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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第78代宮沢(平成3.11.5〜5.8.9)
[国会回次] 第125回(臨時会)
[演説者] 羽田孜大蔵大臣
[演説種別] 平成四年度補正予算に関する演説
[衆議院演説年月日] 1992/10/30
[参議院演説年月日] 1992/10/30
[全文]

 平成四年度補正予算の御審議をお願いするに当たり、当面の財政金融政策の基本的な考え方について所信を申し述べますとともに、補正予算の大要を御説明申し上げます。

 まず、最近の経済情勢について申し述べます。

 我が国経済は現在調整過程にありますが、住宅投資には回復の動きが見られ、また公共投資も順調に伸びております。今回の調整局面においては、従来と異なり、資産価格の急激な低下を背景に、金融システムの安定性に問題が生じているのではないかとの懸念とその実体経済への影響が種々論議されており、私はこのような状況を「複雑骨折」と申し上げてまいりました。

 金利動向を見ますと、本年七月に行われた公定歩合の引き下げ含め、五次にわたる引き下げの効果などにより、市場金利は低下し、これを受けて金融機関の貸出金利も低下してきております。

 また、為替動向につきましては、先般、欧州市場を中心として不安定な状況となり、こうした中で円高の動きも見られましたが、為替相場が思惑等により不安定な動きを示すことは好ましくなく、今後とも為替相場の推移を注視しつつ、市場の安定を図ってまいりたいと考えております。

 政府は去る八月二十八日に、十兆七千億円に上る過去最大規模の公共投資の拡大等を中心とする内需拡大策や、金融システムの安定性の確保のための施策及び証券市場の活性化等のための施策を含む総合経済対策を決定いたしました。

 この対策のうち公共事業関係費の追加等につきましては、今般御審議をお願いしております平成四年度補正予算に盛り込んでおりますが、その実行について補正予算を必要としない諸施策につきましては、既に着実な実施を図っておるところでございます。

 すなわち、財政投融資につきましては、住宅金融公庫等に対し、弾力条項の発動による所要の追加措置を行ったところであり、中小企業対策としては、国民金融公庫、中小企業金融公庫等の貸付限度額を大幅に増加させるなど所要の措置を講じたところであります。また、民間設備投資の促進に関する税制上の措置につきましては、省力化、合理化関連等の民間設備投資を促進するため、投資促進税制の対象設備の追加を実施いたしました。なお、公共事業等の施行につきましては、その促進に努め、既に所期の成果を上げているところでありますが、引き続き、対策により新たに追加されることとなった分も含めて、全体として円滑に実施されるよう下半期も含めた施行の促進を図ることといたしております。

 金融システムの安定性の確保につきましては、金融機関の自助努力を基本としつつ、政府としても金融システムに対する国民の信頼が損なわれないよう最大限の努力を払っているところであります。金融機関の不良資産につきましては、処理方針を早期に確定するとともに、計画的、段階的な処理を図っていくことが重要であり、この観点から個別問題の早期処理が進められております。また、不良資産のディスクロージャーの充実を図り、不良資産についての税務上の取り扱いにかかわる所要の措置を講じたほか、担保不動産の流動化を図るための仕組みについて民間金融機関による検討が行われるなど、必要な環境整備に努めているところであります。さらに、対策に盛り込まれました新たな自己資本充実策も着実に実施されており、経済活動に必要な資金の円滑な供給が図られるような金融機関の融資対応力の確保が図られております。

 証券市場の活性化等のための施策につきましては、本年度における公的資金の簡易保険福祉事業団等を通じる単独運用指定金銭信託、いわゆる指定単への運用に関して、株式組み入れ比率を制限しない新たな指定単を設けることといたしました。そのうち、本年度財政投融資計画からの運用分につきましては、既に所要の貸し付けを実施したところでありますが、さらに財政投融資資金を新たに追加するため、補正予算において所要の措置を講じております。また、貸付信託の運用対象に株式を追加したほか、個人投資家の株式保有の促進策等につきましても現在検討を行っているところでございます。

 この総合経済対策を着実に実施していくことが、我が国経済の内需を中心とする持続的な成長の実現に大きく貢献するものと確信をいたしております。

 次に、財政改革について申し述べます。

 我が国財政は、平成四年度末の公債残高が約百七十六兆円程度にも達する見込みであり、国債費が政策的経費を圧迫するなど、依然として構造的に厳しい状況が続いております。このような状況のもとで、財政運営の基本的方向は、今後の社会経済情勢の変化に財政が弾力的に対応していくために、高齢化社会に多大な負担を残さず、再び特例公債を発行しないことを基本とし、公債残高が累増しないような財政体質をつくり上げていくことであり、このため、今後ともたゆまぬ努力を続けていく必要があろうかと考えます。

