データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第5回東京グローバルダイアログ岸田総理大臣挨拶

[場所] 
[年月日] 2024年2月28日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文] 

 佐々江理事長、御出席の皆様、

 今年で5回目となる東京グローバルダイアログの開催を心からお祝いいたします。

 今回のテーマは、「動乱の世界」と伺っています。今なお続くロシアによるウクライナ侵略に加えて、私たちは昨年来、イスラエル・パレスチナを巡る新たな惨禍を目の当たりにしています。我が国自身も、北朝鮮による核・ミサイル活動や、東シナ海・南シナ海における力による一方的な現状変更の試みなど、戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面しています。国際社会は緊迫の度を高め、まさに世界各地が「動乱」の渦中にあると言っても過言ではありません。

 同時に、気候変動や感染症、食料・エネルギー危機といった地球規模課題は、待ったなしの状況です。これらの課題を解決するためには、各国がイデオロギーや価値観の違いを超えて、「人間の尊厳」を守り抜き、人類共通の未来をより良いものとするために協力しなければなりません。

 皆さん、このような時代に、平和国家として戦後80年近くにわたり国際社会に貢献を続けてきた日本が果たすべき役割とは何でしょうか。

 我が国はこれまで一貫して、日米同盟を基軸に地域の平和と安定に貢献し、同盟国や同志国と手を携えて、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化に取り組んできました。同時に、多くの途上国の開発課題に向き合い、世界の発展にも尽力してきました。これらの国はグローバル・サウスとして、今や世界に大きな存在感を示しています。我が国は、まさにこうした積み重ねを土台に、世界を分断・対立ではなく協調に導いていくことができる存在である、私はこう確信しています。

 そのためにはまず、日本にとって唯一の同盟国である米国との関係強化が先ずは重要です。バイデン米国大統領からの招待を受け、4月に国賓待遇で米国を公式訪問し、日米首脳会談にのぞむ予定です。これまでバイデン大統領とは、深い信頼関係の下、自由で開かれたインド太平洋の実現、ウクライナ、中東等、様々な世界の課題に共に取り組んできました。この度の公式訪米では、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化のため、日米間で連携を強化していくことを改めて確認するとともに、日米で共に世界の経済成長を牽引していく方策についても議論する考えです。

 もう一つ大切にしたいのは、グローバル・サウスとの連携です。昨年のG7広島サミットでは、G7を超えたパートナーへの関与の強化を一つの重要な視点に据えると共に、グローバル・サウスを始めとする招待国も交え、国際社会が直面する諸課題に対して、協力して対処していくことを確認しました。こうした成果を踏まえ、インド太平洋を共に担うASEANやインド、本年G20議長国を務めるブラジルなど、国際社会で影響力を増すグローバル・サウスとともに、「法の支配」や「人間の尊厳」を中心に据えつつ、日本らしい、きめ細やかな協力を推進していきます。

 今月訪日したケニアのルト大統領とも、インド太平洋やアフリカの平和と安定に向けた協力を確認したところです。太平洋島嶼国も、我が国にとり歴史的に深い関わりがある、海で結ばれた長年の友人です。本年7月に東京で開催する第10回太平洋島サミット(PALM10)や二国間の取組を通じて、地域の一体性と太平洋島嶼国自身の取組を支え、気候変動を始めとする共通の課題につき議論し、互いに学びあいながら共に取り組んでいきたいと思います。

 国際社会が緊迫の度を高める今、国際社会を担うリーダーたちは、その手に人類の未来がかかっているとの自覚を新たにし、強い責任感を持って、世界の平和と繁栄に向けた努力を続けなければなりません。私自身、そのような強い信念と決意と共に、世界を分断・対立ではなく協調に導く、そのような首脳外交に一層積極的に取り組んでいきます。

 日本、そして国際社会が「動乱」を乗り越え、安定した国際秩序と協力を築く上で、東京グローバルダイアログの議論がその道しるべとなり、我々政策決定者に大きな教えやアイディアを与えていただけることを強く期待しています。

 ご清聴ありがとうございました。