データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第65代第2次田中(昭和47.12.22〜49.12.9)
[国会回次] 第71回(特別会)
[演説者] 愛知揆一大蔵大臣
[演説種別] 財政演説
[衆議院演説年月日] 1973/1/27
[参議院演説年月日] 1973/1/27
[全文]

 ここに、昭和四十八年度予算の御審議をお願いするにあたり、その大綱を御説明申し上げますとともに、今後における財政金融政策の基本的な考え方について私の所信を申し述べたいと存じます。

 わが国経済は、いま三つの課題に直面しております。一つは、国民福祉の向上であります。一つは、物価の安定であります。一つは、国際協調の推進と国際収支均衡の早期回復であります。

 これら三つの課題を相互に調和させながら、同時に解決をはかることは、まことに容易ならざるものがありまして、これまでに例を見ない財政金融政策に対する新たなる試練であると考えます。私は、この試練に正面から取り組み、一そうの創意と工夫をこらしてその解決に当たる決意でございます。

 このような見地から、昭和四十八年度の財政金融政策は、次の三点を眼目として運営する所存でございます。

 その第一は、国民のすべてがみな生きがいを感じ、未来に明るい希望と期待を持てるような、豊かで健全な福祉社会の建設を推進することであります。

 戦後四半世紀にわたり、わが国経済はたくましい成長を続け、昭和四十八年度の国民総生産は、ついに百兆円の大台をこえると見込まれるまでに至りました。この間、高度の雇用水準の達成、国民の所得水準の向上など、目覚ましい成果をあげてまいりましたが、今や新たな決意をもって、均衡のある経済社会の創造のために、この充実した国力を活用し、福祉充実に対する国民の強い要望に積極的にこたえていかねばなりません。

 私は、福祉社会の建設を推進するためには、まず、国民各層が経済成長の成果をひとしく享受し、健康で快適な生活ができるよう、社会連帯感というあたたかい心のきずなでささえられた社会保障を拡充していくことが肝要であると信じます。

 また、住宅および下水道、公園、緑地等の生活環境施設、社会福祉施設、体育施設などを中心として社会資本を一そう整備するとともに、公害の防除と自然環境の保全を積極的に推進し、わが国の全土にわたり、公害のない住みよい生活環境を整備する必要があります。

 もとより、これらの福祉政策を推進するにあたり、財政の果たすべき役割はますます増大するものと予想されますので、国及び地方を通じ、財政の効率化を推進しつつ、その資源、所得の配分機能をより一そう活用していかなければなりません。同時に、長期的な展望のもとに、国民の税負担等のあり方について、本格的な検討を加えてまいる所存であります。

 公債政策につきましては、景気調整政策の見地からのみではなく、公私両部門の資源の適正な配分をはかるため、民間資金を活用して社会資本の整備を推進するという観点からも、建設公債、市中消化の原則を堅持しつつ、一そう適切な運営を進めてまいりたいと存じます。

 第二は、物価の安定であります。

 最近の物価動向を見ますると、消費者物価は比較的落ちついた動きを示しておりますが、従来安定しておりました卸売り物価は昨年後半から騰勢に転じ、その先行きは必ずしも楽観を許さないものがあります。

 成長を維持し、経済構造の転換を進めながら、物価の安定をはかるとこ{前2じママ}は、ひとりわが国のみならず、先進諸国のすべてが当面する困難な問題であります。

 しかしながら、消費者物価の安定は、国民生活の基盤であり、その動向は国民の福祉に大きな影響を及ぼす重大な問題であります。政府といたしましては、総需要の水準を適正に保つとともに、円滑な供給体制を整備し、生産、流通、消費の各面にわたって総合的な施策を一そう強化し、物価の安定のために全力を上げてまいりたいと存じます。

 物価の安定をはかることは、現下の急務であります。もとより、地価問題を解決するためには、土地制度の整備等を含むいろいろな施策を総合的に推進しなければなりませんが、財政金融面からもあらゆる施策を講じてまいる所存であります。すなわち、後に申し述べまする土地税制とともに、金融面において、適切な措置を一そう徹底してまいりたいと存じます。

 第三は、国際協調の実をあげ、国際収支の均衡をすみやかに回復することであります。

 近年、わが国力の著しい充実に伴いまして、わが国の決意と行動は、いまや国際社会の大勢に少なからざる影響を及ぼすに至っております。わが国としては、その増大しつつある国際責任を認識して、諸外国との相互理解をさらに深め、国際協調を一そう推進して、世界経済の安定的発展に貢献しなければなりません。

