げ国に対し請求を行うことができる。

損害を被つた自然人若しくは法人の国籍国又は自国の領域において損害が生じた国のいずれもが請求を行わない場合又は請求を行う意思を通告しない場合には、他の国は、自国に永住する者が被つた当該損害につき、打上げ国に対し請求を行うことができる。

第九条

損害の賠償についての請求は、外交上の経路を通じて打上げ国に対し行われる。当該打上げ国との間に外交関係がない国は、当該請求を当該打上げ国に提出すること又は他の方法によりこの条約に基づく自国の利益を代表することを他の国に要請することができる。当該打上げ国との間に外交関係がない国は、また、国際連合事務総長を通じて自国の請求を提出することができる(請求国及び打上げ国の双方が国際連合の加盟国である場合に限る。)。

第十条

損害の賠償についての請求は、損害の発生の日又は損害につき責任を有する打上げ国を確認した日の後一年以内に限り、打上げ国に対し行うことができる。

1の規定にかかわらず、損害の発生を知らなかつた国又は損害につき責任を有する打上げ国を確認することができなかつた国は、その事実を知つた日の後一年以内に限り、請求を行うことができる。ただし、請求を行うことができる期間は、いかなる場合にも、相当な注意を払うことによりその事実を当然に知ることができたと認められる日の後一年を超えないものとする。

期間に関する1及び2の規定は、損害の全体が判明しない場合においても、適用する。この場合において、請求国は、1及び2に定める期間が満了した後においても損害の全体が判明した後一年を経過するまでの間は、請求を修正し及び追加の文書を提出することができる。

第十一条

この条約に基づき打上げ国に対し損害の賠償についての請求を行う場合には、これに先立ち、請求国又は請求国により代表される自然人若しくは法人が利用することができるすべての国内的な救済措置を尽くすことは、必要としない。

この条約のいかなる規定も、国又は国により代表されることのある自然人若しくは法人が、打上げ国の裁判所、行政裁判所又は行政機関において損害の賠償についての請求を行うことを妨げるものではない。当該請求が打上げ国の裁判所、行政裁判所若しくは行政機関において又は関係当事国を拘束する他の国際取極に基づいて行われている間は、いずれの国も、当該損害につき、この条約に基づいて請求を行うことはできない。

第十二条

打上げ国が損害につきこの条約に基づいて支払うべき賠償額は、請求に係る自然人、法人、国又は国際的な政府間機関につき当該損害が生じなかつたとしたならば存在したであろう状態に回復させる補償が行われるよう、国際法並びに正義及び衡平の原則に従つて決定される。

第十三条

賠償は、損害につきこの条約に基づいて賠償を行うべき国と請求国との間に他の形態による賠償の支払についての合意が成立する場合を除くほか、請求国の通貨により又は、請求国の要請がある場合には、損害につき賠償を行うべき国の通貨により支払う。

第十四条

請求についての解決が、請求の文書を送付した旨を請求国が打上げ国に通報した日から一年以内に第九条に定める外交交渉により得られない場合には、関係当事国は、いずれか一方の当事国の要請により請求委員会を設置する。

第十五条

請求委員会は、三人の委員で構成する。一人は請求国により、また、一人は打上げ国により任命されるものとし、議長となる第三の委員は、双方の当事国により共同で選定される。各当事国は、同委員会の設置の要請の日から二箇月以内に委員の任命を行う。

請求委員会の設置の要請の日から四箇月以内に議長の選定につき合意に達しない場合には、いずれの当事国も、国際連合事務総長に対し、二箇月以内に議長を任命するよう要請することができる。

第十六条

いずれか一方の当事国が所定の期間内に委員の任命を行わない場合には、議長は、他方の当事国の要請により、自己を委員とする一人の委員から成る請求委員会を組織する。

請求委員会に生ずる空席(理由のいかんを問わない。)は、最初の委員の任命の際の手続と同様の手続により補充する。

請求委員会は、その手続規則を定める。

請求委員会は、会合の開催場所その他のすべての事務的な事項について決定する。

一人の委員から成る請求委員会が行う決定及び裁定の場合を除くほか、請求委員会のすべての決定及び裁定は、過半数による議決で行う。

第十七条

請求委員会の委員の数は、二以上の請求国又は二以上の打上げ国が同委員会の手続の当事国となることを理由として、増加させてはならない。複数の請求国が同委員会の手続の当事国となる場合には、請求国が一である場合と同様の方法及び条件で一人の委員を共同して任命する。二以上の打上げ国が同委員会の手続の当事国となる場合にも、同様に一人の委員を共同して任命する。同委員会の手続の当事国となる複数の請求国又は打上げ国が所定の期間内に委員の任命を行わない場合には、議長は、自己を委員とする一人の委員から成る請求委員会を組織する。

