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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 沖縄復帰40周年記念式典 内閣総理大臣式辞

[場所] 
[年月日] 2012年5月15日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

 本日、内外から多数の賓客の御参列を得て、沖縄県との共催の下に、ここに沖縄復帰40周年記念式典を盛大に開催できることは、沖縄県民のみならず、すべての日本国民にとって意義深く、喜ばしいことであります。

 1972年5月15日。あの晴れがましい歴史的な本土復帰の日から、本日で40年を迎えました。

 この5月15日は、まず何よりも、「鎮魂と平和への決意」を新たにする日でなければなりません。先の大戦で奪われた、あまりに多くの尊い命。終戦後も、占領下に長く置かれた沖縄県民の言われなき苦しみ。沖縄が歩んでこられたそうした苦難の道のりを噛みしめ、平和で豊かな沖縄の未来を願い続けた先人の事績を決して忘れてはならぬ。そうした思いを改めて強くしています。

 5月15日は、これまでの沖縄県民の努力を称え、すべての同朋が沖縄に寄り添っていく思いを新たにする日でもあります。復帰後、今日に至るまでの40年間、沖縄は、県民自らのたゆみない努力によって、あまたの困難を乗り越えながら、力強い発展を続けてきました。政府としても、4次にわたる振興計画を実施し、様々な特別措置を通じて、県民の努力を全力でお支えしてまいりました。これらが相まって、この40年間で、社会資本の整備が着実に進み、生活水準も格段に向上してきたことは疑いのないところです。

 そして、5月15日は、沖縄の未来に思いを馳せる日でもあります。私たちは、世界の重心がアジア太平洋地域に移りつつある歴史の変動期を生きています。それはすなわち、アジア太平洋の玄関口として、沖縄が新たな発展の可能性を身にまとったことを意味します。豊かな自然環境や温暖な風土。琉球の輝かしい歴史に裏付けられた独自の文化。日本一若い県民の持つ清々しい活力。そして雄飛の覇気を持って海外にはばたき、世界中にネットワークを有するウチナーンチュ。こうしたすべての潜在力を発揮させることで、沖縄がますます輝きを増していく。そういう時代がやってこようとしているのです。

 既に、観光と情報通信技術は、沖縄経済を牽引しています。那覇空港は、いまや国内第3位の国際物流拠点に成長しています。いずれも、日本再生のために我が国全体で取り組もうとする方向性を先取りしたものです。

 「沖縄は、日本のフロンティアである」――私のその願いを裏付ける具体的な発展の「芽」が実際に次々と生まれているのです。こうした「芽」をきちんと育て、まさに21世紀の「万国津梁」の要となって、総合的な地域の発展につなげていく。私たちの世代は、そうした責務を負っています。平和で豊かな未来のために沖縄の潜在力を解き放ち、基地負担の軽減を着実に進めていくことは、私の内閣の最重要課題の一つです。

 今なお沖縄が直面する様々な課題の解決に向けて、最も大事なことは、沖縄の皆様の声に真摯に耳を傾けることです。

 自由度の高い一括交付金の新設。過去最大の増額となる沖縄振興予算。種々の税制上の特別措置。いずれも、沖縄県からの御要望を最大限に受け止めた成果の一つです。

 また、新たな沖縄振興と基地跡地の有効利活用のための法律が、今国会において全会一致で成立しました。これらの法律は、沖縄の主体性に重きを置いた、画期的なものです。政府が決定した法律に基づく基本方針を踏まえて、県において、本日、「沖縄振興計画」が策定されました。私は、先ほど、仲井眞知事からこの策定されたばかりの計画の提出を受けたところです。この計画の実現のため、政府としても力を尽くしてまいります。

 さらに、この振興計画の着実な実行に加えて、那覇空港の第二滑走路について、平成25年度予算編成過程で財源の検討を行って早急に整備を推進してまいります。また、鉄道、軌道その他の公共交通機関の整備の在り方について、沖縄県と連携し、引き続き、必要な調査・検討を進めてまいります。そして、国営沖縄記念公園の首里城等の主要施設については、平成30年度をめどに沖縄県へ移譲することとし、その具体化のための協議に着手いたします。

 このように、沖縄は、その繁栄に向けた新たな展開を自ら切り拓いていこうとされています。政府としても、沖縄という大きなフロンティアを「夢」から「現実」に変えていくため、医療、環境、人材育成を始めとする各分野において、県と手を携えて、自立型経済を発展させ、潤いのある、沖縄らしい優しい社会の実現を後押ししてまいります。

 沖縄振興とあわせ、沖縄を含む我が国の安全を確保することは、国の基本的使命です。一層の厳しさを増す我が国周辺の安全保障環境の下、日米安全保障体制の役割は引き続き重要となる一方、米軍基地の集中が沖縄の皆様に大きな負担となっていることは十分に認識しています。抑止力を維持しつつ、沖縄の基地負担の早期軽減を具体的に目に見える形で進めていくことを改めてお誓いいたします。

 普天間飛行場の固定化は絶対にあってはなりません。その大前提の下で、先般、日米両政府は、普天間移設の問題と「海兵隊のグアム移転」や「嘉手納以南の土地返還」の問題を切り離すことに合意するとともに、海兵隊の国外移転を待たずに返還可能な土地や速やかに返還可能な土地を特定いたしました。これらは、基地負担軽減の「目に見える具体的な成果」につながっていくはずです。

 また、私は、この沖縄の本土復帰40周年の記念日を前に、4月末から米国を訪問し、オバマ大統領とともに、日米の「共通ビジョン」を発表しました。これは、沖縄を含むアジア太平洋地域と世界の平和と安定のため、大局的観点から、日米同盟の今日的意義や今後長期にわたる日米関係の在り方を確認するものです。こうした日米両国を挙げての取組が沖縄の負担軽減に確実につながるよう、これからも一つ一つ、着実に成果を積み上げていきたいと考えています。

 本土復帰から40年。日本全体を牽引し、アジア太平洋の時代を先頭に立って切り拓いていくのは、沖縄です。そして、そうした未来を担っていくのは、私たち自身です。

 平和を希求する県民の願いが、そして世界に飛躍を願う「万国津梁」の精神が、21世紀の沖縄を切り拓く大きな財産となることは疑いありません。我が国に未曾有の被害をもたらした東日本大震災からの復旧・復興、日本経済の再生に向けた挑戦が続けられている今だからこそ、沖縄に期待します。そして、沖縄の一層の発展が、我が国及びアジア太平洋地域の発展に寄与することを確信します。

 最後に、改めまして、沖縄と日本、さらには世界の平和と発展を祈念し、私の式辞といたします。

平成24年5月15日

内閣総理大臣 野田佳彦