 まず、国際通貨、貿易体制の新しい秩序づくりに進んで寄与していくことが当面の重要課題であります。国際通貨面におきましては、通貨体制の長期にわたる安定をはかるため、新しい国際通貨制度の確立が不可欠の前提となっておりまするが、この問題につきましては、現在、二十カ国委員会を中心として具体的な検討が進められております。また、国際貿易面におきましては、本年からガットの場で次期国際ラウンドが開始される予定となっております。

 わが国としては、あくまで、自由かつ無差別を原則とする一つの世界、ワンワールドの実現を目標とし、世界経済のブロック化や、保護主義の台頭を避けるべきであるという基本的な態度を堅持して国際的討議に積極的に参加し、これを成功に導くようつとめてまいりたいと存じます。

 また、開発途上国に対する経済協力の拡充は、先進工業国としてのわが国の責務であり、同時に、これら諸国の経済発展は、わが国を含めた全世界の平和と繁栄に貢献するものであります。わが国といたしましては、今後とも援助の拡充、特恵関税制度の改善等を通じ、その発展に寄与するよう、国力にふさわしい役割を果たしてまいります。

 ひるがえって、わが国の国際収支の動向を見ますると、通貨調整後もかなり大幅な黒字が続いております。

 通貨調整の効果が国際収支面に浸透するまでには、かなりの期間を要することは、各国共通の認識となっておりまするが、わが国が長期間にわたってこのような黒字を続けておることは、世界経済の安定した発展にとって大きな問題であるばかりでなく、国民福祉を向上させるための資源の有効活用という見地からも好ましくなく、これを適正な水準に戻すためには、引き続き格段の努力を払わなければなりません。

 政府は、かねてより、対外経済政策を推進するため、関税の一律引き下げ、輸入割り当てワクの拡大等の措置を講じてきたのでありますが、国際収支の均衡を達成するためには、基本的には、輸出優先の経済構造を改めることが最も肝要と考えます。この意味において、福祉型経済への転換を進めるとともに、関税の引き下げをさらに推進し、輸入および資本の自由化等を勇断をもって実施に移す必要があると考えます。

 金融市場は、昨年来、引き続き緩和基調を維持し、景気は順調な上昇過程をたどってまいりましたが、最近に至り、卸売り物価の上昇等、留意すべき動きも出てまいりましたので、先般、過剰流動性の是正をはかるため、準備預金制度の準備率の引き上げが行なわれたところであります。

 今後の金融政策の運営にあたりましては、なお一そう内外経済情勢に深甚な注意を払いながら、財政と相補い、相助け、両者一体となって経済の安定成長を確保したいと考えます。

 同時に、わが国資本市場の国際的地位の向上、金融環境の変化等に対応し、引き続き資本市場の整備、育成に配慮してまいりたいと考えます。特に、昨年来の物価の上昇動向については、かねて格段の注意を払ってまいったところでありますが、長期資金調達の場として株式市場の重要性が高まりつつある現状にかんがみ、市場をより秩序あるものとするため、今後とも適時適切な措置を講じ、もって株式市場の健全な発展に資する所存でございます。

 昭和四十八年度予算の編成に当たりましては、以上申し述べました財政金融政策の基本的方向にのっとり、わが国経済の国内均衡と対外均衡の調和をはかりつつ、長期的視野のもとに国民福祉の充実向上につとめることを主眼といたしております。

 その特色は、次の諸点であります。

 第一は、予算および財政投融資計画を通じ、社会保障の充実、社会資本の整備をはじめとして、福祉の充実を求める国民各層の期待と要請に積極的にこたえ得る規模のものとしたことであります。

 その結果、昭和四十八年度一般会計予算の総額は十四兆二千八百四十億円となり、前年度当初予算に対し、二四・六%の増、また、昭和四十八年度財政投融資計画の規模は六兆九千二百四十八億円となり、前年度当初計画に対し、二八・三%の増となっておりますが、昭和四十八年度の経済見通しによれば、中央、地方を通ずる政府の財貨サービス購入の伸びは、国民経済全体の成長率とほぼ同程度となっておりまして、経済の安定的な成長を保つことができるものと考えております。

 また、公債につきましては、社会資本の充実の見地からこれを適切に活用することとし、一般会計における公債発行規模を二兆三千四百億円といたしておりますが、公債依存度は、昭和四十七年度当初予算における一七%を下回り、一六・四%となっておるのであります。