 海外におきましても、このように財政に厳しい節度を求めることが重要であるという認識が高まってまいりました。先般ワシントンにおいて開催されましたIMF・世銀総会など一連の国際会議の場におきましても、我が国が、現下の困難な財政事情にもかかわらず、過去最大規模の経済対策を策定したことに対し高い評価が与えられるとともに、これとの関連において、我が国が長年にわたり行ってきた真剣な財政改革努力が評価されたところであります。

 ところで、先ほど申し上げましたような財政構造の問題に加えまして、最近の経済情勢を反映し、平成四年度の税収は当初見積りに比べ大幅な減収を生ずるものと見込まれ、また、平成五年度の税収も引き続き厳しい状況が継続するものと考えられるなど、我が国財政は近年になく容易ならざる状況に立ち至っております。しかしながら、このような状況のもとにあっても、財政運営の基本的方向を踏まえ、特例公債を再び発行する事態は厳にこれを回避しなければなりません。このため、平成五年度の予算編成に当たりましても、引き続き、徹底した制度、施策の見直しや歳出の節減合理化を図るなど財政改革を強力に推進していく必要があろうと考えます。

 次に、今国会に提出いたしました平成四年度補正予算の大要について御説明申し上げます。

 平成四年度一般会計補正予算におきましては、さきに御説明いたしました総合経済対策を実施するために必要な公共事業関係費等の追加、人事院勧告の実施に伴う国家公務員等の給与の改善に要する経費等を計上するとともに、税収の大幅な減収に対処するための措置を講ずることといたしております。

 今回の一般会計補正予算につきましては、歳出面において、総合経済対策における各般の施策を実施するため、公共事業関係費の追加として、一般公共事業関係費一兆三千億円、災害復旧等事業費三千七百二十二億円を計上するとともに、一般公共事業にかかわる所要の国庫債務負担行為の追加を行い、また、文教施設、研究施設等を初めとする各種の施設整備費等の追加として二千九百億円を計上することといたしております。さらに、中小企業等特別対策費八百八十五億円等を計上いたしております。このほか、給与改善費、義務的経費の追加など特に緊急となったやむを得ない事項について措置を講ずることといたしております。

 他方、歳入面におきましては、税収が、最近までの収入実績等を勘案すると、当初予算に対し、四兆八千七百三十億円の大幅な減収となることが避けられない見通しとなりました。このような異例の事態に対処するため、まず、既定経費の徹底した節減、予備費の減額、税外収入の確保及び追加財政需要の圧縮を行ったところであります。また、所得税及び法人税の収入見込み額が減少すること等に伴い地方交付税交付金を一兆五千六百八十二億円減額するとともに、建設公債につきましては、やむを得ざる措置として公共事業関係費の追加に対応するもの等について追加発行することといたしております。

 しかしながら、これらをもってしてもなお財源が不足することから、臨時異例の措置ではありますが、前年度の決算上の純剰余金一兆五千三百十八億円につきまして、その全額を不足財源に充当するとともに、一般会計において承継した債務等の資金運用部に対する償還を延期することにより、当該債務の償還財源の予算繰り入れ五千五百八十六億円を行わないことといたしました。なお、この剰余金の処理等につきましては、別途平成三年度歳入歳出の決算上の剰余金の処理の特例等に関する法律案を提出し、御審議をお願いすることといたしております。

 これらの結果、平成四年度一般会計補正後予算の総額は、歳入歳出とも当初予算に対し、七千二百八十三億円減少して、七十一兆四千八百九十七億円となっております。

 地方財政につきましては、一般会計からの地方交付税交付金が減額されますが、地方団体の円滑な財政運営を確保するため、交付税及び譲与税配付金特別会計におきまして所要の借り入れを行うことにより、当初予算額どおりの地方交付税総額を確保することといたしております。

 以上の一般会計予算補正等に関連して、特別会計予算及び政府関係機関予算につきましても所要の補正を行うことといたしております。

 財政投融資計画につきましては、総合経済対策の実施等のため、今回の補正予算におきましても、日本開発銀行、国民金融公庫等に対し所要の追加を行うことといたしております。これに伴い、日本開発銀行につきましては、日本開発銀行法の一部を改正する法律案を提出し御審議をお願いすることといたしております。

 以上、平成四年度の補正予算の大要について御説明いたしました。何とぞ、関係の法律案とともに、御審議の上、速やかに御賛同いただきますようお願いを申し上げます。