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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 平成23年度 防衛大学校卒業式 内閣総理大臣訓示

[場所] 
[年月日] 2012年3月18日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

 平成23年度防衛大学校卒業生諸君、卒業おめでとう。自衛隊の最高指揮官たる内閣総理大臣として、心からお祝いを申し上げます。

 また、平素から自衛隊に対してあたたかいご理解とご支援をいただいている御来賓の皆様におかれましては、本日も御多用の中、ご出席を賜り感謝を申し上げたいと思います。また、先ほど御挨拶をされた五百旗頭(いおきべ)学校長をはじめ、学生の教育に当たられた教職員の皆様に敬意を表する次第であります。

 平成23年度は日本にとって東日本大震災という国難に立ち向かわなければならない特別な一年でありました。一方で自衛隊においては、被災地の救助・救難に史上最大の10万人体制で臨み、被災地のみならず国民の高い評価を得ることができました。このことは永く歴史に刻まれる、そういう一年になると思います。

 この特別な一年を終えるにあたり、この小原台を巣立とうとしている卒業生諸君に、私は三つのことを申し上げたいと思います。

 第一は、言うまでもありませんが「国を守るということの責任の重さ」であります。警察予備隊、保安隊、自衛隊を経て、これまで長きにわたり我が国の平和と独立を守り我が国の安全を支えてきた、国にとって最も重要な役割を果たしてきたのが自衛隊であります。

 そのような中で我が国の周辺における安全保障環境は厳しさを増してまいりました。核・ミサイル問題を含む北朝鮮の動き、軍事力を増強し、周辺海域において活発な活動を続ける中国の動向、などなど我が国の周辺環境は厳しさを増すと同時に複雑さを呈し、不透明感が漂っています。

 このような新たな事態の中においても、しっかりとこの国を守り国民を守らなければなりません。自衛隊の役割はますます大きくなっていると思います。私はかねてから、国民が「この日本に生まれてよかった」そう思える「誇りの持てる国」を造りたいと申し上げてまいりました。「誇り」の行き着く先、究極の姿は、祖国が脅かされ、わが家族、わが隣人、わが同胞が危機に至った時に、その困難に敢然と立ち向かう意欲と能力があるかどうかだと思います。皆さんがまさにその大きな責任を果たすことになります。

 防衛大学校においてその基礎的な素養は身に付けられたと思います。専門的な知識を学び、国を守ろうという情熱を培ってこられたと思います。今後も自身のみならず部隊を鍛え抜いて、「防衛大綱」に則り、「動的防衛力」の整備の一翼を担い、国防の任をしっかりと全うしていただきたいと思います。

 二つ目は、「世界に羽ばたく気概」を持つことであります。戦後、日本は国際協調の実績を積み上げてまいりました。そして平和国家として諸国から信頼をされる尊敬をされる国になってまいりました。この営みは営々として続けていかなくてはなりません。特に、広く世界を知り国境を越えた深い交流を行うことは、21世紀の自衛官の私は素養につながると思います。

 東日本大震災における米軍のいち早い動き、「トモダチ作戦」。被災地において多大なる貢献をされました。あらためて日米の絆の強さを実感いたしました。日米同盟は深化・発展させなければなりません。その日米の同盟の「現場」を預かる皆さんがぜひ支えていただきたいという風に思います。

 多くの国から今回大震災の際に温かいご支援をいただきました。その「感謝の念」を具体的に表す一つの行動が、国際平和協力活動への積極的な参画だと思います。諸君の先輩たちは南スーダンにおいて気温40度以上の酷暑の中で道路や施設づくりに懸命に努力をしています。南スーダンだけではありません。ゴラン高原、ハイチ、ソマリア・アデン湾、こうしたところで先輩たちは汗をかいてまいりました。その国際的な評価は皆さんが思っている以上に高いものがあります。ぜひ皆さんにおかれましても、仮に国際平和協力活動に携わる際には臆することなく、こういう「先輩たちの誇り」をしっかり襷(たすき)として受け取って、より世界から尊敬される信頼される日本づくりに貢献していただきたいと思います。

 三つ目は、「国民とともにある」自衛隊ということであります。私は2月の末、沖縄をお訪ねいたしました。そして旧海軍司令部壕を訪ねました。沖縄戦の末期、私の郷里の大先輩である大田実(おおた・みのる)司令官が自決をされた場所であります。いよいよ米軍が迫ってくる中において、大田中将は電報を送りました。そこには沖縄の県民の皆さんがひたむきに戦闘協力をするその姿、そしてその悲惨な状況を詳細に書いた内容です。その一番最後に「沖縄県民、斯く戦えり。県民に対し後世特別の御高配を賜らんことを」と結んでいます。最後の最後まで沖縄県民に思いを致し続けたその姿を、後世に生きる我々も胸に刻まなければならないと思います。今も昔も変わらないことは、国の独立と平和をあずかるものとして、常に「国民に寄り添う」姿勢、「国民とともにある」姿勢だと思います。

 私は自衛隊の中でもその気持ちは、精神は、しっかりと培われてきていると確信をしています。東日本大震災の際に、一人ひとりの隊員が誠意をもって真心をもって被災者の皆さんに対応されました。私は昨年航空観閲式の時に、行方不明になっているお子さんのウルトラマンの人形を見つけてお母さんに手渡した隊員の話をいたしました。そのお母さんはしっかり人形を抱き続け、感謝を続けました。様々な被災者がいます。様々な場面があったと思います。でも一人ひとりが真心を持って誠意ある行動を被災地でしめされた。そのことは、私は素晴らしいと思います。自衛隊は「常に国民とともにある」。自衛隊は「常に国民に寄り添う」。その思いをずっと諸君においては抱き続けてほしいと思います。

 最後に、御家族の皆様におかれましては、大切にお育てをいただいた若者たちがこの防衛大学校の教育において今日のように立派に逞しく成長されました。これからこの若者たちをお預かりする政府の立場として、彼らがしっかりと任務を果たせるように万全を期していくことをお誓い申し上げたいと思います。そして今日誇りを持ってこの小原台を巣立ち、日本の守りのために、世界の平和と安定のためにそれぞれの任地に赴く卒業生諸君に対し、今日は温かくお見送りをいただければと思います。

 卒業生の皆さんにおかれましても、今日皆さんがあるのは御両親や御親族のおかげだと思います。そのことを忘れずに、これからの人生を歩んでいただきたいと思います。

 最後になりますが、幹部自衛官として皆さんが辿るこれからの「道」はいつも暖かい陽(ひ)のさす平坦な道ばかりとは限りません。そのようなときに今日申し上げさせていただきました「この国を守ることの責任」を自覚し、「世界に羽ばたく気概」を持ち、そして「常に国民とともにある」この姿勢を堅持して幾多の困難を乗り越えていただきたいと思います。皆さんならばそれが必ずできると、私は確信をしております。

 これからの皆様の国防の任務がしっかり果たさせることを心から祈念をし、私の訓示とさせていただきます。

平成24年3月18日

内閣総理大臣 野田佳彦