 第二は、租税負担の軽減合理化をはかったことであります。

 昭和四十八年度におきましては、中小所得者の税負担の軽減を重点に、所得税および住民税の減税を実施することといたしました。一方、最近における社会経済情勢の変化に即応して、産業関連の租税特別措置の改廃を行なうことといたしておりますが、国税、地方税を通ずる昭和四十八年度の減税額は、全体として初年度約四千六百億円と相なっております。

 第三は、国民生活の質的向上をはかるため、諸施策の充実とその総合的推進につとめることとしていることであります。そのため、社会保障関係経費につき大幅な増額を行なっていることはもちろん、社会資本の整備にあたっても国民の生活環境の整備に特に重点を置き、また、公害の防止、環境の保全、物価の安定等についても特段の配慮を加えるとともに、国民生活に密接に関連する分野を中心に政府関係金融機関、事業団等の貸し出し金利の引き下げを行なうことといたしております。

 以下、政府が特に重点を置いた施策についてさらにその概要を申し述べます。

 まず、昭和四十八年度の税制改正におきましては、所得税につき、中小所得者の負担軽減をはかるために、課税の最低限を引き上げるとともに、特に給与所得者に重点を置いて、給与所得控除の大幅な拡充を行なうことといたしております。すでにわが国の課税最低限は、欧米諸国に比肩し得る程度に達していたところでありますが、さらに今回の改正により、最低限は夫婦子供二人の給与所得者の場合、前年に対して、一〇・七%引き上げられ、百十四万九千円に達する水準となったのであります。

 また、相続税の減税、物品税の軽減合理化および入場税の減税を行なうほか、有価証券取引税の税率を引き上げることといたしております。

 租税特別措置につきましては、重要産業用合理化機械等の特別償却制度、価格変動準備金制度等産業関連の諸制度について、改廃を行なうことといたしました。他方、福祉対策、公害対策、勤労者財産形成・住宅対策等に資する措置を講ずるとともに、事業主報酬制度を創設することといたしております。

 また、土地に対する投機と地価の騰勢を抑制するため、法人の土地譲渡益に重課することといたしました。この措置は、地方税として実施予定の土地保有税と相まって、土地に対する仮需要を抑制し、あわせて土地供給の促進に資するよう期待している次第でございます。

 次に、歳出について申し述べます。

 第一は、社会保障の充実であります。

 わが国が、欧米諸国に例を見ない速さで高齢化社会を迎えようとしている状況に対処し、年金制度の飛躍的な充実をはかることといたしております。すなわち、厚生年金および提出制国民年金について、五万円年金を実現するとともに、物価スライド制を導入するほか、老齢福祉年金についても年金額の大幅引き上げ、扶養義務者所得制限の大幅緩和等の措置を講ずることといたしております。このほか、老人福祉対策につきましては、寝たきり老人について六十五歳以上まで医療の無料化を拡大する等、きめこまかい配慮を行なうことといたしております。

 また、社会福祉施設の整備、障害福祉年金および母子福祉年金の改善、生活扶助基準の引き上げ、身体障害者、児童、母子等の福祉対策及び難病奇病対策の充実、看護婦夜間手当の引き上げ、戦没者の妻及び父母等に対する特別給付金国債の増額再交付などの措置を講じ、福祉の質的向上に遺憾なきを期しておる次第でございます。

 医療保険制度につきましては、家族給付率の五割から六割への引き上げ、高額医療費の給付等給付内容の大幅な改善を行なうとともに、健康保険財政の健全化のため、所要の改善合理化措置を講ずることといたしております。

 第二は、社会資本の整備であります。

 国土の総合開発を、計画的、かつ、着実に実施するため、各種の社会資本を積極的に充実していく必要があることはもちろんでありますが、その際、交通通信網の整備、工業の再配置、地方都市の開発整備、農村環境の整備等に配意して、国土の均衡ある発展をはかっていかなければなりません。これらの施策の推進をはかるため、国土の総合開発に関する企画調整権限を持つ国土総合開発庁を新設するとともに、事業の実施機関として、工業再配置・産業地域振興公団を改組拡充して、国土総合開発公団を発足させることといたしております。

 社会資本の整備にあたりましては、特に、住宅および生活環境施設の整備につとめるほか、青少年の教育環境となる文教施設の充実、国民各層の生活を豊かにする体育、社会教育関係施設等の整備に配意いたしております。このほか、治山、治水等の国土保全のための施策や道路その他の交通施設の整備についても、それぞれ大幅な増額をはかっております。

 なお、道路整備、漁港整備、土地改良の各事業につきましては、それぞれ昭和四十八年度を初年度とする新規の長期計画を策定することといたしております。

 また、日本国有鉄道の財政再建のために、経営の徹底的合理化を進めることはもとより、国からの助成を強化し、あわせて所要の運賃改訂を行なうことといたしておりますが、新幹線鉄道等の建設を強力に推進するため、その事業規模を大幅に拡大することといたしております。

