データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] CLSAジャパンフォーラム2016 安倍総理講演

[場所] 
[年月日] 2016年2月25日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

 CLSAジャパンフォーラムの開催、おめでとうございます。昨年に引き続きまして、皆様を前にお話しさせていただく機会を頂戴でき、大変光栄に思います。

 さて、本日は、昨年お会いして以来の、私たちの経済政策についてお話をしたいと思いますが、その前に、まず、何といっても皆さんの関心の高い世界経済の動向から始めなければなりません。

 年明け以来、中国を始めとする新興国の景気減速への懸念や、原油価格の低下、米国の利上げの動向といった様々な要因で、世界経済の不透明感が増しています。こうした中、我が国も含め、世界中の市場が大きく変動を続けています。

 明日から、上海で開かれるG20においても、世界経済について活発な議論が行われることになります。

 21世紀に入って15年。安い労働力、緩い環境規制、「より安く」生産できる地を求め、新興国への投資が拡大しました。工業化は、人々を豊かにし、新興国に大きなマーケットを生み出しました。

 しかし、経済成長に伴い労働コストは上がります。「より安く」を追い求める、デフレ型の経済成長には、自ずと限界があります。そのリスクが顕在化する前に、世界が目指すべき、新しい成長軌道を創らなければなりません。

 イノベーションによって新しい付加価値を生み出し、持続的な成長を確保する。「より安く」ではなく、「より良い」に挑戦する、イノベーション型の経済成長へと転換していかなければなりません。

 我が国は、世界経済の成長と安定に向け、G7議長国として、議論をリードし、各国との国際連携を深めつつ、しっかりとした対応をとってまいります。

 先日署名されたTPP協定は、日本と米国が中心となって、アジア太平洋に、21世紀型ルールによる「世界の4割の経済圏」を生み出します。そこでは、商品の独創性が守られ、価値が正当に評価され、イノベーション型の経済成長が促進されます。さらに、EUとのEPA交渉やRCEPなど、日本は、21世紀型の経済ルールを広げるため、リーダーシップを発揮してまいります。

 我が国市場が変動を続ける中、その原因はアベノミクスにあると言いたい人たちもいます。しかし皆さん、私が昨年この場で、法人実効税率を「数年で20%台にまで引き下げる」とお約束したことを覚えておられるでしょうか。数年と言いながら、私は、これを、たった1年で実現いたしました。こうした流れに呼応した形で、企業も明らかに攻めの姿勢に転じ、設備投資を増やしています。

 「言ったことは必ず実現する」。これがアベノミクスであります。

 そして、アベノミクスの3年間は、大きな成果を挙げています。

 日本企業の収益は、史上最高の水準に達しています。その企業収益は、着実に雇用や賃金に回っています。就業者数は110万人以上増え、賃上げ率は、2年連続で大幅に上昇しました。失業者は60万人程度減り、失業率は3.3%と18年ぶりの低水準、有効求人倍率は24年ぶりの高水準であり、タイトな労働市場が続いています。

 デフレ脱却に向けて大胆な金融緩和を行ってきた結果、物価は反転し、2年連続で上昇しています。GDPデフレーターは8四半期連続でプラスが続き、GDPギャップも縮小傾向にあります。

 何より、日本に長らくこびりついていたデフレマインドが、一掃されました。

 日本経済のファンダメンタルズはしっかりしており、経済の好循環は確実に生まれています。こうしたファクトを御覧いただければ、「アベノミクスが失敗した」などという言説は、全く根拠がないということを御理解いただけたのではないかと思います。

 アベノミクスは、ぶれることなく、更に前進を続けます。この機に、日本政府も、日本企業も、昔ながらの体質、内向きなマインドを、一気にチェンジしなければなりません。

 60年ぶりの農協改革、医療制度改革、電力市場の全面自由化。いずれも、先の国会で、改革法案が成立しました。岩盤のように固い規制を、私自身がドリルの刃になって、打ち抜いていく。安倍内閣の改革は、どんどん進んでいます。

 この4月から、電力小売りの全面自由化が実施され、これによって新たに開放される市場規模は、約8兆円に上ります。消費者の8割が電力会社の切り替えを検討しており、ベンチャー企業や外国企業も参入して、新しい技術やビジネスモデルで競い合う、ダイナミックなエネルギー市場が誕生します。

 アベノミクスは、スピードが命。再生医療製品の承認を迅速化した結果、iPS細胞から作った心筋や網膜など世界初の製品を生み出す動きが次々と出てきています。本社をカリフォルニアから東京に移転した創薬ベンチャーも現れました。日本の再生医療マーケットは、大きなポテンシャルに満ちています。

 私の改革リストのトップアジェンダであるコーポレートガバナンスの改革については、昨年6月から、コーポレートガバナンスコードが、2000社を超える上場企業に、適用されるようになりました。独立社外取締役を選任する企業は、この2年間で倍増しました。今や、ほぼ全ての国内大手を含む201の機関投資家が、スチュワードシップ・コードを受け入れ、企業に対し、持続的な成長と収益性の強化を求めています。

 形式だけでなく、実効的にガバナンスを機能させることが重要です。CEOなど経営者の選定プロセスの透明化、株式持ち合いの解消に向けて、政府と東京証券取引所が協力して、旧来型の内向きの経営マインドを一掃するため、機動的に改革を進めています。

 既に日本企業はその「可能性」を開花させつつあります。日本企業は積極的なリスクテイクに乗り出し、昨年度、海外企業とのM&Aは700億ドル余りと過去最高水準になり、配当は約3割増加しています。

 昨年スタートした第三次安倍改造内閣においては、デフレ脱却が見えてきたこの日本経済を、更なる上昇気流に乗せるため、引き続き経済最優先で、「三本の矢」の政策を強化し、「戦後最大のGDP600兆円」を目指すこととしました。その上で、「人口一億人の維持」という大きな目標を掲げました。

 これまで、ダボス会議など海外の様々な場において「人口が減少する日本に未来はないのではないか」との質問を受けました。

皆さんの御懸念は、私も、よく理解しています。

 しかしながら、高い教育を受け、多くのポテンシャルを秘めた女性や、元気で意欲にあふれ、豊かな経験と知恵を持っている高齢者が、日本には、たくさんいます。

 こうした方々が労働市場で活躍できるように労働市場を改革していくことが、安倍内閣の次の3年間の最大のチャレンジです。同一労働同一賃金の導入に本腰を入れて取り組み、正規雇用と非正規雇用の壁を取り払います。これによって、少子高齢化という日本の構造的問題に内閣一丸となって真正面から立ち向かいます。

 経済成長による税収増を活用して、子育てや社会保障の基盤を強化し、それが更に経済を強化する。

 皆さんには耳慣れないかも知れませんが、「一億総活躍社会」とは、こうした「成長と分配の好循環」を生み出す新しい経済社会システムの提案です。

 これによって潜在成長率の底上げを図りながら、賃上げを通じた消費や民間投資を更に拡大し、成長戦略を進化させ、イノベーションを通じた生産性向上を促す。

 私は、日本を成長できる国へと変えていくためのロードマップを一歩一歩、着実に前進させています。

 ですから、皆さんにも、もう一歩前に踏み出していただきたいと思います。

 今こそ、日本に投資すべき時です。

 今回のCLSAジャパンフォーラムがその契機となることを、大いに期待しています。

 最後となりましたが、皆さんの日本での滞在が素晴らしいものとなり、再び日本を訪れ、更に投資しようという気持ちになっていただくことを期待して、私のスピーチを終えたいと思います。