データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 岸田総理によるストレーツ・タイムズ紙への寄稿文 「信頼に基づき共に創るインド太平洋の未来」

[場所] 
[年月日] 2023年12月15日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文] 

「信頼に基づき共に創るインド太平洋の未来」

 シンガポール国民の皆様にご挨拶申し上げます。日本国総理大臣の岸田文雄です。今週末、私は日本ASEAN(東南アジア諸国連合)友好協力50周年特別首脳会議を主催します。この歴史的節目に、シンガポールから、リー首相を東京にお迎えすることを大変嬉(うれ)しく思います。

 世界に先んじて1973年にASEANとの対話を開始してから半世紀、日本は、ASEANの発展と統合の道のりをシンガポールをはじめとするASEAN諸国と共に歩んできました。日本はこれまで様々な分野での開発協力を通じ、ASEAN地域の発展を支えてきました。また日本とASEANは互いに主要な貿易相手であり、日本はASEANにとって、米国に次ぐ第二の直接投資国です。近年、日本からASEAN諸国に対し、毎年平均して約2.8兆円規模の直接投資がなされています。ASEANにおける日本企業の事業所数は約1.5万を数え、成長著しいASEANの活力を日本経済にとりこむとともに、ASEAN各国で製品、サービスそして雇用を生み、経済発展に貢献しています。シンガポールは、約3万人の日本人が居住し、約1,100社の日本企業が進出する、日本にとって重要な拠点です。2002年には、日本にとって初めてとなる二国間の経済連携協定を結んでいます。現在、日本によるシンガポールへの直接投資残高は約1,700億シンガポールドルに達するなど、両国の経済関係は非常に強固なものとなっています。

 日本とシンガポールをはじめとするASEANの関係はビジネスにとどまりません。日本とASEANの真の友人としての関係の基盤となっているのは、「心と心」のふれ合う相互信頼関係です。それは、広範な分野における人的交流によって長年にわたり育まれてきました。官民双方で、様々な青少年交流、留学生交流などの具体的な取組が続けられてきました。

 また、日本とASEANは、1997年のアジア通貨危機、2004年のスマトラ沖大地震及びインド洋大津波、2011年の東日本大震災、2019年からの新型コロナのパンデミックなど、多くの試練を経験する中で、互いに手を差し伸べ合い、「信頼できるパートナー」であることを示しました。

 現在、国際社会は歴史の転換点にあり、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序は重大な挑戦を受けています。また、我々は気候変動や格差、公衆衛生危機、デジタル化、AI(人工知能)ガバナンスなど、複雑で複合的な課題に直面しています。私は、誰もが尊厳を持って生きられる平和で安定した世界、持続可能で繁栄した未来を「共創」するために、強固な「信頼」に基づき、これまで以上に緊密にASEANの皆様と協力していきたいと考えます。

 記念すべき50周年の締め括(くく)りとして、ASEAN諸国の首脳をお迎えする特別首脳会議では、過去半世紀の日ASEAN関係を総括し、将来のための新たなビジョンと具体的な協力を打ち出したいと思います。

 特に、日本として、「心と心」のパートナーを次世代に繋(つな)げ、強化するための包括的な人的交流プログラムや、我々の経済・社会が共有する課題への解決策を共に創造するための新たな取組、アジア・ゼロエミッション共同体構想のさらなる推進などの気候変動対策の取組、産業面での協力などを提案したいと思います。

 この歴史的な特別首脳会議を、我々の「輝ける友情」を次世代に繋げる「輝ける機会」としたいと思います。

 地域のハブであり、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の重要性を共有するシンガポールは、日本にとって心強いパートナーです。日・シンガポール間では、サプライチェーン強靱(きょうじん)化やサイバーセキュリティなど経済安全保障分野での協力が深化しています。また、デジタル・気候変動・エネルギーといった経済分野で着実に協力が進展しています。両国間の友好関係の重要な基盤である人的交流についても、シンガポール人訪日客数はコロナ前の水準を超える回復をみせており、今後、両国間の人の往来が更に活発になっていくことを期待しています。多くの共通の利益を共有する日・シンガポール間には高い潜在性があり、今後も協力の裾野を一層広げていきたいと思います。

 来年夏から3年間、シンガポールはASEAN対日調整国となります。今回の特別首脳会議の成果を踏まえ、日・ASEAN関係の新たな時代を切り開くべく、シンガポールとしっかり連携していきたいと思います。