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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 防衛省・自衛隊60周年記念航空観閲式 安倍内閣総理大臣訓示

[場所] 
[年月日] 2014年10月26日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

本日、防衛省・自衛隊60周年記念航空観閲式にあたり、高い練度を有する隊員諸君の勇姿に接し、観閲官として、また、自衛隊の最高指揮官として、心強く、頼もしく思います。

独立回復から2年。国中が、国家再建への意欲に溢れる中で、防衛庁・自衛隊は、誕生しました。その発足にあたり、木村篤太郎初代防衛庁長官は、諸君の先輩たちに、一つの思いを託しました。

「真に国民の自衛隊」たれ。

あれから60年。日本は、ひたすらに、平和で民主的な国家を創り上げてきました。そして、その間、自衛隊は、常に、国民と共にありました。

24時間、365日体制で、日本の空を守る。遥か2000km離れた、南の宮古島から、冬は氷点下10度にも及ぶ、北の稚内まで、さらには、紺碧の空の上で、自衛隊の諸君は、今この瞬間も、警戒監視を続け、そしてスクランブル任務に当たっています。

はるか洋上には、荒波を恐れず、広大な日本の海を守る諸君がいます。

3万回を超える災害派遣。広島では泥にまみれ、御嶽山では膝まで灰に埋まりながらも、危険を顧みず、懸命の救助活動にあたる自衛隊員の姿は、多くの国民の目に、鮮明に焼きついています。

「真に国民の自衛隊」。木村長官の願いは、60年の時を経て、現実のものとなった。それは、私のみならず、国民の、等しく、一致するところであります。

防衛庁が、9割以上の国会議員の賛成を得て、防衛省へと移行を果たした、という事実もまた、自衛隊が、国民から強い支持を得ている証左であると考えます。

60年間に及ぶ、諸君と諸君の先輩たちの弛まぬ努力に、自衛隊の最高指揮官として、深甚なる敬意を表します。

本日お集まりの御来賓の皆様をはじめ、防衛省・自衛隊の活動を支えて下さっている皆様にも、この場を借りて、心から感謝申し上げます。

60年間の歩みを振り返れば、自衛隊は、時代の変化に対応し、国際社会と手を携えながら、柔軟にその任務を広げてまいりました。

ペルシャ湾で機雷の除去に当たった掃海部隊は、自衛隊の高い士気と能力を、戦後初めて、世界に示しました。

冷戦後の地域紛争の増加に対し、カンボジアを皮切りに、ゴラン高原で、東ティモールで、ハイチで、そして南スーダンで、これまでに延べ5万人もの隊員諸君が、国際平和の最前線に身を投じてきました。

あの「9・11テロ」の後は、国際社会とともに「テロとの戦い」に臨み、イラクでは人道・復興支援に当たりました。海の大動脈アデン湾では、海賊対処に高い能力を発揮し、今や、世界の船舶が自衛隊を頼りにしています。

国際情勢が大きく激変する中にあっても、諸君の揺るぎない使命感と、献身的な努力が、日本の平和を守り、世界の平和に貢献してきた。そのことに、疑いの余地はありません。

しかし、世界は、立ち止まってはくれない。このことも、また、厳然たる事実です。

弾道ミサイルなどの大量破壊兵器、サイバーテロの脅威。私たちが、望むと、望まざるとに関わらず、国際情勢は、絶えず、激変しています。

だからこそ、私は、諸君の先頭に立って、さらなる安全保障の立て直しに取り組んでいます。

その司令塔として創設した「国家安全保障会議」は、防衛省・自衛隊の諸君の、高度な知識と深い経験によって支えられています。

昨年、我が国として初めて国家安全保障戦略を策定し、これを踏まえて、新たな防衛大綱を決定しました。陸・海・空の三自衛隊が、共に力を合わせ、国民の期待に、しっかり応えていかなければなりません。

日米安保体制の抑止力を高めるため、ガイドラインの見直しや、共同訓練をはじめ幅広い分野における協力を、推し進めています。同時に、沖縄をはじめとする地元の基地負担の軽減にも、全力で取り組みます。

さらに今後、いわゆるグレーゾーンに関するものから、集団的自衛権の行使に関するものまで、切れ目のない、新たな安全保障法制を整備してまいります。

すべては、国民の命と平和な暮らしを守るため。目的は、ただその一つであります。

「事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に努め、

 もって国民の負託にこたえる」

 諸君の、この宣誓の重さを、最高指揮官として胸に深く刻みながら、諸君と共に、いかなる事態にあっても、国民の生命と財産、我が国の領土・領海・領空を守り抜いていく決意であります。