 第三は、公害の防止および環境保全のための施策の推進であります。

 健康で豊かな国民生活の実現をはかるため、下水道、廃棄物処理施設等の生活環境施設の拡充、大気汚染、水質汚濁、騒音等に対する対策の強化、自然保護の充実をはかることといたしております。なお、税制面におきましても無公害化生産設備特別償却制度の創設、低公害車の物品税の軽減等を行なうことといたしました。

 第四は、物価対策の推進であります。

 物価の安定をはかるため、昭和四十八年度におきましても、低生産性部門の生産性の向上、流通機構の合理化、労働力の流動化、競争条件の整備等の施策を推進することといたしておりますが、特に、総合食料品小売センターの拡充、生鮮食料品小売業近代化資金の充実等小売り部門の近代化合理化を促進するなど、消費生活に対するきめこまかい配慮を行なっております。

 第五は、農林漁業および中小企業の近代化であります。

 需要に即応した農林漁業の振興と生産性の向上をはかるため、その基盤整備、構造改善の推進、金利の引き下げを含む農林漁業金融の充実、農業団地の育成、農畜水産物の流通改善などの措置を講ずることといたしております。

 また、米につきましては、需給の実態に即応した生産調整を行なうこととし、米価水準は据え置きとして、所要の経費を計上いたしております。

 中小企業対策につきましては、中小企業の近代化を促進するため、中小企業振興事業団、国民金融公庫、中小企業金融公庫、商工組合中央金庫等の融資規模の拡充を中心に、その充実をはかるほか、小企業経営改善資金貸付制度を創設することといたしております。

 第六は、文教および科学技術の振興であります。

 文教につきましては、教員給与の改善のための財源措置、教員の海外派遣の大幅拡充、私学助成の強化、公立文教施設整備の拡充、社会教育施設及び体育施設の整備、医科大学創設等国立学校の充実、さらに芸術文化の振興及び文化財の保護の充実等の措置を講じております。

 科学技術の振興につきましては、ウラン濃縮技術の開発、宇宙開発、電子計算機技術の振興等の施策を推進することといたしております。

 第七は、海外経済協力の推進であります。

 国際経済社会におけるわが国の役割りが一そう期待されていることにかんがみ、開発途上国の経済開発等に対する援助の充実につとめるほかアジア開発銀行、国連開発計画等に対する拠出の増額を行なうなど、国際機関を通ずる経済協力についても、その拡充をはかることといたしております。また、このたび、ベトナム和平交渉の妥結を見たことは、まことに喜ばしいことであります。政府といたしましては、インドシナ地域における民生の安定及び向上に資するよう、積極的に配慮をいたしております。

 第八は、防衛力の整備と基地対策の推進であります。

 防衛関係費につきましては、さきに国防会議の議を経て決定した第四次防衛力整備計画に基づき、防衛力の整備をはかるほか、基地の整理統合を積極的に推進するとともに、基地周辺対策事業等を重点的に行なうことといたしております。

 最後に、地方財政対策について申し述べます。

 昭和四十八年度の地方財政につきましては、地方税、地方交付税等の一般財源の相当な伸びが予想され、順調に推移するものと見込まれますが、この状況を考慮しつつ、地方交付税交付金について、昭和四十七年度の特例措置がなくなることによる影響を緩和するため、昭和四十八年度限りの特例措置として、交付税及び譲与税配布金特別会計において資金運用部資金から九百五十億円を借り入れますほか、超過負担の解消、児童生徒急増市町村における小中学校校舎整備費の補助率の引き上げ等による地方負担の軽減、地方債の増額等を行ない、地方財政の適切な運営を確保することといたしております。

 以上、昭和四十八年度予算の大綱について御説明いたしました。

 わが国は、いまやきびしい試練と転換のときを迎え、わが国財政の新しいページが開かれようとしております。

 今後の財政は、充実した福祉社会を建設するため、国民経済の資源をより重点的、かつ、効率的に配分するという積極的な役割りを果たせねばなりません。このことは、民間設備投資や輸出に主導された経済成長の姿が、より財政に比重を置いた成長の姿に移っていくことを意味するのであります。

 私は、長期的な展望のもとに、国民福祉の充実を基本として、物価の安定をはかりつつ、国際収支の均衡を回復するため、財政金融政策に課せられた使命を果たし得るよう、最善の努力を払う所存であります。

 国民各位の御理解と御協力を切にお願いしてやみません。