第十八条

請求委員会は、損害の賠償についての請求の当否を決定するものとし、また、賠償を行うべきであると認めた場合には、その額を決定する。

第十九条

請求委員会は、第十二条に定めるところに従つて活動する。

請求委員会の決定は、当事国が合意している場合には、最終的なかつ拘束力のあるものとする。当事国が合意していない場合には、同委員会は、最終的で勧告的な裁定を示すものとし、また、当事国は、裁定を誠実に検討する。同委員会は、決定又は裁定につきその理由を述べる。

請求委員会は、できる限り速やかに、いかなる場合にもその設置の日から一年以内に決定又は裁定を行う。ただし、同委員会がこの期間の延長を必要であると認める場合は、この限りでない。

請求委員会は、決定又は裁定を公表する。同委員会は、決定又は裁定の認証謄本を各当事国及び国際連合事務総長に送付する。

第二十条

請求委員会に係る費用は、同委員会が別段の決定を行わない限り、当事国が均等に分担する。

第二十一条

宇宙物体により引き起こされた損害が、人命に対して大規模な危険をもたらすもの又は住民の生活環境若しくは中枢部の機能を著しく害するものである場合において、損害を被つた国が要請するときは、締約国(特に打上げ国)は、損害を被つた国に対して適当かつ迅速な援助を与えることの可能性の有無について検討する。もつとも、この条の規定は、この条約に基づく締約国の権利又は義務に影響を及ぼすものではない。

第二十二条

この条約において国に言及している規定は、第二十四条から第二十七条までの規定を除くほか、宇宙活動を行ういずれの国際的な政府間機関にも適用があるものとする。ただし、当該政府間機関がこの条約の定める権利及び義務の受諾を宣言し、かつ、当該政府間機関の加盟国の過半数がこの条約及び月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国家活動を律する原則に関する条約の締約国である場合に限る。

この条約の締約国であつて1の政府間機関の加盟国であるものは、当該政府間機関が1の規定による宣言を行うことを確保するため、すべての適当な措置をとる。

国際的な政府間機関が損害につきこの条約に基づいて責任を負うこととなる場合には、当該政府間機関及び当該政府間機関の加盟国であつてこの条約の締約国であるものは、次に定めるところにより連帯して責任を負う。

(a) 損害の賠償についての請求は、最初に当該政府間機関に対し行われるものとする。

(b) 損害の賠償として支払うことが合意され又は決定された金額を当該政府間機関が六箇月以内に支払わなかつた場合に限り、請求国は、当該政府間機関の加盟国であつてこの条約の締約国であるものに対し当該金額の支払を求めることができる。

1の規定による宣言を行つた政府間機関に与えた損害の賠償についての請求であつてこの条約に基づいて行われるものは、当該政府間機関の加盟国であつてこの条約の締約国であるものが行う。

第二十三条

この条約は、効力を有している他の国際取極に対し、その締約国相互の間の関係に関する限り、影響を及ぼすものではない。

この条約のいかなる規定も、諸国がこの条約の規定を再確認し、補足し又は拡充する国際取極を締結することを妨げるものではない。

第二十四条

この条約は、署名のためすべての国に開放しておく。3の規定に基づくこの条約の効力発生前にこの条約に署名しなかつた国は、いつでもこの条約に加入することができる。

この条約は、署名国によつて批准されなければならない。批准書及び加入書は、この条約により寄託政府として指定されるグレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国、ソヴィエト社会主義共和国連邦及びアメリカ合衆国の政府に寄託する。

この条約は、五番目の批准書が寄託された時に効力を生ずる。

この条約は、その効力発生の後に批准書又は加入書を寄託する国については、その批准書又は加入書の寄託の日に効力を生ずる。

寄託政府は、すべての署名国及び加入国に対し、署名の日、この条約の批准書及び加入書の寄託の日、この条約の効力発生の日並びに他の事項を速やかに通報する。

この条約は、寄託政府が国際連合憲章第百二条の規定により登録する。

第二十五条

いずれの締約国も、この条約の改正を提案することができる。改正は、締約国の過半数が改正を受諾した時に、受諾した締約国について効力を生ずるものとし、その後に改正を受諾する他の締約国については、その受諾の日に効力を生ずる。

第二十六条

この条約の効力発生の十年後に、この条約の過去における適用状況に照らしてこの条約の改正が必要であるかないかを審議するため、この条約の検討の問題を、国際連合総会の仮議事日程に含める。ただし、この条約の効力発生の後五年を経過した後はいつでも、締約国の三分の一以上の要請により、締約国の過半数の同意を得て、この条約を検討するための締約国の会議が招集される。

第二十七条

いずれの締約国も、この条約の効力発生の後一年を経過した後は、寄託政府にあてた文書により、この条約からの脱退を通告することができる。脱退は、脱退を通告する文書の受領の日から一年で効力を生ずる。

第二十八条

この条約は、英語、ロシア語、フランス語、スペイン語及び中国語をひとしく正文とするものとし、寄託政府に寄託する。この条約の認証謄本は、寄託政府が署名国及び加入国の政府に送付する。

以上の証拠として、下名は、正当に委任を受けてこの条約に署名した。

千九百七十二年三月二十九日にロンドン市、モスクワ市及びワシントン市で本書三通を作成した。