戦後60年以上続いてきた、平和国家としての日本の歩みは、これからも変わることは決してありません。日本国憲法が掲げる平和主義の理念は、世界に誇るべきものです。

しかし、それは、内向きな「一国平和主義」であってはならない。世界は、ますます相互依存を深め、一つの地域で生じた危機が、世界に波及する危険性は、一層高まっています。

こうした時代にあって、「自国のことのみに専念」するような態度は、真の平和主義に忠実なものとは言えません。

今こそ、我が国は、「積極的平和主義」の旗を掲げ、世界の平和と安定に、これまで以上に役割を果たしていくべきであります。それこそが、憲法が掲げる平和主義の理念に、より適う道だ、と確信しています。

そして、この「積極的平和主義」の実践は、その士気と能力の高さで、世界から評価される、諸君たち自衛隊の存在を抜きに、語ることはできません。

諸君の更なる活躍を、大いに期待するところであります。

南スーダンでのPKO活動には、9名の女性自衛官も参加しています。女性の力が、自衛隊にとって新たな活力の源となっている。60年前とは、大きく様変わりしました。

昨年、初の女性艦長も誕生しました。長い航海の間には、寂しい思いをしておられるご家族も多いことでありましょう。

しかし、大谷2等海佐が「しまゆき」の艦長になった時、最初に「おめでとう」と言ってくれたのは、9歳の娘さんであったそうです。

ご家族の支えがあってこその自衛隊。私は、強くそう思います。

ご家族の皆さんが支えてくださるからこそ、ここにいる自衛隊員たちは、立派に任務を果たし、その力を最大限発揮することができる。そのことは、間違いありません。

本日、この場所にも、たくさんのご家族の皆さんがいらっしゃっております。

大切な伴侶やお子様、ご家族を、隊員として送り出して下さっていることに、最高指揮官として、感謝の念で一杯です。本当に、ありがとうございます。

隊員たちが、しっかりと任務を遂行できるよう、万全を期すことを、改めて、ここにお約束いたします。

もう一人の初の女性艦長、東2等海佐が艦長をつとめる「せとゆき」など自衛艦3隻は、一昨日、5か月間の遠洋航海を終え、東京晴海の港に戻ってきました。

今回は、ソロモン諸島を訪問し、先の大戦でお亡くなりになった方々の御遺骨を祖国へと送還する任務にもあたってくれました。今も異国の地に眠るたくさんの御遺骨に、一日も早く、祖国へと御帰還いただきたい。それは、今を生きる私たちの責務でもあります。

先般、私自身、パプアニューギニアで、先の大戦での激戦の地ウエワクを訪問し、かの地で戦没した12万を超える御英霊に、手を合わせる機会を得ました。

祖国を思い、家族の幸せを願いながら、遠く異国の地で倒れた、こうした多大な犠牲の上に、現在の平和がある。そのことに改めて思いを致し、身の引き締まる思いでありました。

今を生きる私たちには、この尊い平和を、次の世代へと引き渡していく、そして、そのために出来る限りの努力を続けていく、大きな責任があります。

「白珪なお磨くべし」という言葉があります。

我々は、国家・国民のため、更なる高みを目指し、不断の努力を続けていかなければならない。諸君におかれては、自らの使命を自覚し、高い規律と緊張感を保ちながら、全力で、いかなる任務も全うしてほしいと思います。

最後に、60年後の日本を展望してみたいと思います。

子どもたちの笑顔があふれる、平和な日本。

そして、世界の平和に貢献し、世界から尊敬される日本。

私たちの子孫も、きっと、自らの手で、新たな時代を切り拓いてくれている、と信じます。

そして、その時にも、必ずや、諸君たち自衛隊が、国民と共にある。私は、そう確信しています。

「真に国民の自衛隊」。

さらには、「世界で平和主義を実践する自衛隊」。

隊員諸君。すべての日本国民が、そして世界が、諸君を信頼し、大いに頼りにしています。

その誇りを胸に、次なる60年に向けて、力強い一歩を踏み出してほしいと願います。

本日の60周年を記念する航空観閲式が、その新たなスタートとなることを切に望み、私の訓示といたします。

 平成26年10月26日

 内閣総理大臣 安倍晋三