データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第40代東條英機内閣(昭和16.10.18〜昭和19.7.22)
[国会回次] (帝国)第79回(通常会)
[演説者] 東郷茂徳外務大臣
[演説種別] 国務大臣の演説
[衆議院演説年月日] 1942/1/21
[貴族院演説年月日] 
[全文]

御稜威ノ下皇軍ハ赫々タル戰果ヲ擧ゲ、米英ノ東亞侵略ノ基地ハ相次イデ崩壞シ、東亞興隆ノ大業着着トシテ、歩武ヲ進メツツアリマスル今日、竝ニ所見ヲ開陳致シマスルハ私ノ最モ光榮トスル所デアリマス

私ハ先ヅ第一線ニ奮鬪シツツアル皇軍將兵ノ武運長久ヲ祈念スルト共ニ、尊キ英靈ニ對シ敬弔ノ意ヲ表スルモノデアリマス、又是ト同時ニ敵國又ハ交戰地域ニ在ツテ辛苦ヲ嘗メツツアル我ガ在外同胞ニ對シ、茲ニ衷心ヨリ敬意ト同情トヲ表シ、其ノ健在ヲ祈ルモノデアリマス(拍手)

今ヤ一億鐵石ノ決意ヲ以テ一路完遂ニ邁進シツツアル大東亞戰爭ニ於テ、帝國ガ遂ニ干戈ニ訴フルノ已ムヲ得ザリシ事情ハ、敵國側ノ利己的宣傳ニモ拘ラズ、世界ノ諸方面ニ於テ日ト共ニ了得セラレ來ツタノデアリマス(拍手)元來東亞ノ解放トカ、又其興隆トカ申スコトハ、米英ノ現在ノ指導者達ノ氣ニ入ル筈ハナイノデアリマスルガ、彼等ガ好ムト否トヲ問ハズ、吾々ハ東亞ノ解放竝ニ興隆ヲ以テ世界史的使命ナリト確信シテ、此ノ大業ニ向ツテ邁進シツツアルノデアリマス(拍手)大義名分ハ既ニ我レニアルノデアリマシテ、其ノ神氣ノ發スル所、世界ノ耳目ヲ聳動セル皇軍ノ目覺マシキ戰果ハ、之ヲ如實ニ證明シテ餘リアルノデアリマス(拍手)

本戰爭ハ前議會ニ於テ説明致シマシタ通リ、一面米英ノ利己的、搾取的、侵略的世界制覇ノ打倒戰タル性質ヲ有シマスルト共ニ、他面全東亞ノ解放戰タル性格ヲ有シ、更ニ進ンデハ世界新秩序ノ建設戰タル本質ヲ有スルモノデアリマス、隨ヒマシテ滿洲國及ビ中華民國國民政府ニ於キマシテハ、帝國ノ戰爭遂行ニ付キ當初ヨリ十分ノ理解ヲ有シ、積極的熱意ヲ以テ完全ナル協力ヲナシ來リ、佛印モ亦帝國ニ對シ諸般ノ協力ヲナシ來ツタノデアリマス、而シテ又「タイ」國ハ直チニ本戰爭ノ本質ヲ明察シマシテ、蹶然起ツテ帝國ト相携ヘテ東亞ノ禍根タル米英勢力ヲ芟除根絶スルノ決意ヲ固メ、客年十二月二十一日帝國ト同盟條約ヲ締結スルニ至ツタノデアリマス(拍手)帝國政府ハ「タイ」國政府首腦者ノ達見ニ對シ敬意ヲ表シマスルト共ニ、同國ノ建設的努力ニ對シテハ十分ノ同情ト支援トヲ惜マヌモノデアリマシテ、現ニ兩國ノ協力關係ハ益々緊密ヲ加ヘ來ツタノデアリマス、斯クノ如ク外交態勢ハ着々整備サレテ參ツタ譯デ、此ノ種友邦諸國トノ協力關係ハ帝國ノ戰爭遂行上、且ツ南方經略ノ進行上之ヲ著シク容易ナラシメテ居ルノデアリマス

尚ホ帝國ト獨伊兩國トノ結合ハ、既ニ御承知ノ通リ益々固キヲ加へ、軍事、外交、經濟等各般ニ亙リ極メテ緊密ナル協力關係ガ着々ト具體化サレツツアルノデアリマス、如何ニ米英ガ日獨伊三國及ビ其ノ他ノ盟邦諸國ノ離間ヲ企テヨウトモ絶對ニ其ノ餘地ハナイノデアリマシテ、樞軸諸國ノ鐵壁ノ團結ハ微動ダニスルコトナク、益々密接ヲ加フル譯デアリマシテ、米英ガ多數ノ亡命政府ヲモ驅リ集メタル所謂聯合國群トハ全ク其ノ類ヲ異ニスルモノデアリマス(拍手)

帝國ト「ソヴィエト」聯邦トノ關係ハ依然中立條約ニ依リテ規律セラルルモノデアリマシテ、何等ノ變化ハアリマセヌ(拍手)

〔田淵豊吉君頻リニ發言ス〕

○議長(田子一民君) 田淵君注意シマス

○國務大臣(東郷茂徳君(續) 隨テ最近「ソ」聯ト米英兩國トノ話合ノ結果トシテ種種傳ヘラルル所ガアリマスルガ、是等ノ事柄モ中立條約ニ依リ規律セラルル現在ノ日「ソ」關係ニハ、何等・・・・・・

〔田淵豊吉君頻リニ發言ス〕

○議長(田子一民君) 田淵君ノ退場ヲ命ジマス

○國務大臣(東郷茂徳君)(續) 何等影響アルベキ筈ハナイノデアリマス・・・・・・

〔田淵豊吉君頻リニ發言ス〕

○議長(田子一民君) 退場ヲ命ジマス−−田淵君ノ退場ヲ命ジマス

○国務大臣(東郷茂徳君)(續) 帝國ハ南米及ビ歐洲ノ中立諸國トハ、引續キ成ベク良好ナル關係ヲ維持シテ行ク方針デアリマス、殊ニ南米諸國ガ米國ノ策動ニ乘ゼラレ、帝國ニ對シ敵對的乃至非友誼的態度ニ出デザル限リ、帝國ハ十分其ノ立場ヲ尊重スル考ヘデアリマスルガ、現ニ開催中ノ「リオ・デジャネイロ」會議ニ對シマシテハ、深甚ナル注意ト關心ヲ拂ツテ居ル次第デアリマス、帝國ノ眞ニ敵視スル所ノモノハ、米英ノ世界制覇ノ野望デアリマスルガ、此ノ米英ハ自己ノ利益ヲ充サンガ爲ニハ第三國ヲ操縱シ、遂ニハ之ヲ犠牲ニシテ顧ザルモノデアリマシテ、其ノ事例ノ枚擧ニ遑ナキコトハ世界周知ノ通リデアリマスルカラ、彼等ガ此ノ上如何ニ畫策陰謀ヲ逞シウシヨウトモ、更ニ之ニ乘ゼラルルガ如キモノハナカルベキ筈デアリマス(拍手)

尚ホ帝國ハ蘭領印度ノ住民ニ對シ、何等敵意ヲ包藏スル次第デハアリマセヌノデ、蘭印ガ米英ノ手先トナツテ不幸ナ運命ニ陷ルガ如キハ、決シテ帝國ノ本意デハナカツタノデアリマス(拍手)然ルニ最近米英蘭重慶等ガ共謀致シマシテ、蘭印ヲ敵ノ戰略的基地トナスニ至レルノミナラズ、蘭印側ノ敵對行爲ガ顯著ニ相成リマシタノデ、帝國ハ已ムヲ得ズ之ニ對シ戰鬪行爲ヲ開始スルニ至ツタ次第デアリマス

重慶ニ於テハ今尚ホ米英依存ノ頑迷分子ガ存スル次第デアリマスルガ、是等未覺醒分子ガ全東亞共同ノ使命ニ深ク思ヒヲ致シ、廓然トシテ本來ノ面目ニ立返リ、東亞新秩序ノ建設ニ協力シ來ル日ノ遠カラザルベキヲ信ズルノデアリマス

抑々今次戰爭ノ目的タル大東亞共榮圏ノ建設ハ、我ガ肇國ノ精神ニ淵源スルト共ニ、東亞諸民族ノ共同ノ運命ニ立脚スルモノデアリマスルニ依リ、東亞防衞ノ爲ニ絶對必要ナル地域ハ、之ヲ帝國ニ於テ把握スベキハ當然デアリマス(拍手)併シ他方東亞ニ於テ米英ノ領有シ來レル諸地域ガ、各民族ノ傳統、文化等ニ應ジ、ソレ/\適當ナル地位ヲ認メラルベキコトハ、本戰爭ノ大義ニ鑑ミ是亦然ルベキ所デアリマス

斯クノ如キ根本理念ニ基ク大東亞共榮圏ノ建設ヲ目的トスル今次戰爭ガ、所謂侵略戰爭トハ全ク本質ヲ異ニスルモノナルコトハ自明ノ理デアリマシテ、本戰爭ニ對シ侵略ト云フガ如キ言葉ヲ以テ説明セントスル米英ノ指導者達ハ、曾テ彼等ガ行ヒ來ツタ所ニ適合スル觀念ト流儀ヨリ未ダ一歩モ脱却シテ居ナイ證據ヲ示スニ過ギナイノデアリマス(拍手)又帝國トシテハ敵國側ノ宣傳スル人種戰ノ如キハ豫想モセズ、又其ノ必要モ認メテ居ナイモノデアリマス(拍手)尚又帝國ハ偏狭ナル排他的意圖ヲ以テ戰ツテ居ルノデハナイノデアリマシテ、東亞共榮圏ノ觀念ノ如キモ、何等排他的、閉鎖的性質ヲ有スルモノデハナイノデアリマス、隨テ右共榮圏ト圏外ノ友好國トノ經濟交通ノ如キモ、共榮圏ノ建設過程ノ進ムニ伴ヒ、逐次緊密トナルベキハ明カデアリマス

而シテ又此ノ大東亞共榮圏ノ建設ヲ完遂スル爲ニハ、東亞諸民族ノ指導的地位ニアル日本自ラ、先ヅ視野ト構想トヲ雄大ニシテ、共榮ノ本義ニ關シ、透徹セル認識ヲ持チ、進ンデハ國内態勢ノ各般ニ亙リ、東亞共榮圏ノ建設ニ相應ズルガ如キ積極的態度ニ出デ、且又東亞諸民族ノ期待ニ對シテモ、之ニ副フ所十分ナルヲ期スベキデアリマシテ、茲ニ帝國ノ責務ハ愈々重大ヲ加ヘ來ツタ次第デアリマス、隨テ吾々日本國民ハ擧國一致、凡ユル艱難ヲ克服シテ光輝アル曠古ノ大事業ヲ完成シ、以テ振古未曾有ノ國運發展ノ聖代ニ生ヲ享クルノ光榮ニ報ユル所ナカルベカラズト考ヘル次第デアリマス(拍手)